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13.神話の金属、大地の恵み

 何度か枝分かれを繰り返した坑道を進み、ある一つの行き止まりまで辿り着いた。そこでゴルディの説明が始まる。


「あんた達に主に採ってもらいたいのは『光翼煉獄石(アフラ・マズダ)』と『天空心玉(アンシャール)』、そして『原初の大地(ガイア)』が含まれた鉱石だ。これらがあたし達ドワーフが最近ようやく実用できるようになった究極の金属で、兄ちゃんと姉ちゃんが使う武具には絶対に必要になる物だ」


「どれも知らない名前だな。しかし究極とは・・・」


「私はアフラ・マズダだけは知っているです。大聖国が古文書を解読して、勇者の『聖剣』の素材に使われていると発覚した『生きている金属』です。しかし今も名前と存在しか確認されていなかった物なので私もそれだけしか知りませんが」


 ゴルディの説明を聞くにドワーフですら満足に加工できなかった超常の物質。そしてメアリーのように国の中で一定の地位を持った者でもその全容を把握できていない代物でもある。そんな究極と形容される物がここで採れるのか? 俺にはここが綺麗に発光するだけの坑道にしか見えないが。


「それじゃあガンガン掘ってってよ。あたしが選別するからさ。はいこれツルハシ」


 俺達はゴルディが道具袋から取り出したツルハシを受け取っていく。見た目は何の変哲も無いただのツルハシである。特殊な掘りかたは無いのか?


「ゴルディ様、無造作に掘って採れるような鉱石なのですか?」


 シルフィーが全員の思いを代弁するようにゴルディに尋ねる。


「あんたは本当に様付け止めないな~・・・・・・ま、いいや。大丈夫大丈夫、細かい事なんか気にせず適当に壁を砕いて一杯集めてよ。そうしたら中に絶対含まれてるから」


 そんな物なのか? 壁に手を突き込み一塊の岩石を掴み出す。所々に濁った結晶が覘くその鉱石をゴルディに見せる。


「これで良いか? この中にさっき言った金属が含まれてるのか?」


「そうそう。そんな感じで沢山採ってよ」


 これで良いのか・・・・・・。

 俺が適当に採った鉱石を皆も確認してから、本格的に鉱石採取が始まる。様々な方法で皆は壁を掘っていく。

 ヤナギは風の加護を駆使して壁を削り出し、スターチスはツルハシで壁から岩塊を斬り出す。メアリーは俺と同じように素手で掘り進む。真面に掘っているのはシルフィーしかいない。


「シルフィー以外変人ばっかりじゃん」


 ゴルディの発言は至極真っ当である。俺だって変な自覚はあるが、これの方が手っ取り早いのである。しかし俺達はかなりの速度で大量の壁を掘っているが、崩落の危険は大丈夫なのか? 何かあったら対応できる自信はあるが、起こらないなら起こらない方が良い。


「なあゴルディ、結構掘ってるが危険は―――

「大丈夫ですお師匠様」


 ゴルディより先に返事をしたのはシルフィーだった。

 彼女は汗と土埃に塗れた姿で、ツルハシを壁に叩き付けながら言葉を続ける。


「ここは崩れません。分かるんです」


「そうなのか?」


「お、あんた分かるんだ。そうだよ、ここはちょっとの事じゃ崩落なんかしないよ。本当に危ないって感じたら伝えるよ。シルフィーも感じるんじゃない?」


「何となくですが・・・・・・、おそらく今の段階で掘った4・5倍は大丈夫ではないかと」


 それだけ掘ったらここにちょっとした大部屋ぐらいの空間が出来る。本当に大丈夫なのか。ゴルディはそれを聞いて肯定している。つまりシルフィーの感覚は正しいという事だ。


「シルフィーの加護はミルドレッド限定だと思っていたが」


 今の状況で関係していると思う加護は『地鎮の血脈』だ。あれは大地に干渉する力、こういった芸当が出来るのは不思議ではないがここは国外だ。彼女達ミルドレッド王族のその力は自国でしか能力を発揮できない筈である。


「その通りですお師匠様。シルフィー達の持っている加護は国外では無力、その筈でした」


 ひときわ強くツルハシを壁に抉り込み、大きな岩が転がり落ちる。それをシルフィーは拾い上げて瞳に映す。


「シルフィーは違うのか?」


「一緒でした。でなければあのメディルはわざわざ国内だけで終わらせる筈がありませんでしたし。加護の単純な強さはお祖母様と同等です。しかし何故か変化が起きているようです」


 手押し車にそれを積み込み、またツルハシを振り下ろし始める。


「大地の脈動が、大地の熱が、シルフィーのこの身に流れ込む感覚がするのです」


「使えるのか?」


「それは駄目でした。感じる事しか出来ません・・・・・・今はまだ」


 加護は持ち主に合わせて多少の変化を起こすことは(まれ)にある。しかしそれは本当に些細な物である。例えば自信の身体強化系の加護なら、全身に及んでいた強化を腕や脚などに特化して変化するというのはある。だが急に自分以外の他者も強化できるようになるというのは絶対に無い。


 シルフィーの加護はミルドレッドで代々自国で最大限に効果を発揮できるように特化してきた物である。それが変化を起こしても自国内でのみの変化で収まる筈である。

 だが現実にシルフィーの力は国外でも行使可能の兆しを見せている。それが実現すれば彼女の可能性が大いに広がる事に繋がる。そこまでの変化が起きるなら、彼女が望んだ()()()()()()が手に入るかもしれないのだ。


「ん? ん~~? ねえシルフィー、あんたの事だけど何か見づらくなってる」


「え?」


 ゴルディは集められた鉱石を一カ所に集めていたが、それを放置してシルフィーに近づき、彼女の顔を上から下から、右から左からと眺め回す。そのゴルディの様子にシルフィーは戸惑い気味だ。


「何だろう。他の姉ちゃん達みたいには成れないけど、戦いには向いてないわけじゃなくなってる。戦う人になってるよ、あんたこの短時間で何をしたのさ」


「・・・・・・戦う・・・戦える」


「・・・・・・聞いてない。まあ、別にいいけど。じゃああたしは選別を続けるから鉱石掘りは任せたよ」


 物思いに耽るシルフィーに反応が期待できなくなったのに気付いたゴルディは自信の作業に戻っていく。それを見届けて俺も採掘を再開する。シルフィーの事は気になるが、悪い事にはならない筈だ。なら後は自身が出来ることをこなせば良い。

 俺達はゴルディから静止の声が掛かるまで掘りまくっていった。



 ◆◆◆



「量はシルフィー以外は流石と言うべきか一杯採ってくれたけど、一番優秀だったのはシルフィーだね」


「シルフィーが・・・ですか? ゴルディ様」


 皆で集めた鉱石の選別を終えたゴルディは開口一番にそう言った。それを聞いたシルフィーは疲れにより反応が鈍くなっているが、流石に今のは聞き逃さなかったようだ。

 シルフィーが採った量は俺達1人1人と比較して10分の1程も採れていない。それは彼女自身がよく知っているからゴルディの言葉に疑問を持ったのだろう。


「そうだよ。まあ量で考えたら全然だけど、比率で言えばスゴいよ。他のは皆の採った鉱石はあたしが指定した鉱石が少量しか含まれてないけど、シルフィーの採ったのは質で完全に補ってる。精錬したら良い勝負するんじゃない?」


「ゴルディさん。シルフィーさんのはどうしてそんにも違いが出たのです?」


「それはね聖女の姉ちゃん、あたしが集めるように言った鉱石は『生きてる』からさ。自分でも言ってたでしょ? 勇者の聖剣の話しの時にさ」


「それは聖剣の『自己修復』と関係が?」


「ちょっと違う。勝手に傷が直るのは多分『聖剣』自体の特殊能力。あたしが言った生きてるってもっとこう、感覚的なもんだよ」


 メアリーの質問にゴルディが選り分けた鉱石を手でもてあそびながら答える。


「ようは鉱石共(こいつら)にも好き嫌いがあるんだよ。好きな奴の所には顔を出し易いのさこいつらも。つまりシルフィーは鉱石に、大地に愛されてる。その点じゃドワーフよりも勝ってると思うよ」


「大地に愛されている・・・」


 ま、あたしらは加工専門だしね。とゴルディは笑いながら選別した鉱石を魔法の袋に収めていく。この坑道での用は済み、次に採るべき生体素材があるので討伐のために移動するのだろう。それは俺達の仕事なので自分達も移動の準備を進める。


「じゃあ次は竜の素材になるから兄ちゃん達、よろしく」


「ロックドラゴンのは?」


 そういえば一部は売らずにギルドに預けてある。この国で使えるかもしれないと。


「もっと上のが欲しい。できたら高位の天竜と地竜の両方ね。微妙に肉とか骨とか魔石の性質が違うから、満足のいく武具を作ろうと思ったら揃えておきたい」


 俺達全員が移動の準備を終わらせたのを確認してゴルディは来た道を戻り始める。


「あたしとオヤジはこの鉱石を精錬しなくちゃだから、狩りはお願いして良い? どうせあたしは戦闘はからっきしだし。そっちは得意でしょ? モンスターとか倒すの」


「ああ、任せてくれ」


「位置もボク達が直ぐに見つける」

「天竜も地竜もこの山に居ましたね」


「シルフィーはまだまだ未熟ですがお供します」


「私達がいれば問題ないです」


 俺達の返答に良い笑顔を返したゴルディはやはり疲労などを感じさせない足取りで元気よく歩き続ける。その後を追って俺達も外へ向かっていく。



 ◆◆◆



 皆様は今頃武具の素材を採取しているのでしょうね。

 メーティオケー冒険者ギルドの建物内の奥にある事務室で、私に割り当てられた席に着き、魔法具の灯りに明るく照らされながらここに保管されていた様々な情報を精査する。閲覧に許可が必要な物は事前にミルドレッドの冒険者ギルドのマスタークローリアがこちらに掛け合っていてくれたお陰で滞りなく調べられる。


 あの方にもいつかきちんとした御礼をしたいですね。・・・・・・私の事を親類のように接して来るのは恥ずかしいので控えて欲しいのですが。素性を話してからはそれが顕著になりましたし。有り難いのは有り難いのですが。あまり同胞以外からのあのような対応は私も対処に困ります。確かににマスターから見れば私は若者ですがそれはエルフ基準であって、他の種族で考えれば子供がいても不思議ではない歳なのです。それなのにあの国を出立する前は「忘れ物はないか」「他国に知り合いはいるか」「()()との仲は縮められるのか」「体には気を付けて」などとまるで幼子に旅をさせるような心配を掛けてきて―――


「コーラルさん。これがここ最近の周辺にある山々の状況の報告書です」


「有り難う御座います。お手数をお掛けしました」


「い、いえ! お役に立てて何よりです!」


 ここで務めているヒューマンの若い男性職員から今朝から頼んでいた情報を纏めた書類を笑顔で受け取る。魔法と加護の併用による偽装である程度容貌は変化させているとはいえ、エルフを起源に持つ私達はそれでも美しい容姿を維持しています。これは対人関係で有利に物事を進めやすいので重宝します。女性の方は少しばかり工夫はいりますが仲良くなれますしね。


 目の前の彼も私の笑顔を見てその顔を赤くしています。ここから大事なのは適度な距離感を保っていく事なのですが、ここには長期滞在する予定はないのでそこまで気を遣わなくていいので楽ですね。それでも相手があまり私に踏み込まないように誘導はしますが。


「そういえばウィリアム様。ここ最近、国内や外の近辺で何か変化などはありましたか?」


「変化、ですか?」


「ウィリアム様の所感で構いません。些細な事でもいいのです」


 受け取ったコロニスの休火山、それの過去から現在までの生態系及び活動状況の変化を記した書類の束をデスクに置く。私自身でもある程度の情報は仕入れていますが、こうした調査記録も多角的に精査するのには役立ちます。

 見落としがあっては御主人様に申し訳が立ちませんしね。クレア様を直ぐにでも助けたい気持ちを抑えてこうした活動を手伝ってくれているのです。なら私は完璧な情報を提供しなくては。


 ここにいたアルターを仕留めたのですから『黄金雲』で活動しているストルグも何か動きがでるでしょう。連携が取れなくなっていてもダークなら計画を進める。彼らは物事が終わりに近づけば油断が顕著にでますからね。この調べ物はその裏付けを確かな物とするため。この男性職員から話しを聞くのも大事な情報です。


「そうですね・・・・・・、今お渡しした書類には記載していないのですが、休火山を中心として少しばかり鉱石の採掘にこれまでと違う変化が出ているようです」


「それはどのような?」


 休火山、アルターがその山々のマグマ溜まりに細工を施した。その数を可能な限り詳細に、いえ()()把握します。これは絶対です。

 どんな些細な情報でもそれは黄金に繋がる砂の粒です。


「ドワーフの皆様が最近、あの超上位金属に分類されていた3種の物質の本格的な取り扱いを始めたのは御存知ですか?」


「ええ勿論です。技術の進歩、専門特化型の魔法体系の確立などで実用基準に達した加工が可能になったと聞き及んでいます」


光翼煉獄石(アフラ・マズダ)』『天空心玉(アンシャール)』『原初の大地(ガイア)』の3種類の金属。『聖剣ウルス・ラグナ』や過去から継承されている一部の神剣・・・いえ『精霊武具』にも使用が確認されていた物語や神話でしか見られなかった想像を絶する超金属。生物や精霊とはまた違う意味で活動する『生きた金属』。


 それらの存在が確認されたのもそこまで過去の事ではなく、50年も経っていない。これはこの年数でその神話の超金属を扱えるドワーフ達が凄いのか、それとも鍛冶の神とも形容されるドワーフ達でさえ総力を挙げても50年の時を要さなければいけなかったと、その金属の加工の難易度に畏怖すればいいのか。どちらにしても途轍もない金属であるのは確かです。未だそれらの金属で作成されて武具や道具などは世に出回っていませんが、もしそれが日の目を見れば、この分野の世界に革命が起きるのは容易に想像できます。


「私の友人であるドワーフが酒の席で零していたのですが、『あの生きた鉱石が最近攻撃的だ』と言っていました」


「攻撃的ですか?」


 鉱石がそのような状態を取るなど私には想像も出来ません。生きた鉱石に触れれば理解できるのか、それともドワーフ特有の感覚でしょうか?


「そうらしいです。実際に採掘をしたドワーフの方にしか共感されないようですが」


「それは採掘済みの・・・持ってきた鉱石をこの国で見て触れたとしても掴めない感覚ですか?」


「はい。鉱山にツルハシを突き立てた時にしか感じられないと」


「・・・・・・成る程」


 これは()()()かもしれませんね。ならこの書類と合わせて最近になって3種の金属を実際に採掘したドワーフの話しも聞く必要が出てきました。


「有り難う御座いますウィリアム様。ミルドレッドのマスターから託された大事な仕事だったので大いに助かりました。これからこの書類などを基に、私がマスターに届ける情報の精査に入りたいと思います」


「お力になれたようで良かったです」


「有り難う御座いました」


 少しだけ名残惜しそうに私から離れていく彼。言葉や一部魔法などを駆使して彼との距離を最低限までしか縮めないようにしましたが、上手くいったようです。やはりギルドで努めておられる方は皆様は基本的に節度や他者の意志を尊重してくれるので誘導がしやすくて助かります。


 再び自身のみとなったデスクに向かい、コロニスの地図を取り出し、書類を開いて瞳に文字を映していく。並んだ文字列とは別に浮かび上がる情報群。私の加護である『知恵の精霊の瞳』が目の前にある書類を集約した情報を頭に入れながら、詳細にも目を通す。

 脳裏に出来上がっていく休火山の位置と変化状況の推移。そこから見える異変と3種の超金属が採れた休火山の分布。


 さあ待っていてください御主人様。このコーラル、貴方様に完璧な情報をお届けします。ダークを確実に始末して異変を解決し、平穏な日々を迎えるための情報を。



 ◆◆◆



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