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4.ウェルカム・トゥ・ギルド

女性が傷つく描写があります。苦手な方は注意してください。

 アークス大陸北西部にある普人種(ヒューマン)を中心とした国家の一つ、『ミルドレッド王国』この国は他の国々に比べ国力は低く、他国に誇れる国産物と言えば、土地の気候を生かして製造される果実酒と農産物ぐらいである。

 国力が低いのは、凶悪なデミヒューマンやダークといった脅威が蔓延る南部に広がる『未踏破地帯』から一番離れているからである。

 ミルドレッド王国が未踏破地帯へと足を伸ばすには、海路を使う以外では、大陸中央にある『ゲルダ大平原』を越えて大陸北部にある『エウノミアー大森林』から湧き出す『大河ペルーサ』を越え、『パリサティス大聖国』を通り、人間の住まう地域と未踏破地帯を隔てるように存在する不毛の荒野『塩の砂漠』を渡る必要がある。距離もそうであるが、通過すべき地が多いのもこの国の特徴である。


 そんなミルドレッド王国であるが他の国家との交流は良好である。


 ミルドレッド王国は人間全体の問題である未踏破地帯からの脅威、ダークやデミヒューマンに対して武力や戦力ではほとんど貢献できていない。しかし他の事でこの国は、他国の大きな助力になっている。

 それは鉱人種(ドワーフ)獣人種(ワービースト)、そして森林種(エルフ)等といった普人種以外の他種族国家との交流が、他の普人種国家三国と比べ最も活発で良好な点である。


 四大種族であるヒューマン、ワービースト、エルフ、ドワーフ。この中で普人種の人口割合は7割にほど占めている。次点で多いのはワービーストで、エルフが一番割合が少ない。


 しかしヒューマン以外の三種族はだからと言って国力で劣るものではない。


 生まれながらにして生粋の戦闘種族である白兵戦最強のワービースト。

 武器や防具等、物作り全般において『質』という面で他国と圧倒的な差を付けるドワーフ。

 膨大な魔力量と精霊との高い親和性によって全員が強力な魔法を行使できるエルフ。

 彼らはそうした種族特有の突き出た能力により、他国と長く対等に亘り合っているのである。


 高い能力を持った彼らではあるが他国との交流において問題がない訳ではない。

 その問題とは種族的な価値観と文化の違いである。この違いがなかなか根深く、歴史に於いてはそれが理由の一つとして、戦争の引き金になっており種族全体で夥しい量の血が流れている。

 そうした背景もあり現在でも一部の国同士の中では完全に国交が断絶している場所もあり、全ての国家間の交流が円滑とは言えないのである。


 そうした中でのミルドレッド王国である。この国はヒューマン中心の国家であるが、それは別にヒューマンに有利な国という意味の中心ではない。あくまで統治者と人口の占める割合が最も多いのがヒューマンだったという理由である。


 この国は寛容である。己の欲求に素直で喧嘩っ早いワービースト、気付けば酒盛りばかりして周りも巻き込むドワーフ、かなり気難しく引き籠りがちなエルフ。そんな尖った個性持ちの他種族と、その寛容で穏やかな国民性でうまく付き合っているのである。

 国と国の橋渡し役。それがこの時代、魔人種や怪人種等の脅威が激しさを増してきて、ヒト種全体の連携が重要視され始めてきた時代に大きな力となっているのである。


 そんなこの世界の調停者を謀らずも担うことになったミルドレッド王国。そこの首都『ケリー』にカイルはいた。



 ◆◆◆



「・・・おお」


 俺の目の前に沢山の人々が活気をもって行き交っている。元は大きな広場なのだろうが、多くの露天商が所狭しと簡易の店を構えて通り掛かる人に対して店員が頻りに呼び掛けをしている。

 色鮮やかな野菜に果実類、家畜や魔獣の肉や魚の干物、綺麗な服や小物、この国ではありふれた果実酒を詰めた瓶や樽、果ては用途がよく分からない物体まで多種多様な物を取り扱う店が目に入る。


 村や森や山で籠もっていた時には感じる事が出来なかった喧噪。それに圧倒される。


「首都ってやっぱりスゴイんだな」


 立ち止まっていても何も始まらない。とりあえず歩き出し、周りに目を向ける。見たことも無い様な物で溢れ返る景色は楽しくて1日観光で使いたくなるが、目的地はすでに決まっている。この都市の門をくぐる時に、親切な衛兵さんに教えてもらったのだ。


組合(ギルド)の建物が集まっているのは中央通りから抜けて・・・」


「おーい、そこの背の高い兄ちゃん!!」


「ん?」


 声の聞こえた方を向くと小太りで口髭を生やしたおじさんが俺に手招きしていた。店の方を見るとどうやら服飾系の露店の様だ。おじさんの着ている物も仕立てが良く見える。

 店頭には外套や皮の長靴に小型の荷物入れなど、おそらく旅人向けの商品を揃えている。

 ただの呼び込みだろうけど、とにかく用があるのだろう。俺は店の前まで歩み寄る。


「俺に用? おじさん」


「そうそうあんただよ兄ちゃん。ひでぇ恰好してるもんだからつい声を掛けちまったよ」


「・・・・・・」


 いきなり酷い恰好とか言われた。流石にちょっときつくないかな?。


「あんた傭兵か冒険者だろ。背中にそんな馬鹿でかい剣なんか持ってんだからさ。いや~しかし近くで見れば見るほどヒドイなこいつは」


 止めろよ泣くぞ。

 俺は自分の着ている、前を閉じていない黒い外套を掴んでさらに開き、自分の全身を確認する。

 上着は村で焼け残っていたのを継ぎ接ぎして作った物に、下は魔獣の毛皮を適当にズボンに仕立てた物。靴は代わりなる物が見つからず皮と布と紐でそれっぽくした物である。持てる技術を使って作り上げた一張羅だ。


「何がそんなに変なんだ」


「ほぼ全部だよ! どこの野人だ兄ちゃんは!!」


 どうやらこの服は専門家に言わせるとかなり拙いらしい。まあ確かに素人の作品感は否めないが。これで特に困った事など無いのだが。


「せっかくの外套が泣くぞ兄ちゃん。それだけは良い品なのに他がお粗末すぎる。バランスが悪すぎるだろ」


 この外套は昔、タイファンに被せられたままになっていたのを貰った物だ。長年使ったが弱った所など出ていない愛用品である。確かにただの外套ではないと思っていたが、どうやらおじさんの様子を見るに自分が考えていた以上の品であるようだ。


「とりあえず兄ちゃん。もう少しまともな服をここで買っていかねぇか? その外套とタメを張るのは無理だが少なくとも今着てる布きれよかマシだぞ」


 確かに服は少し買おうと考えていた。旅をするには着替えがある方がやり易い。使おうと思えば服以外の使い道もあるしな。しかし問題もある。


「おじさん。悪いんだけど現金の持ち合わせが無いんだよ。買い物できないんだ」


 修行と鍛錬のための山籠もり、その弊害。約10年、自給自足で全てを賄いその間一切人里に降りる事がなかった。現金など当然必要なく、当たり前のように現在無一文である。


「マジか兄ちゃん。金無しなんてホントに野人だったのか?」


「思い返せば否定できない生活だったな」


 おじさんとの会話や周りの人の服装と、俺に向けられる不審そうな視線。

 ・・・だんだん理解してきた。

 俺の恰好やばい、野人全開だ。こんな恰好で背中にデカい剣なんか背負って完全に不審人物である。この街に来た時に、すぐ衛兵さんが声を掛けてきてくれた理由の一端がここに発覚してしまった。


「・・・どうしよう。今さら自分の恰好のマズさに気付いた」


 俺が落ち込んでいるのが分かるのか、おじさんは気まずそうな顔になっている。


「あ~・・・、そうだ兄ちゃん! 腕には自信があるんだろ? そんな大層な剣を持ってんだ、強力な加護があるんだろ? それならギルドでなんとかなるか」


「そうなのか?」


 丁度ギルドには用があったのだ。渡りに船である。


「あそこならモンスターやデミヒューマンなんかの素材に『魔石』の買い取りもしてるからな。ちょちょっと狩って金にすればいいんだよ。兄ちゃんは今素材や魔石なんか持ってねえのか?」


「・・・・・・これとか?」


 そう言ってズボンを掴んで引っ張る。これも一応何かのモンスターの皮が使われているし、もしかしたらと思った。

 おじさんに露骨に嫌な顔をされた。


「なんの皮かは知らねえが状態が悪すぎる。それがどんなに良い素材だったとしても下処理や加工が悪ければゴミ同然になるんだぞ。金にはならねえだろうな」


「・・・・・・はい」


 俺はズボンから手を離した。ズボンに使われた魔獣君すまない、俺のせいでゴミ同然の存在にしてしまったようだ。


「まあなんだ、先にギルドに行くといい。そうすりゃ素材の買い取りだけじゃなく、ギルドで斡旋してる依頼も受けられるしよ、それも金になる」


 おじさんは苦笑しながらも親切に俺に説明してくれる。良い人だ。


「それとだ。ギルドの集まっている辺りには俺の店もあるしな。なんかの縁だ、金が出来たら来いよ少しぐらいなら負けてやる」


「おじさん露店だけじゃなくてホントの店も構えてるのか」


「おうよ! 品質自慢の優良店だぜ」


 オジさんは良い笑顔で胸を張っている。こんなに色々と教えてくれたんだ、お金が手に入ったら真っ先におじさんのお店に向かおう。


「あるがとうおじさん。実は最初からギルドのある所に行こうと思ってたんだ。だからお金が手に入ったらお店に行かせてもらうよ」


「おう待ってるぜ! ちなみに店の名前は『プッラ』てんだよろしくな。ちなみにギルドに何の用があったんだ?」


「地図と、あとは国を越えるための身分証明が欲しくてね。商人ギルドか冒険者ギルドに行こうか考えてたんだ」


「成る程、兄ちゃんだったら冒険者ギルドでいいだろ。冒険者ギルドなら両方とも手に入るのは当然として、一番はやっぱりモンスターやデミヒューマンなんかの情報が他のギルドよりも詳細に集めてるのが大きいな。ここらで確実に狩れて飯の種に出来る獲物の情報なんか仕入れたらいいぜ」


 衛兵さんも冒険者ギルドを勧めてくれていた。戦える人はそっちのギルドの方が都合が良いのだろう。


「わかった、本当に親切にありがとう。俺はカイルって言うんだ」


「ああ、どういたしまして。オレはドゥーガだ。見た目野人の割には素直な兄ちゃん」


「それはもう勘弁してくれ」


 俺とドゥーガさんはひとしきり笑い合ってから分かれた。目指すは冒険者ギルドである。



 ◆◆◆



 ミルドレッドは良い国。夏はそこまで暑くならず冬も他と比べて冷え込まない。今の季節なんて眠るには最適。テーブルで突っ伏すだけで眠れそう。

 お金だってちょっと本気でスーちゃんと狩りをすれば沢山貰える。そうすれば食べ物だっていろいろ買える。お腹いっぱいになれる。

 寝床はスーちゃんと2人だけだから少し寂しいけどなれたら悪くない。

 人も親切。他のヒューマンの国はあんまり親切じゃなかったから嬉しい。


 でも例外は何処にでもある。



「なあ嬢ちゃんよ~、俺らのチームに入ってくんねえかな~」


「・・・・・・」 


 目の前で何か言っている中年ぐらいの男がいるが知り合いでもなんでもない。

 昼前に依頼に出掛けようとした時、スーちゃんが忘れ物をしたと寝床に戻った。戻ってくるのを待つのに、獲物の査定時に時間を潰せるようにと、ちょっとした酒場がギルド内に併設されいてテーブルやイスがいくつか置かれている。そこでごろごろしてたらこの変なのに絡まれた。

 イスに座っていたボクはテーブルに突っ伏して、腕を枕代わりにうつ伏せになっている。そこに漂ってくる酒の臭い。苦手。鼻や感覚が鈍る。

 酒臭い男は1人じゃない。後ろにまだ3人ほどいる。気分がささくれ立つ笑いを浮かべているのがわかる。

 どうもボクを『群れ』に誘いたいらしい。視線が頻りに胸や脚にきてる。こんな小さい胸の何がいいんだろう? 今はいないけどスーちゃんの方がおっきくてふわふわしてる。抱き着いて寝たらすごく気持ちがいい。

 迷惑だなあ。この男達はボクとスーちゃんの好みじゃない。心が温かくならない。

 しかも弱い。論外。これじゃあ里のまだ小さな子供の方が強い。


「いいだろ~。俺らと来たら楽しいぜ~?」


「・・・・・・」


 さっきからずっとこう。ボクの外見が成長しても幼いから舐められてるのか。ヒューマンはだいたいそう。弱い奴程見た目だけで強さを判断しようとする。不思議、そんなのでよく沢山生き残ってこれた。ヒューマンは本当に変わった種族。


「言うこと聞いといた方がよ~、優しくしてやれるぜ~。なあお前ら!」


「おうヤサシクするよ、評判いいんだぜ俺は!」「ぎゃはは! お前よりオレのモノの方が良いに決まってんだろ!」「アホか大事なのは技術よ技術!」


「・・・・・・」


 殺すか? いや流石にギルド内では不味い。後始末が面倒。

 あー・・・、臭くてうるさくて弱くて最低。

 こんな時、スーちゃんがあしらってくれていたからボクには上手くやる方法がわからない。

 このまま寝ようかな。そのうちスーちゃんも戻ってくるし。



「 っ!? 」



 異様な気配。

 即座に立ち上がりいつでも戦闘態勢に入れるようにする。


「うおっ! なんだ嬢ちゃん!」


 気配は外。こっちに、ギルドに近づいてくる。

 どうして? なんでこんな近くまで来られて気付かなかった?

 出入り口の扉に全神経を集中させる。分からない。いったいこの気配は? 

 里にいた時でもこんな正体を掴めない気配なんて―――


「おいっ! いい加減無視するんじゃっっげぱっ!!」


 ナニかうるさいのが隣にいたが殴って静かにさせた。そっちに気を回す余裕なんて無い。

 もうソレは扉の前まで来てる。肌がジリジリと焼ける気さえしてくる。手を後ろに回して双剣の柄に触れる。ヴァー様から少しでも勇気を分けてもらえるように。


「てっ手前ぇえ!!」「優しくしてたら調子くれやがって!!」「マワすぞゴラァア!!」


 扉が開く。



 ◆◆◆




「・・・え」


 教えてもらった通りに進んでギルドに着いたのは良かった。後で衛兵さんとドゥーガさんにはお礼をいわなければ。近くにあるプッラの店舗も確認できた。

 そうして少し緊張しながら来たギルド、その扉を開くと問題が発生していた。


「何か言えゴラァア!」「ヤっちまうぞ!!」「舐めやがって!!」


「・・・・・・」


 ギルドの中、右側に併設されている酒場の様な場所で顔を真っ赤にして口々に喚き散らす3人の男と、その男達に取り囲まれている女の子。そして床で顔から血を流してノびている男が1人。

 何だこれ。ギルドってこんな感じなのか? ・・・いや流石におかしい、騒がしかったのは外から少しは把握していたが一体何があってこんな事に。

 男達は今にも武器を抜きそうだし、女の子にいたってはもっと拙い。


「・・・・・・」


「・・・俺なにかしたか?」


 彼女は俺に対して完全に戦闘態勢に入っている。腰の後ろに挿している双剣をいつでも振るえる様に柄を握っている。本当に何なんだ。

 150はない程の背にオレンジのショートヘア。子供かと思えば戦い馴れしていそうな表情を見るにもう少し年齢はあるかもしれない。アーモンド形の綺麗な黄色の瞳が特徴的な可愛い容姿。装備は動き易さに重点を置いたのか布を中心にし皮で要所を補強、腕や脚などは際の方まで肌を晒している。その代りグローブやブーツ等は長めに仕立てられている。しかし一番目を引く特徴は別にある。


 猫耳と尻尾。彼女は獣人種(ワービースト)


 オレンジの髪と言ったがそれだけでなく、それ同色の猫耳と共に所々に黒い筋の模様が入っている。腰の辺りからも同じ配色の先の丸い長い尻尾が生えており、それが今は緊張を表しているのか上向きに真っ直ぐ伸びている。

 そんな彼女と俺は何故か睨み合いを、・・・・いや一方的に睨まれている。

 何故? 俺本当に何もしてないよな? 質問したのにさっきから答えてくれないし。この理由の分からない緊張した空気、疲れる。

 あれか、俺の服が不審過ぎるからか? 獣人からも野人認定されるのか? いやでも入ってくる前から警戒されてたよな・・・。

 そんな自分でもどうかしている思う考えをしていると、さっきから喚いていた男が俺に気付いた。


「何だ手前え!!」「こいつの知り合いか!!」「ヤっちまうぞ!!」


 絡まれた。絶対に俺は関係ないだろこれ。何でこんなに喧嘩腰なんだこいつら。


「いや、俺も何がなんだか――――――」


 とりあえずこの場を収めようとした時。


 背後から強烈な殺気が届く。


 後ろから俺の首を叩き落とそうとするモノが高速で迫る。

 それをかち上げた肘で迫り来る凶刃、それの軌道を剣の腹を強く叩く事で無理矢理叩き上げる。


「なっ!?」


 襲撃者の動揺する声が聞こえるが、戦闘中にそれは命取りだ。すでに半身を回した俺は背後に立っているそいつの胸倉を伸ばした腕で掴み、そのままギルド内に一歩踏み入りながら正面の床に叩き付ける。ギルドの床が叩き付けた襲撃者を中心にその衝撃で大きく罅が入る。


「ガッ!・・・・・・ッァア」


 この襲撃者もさっきの猫の娘と同じワービーストで女性のようだ。

 淡黄色の長い髪を頭の後ろで馬の尾の様に結びその頭には大きめの、顔の輪郭に沿う様に垂れた犬耳が付いている。背は170はありそうだ。体格も猫の娘とは違い大人の女性らしい体型をしており、その身体をこちらは露出の殆ど出ない厚めの布を中心とした皮の装備に身を包んでいる。そしてその腕には俺の首を斬ろうとした大太刀が握られている。

 気が強そうで普段なら凛としているだろう綺麗な顔を今は苦痛で歪め、呼吸をし辛そうにしている。

 叩き付けると同時に胸倉を掴んだ手で鎖骨と胸骨上半分の全ての骨を殴る様にを砕き、通した衝撃は内臓さえ打ち抜いている。直ぐに損傷からの復帰は出来ないだろう。意識さえその内手放すだろう。

 掴んでいた手を離して猫の娘と男達に向き直る。


「スーちゃん!!」


「げべ!!」「ぎぃっ!!」「があっ!!」


 猫の獣人の彼女が初めて声を上げた。おそらく俺の足元で苦しんでいる娘の名前だろう。どうやら襲撃者と彼女は顔見知りのようだ。

 一瞬と言って良い時間で彼女は3人の男を抜き放った短剣の腹で打ち払い、意識を飛ばした。

 そして直ぐさま俺に向けて高速で接近。今度は腹ではなく刃を向けて振るってくる。それには激しい風が纏われている。


「っと、危ないなこいつもお前も」


「 !? 」


 左右から斬り刻むつもりだったろう剣と風を合せた斬撃を、斬られないように左右の手で風を砕きながら摘まみ取った。彼女は信じられないモノを見る目で俺を見ている。不測の事態だろうが動きを止めるのは下の娘と同じで悪手である。


「ほらよっ」


 側頭部を狙った左の蹴りが無防備な彼女に突き刺さり、その衝撃で頭と足元が逆転するように1回転半し、床に倒れこむ。受け身も碌に取れていなかったのを見るに蹴られた時点で意識が飛んでいたようだ。


 そしてギルド内は静かになった。


 床には男女合わせて6人が転がっており、犬の娘も意識を手放したのか近くに転がっている猫の獣人の娘と共に静かになっている。


 周りに目を向けると視線が集まっているのに気付いた。

 数名いるギルドの受付の女性達、酒場の店員、そして冒険者であろうまばらに立っている彼ら。

 沈黙による如何ともし難い空気がこの場を支配している。

 慣れない多くの視線に晒され、嫌な汗が出てくるのを感じる。


「・・・俺別に悪くないよな?」


 俺は縋る様に一番近くで俺達を見ていた受付のお姉さんに語りかけたが、返ってきたのは苦笑いだけだった。



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