表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/60

16.心の声

長くなったので途中で切っています。

 俺は彼らの様子が落ち着くまで待つ事にして、まずは置いていた剣を手に取る。


「ん?」


 大剣の刀身が中程から音を立てて折れた。どうも酷使し過ぎたようだ。半分になった剣をとりあえず地面にまた置き、ヤナギとスターチスに声を掛ける。2人の身体に巻いている旗の隙間から見える素肌には細かな傷が多くある。


「2人は身体に問題があったりしないか。強く痛むところとか」


「ん、問題なし」

「カイル殿との特訓の方が痛かったぐらいですね」


 それなら良かった。2人でならダークを1体仕留められるならこの先の戦いで取れる手段の幅が広くなる。


「見た目そっちの方が痛そうだけどな」


「見た目だけ。カー君のは全然違う」

「たいした傷はできないのに凄く痛いんですよね」


「まあその辺りは気を使ってるからな」


「うん。使ってなかったらボク達も木端微塵」

「カイル殿の力は底が知れませんね。正直剣よりも素手の方が強いのでは?」


「あ~、この剣も耐えられなかったからな」


 最近まで使っていた大剣の残骸に目を落とす。今までいくつも武器をダメにしてきた事を考えるとこの剣は比較的耐えた方だ。武器はあれば便利なのであった方がいいとは思っている。自分に合った武器が見つかるまでは仕方ないが素手のままで行こう。

 そんな感じで3人で時間を過ごしていると()()がこちらに歩いて来たのに気付く。


「王女様来た」

「そのようですね」


 第二王女シルフィー様がこちらに寄ってくる。先程まで笑顔を浮かべていた顔はまた無表情になっている。後ろからはそんな彼女を王様や他の王族の方や騎士の人達が追う様に来ている。

 彼女が俺の目の前に立つ。改めて見るとやっぱり小さい子であるが、こんな子が今まで精神を囚われていた事に耐え続けていたのを思うと本当に凄い事だと感じる。彼女は俺の眼をその深い緑色の瞳でじっと見てくる。


「・・・・・・」


「・・・シルフィー王女?」


 彼女は俺をじっと見ている。そのまま時間だけが過ぎ、彼女後ろにいる家族や騎士たちが困惑し始めた時にようやく口を開いた。しかしその顔は無表情のままである。


「不思議です」


「不思議? 俺がですか?」


 突然そんな事を言われた。どういう意味だろうか。


「貴方には『世界の恵み』がありません。それなのに何故あのような力を?」


「――――――」


「シルフィー? 急に如何したのだ。彼に一体何が無いというのだ?」


 国王が娘の要領を得ない質問に後ろから声を掛けるが、彼女はそれも気にせず俺を見続ける。この感覚に近い物を知っている。俺はコーラルに、また人知れず姿をくらました彼女に精霊を介して尋ねる。


(コーラル。王女にはあんたと同じ力が?)


(少し違います。シルフィー王女様が見えるのは対象に存在する()()()()()()()です。それを彼女は世界の恵みと呼称しているのでしょう。なので強いか弱いかは把握出来ますが種類までは分からないと思います)


(ああ成る程、だからメディルは俺に『空っぽ』とか言っていたのか)


(シルフィー王女の視界からカイル様を見たからでしょうね。ですから引き摺り出されても余裕の態度だったのでしょう。愚かな事です)


 俺は過去、自分の加護を壊した。そのせいで王女の眼には何も見えなかったのだろう。どうしようか、別にそれは秘密にしている訳ではないが一般的ではない。少なくとも自分以外にこうなった人達の話しは見た事も聞いた事もない。

 俺がそう考えていると騎士の1人が国王の近くまで寄り、声を掛ける。その人を見たヤナギは「あ、騎士のおじさん」と言ってスターチスも同意している。おそらく彼が2人の言っていたバジリスク討伐の時にいた騎士隊長なのだろう。


「王よ、今はこの様な状況です。ここは一端彼らを王城に招いてみては」


「・・・そうだな。英雄カイルと仲間達よ、今から我が国民達に事態の解決と君達の活躍を伝えて脅威は去ったと周知したい。その後君達を王城に招ききちんとした礼を示す。どうか来てはくれないか?」


 俺が断る理由はない。ヤナギとスターチスに目を向ければこちらに任せるといった態度であった。2人にも否はない様である。


「俺達の様な者の言葉で他の人達が安心できるなら。それに招待に関しても迷惑でなければ」


「手間を掛ける。それに礼をしたいのは此方なのだ。歓迎しよう。シルフィーもその話しは一度落ち着いてからで良いな?」


「大丈夫です。有難う御座います」


 そうして俺達と国王とで事態の解決を、遠巻きに眺めていた人々に伝える為に多くの人の眼に留まりやすい舞台跡地に足を向けた。



 ◆◆◆



 カイル様達が皆の眼に着く場所に移動し、ダークの脅威は彼らの手により終結したと通達された。その国王様の言葉と、ダークが新たに生まれた英雄達に討伐されたという言葉をしっかりと胸に染み込ませた国民達は興奮が最高潮になり、パレードはまだ始まってもいないのに大いに沸いた。

 シルフィー様を家族の下へ届けてまた人ごみの中に戻っていた私は、この興奮と感動の渦にいる人達には目もくれずカイル様とヤナギ様やスターチス様を見つめる。


 ヤナギ様とスターチス様は裸身を国旗を外套代わりに羽織って隠し、カイル様の側に立っている。そしてカイル様は大剣は破損。礼装も無残な状態になり服の破れた場所の肌は無数の傷跡が見える。しかし今日の戦いによる新たな傷はない。

 恐ろしい筈の魔人を相手に終始圧倒していた現実とは思えない光景。その身に魔人の爪を受け蹴りや殴打を喰らい、さらには中位の竜種ですら防御魔法を展開しなければ致命傷になる八位階雷魔法『雷霆の槍(ケラウノス)』の直撃と連撃にさえ傷付く事はなく、逆にカイル様の攻撃は相手の防御など意味を成さない破壊力で叩き込まれる蹂躙と呼ぶに相応しい光景。


 カイル様はこの国で真の英雄となった。・・・いえ、英雄程度で収まらない強さを彼は示しました。当代の勇者でさえ彼の前では霞むでしょう。過去から続く英雄と勇者の歴史を紐解いても彼の様な存在はいません。

 彼自身の報告のみでしか知らなかった彼の本当の強さを私は今日、初めて目にした。上位の魔人が弱い筈はなく、今まで多くの国や英雄や勇者を苦しめてきた恐ろしい存在。

『傀儡のメディル』その加護に囚われた者は心を壊された状態で捨て置かれるか死んだ状態でしか彼から解放される事はなかった恐怖の力。

 それさえもカイル様は打ち砕いた。驚愕です。魔法も使わずに『殺し』からの『蘇生』を行うなど、予想できる筈がありません。しかしシルフィー様を助けられたのは嬉しい誤算でもあります。何故なら彼女は異界に囚われている間の、メディルが彼女の身体で仲間と見聞きした事も覚えていたのですから。


 シルフィー様が私に教えてくれた情報はとても貴重です。それと私が集めていた情報を合わせればもっとカイル様のお役に立てるでしょう。助けられる人は増え、魔人に今回の様な好き勝手をさせる前に事を終わらせられるでしょう。

 英雄であるカイル様やヤナギ様とスターチス様の姿が堂々とした様子で民衆に晒され歓声が爆発し、口々に彼らを讃える声が響く。ここまでの一連の出来事は吟遊詩人が唄う物語や英雄譚に載る光景そのものと言ってよいでしょう。彼らの名と『破壊者(アダマス)』の称号は名実ともに伝説となる。


 国王様が今日行われる筈だったパレードを後日に改めて執り行う事を宣言し、局所的だったとはいえ被害が出た場所や人の修繕や治療を優先する事にして解散する事になりました。

 国王様に案内されカイル様達の姿が王城へと向かっていく。その後ろ姿を私は流れてゆく人波も気にせず眺め続ける。


 ああ、やはりカイル様は素晴らしい御方です。受け入れてほしい、この胸の内を。


 カイル様、貴方様は私を支配してくれるでしょうか。



 ◆◆◆



 俺とヤナギとスターチスは城に着くと湯浴みを勧められ、生まれて初めて見る大きさの浴場に感動しながら戦いの汚れを落とした。用意してもらっていた仕立ての良い服に袖を通して2人と合流すると、ヤナギとスターチスに在った傷が癒えていた。どうも入浴前に回復薬を貰ったらしい。風呂上りも相まって肌が輝いている様に見える。


 そうして王族方を交えた食事の席に俺達は着いている。場違いな思いは強くあるが相手方の希望であり俺達の方に否はなかった。だが食事が始まるとこの場所で問題が起こった。


「・・・シルフィー王女は向こうでは?」


「大丈夫です問題ありません」


「しかしですねシルフィー王女」

「シルフィーでお願いしますカイル様」


「・・・・・・」


「王女様ボクより小さい。可愛い」

「本当ですねとても愛らしいです。勿論ヤナギも」


「ヤナギ様とスターチス様もシルフィーの事はシルフィーと御呼びください」


「じゃあボク達の事はお姉ちゃんとか?」

「いいですね、それは私も呼ばれたいです」


「ヤナギ姉様とスターチス姉様ですか?」


「すごく良い」

「可愛いです。勿論ヤナギも」


 お前らこの子より年下だろ何言わせてるんだ。しかし王女様も王女様だ。無表情で何気なく姉呼びをしている。


「仲が良いのは喜ばしい事だ」


 その様子を国王だけでなく彼の妻である后や他の子息達が微笑ましそうに見ている。

 今の状況は大きなテーブルに王族方と俺達が分かれて座っているという形である。しかしシルフィー王女だけ何故か俺の隣の席に着いている。ヤナギとスターチスは彼女を挟んだ反対側の席を選んで座っている。対面の席に着いている王族方は最初は少し苦笑して「迷惑ではないか?」と尋ねきたのを「大丈夫」であると答えたらこのまま食事が始まり今に至るのである。


 シルフィー王女は俺の隣で綺麗な所作で食事を食べながら、先の様なやり取りをしている。しかしヤナギとスターチスはこの状況に慣れ過ぎではないか? 今もヤナギがスプーンで掬い上げた料理を王女に「あーん」と与えようとしている。それをスターチスが制止するが、王女は素直にしかし無表情で差し出された料理ののったスプーンを咥えて食べている。王族の方達はその様子を見ても特に思う所はない様で、変わらない様子で食事を続けている。


「王女様は・・・」

「シルフィーでお願いします」


「・・・シルフィーは身体に違和感や問題はないのか? 無理はしてないか?」


「大丈夫ですカイル様。いたって健康です。・・・あ」


 何かに気付いた様に彼女は一度言葉を止めた。やはり胸か。傷は付かない様に気を使ったがどんな影響が残っているか分からない。彼女は家族に笑顔を見せた以外で表情を変えた様子はない。その無表情のせいで調子が読みにくい。


「胸が苦しいですね」


「それは大変だ!」


 まさか本当に悪影響が出ていたか! あれは誰かに試せるような物ではなかったし、そもそもがその場の思い付きであったのだ。これは直ぐにでも医者に診てもらう必要がある。


「どうして無理を―――」

「カイル様を想うと胸が苦しいです」


「――――――」


 彼女は無表情で言った。これは・・・、表情を変えないので感情が読めないがそういう意味なのだろうか。


「おお~。仲間?」

「これは本当のお姉さんになれますね」


 喜ぶなそこの2人。だからシルフィーの方がお前達よりもお姉さんだというのに。それにまだ確定したわけではない。


「見ていたのです。カイル様の拳がシルフィーを打ち抜いてから全てに決着を付けるまでの全てを」


「・・・気を失っていた筈では?」


「身体から意識だけが飛び出ていた気がします。今は治りましたがそれで周りの様子を見れていました」


 どうやら彼女の精神は直ぐに身体に定着したわけではなく、その精神体のまま周りの状況を認識して俺に加護の力が無いという事だけでなく魔人を圧倒できる力を持っているのを知ったのか。

 彼女は席から立つように俺に身を寄せる。無表情であるがその視線は俺の眼を真っ直ぐ射抜いている。その視線の強さは彼女の思いの強さの表れの様に見える。


「カイル様の雄姿を見てシルフィーは・・・、気持ちに火が点いたのです」


 さらに近くなる彼女の顔。俺との顔の間に手の平一つ分の隙間しかないだろうと思う程、距離を詰めてきている。そして確定する決定的な一言を口にする。


「カイル様、シルフィーと夫婦になってはくれませんか?」


「・・・すいませんシルフィー、気持ちは嬉しいですが俺には他に好きな人がいます」


 予想が付いた時点で俺の答えは決まっている。今でさえヤナギとスターチスとの関係は半端な状態になっている。これ以上は相手にも失礼になるだろう。それに彼女は王族であり祈祷師でもある。こんな素性が確かでもない男と早々に結婚など決められる筈は無いだろう。


「成る程。ではその方にも話しをさせてもらいたいのですが」


 結婚の誘いを断られたのにシルフィーは表情も変えず、退く事もしない。その眼は俺から放す事をせず、動いていないのにさらに距離が縮まっている気さえする。


「その人は今会える様な場所にはいないのです。いずれこちらから会いにいくのですが」

「その方とは既に契りを?」

「・・・いえ、まだです」

「では好き合っていると?」

「・・・相手の返答待ちですかね」


「という事は―――」


「シルフィー、彼が困っているだろう。それぐらいに・・・」


 シルフィーの押しの強さに、俺よりも早く国王の方が声を掛けるが。そこで彼女の雰囲気が一変する。



「その()()()カイル様があれほどダークに対して憎悪を向ける理由の方ですね」



 その一言で先程まで和やかだった空気に冷たい物が宿る。彼女は続ける、表情に変化はなくともその眼に映る感情は激しく燃えている。・・・その眼には見覚えがある。


「シルフィーは、メディルというダークが仲間と話しをしている時も意識はあったんです。腹立たしいですよね、小さな人間1人、精神を拘束した人間に出来る事など無いと思っていたのでしょう。それは確かに事実でシルフィーに何かする事など出来はしませんでした。とても辛い時間でしたが、それが今この時の為だと思えば無駄ではなかったでしょう。だってあの魔人はその事を良い事に重要な会話をシルフィーに聞かせるままにしていたのですから。そしてあの男は無様に死んでくれました。情けない姿でとても気分が良かったです。仲間とこの国をどう侵してやろうかと悍ましい作戦や行為などの話し合いをシルフィーは(はらわた)が煮えくり返りそうな思いで見聞きしていましたから。人間を見下し踏み躙り、自分達の加虐の気持ちを満たす為だけの家畜以下の存在として見ていた、そんな息をしているだけで害悪になる様なあの魔人共を塵芥(ちりあくた)の如く・・・カイル様が殺してくれたのです!! ああ! なんと素晴らしい! アレが最後に命乞いまでしようとした事など、今この瞬間でさえ思い返しては清々しい気持ちになります! 肥溜め以下の汚物にさえ劣るゴミの役にさえ立たない様なあの醜悪で下劣な魔人共の苦痛の声! 悲痛な表情! そして最期の瞬間! その全てが家族の皆様の優しさで繋いできた細く頼りなかったシルフィーの心に火種を入れ、魔人を一方的に屠ったカイル様が燃え上がらせたのです!! この出会いはシルフィーにとっての運命です! ああぁ、ああぁ、カイル様。シルフィーはきっとカイル様と心を通じ合わせられます! だってそうでしょうカイル様! 今のカイル様や普段仲間の皆様と一緒に居られる時のカイル様は優しいのですよね! 思いやりに溢れているのですよね! 大事な人達が笑って過ごしてくれるのに幸せを感じるのですよね! 分かります! それなのに!! そのような姿からは想像も出来ない様な憎悪をカイル様は心に抱えています! あの魔人に対して行う容赦の無さを見れば良く分かります! できるなら出会った瞬間にでも息の根を止めたかったのですよね!? でも出来なかったのですよね!? 今後を思えば魔人からは可能な限り情報を抜き出したいのですもの! でも大丈夫ですカイル様! 今後はそんな思いを抱えなくてよいのです! だってシルフィーが見聞きした情報と私を異界から助けてくれたお姉様の情報が在れば今後そんな煩わしい思いを抱える必要が無くなるのです! そうなれば後は悪辣で残虐な魔人共を見つけしだい心の赴くまま殺していけば良いのです! それだけの恨みを! それだけの嫌悪を! それだけの殺意を! カイル様は抱えています! シルフィーには分かるのです! だからこそカイル様とシルフィーはとても良い関係を築けると確信しています! シルフィーの時の様に囚われているでしょう()()の事も尊重します! 何故ならシルフィーの心はこんなにもカイル様を求めています! であるならカイル様の大事な物も大切にする事は当然の事なのです! きっとお役に立ってみせましょう! そうです夫婦でなくても良いのです! 御傍でカイル様の雄姿と歩む道の先を! 魔人達の絶望と終わりをこの目で見られるならシルフィーはカイル様の奴隷でだって構いません! ああ! これがお姉様が胸に秘めていた気持ちなのですね! カイル様と出会い世界が輝いて見える気持ちです! シルフィーにもお姉様の気持ちが理解できます! カイル様には『恵み』が見えないのに誰よりも輝いています! カイル様はシルフィーの希望です! シルフィーの太陽です! シルフィーの神様です! 憎い! 憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!! シルフィーの大切な人達を欺き苦しめる全ての魔人が!! 死んでほしいのです!! 殺してやりたいのです!! あんな害悪を振り撒く生き物に存在が許される地は無いのだと!! 破滅を!! 滅亡を!! 全て壊れて消えてしまえと!! カイル様にも分かって頂けるでしょう!! シルフィーの想いを!! この叩き付けずにはいられない気持ちを!! ねえカイル様!!」


「――――――」


 クレアを助けたい一心だった。それは確かだった、でもそれ以外の感情も俺の胸にはある。あの日彼女が奪われた時から、自身の身体も心も精神も加護さえも、あの娘を助ける為にと、あの娘の為にと鍛えて鍛えて鍛えて鍛えて鍛えてそしてある日、限界がきた。

 そして憎悪に身を焼いた。力が無い、力が届かない、魔人に世界に他者に加護に才能に、自分自身に憎悪した。水辺で見たその時の俺の眼は憎悪で満ちていた。


 シルフィーの眼はあの日の俺と似た眼をしている。大切な人達への愛情と、それを侵す魔人に対する激しい憎悪が彼女をそうさせている。他の感情では動かなかった表情でさえ、その憎悪で険しい表情に変えている。


 国王もその家族も、ヤナギやスターチスさえも彼女の突然の豹変に戸惑いを持っている。それ程シルフィーの吐き出したダークへの憎悪はあまりに黒く重い。だから俺のような者に希望を抱いたのだろう。しかしそれは危うい感情だ。俺は彼女に返す言葉を慎重に考える。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ