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17.鋼に火を灯す隕星 下

本日2回目の投稿

「――――――残念だったなあガラクタ! オレの勝ちだ!」


 全力の煙爆によって崩壊した遺跡。遺跡の残骸の上にはオレと半壊したオートマタがいる。オレも無傷ではないが、目の前の厄介だった物を倒せたのを考えれば上々だろう。この傷も宝玉と繋がっている限りオレに力を与え続けてくれる。完治も時間の問題だ。

 最後にオートマタは半実体の青く透ける巨大な盾で爆発を防いでいたが、それでは足りなかった。外部武装は全壊、構えていた両腕は肘から先を失い、片足も脛から下が焼けてしまい焦げ付いている。


『り・・・り・・・りそう、きょうを・・・しゅご』


 点滅が激しい黄色の瞳がオレを捉えて離さない。よくよく観察すれば破損していた部位が根元から徐々に復元していく。


「再生能力もあんのかよ。昔の人間はけったいな物を作りやがる」


 これは放っといたら面倒だな。後腐れ無くバラバラにするか。各部から噴き出す煙を拡散させずに目の前に収束させる。出来上がるのは黒い球体。これは普通なら遅くて直撃は難しいが、当てれば集中させた爆裂が対象を粉微塵にする。


『あ、あ、あ。あアアアア【地の果て、底まで(アイーダ)】、発・・・動・・・』


「ちっ! まだ動くか!」


 突然胸部が開き、そこにあった握り拳大の赤く輝く多面体からオレに向けて光線が発射される。黒い球体を撃ち出し、後からも煙を直線上に放出して光線を受け止める。

 せめぎ合う光線と球体。最初の砲台とは比較にならない威力!

 おそらくアレは奴の心臓部。つまり自身の稼働するためのエネルギーを全て攻撃に回している。


「じゃあこれを凌げば(しま)いだあああああ!!」


 オレが持つ宝玉もさらに激しく力を放出する。それを契機にどんどん押し込んでいく。そして奴の光線は最初よりも弱々しくなっていく。つまりは奴の終わりが近づいている。オレも力を引き出しすぎて身体に裂傷が出来てくるが気にしない、このまま押し切る!


『り そう  きょ うに あだなす  はい  じょ」


 勝った!!



 ――――――オレの視界を遮るように()()()()()が地面から噴き上がった。



 ソレが発するあまりの衝撃に吹き飛ばされる! 今のオレが耐え切れないだと!?


「なっ何だぁああああ!?」


 吹き飛ばされながらも目の前の光景に意識を離さない。そこにはオレが放った煙爆も、オートマタが放った光線も、近くにあった瓦礫も、全てが消し飛んでいく。それはあの閃光が引き起こした現象。

 何もかもを破壊していく光。

 空へと昇る閃光に引き摺られるように、さっきまで吹き飛んでいたオレや瓦礫、それにオートマタまでも巻き込みながら竜巻のようにさらに上へと昇っていく。


「ぐうっおおおおおお!!?」


『そ、測・・・定・・・不能、アン・・・ノウン・・・出現』


 なんだ!? なんだこれは!? 何が起こってやがる!?


「ッ! クソったれがああああああああ!」


 巻き上げられたオレの遙か上空で、閃光の先端が突然止まった事によりその衝撃で超大規模な大気の炸裂が発生する。大量の魔力や創造主のクソったれが撒き散らしている加護の源すら偏在している大気が破裂している!? あの神に守られた世界が歪まされている!?


 それは伝承で謳われる邪神様でしか成し遂げられなかった()()()()()! 信じがたいがつまり! アレには何者かの意志が介在している!

 炸裂の衝撃に全身を打たれ下へ向かって叩き付けられる!! 上昇した時よりも強い衝撃で下へと落ちていく!!


「何もんだ()()にいるのはああああああああ!!」


 天空の太陽と下に広がる黄金の間で輝く()()()。自身の心の奥底で湧き上がる自覚したくない感情を振り切るように声を張り上げる。


 目が合う。合ってしまった。


 それは何かを振りかぶっている。それは斧。白にも黒にも見える巨大な斧。確実にアレはオレを標的に定めている。

 ああ、してしまった。自覚してしまった。先程からどれだけ煙爆を撒こうがその端から消し去られ指一つ動かせない衝撃による圧力。そんな『空の棺桶』に拘束されていると自覚してしまう。


 それは恐怖。オレは今、恐怖を感じている。そして直感する。


 あいつだ。あいつがヤったんだ。メディルとアルターを始末したのはきっとあいつだ!!

 声が聞こえる。聴覚さえ満足に利かない状況で、何故かあいつの声が聞こえる。聞こえてしまった。


「――――――壊れろ――――――」


 再び炸裂が空で発生する。来た。あいつが来た! あいつがこっちへ駆けてくる!!

 黒い尾を引きながら堕ちてくる・・・・・・あれは、黒い星?


 空を引き裂き貫く黒い隕星がオレに中心に触れる。


 何故か目に映る世界の全てがゆっくりと流れていく。漆黒が完全にオレを貫き通り過ぎる。砕ける。砕けていく。完全に分断された胸の中心からオレの身体が崩壊していく。魔石を砕かれ拡散する瘴気さえ消失していく。ゆっくり、ゆっくりとオレが砕けて消えていく。


 何も出来ない。下半身が完全に消失しても、腕が消えても、胴すら無くなってしまっても、何もオレは出来ない。その崩壊は頭部にさえ及び、オレの意識を奪っていく。

 周囲に満ちる黄金の輝きがオレを包みながら、オレと邪神様の祝福が共に掻き消えていく。何も分からない、何も理解できないままに、しかしオレはその祝福を最期の拠り所に――――――


「――――――全て、壊れてしまえ――――――」


 祝福が消える。共に消える筈だった祝福が完全に消えてしまう。恐怖。恐怖しか感じない。何故? 何故こんな事に? 恐ろしい。怖ろしい。オレがいったい何をした!? オレは全て邪神様の為に動いていたのに!? ああああああああああああ!!? 嫌だっ嫌だ!! 死にたくない消えたくない滅びたくない壊れたくないいいいいいいいい!! あああああああああああああぁぁぁぁぁぁ・・・・・・――――――――――――


 ◆◆◆



 広大な大地、そのほぼ中心にあった遺跡の残骸が散らばる場所に着地する。破壊の衝撃は可能な限り一カ所に集中させたから被害はそこまで広くはない。この大陸に揺るぎは無い。しかし遺跡は完全に駄目だろう。俺が飛び出た時点で既に崩壊した後だったがそれでも遺跡痕だと分かる状態だった。今は完全に剥き出しの地面に散らばる何かの残骸だった物になっている。


「拙いな。もしここが何かの住処になってたら、住む場所を奪った事になる」


 コーラルからは大陸を半壊させなければ大丈夫と聞いているが、視線を周囲に走らせれば多くの生き物がこの大陸に生息しているのが見て取れる。上空へ昇って確認できたが、ここには大きな山々も川も湖も存在している。遙かな空に広がる生物の楽園である。

 どうしようかと考えながら、上から落ちてきた物を衝撃を殺しながら受け止める。それは突撃の時に巻き込み、その勢いで壊れないようにその物の周囲の衝撃を破壊して守った人形だった。


「そういえばこの人形がコーラルの言っていた『守護者』か?」


 彼女からは過去にこの大陸『エルドラド』がまだ生まれたばかりの時に、今では詳細が知れない人物がこの大陸に楽園を構築するため、生物の住環境を整える目的で黄金雲を操り誘導するための装置を開発したと聞いている。この大陸に移した生物の『エルドラド』への適応を促すために様々な場所へと飛べるようにと。


 その施設を守護するために創造したのがオートマタであり今でもその場所を守っている。コーラル自身も実際に確認したわけでは無いらしいが、ただその施設自体は破壊しても黄金雲に悪影響は無い、そして『エルドラド』の生物も遙か永い時で適応は完全に終了していると彼女は過去の文献と同胞の情報から調べを付けていたので、今回の俺の直接中心を貫く行動に繋がったのだ。


 俺の腕に収まる半壊したオートマタ。生き物という外見では無いが、人型をしているので痛々しい印象を受ける。

 永い時をこの大陸の為に使い続けた人形。


「・・・・・・ごめんな。こっちの都合で壊す事になって」


 湧き上がる罪悪感から謝罪が口から出る。今回の事で目の前の存在からこれまで守ってきた全てを奪ってしまった気がする。心なんて在るかも分からない。しかし目の前のこいつは少なくとも、この楽園を築く一助になった優しい人形だと、優しく在れと作られた人形だと、制作者の心が込められた人形だと思った。

 黄色く輝く琺瑯質(ほうろうしつ)の眼球に骸骨に筋繊維を貼り付けただけに見える顔。普通なら不気味に感じるそれが今はそういう風には見えない。己が役目を全うする偉大で美しい人形の顔である。


『あ・・・あ・・・あああ』


 剥き出しの歯が並んだ口が動き出す。そこからは性別を感じさせない声が漏れてくる。


「なんだ?」


 俺に顔を向けて頻りに口を動かし声を上げる。何かを言おうとしている? そのままオートマタが何を言いたいのかじっと待つ。そして遂に意味のある言葉が出る。


『【精霊の献身(アンソース)】発動』


 アンソース? 何だ? 何が起こる?

 開かれていた胸部にあった赤く光る多面体。それが体外へ押し出されるように浮き上がる。それと同時に瞳から輝きは失われ、逆に多面体の輝きが強くなる。

 そしてそれから声が出る。


『遂行すべき全ての指令の消滅を確認。同時に自動人形コッペリア稼働の意義の消失。それに応じて現在登録されていた(マスター)の登録も削除されます』


「・・・・・・意味が分からない」


 つまりどういう意味だ?


『自動人形コッペリアを使用する権利を所持する人物は【私の主(マイマスター)】への登録が可能です。権利を所持する該当人物は自動人形コッペリアの起動か停止をお選びください』


「・・・・・・権利という物があればこいつはこれからも動き続ける、そういう事か?」


 しかし権利って何だろうか。


『権利の所持の確認・・・・・・・終了。活性化状態の【光翼煉獄石(アフラ・マズダ)】【天空心玉(アンシャール)】【原初の大地(ガイア)】を確認。権利所持者と断定。自動人形コッペリアへの選択をお願いします』


 背負った斧を見る。ヴァジュラに使われた3種の超高位金属、それが権利? しかし活性化状態って何だ? 分からない事が増えていくぞ。しかも急に選択を迫られても――――――


『選択をお願いします』


 輝くコッペリアの心臓。それは俺にとって()()()()()と思わせる輝き。

 ふ、と思考を過ぎる物がある。オートマタ相手だと言うのに普通ならおかしい言葉、それをそのまま口にする。


「コッペリア。お前のしたいようにすれば良い」


『・・・・・・発言意図不明。したいように、とは』


「永い間お前は働いたんだ。それなら別にもう休んでも良いだろ? そうするなら俺が眠る場所を作るよ。住処だった遺跡は完全に俺が壊してしまったから。・・・・・・静かに眠れる・・・そうだな、この辺りを一望できるあの山なんてどうだ?」


『・・・・・・』


 前の主の命令をただ遂行していただけかもしれない。それでももし、このオートマタが自分で自分の未来を選択できるなら――――――


「でももし、まだまだやりたい事があるなら、俺はその選択を尊重するよ。それで俺に出来ることがあれば手伝おう。そうして自分で選択した方がコッペリアも幸せになれるんじゃないか?」


 ――――――そうした方がコッペリアの働きに報えるんじゃないかと思った。


「・・・まあ俺にもやる事があるからコッペリアに掛かりきりにはなれないけど、それは容赦してくれ」


『・・・・・・自動人形コッペリアの幸せ・・・・・・』


 最初の時とは違い、直ぐに答えを返さない。コッペリアの戸惑いが現れているのか心臓が明滅、そして沈黙が始まる。これは悩んでいると考えていいのか、それとも俺の発言は意味をなさなかったのか。その答えが出るまで待つ。


 大陸を囲む黄金の粒子が日の光を黄金に彩り大地を照らす。俺が突撃した衝撃で身を隠していた生き物達が本格的に姿を見せ始める。その生き物達もその身に黄金の光を浴びて輝く。


 飛翔する4対の翼を持つ鷹。地を駆ける水晶を各部に生やした大型牛の群れ。炎のように体毛をなびかせる象。空を駆ける帯電する獅子。湖の畔で集まる馬や鹿のような草食獣。その全てがこの黄金の楽園で生を謳歌している。


「・・・・・・綺麗だ。見上げるよりずっと、ずっと」


 クレアにもこの景色を見せたい。あの時2人で見上げた空に浮かぶ黄金、それだけじゃないこの黄金の中にあった空の楽園を、彼女と共に。


「これをコッペリアは守ってきたんだな。よく頑張ったな、偉いし凄いよお前は」


 こんなに綺麗な場所さえ、俺とクレアの思い出さえ穢すような心の無いダークはやはり殺す。壊して砕いてこの世から消し去る。

 そんなダークからこの大地を守るためにこんなにボロボロになるまで戦っていたのだ。それが命令の結果であれ賞賛すべき物だと感じる。


「お前はとても立派な楽園の守護者だ、コッペリア」


『・・・・・・』


 一度、コッペリアの心臓の輝きが暗く沈み、そして再び強く輝き出す。


『・・・・・・名を』


「名前?」


『権利者よ。名を』


「俺の名前か。俺はカイル、カイル・ルーガンだ」


『了承。権利者カイル。貴方を自動人形コッペリアの(マスター)とします』


 もしかして名乗りで登録が決まったのか?


「ちょっと待って欲しい。それは俺が名乗ったからか?」


『これ以降自動人形コッペリアへの命令権は権利者カイル・ルーガンが全て所有し、自動人形コッペリアが持つ全機能の使用への判断と封印措置を施す権利も譲渡します』


 俺の静止を聞き入れずにコッペリアは声を発し続ける。


『これにより自動人形コッペリアの全て、存在・機能・組成。そしてそれらが生み出す利益の全てが権利者カイル・ルーガンの物になります』


「おい! 俺は別にそこまでは――――――


「カイル・ルーガン」


 声の質が変わる。これは男性の声? 

 それは完全に男性の、それも老齢に入った事を感じさせる老いと深みを感じさせる声。


「私の()を託す」


 その声は確かに感じさせた。娘、『コッペリア』への愛を。


「どうか私の娘に幸せを」


 心臓がさらに強く、周囲一帯を強く照らす。

 そしてソレは再び胸の奥に引き込まれ、いつの間にか再生していた胸部の装甲が閉じられる。内側からコッペリアを暖めるように心臓が赤く輝き続ける。


『「それが私、コッペリウスの最期の望み」』


 光が収まる。赤く輝いていたコッペリアはまた元の青い骨格と筋繊維で構成された姿に戻る。


「終わったのか」


 コッペリアの顔を覗き込む。目が光を放つ。


「動いたのか? コッペリア?」


『・・・・・・再起動。現在のコッペリアの状況確認・・・・・・完了。皮膜の喪失確認。本体・武装の破損確認。現在の稼働率30%未満。最低実働可能まであと24時間。完全復旧まではあと72時間となります私の主(マイマスター)


 その声は先程の男性、コッペリウスの声では無く元の性別の分からない声に戻っている。しかし復旧か。


「どうせなら完全に直した方がコッペリアも良いよな」


『肯定。完全復旧の際は仮想睡眠(スリープ)に移行します。その時でもマスターから命令によりスリープを中断、命令遂行を優先します』


「いや起こさないから。だから元気になるまで眠りなよ」


 そんな怪我人を叩き起こす(こく)な事はしたくないな。


『了承しました。スリープ移行で行動停止したコッペリアを収納する【娘の揺り籠(ソーンプリンセス)】をマスターに譲渡します』


 目の前に小さな異空間の(ゲート)が開く。コッペリアを片手で支え、空いた手を差し出す。その上に落とされる手の平にのる小さな円筒形収納具(カプセル)。これでコッペリアを収納できるのか。魔法収納は一部例外を除き、生きた物は入れられない。自動人形だからこそいける睡眠方法だろう。


『スリープに移行します。おやすみなさいマスター』


「ああ、お休みコッペリア」


 小さな排出音を響かせながらコッペリアから光が完全に消える。スリープとやらに入ったのだろう。手に持ったカプセルが横半分に割れるように開きコッペリアが一瞬で収納され、再び口を閉じる。その表面には減少していく数字が記されている。


 71:59:50


 一番右端の数字が1つずつ減っていく。つまりこれがすべて0に、3日経てば元気になったコッペリアが出てくるのだろう。


「・・・よし。皆の所に帰るか」


 大事にカプセルを仕舞いながら歩き出す。さてどうやって帰ろうか。大陸の端まで走るか、上がってきたように下へ向かって穴を掘るか。早く移動しなければ黄金雲は気ままに転移してしまう、急がなくては。

 俺は黄金の地平を駆けていく。この大地を1人で守り続けた『鋼の心』を持った新しい仲間と共に。


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