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19.次の道へ

エピローグ

 聖剣祭が終わった翌日の早朝。俺達はここに来た時と同じようにコーラルの護衛という名目でメーティオケーから出国する為に、騎竜のエメラに馬車を牽かせてあの国中を巡る昇降機、正式名称『昇降機だた物または昇降機』を駅で待っている。


 見送りには武器作りやそれ以外でもお世話になったゴルディとゴヴァノンさんにメアリー、その他には『不屈の魂(ドレッドノート)』の皆も来てくれていた。

 最初、カウムさん達はメアリーがいてた事に目が飛び出さんばかりに驚いていた。彼らの話しで出てきた人物、その本人が目の前にいるのである。驚くのも当然だろう。少し、いやかなり俺はその出会いに緊張していた。一区切りは付いたと、そうあの時に語ってくれていたカウム。その発端とも言うべき人物がメアリーなのだ。

 何か間に入って言うべきか? そう考えていたがコーラルがそっと俺を止めた。心配ないと言うように。


 確かにそれは杞憂で終わった。俺からの軽い紹介、名前と出会った経緯、まあ内容は少し変えたが、それを伝えると後はカウムさん達とメアリーで問題なく会話が始まった。そこには気まずい空気なんて物は無く、世間話さえするほど穏やかであった。カウムさん達はあの日、俺達と話した時より変わっていた。それもきっと良い方向に。


「しかしカイル、それってあの武器だろ? 今回の祭りで『聖剣』に選ばれた」


 俺の仲間が見送りに来てくれた皆と別れの挨拶をしていると、カウムさんが来て俺の背にある『破壊者の隕星(ヴァジュラ)』を指してそう言った。


「ああ。まあ剣じゃなくて斧だけどな」


「慣例でその称号が贈られるみたいだな。昔に服の時とかあったらしいし」


「もう武器ですら無いな」


 聖剣祭で鎬を削った作品。その分野ごとに集められた中から最後に1つ選ばれた物に贈られる称号『聖剣』。今回ではゴルディが作った戦斧ヴァジュラが選ばれる事となった。その結果にゴルディは満足げだった。我が子と形容していたんだ、子供が褒められて嬉しくない親はいないという事か。


「これから『ゲルダ大平原』に行くんだったか?」


「そこの国に用があってな」


 ゲルダ大平原と呼ばれるアークス大陸中央にある広大な平原、そこは『獣人国フョルニル』が存在する。俺達『シエスタ』の次の目的地になる。


「そういえばカウムはこれから如何するんだ?」


 武器の新調は聞いていたがその後の予定は聞いていない。ヒューマンの国家にでも落ち着く場所を探すのか。

 それに対してカウムさんは少しはにかんだ様子を見せる。


「実はまだ先の事なんだけどさ、俺達また目指そうと思うんだ」


 そしてカウムさんの仲間はそんな彼を見守っている。


「『英雄』を」


 それを言い切った彼の顔はとても清々しい面持ちで、とても力のある目をしていた。それが俺には凄く喜ばしい事に感じた。


「そうか! じゃあ装備を整えたらまた『未踏破地帯』に?」


「ゆくゆくはだけどな。それより先にオルトシアーに行こうと思ってるんだ」


「それってエルフの国の?」


 『精霊国家オルトシアー』。大陸北部にある『エウノミアー大森林』内部、そこにある神種(デウス)が1柱『世界樹』を守り守られるように存在すると言われているエルフの国家。赴いた者自体が少ない為に全容が掴みにくい事でも有名な国家だ。


「そうだ。ゼルの魔法の事は勿論、俺達もエルフの国の魔法ってのを直に体験したくてな」


 エルフの魔法使いであるゼルさんもこっちにやって来る。


「上位の氏族や古老の中では私などよりも魔法に長けた者はごまんといてな。改めて我々が上を目指すなら必要になると判断し、招く事にした」


 エルフは排他的である。好き嫌いが分かりやすいドワーフやワービーストよりも圧倒的に多種族との交流が少ない種族である。しかしカウムさん達にはゼルさんがいるから入国は何とかなるのだろう。

 俺達も近いうちに向かう事になる。運が巡れば出会えるだろう。


「なら俺達と顔を合わせる機会もこの先多そうだな」


「カイルはやる事が派手だから見つけやすいしな」


 俺を見て苦笑している。ロックドラゴンの事か? 後でメアリーに聞いたら自分も似たような事は出来ると言っていた。つまりアダマンタイトクラスの冒険者は目立つという事だな。この国は物作り以外に興味の薄いドワーフが主な場所だったから彼女や俺がいても騒がれる事は無かったが。


「じゃあそっちが見掛けたら遠慮無く声を掛けてくれ。俺もそうするよ」


「ああ達者でなカイル」


 手を差し出して握手を交わし、俺達は互いの道行きの祝福を願う。


「おい兄ちゃん! 向こうでも元気にその子を使ってくれよ! あ、あと手入れはしっかりな!」


 ゴルディが相も変わらず陽気さを振り撒きながら来る。先日俺に折檻されて泣いて謝っていた様子など微塵も感じさせない。


「俺以外の皆は手入れに詳しいから教えて貰いながらやってるよ」


「なら良し! 雑に扱って壊れたなんてのたまったら兄ちゃんを金床にして叩き直してやるよ!」


「そうならないように大事に使うよ」


 あれは本気で言っている。本気で俺の体の上で焼いた金属を叩き直す目だ。いけそうな気はするが進んでやる気はない。


「じゃあ言う事ねえや! あたしとオヤジは昨日で言いたい事全部言っちまったからな!」


「それでもこうやって見送りに来てくれたんだな。ありがとう」


 ゴルディだけじゃなくてゴヴァノンさんもこっちに来ていた。彼はお酒に集中していたら面倒臭い人だがそれ以外は渋みのある頼りになる人だ。こうやって来てくれたのは素直に嬉しい。


「傷の。おれはゴルディと今ある仕事を終わらせればミルドレッドへ帰る。その時はここの家はもう完全にこいつの物だ。存分にこき使ってくれ」


 ゴヴァノンさんは乱暴な手つきで娘の頭を撫でる。相変わらず「やめろー!」なんて言ってはいるが本気で逃げようとはしない。仲の良い親子だ本当に。


「分かりました。ゴヴァノンさんもお元気で。ドゥーガさんにもよろしく言っておいてください。俺達は元気だって」


「任せておけ」


 そうして思い思いに別れの言葉を済ませていくと遠くから笛にも似た音が響いてくる。昇降機が来たらしい。あの巨大な異様がこちらへ進んでくる。


「カイル」


 メアリーが俺の腕を引いて呼び掛けてくる。


「何だメアリー」


 不敵な笑みを浮かべるメアリー。それを見て俺も笑う。


「負けませんよ。次はハルと2人掛かりです」


「それは2倍面倒だな。それでも俺も負けないけど」


 少しの間睨み合ってから俺もこいつも我慢できなくなる。


「「・・・っふ。ははははははは!」」


 最後まで俺達はこんな調子のようだ。でも悪くない。


「元気でな似非聖女」


「夜は気を付けるです女誑し」


 拳を突き出して来たのを拳で返す。力なんて込めていない、ただの挨拶。

 到着した昇降機に仲間達と共に乗り込んでいく。そうして時間が経つとあの「ビー」というここに来て何度か聞いた音を耳にして、昇降機が動き出す。側面に設けられた大きな窓から駅で見送ってくれる皆の姿が遠ざかっていくのが見える。


「良い出会いでしたね御主人様」


「そうだな。皆良い人だった」


 手を振り続けてくれるカウムさんやゴルディにこっちも手を振り返す。


「また会えるといいね。・・・まだ調子・・・が、いまいち」

「そうですねヤナギ。・・・うう・・・毒消し使いましょう」


「また私達で来ましょう・・・割ってないお酒はきついのですね」


「大丈夫か本当に」


「良い薬なのでは?」


 そう言って皆から毒消しを取り上げるコーラル。「あ~・・・」と皆の悲痛な声が漏れる。昨日の事を根に持っているようだ。俺よりも彼女の被害が酷かったからな。


『シュルルルゥ』


「・・・・・・エメラ? 今笑いましたか?」


『・・・クルル?』


「こ、この子は・・・」


 皆の他愛のないやり取りを背に、窓から見える風景に意識を向ける。ミルドレッドを出た時よりも縮まったと思う皆の距離に暖かい物を、天辺で輝く『ヘルパイストス』の陽のように輝く物を感じながら昇降機は走る。この国から出るために。次の新しい目的地へと向かうために。


「酒のように陽気で、火のように熱く、鋼のように強い」


 ドワーフだけじゃない。そんな色んな人達と出会った。


「クレアに見せたい物、会わせたい人が増えたな」


 彼女に会うための道を走る。いつか彼女と歩きたい道を――――――


『完全復旧完了。おはようございます私の主(マイマスター)。マスターの【自動人形コッペリア】です』


 ――――――忘れてた。

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