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16.鋼に火を灯す隕星 上

上・下になります

 


 ◆◆◆



「―――つまりゴルディはお姉さんだったと」


「ばーか。あたしはお姉さんって歳じゃねえよ」


 火山の浄化を全て完了した直後にゴヴァノンさんから俺の武器の完成を伝えられ、()()()()()にコーラルを除いた全員で来た。そこには満足そうな顔で俺達を待っていたゴルディがいた。


 ドワーフは気に入った誰かの為に物を作り上げるのを至上とする。それは使い手を定めない『試作』とは一線を画す。試作の全ては『専用武具(オーダーメード)』の為の礎である。作って作って作り続け、自身が望む使い手がその目に映るのを待ち続けてきたドワーフの少女、いや女性は己の直感に従い今年の聖剣祭の開催を王に打診した。


 今から約50年前に超高位金属の発見と採掘方法と精錬、近年の実用基準まで達した加工技術。その全てが彼女を端に発した物である。他のドワーフはその技術を継承した形になる。その偉業があるからこそ王は便宜を図り、今回の開催に繋がった。


 鉱人種(ドワーフ)の原石と進化の申し子『ゴヴァノン・ゴルディロックス』


 御年58歳。平均寿命が250歳のドワーフから見ればまだまだ若い彼女が名実ともにメーティオケーで最も神話に近い職人である。


「ゴルディなら引く手あまただったんじゃ?」


 どうして聖剣祭にも武具を披露していて今まで誰のオーダーメードを作らなかったのか。


「あ~・・・、それはな兄ちゃん」


「純粋におれが望む物では無かったからだ」


 彼女の代わりに先代ゴヴァノンさんがこたえてくれる。


「採掘も精錬も、関係が無いとは言わん。だが武具を作り上げるのは話しが別だ」


「聖剣祭では良い評価を貰っていたと聞いたんですが?」


「傷の。例えばお前は騎竜に使う鎧を愛用できるか?」


 無理である。鎧は着る物であり自分の規格に合わない、ましてや種族さえ違う物は論外である。出来てそれで殴りつけるか投げるかだけだろう。


「こいつは試作の段階で、常人では使えない武具ばかり作りおった。使い手を選ぶと言えば聞こえは良い。他の奴は知らんがおれはそのあり方は気に入らん。武器が人を選ぶんじゃ無い。人が武器を選ばなくてはならない。何故なら命を預けるからだ」


 大きな手でゴルディの頭を撫でるゴヴァノンさん。


「誰の為でも無く作られた武具、しかも持ち主に合う合わず使用者を傷つける代物だ。それは受け継いできた『ゴヴァノン』に反する。おれの火継ぎであるからにはどれほど性能が優れていようとそれは駄目だ」


 自身が撫でるされるがままのゴルディを目で見つめる彼は、どこか寂しさを感じさせる。


「だから一足先に工房を託し、おれの許可がない間はオーダーメードは受けず、試作のみに尽力するように言った。それに集中させて知識と技術の幅を広める必要があったからだ」


「・・・せっかく工房をくれたのに、今回初めて許可を貰うまで30年も試作ばっかりするはめになっちまうしよー」


 彼女は不満そうではあるが、そこに父親への嫌悪は見られない。口ではそう言うが納得はしていたのだろう。だから素材も作品も集めて作り続けたからこそのあの建物の状態だったのか。


「そしてお前達が来た。被服屋のボウズから聞いた話しとお前達の存在。それがゴルディが本能的に待ち侘びていた者だと感じた。だから許可を出した」


「そうそう、これが完成品だ!」


 父から離れて懐から物入れを取り出す。それは魔法の収納具で、その中から出現しカウンターに置かれたそれに全員の視線が集まる。

 それが放つあまりの存在感に目が離せなくなる。


「スゲえぜこれ。まず3種の高位金属のしなやかで軽い聖銀、衝撃を打ち消す緋金、頑強な碧鋼。つまり兄ちゃんが使ってた大剣の特殊合金『隕鉄』も素材に使ったんだよ。それに超高位金属3種、強度は言わずもがな、強力な浄化と汚染能力を持つ『光翼煉獄石(アフラ・マズダ)』。聖銀以上の魔力触媒になる『天空心玉(アンシャール)』。全ての特性を持ち独立・混合・変化を続ける『原初の大地(ガイア)』の超高位金属も勿論ふんだんに使った6種混合金属武具」


 色も性質も違う6種類の金属が混ざった結果なのか、全てが純白に染まり、理由は分からないが時に漆黒に変わる外観。そして俺が使う為に合わせられ重厚で巨大に作られた規格。


「勇者の『聖剣』は文字通り剣だったからさ、思い切って別の武器にしたんだよ。兄ちゃんの膂力を考えたら剣よりそっちの方が活かせると思った。・・・まあ力がありすぎて変わらない可能性もあったけど、そこは気にすんな」


 柄を掴み持ち上げる。それは斧であった。


「銘は『ヴァジュラ』。雷さえ砕き、星さえ破壊する『破壊者の隕星(ヴァジュラ)』だ! さあ受け取ってくれ!」


 2mはある長い柄に、斧刃が上に突き出して下にも長く伸びたて取り付けられている。全長3m、刃はその長さの3分の2は存在している。三日月斧と呼ばれる戦斧が原型だろう。厚みも幅もあるそれがもたらす重量は凄まじい。しかし俺なら彼女が言ったように何の問題にもならない。

 叩き斬る斧刃。斧頭には刃と反対側になるように鳥の嘴のような頑強な尖鎚。柄頭にも突いた物を砕く為の石突き。斬るも砕くも貫くも可能な重量武器。

 その破壊的な斧刃の両面にはレリーフが、薔薇に巻かれる金剛杵(こんごうしょ)が刻まれている。


「あたしの最高傑作なのに飾りも無いんじゃ寂しいからな! そのレリーフは兄ちゃんにぴったりだと思ったんだ」


「レリーフの意味は?」


「愛と不滅だ! あとは自分の好きなように解釈してくれ!」


 好きなようにって・・・・・・愛の花に不滅の法具。


「しかし何で俺にぴったりだと?」


 どっちも良い言葉だし俺も好きだが。


「ん? だってそこの姉ちゃん達って兄ちゃんの事が好きだろ?」


「うん、好き」

「自分も大好きです!」


「シルフィーもお慕いしています」


「嫌いではないです」


 皆の気持ちは知っている事だがこうやって口に出されると恥ずかしい。メアリーは多分俺をからかってるだけだな。含み笑いをしている。


「そんで兄ちゃんは好意には感謝してるけど受け入れてはない」


 ゴルディは刃に彫られた薔薇に指を這わせる。


「それは兄ちゃんには心に決めた何か、まあ十中八九好きな人がいるんだろ? だから突っぱねてる」


 這わせた指はそのまま流れ、金剛杵に行く。


「その想いの強さと頑なさを称えてこれを彫った。ひひひ、まあ悪く言えば朴念仁かな!」


「・・・何だそれ」


 綺麗なレリーフが途端に俺に対して頑固者と言っている気がしてくる。あ、ヴァジュラが黒くなった。


「だから好きなように解釈しろって! これはもう兄ちゃんの相棒だから!」


 良い笑顔でヴァジュラを俺に押しつけるようにしてくる。小さい割にはシルフィーよりも圧倒的に力強い。長年採掘と鍛冶で鍛えられたからこその体力なのだろう。


「んぎぎぎぎ! ちっとも動かねえ!? この馬鹿力め!」


「いやいや何の勝負だよ」


 どうして力比べに。


「手伝えお前ら! この朴念仁を押し込め!」


 おいコラ。お前やっぱりそういう意味でレリーフ彫っただろ。

 俺とゴルディのやり取りを見ていた皆が、彼女の言葉を聞いて一緒になって押してくる。何でこんな事に・・・。


「む~~~! う、動かない」

「これは人数でどうにかなるのでしょうか!?」

「姉様! 諦めてはなりません!」

「ぷっ・・・ふふっ・・・力が・・・入らないですっ」

「おっしゃあ! 行けるぞ!」


 いや、行けないから。あと、1人だけ笑いを堪えすぎて押せてない奴がいるぞ。


「・・・傷の。武器の代金の話しだ」


「え? ああそうですね。いくらですか? あとギルドのカードは使えますか?」


 ゴヴァノンさんはこの状況を無視する事にしたのか仕事の話しに戻る。ギルドカードは使えるようなので空いている片手で支払いの為のギルドカードを――――――


「おれの見立てで2000だ」


「2千万ですか? それは安い気が」



「2千()アークスだ」



 2千・・・億? 2千億アークス?

 代金が耳に届いたのか皆の押してくる力が止まる。俺も荷物袋に入れていた手が止まる。脳裏には現在自分が持っている所持金の計算に入る。ミルドレッドで稼いだ依頼報酬に素材の売却金、それに狂騒の群れ(スタンピード)の解決と魔人討伐の報酬金。そしてここまでの道中で狩ったがまだ手付かずのモンスターやデミヒューマンの売却額。

 事前にコーラルが概算を出してくれていたチーム『シエスタ』の財産およそ1億とんで5百万アークス。

 ・・・・・・全然足りないのですが。


「2千億・・・串焼き何本分?」

「きっと沢山ですねヤナギ!」

「確か前年ミルドレッドが国政で動かした金額が8千億でしたか」

「あれ? もしかして私も同じ材料で作ったら・・・」


「おいおいおい、やべーなオヤジ。何でそんなぶっ飛んだ額に?」


 皆が微妙に俺が持っている者に目を背けている気がする。気持ちは痛いほど分かるが手に持った俺は如何すればいいんだ。それに制作者である筈のゴルディも一緒になって驚いているのは何でだ。


「あくまでおれが鑑定した値段だ。素材は持ち込みで差し引いている。だから使った素材の加工難度に技術料、完成までに()()()()()()()()()()()、そして性能。あとは希少性。それでおれの『鑑定』がそれだけの値を出したんだろう」


「設備、道具・・・・・・ぎゃぁあああ!! 忘れてた!!」


 カウンター奥に広がる工房。そこには変形した炉の釜や金床、そして端に積まれた木箱には折れたり曲がったりした工具の山が・・・。あれがこれを作るのに犠牲になった物?

 あの惨状を再確認したゴルディは「えへへ~」と俺に少し引きつった笑いを浮かべながら顔を向ける。


「ねえねえ兄ちゃ~ん。出来れば設備の修理代だけでも先に貰えると助かるんだけど~」


「・・・・・・払います」


 そして設備と工具代をかなり負けてもらい8千万アークスで支払った。武器の残りの代金は後日ゴルディと相談しながら実際に払う代金を検討する事になった。黒から白になったヴァジュラが重く感じた。


 ――――――――――――


「実際あんな金額は払わなくていいよ兄ちゃん。もうちっとあたしの腕が成長したら安くなる値だしな」


「何か気を使わせたな」


「いいよいいよ! てゆうかあたしが作った物にあたしがどんな値段を付けようが自由だし!」


「・・・・・・そもそもあの材料で作った武器に見合う『使い手』自体が稀少だ。鑑定結果はそれを込みした結果でしかない。だからゴルディが相手と納得のいく結論を出せ」


 ゴヴァノンさんが言う加護の『鑑定』も絶対的な物ではない、彼もそれを理解している。あの加護は本人の知識や現代の技術などで個人差が出る物である。あくまである程度の指標として使っている人が殆どだ。

 だがゴヴァノンさんはドワーフの職人である。そんな彼が鑑定で出した値段なら本当にそれだけの価値がこのヴァジュラにはあるのだろう。


「まああたしの最高傑作だしな! しょうがない!」


 胸を張り、誇らしげな顔で主張するゴルディ。


「最高傑作・・・・・・つまりこれが聖剣を越える武具なのか?」


 彼女はそれを創作するのが目標と言っていた。そんな彼女がいう最高傑作。俺は背中に留める事にしたヴァジュラに意識を向ける。視界に入る姿は純白に染まり輝いている。目の前にいるゴルディが薄く笑う。


「それは分かんねえよ兄ちゃん」


「分からない?」


「そうさ兄ちゃん。ちょっと話しは変わるけど『聖剣』と『勇者』は知ってるだろ?」


 物語や神話でよく題材で取り上げられる。知らないわけがない。俺が頷いて肯定した事で、彼女が話しを続ける。


「実際に両方を見たあたしのカンだけどさ、あの剣って元から『聖剣』じゃ無かったっぽい」


「聖剣じゃ無かった?」


「うん。多分始まりはただの強い剣だったと思うんだ。それを初代の勇者が愛用した。それが代々受け継がれるようになって1本の剣は『聖剣』になった」


「・・・・・・勇者しか使えない剣じゃないのか?」


 物語や噂話ではよく「聖剣に選ばれる」などの一文が出てくる。聖剣が本当はただの強力な武具だとすれば他の者も剣の力を振るえる事になる。


「それは受け継いだ勇者や、勇者がいない間管理していた大聖国が後から手を加えたんだよ。まあ別に悪い事じゃねえけどな。武器を特定の人が使い易いようにするのは自然な事だし」


 『聖剣』に成って行った聖剣か・・・・・・。まあ確かに悪い事なんて何一つ無いな。ただ神話なんかでは勇者が創造主様(ジ・エクスマシーナ)から授けられた事になっているから、そこだけは事実では無い可能性が出る事になるが。


「ま、そういうわけで聖剣ってのは生まれた時から聖剣ってわけじゃない。周りの大勢が『そう在れ』って望んだり願ったり努力した結果ってわけ」


 ゴルディは小さな手、しかし使い込まれて皮膚が分厚くなっている職人の手で俺を指差す。


「だから『破壊者の隕星(ヴァジュラ)』を聖剣を越える武器にするかどうかは兄ちゃんのこれからの働きと大勢の人の想い次第って事さ」


 俺次第・・・か。ゴルディが子を見る親のような目で視線を向けているヴァジュラの重みを背で感じる。


「途中で壊れたり持ち主が死んだりしたら聖剣を越えるもクソもないからな! まあ頑張ってくれよ兄ちゃん! スゲー武具『創造』の為に!」


「それは大きい期待を背負う事になったな」


「何言ってんだよ兄ちゃん。そんなの兄ちゃんが貫く愛に比べたら屁でもねえだろ」


「俺の事ってそんなに話してないと思うんだけど」


 どうしてそこまで俺の想いの強さを信じられるのだろう。

 ゴルディはその俺の言葉を聞くと今までの外見相応だった陽気な空気が消えて、別の顔になる。


「あたしも女だよカイル。恋や愛には敏感さ」


 それは彼女が本当に年上の女性だと感じさせる、包容力のある柔らかい微笑みだった。


「・・・・・・ま、兄ちゃんの恋愛はその強さと同じぐらい面倒くさそうだけどな!」


 そして一瞬で消えた包容力。色々とゴルディの事を知った後だと彼女の印象は陽気な少女ではなく、身の回りの事に色々と適当な女性だな。父親であるゴヴァノンさんから半分独立しているが本当に大丈夫なのか心配になる人だ。


「・・・面倒くさいって何だよ」


 俺の思いは単純だ。周りへの対応も一貫している・・・筈だ。だからきっと面倒な事なんて何も無い。そうに決まっている。


「おーい。なんか現実逃避してる目だぞ兄ちゃん」


 そんな目なんてしていない。俺は逃げない。ゴルディの見間違いだ。


「カー君の良い人、つまりクーちゃんをボク達側に抱き込む」

「そうすれば自分達も・・・・・・」

「祖国は他種族の方にも住んでもらいやすいように重婚も可にしてます」


「ふふっ・・・・・・側で聞いてると不気味な会話です。1人の男性を共有するのはどんな気持ちです?」


 メアリーめ、人事だと笑いやがって。


「・・・・・・もういい、行くぞ皆。これから最後の仕事だ」


 そう言って全員を工房から押し出していく。


「カー君強引。でも悪くない」

「たまにカイル殿はこうなりますね」

「都合が悪いときですね、お師匠様がこうなるのは」


「カイルのそういう所は男の子です」


「やかましい。先に行っててくれ」


 完全に工房から皆を追い出す。中には俺とゴルディとゴヴァノンさんだけになる。

 俺は最後に彼女達に頼みたい事があったので2人に向き直った。


「最後に少しだけ仕事を頼みたい」


「何だ兄ちゃん、全員分の婚約装飾(エンゲージメント)が欲しいのか? 安くしとくぞ」


「違う。でもそれに近い物だ」


 ゴルディのからかいは適当に流して俺は本題に入った。



 ◆◆◆



 目の前に映る光景に目を奪われる。それは摂理に反する地上から天へと上がる流星。

 天山の山肌を、大気さえ切り裂き焼き焦がす閃光が駆け上がる。周囲に衝撃が音となって広がり内臓を震わせる。それは殆ど一瞬の間に頂上まで行くとそのまま天へと駆け上がり、空に広がる黄金の雲を貫いた。


「な・・・何だアレは?」

「・・・・・・綺麗」


 側には『不屈の魂(ドレッドノート)』の皆様が、ギルドから依頼された連続して発生した規模の大きかった()()()調()()の為に、詳細を調査するギルド職員である私の護衛として共に登っていた山からその光景を目に焼き付ける。

 閃光の後には、大気や魔力など様々な壁を貫いたかの如く、連続する硝子が砕けるような破砕音と共に周囲には幾つもの光の輪が発生して消えていく。それは黄金雲を貫くまで続いた。

 私と共に一部始終を見終えた彼らは閃光が残した光の残滓に照らされながら動かなくなる。現実からあまりにかけ離れた光景。それが皆様に与えた影響はいかほどか。


「大丈夫でしょうか皆様」


「・・・あ、ああコーラルさん。俺達は大丈夫だ」


「す、すいません・・・護衛なのに」


「しかしアレは何でしょうか?」


「儂にはさっぱりだ」


「・・・精霊が畏れている。しかし恐怖では無い?」


 魂を抜かれたような、という形容が当てはまる様子だった皆様は私の言葉で幾分か意識を取り戻す。


「なあ皆。アレは地震と関係あると思うか?」


「私はあるって考えた方が自然だと思うけど・・・」


「しかしアレを調査する事は可能なんでしょうか」


「・・・儂には精霊を通して聞いても「凄い」としか返ってこん」


「私も似たような物だ。だが悪い物ではない、むしろ閃光より黄金雲の中が問題だ」


 皆様の中で精霊と親和が最も高いゼル様が黄金雲の異変に気付く。それは私にも感じ取れた物と同様のでしょう。他の仲間に皆様に促されて彼は答える。


「あまりに遠すぎて詳細は精霊でも拾えないが・・・・・・あの中にダークがいる」


「 ! ・・・本当かよゼル。あれはデウス、ダークじゃあ猛毒の中にいるようなもんだろ?」


「もし何かされてるなら大変じゃない!」


「万が一黄金雲に何かあれば・・・」


「あれは世界浄化の為に創造主様が使わした存在。揺るぎないと信じたいが」


「・・・・・・」


 皆様が思い悩んでいるのを感じながら天を見る。確かに黄金雲の中からは、あれが上空へ転移してきた当初よりも膨れ上がったダークの気配、当然それは宝珠で強化された『煙爆のストルグ』の気配でしょう。それを瘴気などに敏感なダークエルフである私はゼル様より詳細に把握出来ているでしょう。

 私から何か安心させる事を皆様に伝えるのも一つの手ですが問題ないでしょう。その為に一定以上の能力を持った彼らを、ギルドを通して護衛に雇ったのです。私がこの件と無関係だと証明する第三者の証言はとても重要ですから。


「なあバルム、ゼル。あの閃光からは悪い感じはしないんだよな?」


 カウム様が精霊で周囲を知れる御2人に尋ねます。答えは聞かずとも私には分かります。私も精霊の声を拾えますから。


「さっき言った通り儂には凄いとしか分からん。しかし確かに悪い物では無いとも言っておる」


「アレは敵意を発していた、あの雲の中にいる者に対して。そして精霊はその物を見送った、まるで託すように」


 バルム様とゼル様の言葉にカウム様は納得を持った顔になりました。


「・・・・・・なあコーラルさん、藪から棒にだけどよ。カイル達って今何してんだ?」


 私に背を向けて、光の残滓さえ消えていく空を眺めながら言葉を零す。きっと直感のような物でしょう。大本はギルドとはいえ私が御主人様のチームではなくドレッドノートの皆様に護衛を依頼されていたのが疑問だったのでしょう。


「現在チーム『シエスタ』の皆様はギルドから何も依頼を受けていません。地震直後にもギルドには顔を出しておりませんので所在も定かではありません」


 最初から用意していた言葉をカウム様に返す。


「・・・・・・じゃああそこに居ても不思議はないんだな。戦う為に空を駆け上がってたとしても」


「あなた・・・もしかして?」


 カウム様に奥様であるシャール様が寄り添う。他の皆様も御2人の隣まで移動し、並んで空を見る。


「もしさ! ・・・・・・もし本当にアレがカイルならさ・・・」


 それは心の奥から絞り出した声、夢のような光景を見た彼の声。


「すげえよ! 凄すぎる! 俺達なんかじゃ全く手が届かない存在だったんだよあいつは! 本当に英雄、いや英雄以上かもしれない!」


 身体の奥から吐き出すような声。それを皆様は静かに聞く、涙を流しながら吐き出す心の声を。その後ろで私はカウム様と皆様の『未来』を瞳に映す。それは彼らの歩む道。


「いったい何を如何したらあんな事が出来るんだ、しようと思うんだ!? 何も分かんねえよ! 分かんねえけどよ・・・・・・!」


 それは折れた剣に見えた。


「あんな幻想みたいなすげえ光景見たらさ! ・・・・・・また夢、見ちまうじゃねえか!」


 太陽が瞳の奥を焼くように、あの閃光が剣を赤く燃やす。


「諦めた筈なのに! また走りたくなるだろ!」


 折れた剣は赤く溶けて形を失い、再び形を作る。


「俺はまた夢を見たい! 夢を追いかけたい!」


 沢山傷付いて、何度折れても、一度点いた火は消えず、その熱で剣を蘇らせる。

 そして火に当てられたのは剣だけではない。


「・・・最初もあなたが手を引いてくれたのよね」


 剣に寄り添う小剣と小盾、それは剣と同じように火が灯り、美しく蘇る。


「カウムは無茶ばっかりするから、僕も目が放せないよ」


 火で一度燃え、再び灰から生まれた強弓。


「酒を飲むなら楽しく飲む! それが仲間と夢を語りながらなら文句なし!」


 熱が入り、堂々とした様相を取り戻す大槌。


「長き人生、時に熱く走るのも悪くない」


 火の光で再び緑を輝かせる木から生まれる杖。


「・・・・・・はは。お前らも大概だな」


 強大な敵が立ち塞がりそれと戦い数多の傷が付き何度折れても、同じ数だけ立ち上がる。火の光と熱で何度でも蘇る。

 世界が崩壊しようとも、最後まで諦めずに戦い続けている。


「こんな馬鹿なリーダーだけどよ。もう一度着いて来てくれるか?」


「あなたを1人になんかするわけ無いでしょ」

「馬鹿をするなら僕も付き合うよ」

「はっはっは! 酒が飲みたい!」

「帰って全員で・・・だな?」


 馬車で見た時とは違う光景。折れて朽ち果てるだけだった武具達は変わった。心に火を灯すことで再び立ち上がる為の熱を得た。

『ドレッドノート』と出会い、ここに来たのは偶然だったのに。ただ顔見知りの方が依頼を出すのは自然だと判断しただけなのに。ここに至るのが必然だったかのように、『ドレッドノート』の未来が火に照らされる。


 崩壊する世界の中心で発生した美しい光を浴びながら、必死に光の輝きを返す武具達。それは『ドレッドノート』だけではなく。一つ、また一つと世界に増えていく。それはまるであの閃光を見た全ての武具に火が灯ったかのように、輝きを返す。


 勇者や英雄が多く息絶えた山なんて既に存在しない。折れて朽ち果てた武具なんて在りはしない。全ては再び立ち上がったのだから。たとえ世界が壊れようとも消えない輝きを取り戻したのだから。

 瞳に映る変わっていく『未来』、あの方との出会いを切掛に変わった先の読めない美しい崩壊。


 ――――――御主人様。貴方はどんな『未来の果て』を私に見せてくれるのですか?


 熱によって蘇る数多の『鋼』を幻視しながら私は完全に消えてしまった閃光の残滓を追うように、空の黄金を見つめ続ける。『不屈の魂』の皆様と共に。



 ◆◆◆



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