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13.圧倒

 ボク達に気付いたバジリスクが白濁した瞳を向けてくる。見えてはないけどボク達が何処にいるのか分かるみたい。蛇ってその辺面倒、目潰ししても他のとかデミのと比べて効果が薄い。

 まあ殺すのに変わりないけど。


『ロロロロロロォオオ!!!』


 スワンプマンを吐き出すのは止めて、変わりに毒の息を辺りに撒き散らす。スワンプマンは問題なく行動しているが他は違う。近くの草木がゆっくり黒ずんで死んでいく。あれをまともに吸い込めばすごく体に悪いだろう。そんな心配はいらないけど。

 ボクとスーちゃんは纏った風で毒を押し返しながらバジリスクに接近していく。近くで見るとやっぱり大きい。長さは勿論だけど太さもスゴイ、直径でも5・6mはありそう。何を食べればこんなに大きくなるんだろう。それだけは少し羨ましい。スーちゃんはボクの小柄な体が良いって言ってくれるけど大きい身体にも憧れはある。スーちゃんみたいに大きいふわふわがあったらカッコいいと思う。


「先に行ってくる」


 スーちゃんより先に接敵、向こうは牙を剥いてるけど遅すぎる。噛み付こうとする、その行動をするその前にボクは正面から右側に向かって走る。頭を上に持ち上げてるから腹が見えている。鱗よりはきっと硬くない。『風刃』と『鎌鼬』を使った双剣の斬撃をすれ違う様にお腹に浴びせて近くから離脱。

 んー・・・ちょっとだけ斬れた? でも全然。肉はおろか皮さえ裂き斬れてない。これは時間が掛かりそう、ボクだけだったら。


「疾っ!!」


 ボクでも少し削れたその腹にスーちゃんの『切断』が込められた大太刀の横薙ぎが振るわれる。


『ルロォオオオッ!!?』


 斬れた。刀身の半分が埋もれるぐらいにバッサリといった、どす黒い血が噴き出す。分厚い皮も肉も関係なく斬り裂くスーちゃんはすっごく綺麗でカッコいい。普通のモンスターならこれで終わり、でも相手は竜種の一つ。


「っもう出血が止まったか! 流石にやり難い!」

「傷口も修復が始まってる」


 血が止まり、ゆっくりゆっくり、他の人には分かりにくい早さだけど傷が塞がっていく。スゴイ生命力、竜種は大体こうだ。武器を収めて背中に飛び乗りスーちゃんと合流。揺れる揺れる。


「ヤナギ! 感覚的にコレが相手では『切断』無しでは有効打にならない!」

「む~、やっぱり面倒」


 スーちゃんの『切断』はスゴイ、断面が全く潰れてなくてすっごくキレイ。でもああいう手合いとは少し相性が悪い。キレイ過ぎて修復し易いみたい。もう少し相手が小さかったら断ち切れるんだけど。でも使わない選択もない。それだけ硬い。

 バジリスクが移動の時からは考えられない速さで頭を振り回す。地を大きく抉り土砂が吹き飛ぶ。辺りにお腹の奥に響く様な衝撃が広がる。それに合わせて長い胴体も暴れ出し、近くにある木や岩、それにスワンプマンも関係なく薙ぎ倒していき、それらは離れた場所にいる騎士や冒険者、果てはその人達へせっせと攻撃しているスワンプマンにさえ瓦礫が飛んで衝突していく。

 この大きさで暴れられると周りへの被害も甚大だ、ちゃんと避けたりいなしたりしてるけど大変そう。それに背中はボコボコだから掴みやすいけどしがみ付いているボク達もちょっとだけしんどい。


「どうする?」

「自分は背中から行きましょうか!」

「じゃあ顔とお腹!」

「では!」


 スーちゃんが片手でしがみ付いたまま大太刀を抜き打つ。それから縦へ横へと斜めへと振るいに振るう。その度にバジリスクの鱗が斬られ削ぎ落とされていく。この調子で『とどめ』への下準備を進めて行く。

 ボクもやる事をやろう。手を離し飛び降りて着地、バジリスクの顔を正面から見れる場所へ移動する。


『シュアアアアアッ!!!』


 好き勝手やってるボク達にムカついたのか今度は尾の方を前方に振り下ろしてくる。地面に叩きつけられる鉄槌の様な瘤を備えた尾。あまりに巨大なその一撃で大地が割れて、ここまでで一番強い衝撃が奔る。

 でもその一瞬前にボクは既に目の前にあるバジリスクの首の腹目掛けて飛び掛かっている。背後から届く衝撃も風で巻き込み突貫。双剣を閃かせながら相手の腹に足を着けて接触の衝撃を殺す。その張り付いた状態の間にさらに双剣を振る。

 浅い、でも確実に削っていく。双剣の斬撃を最高速で叩き込んでいく。この向こう側ではスーちゃんも背中を斬り刻んでいる。多分この瞬間のボク達2人の心は一緒。


 斬る。斬る。斬る、斬る、斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る。


『ロロロロロォォオオオオオオッ!!?』


 牙から毒液を分泌、それを撒き散らしながら暴れる。飛沫もくるけどボク達には風の守りがある。両足でなんとか張り付いてたけどそろそろ体勢に無理が出てきた。

 離脱。離れた一瞬後にボクが掴まっていた場所が地面との間に消える。押し潰しに来てた。してきそうだったから離れた。我ながら良い判断。スーちゃんはまだ背中にいる、ちょっとづつ位置を変えながら鱗を斬り飛ばしていく。


『グウウウウッ! ゴボボボボォオオオオ!!』


 またスワンプマンを吐き出し始めた。見た目最悪の光景、嫌になる。ボトボトと大量に地に落ちるそれを眺めながらため息がでる。まあこれだけ近くなら取れる方法もあるからいいや。


「『風刃』」


 出てきたばかりで一か所に多く固まっているスワンプマンに風刃を飛ばす。魔石を砕きながら8つの刃がスワンプマンを貫く。貫通した刃はさらに別のスワンプマンに飛び込み魔石を砕く。それが延々と続く。大量の泥だけがその場にうず高く積もっていく。

 無駄無駄無駄無駄無駄。バジリスクが頑張って吐き出しているスワンプマンをボクは次々に泥へと還していく。踊り狂う様に飛び回る風刃、それが地にいる物を仕留め尽くすと滝登りの様に上から降ってくる物に標的を定めて上昇。魔石を砕いて殺しながらどんどん蛇の口に向かっていく。


「どーん」


 口に到達。斬り刻む。


『ジャアアアアアアアアア!!?』


 スワンプマンの放出を中断、バジリスクは頭を振って暴れ出す。とっても痛そう、でも止めない。外は効果が薄かった。じゃあ中から。口の中の風刃を効果が続く限り暴れさせる。口から大量に毒以外に血が撒き散らされる。


「ヤナギーー!!」


 スーちゃんから準備が終わった事を告げる声が届く。じゃあボクは『軌道』から退散する事にする。バジリスクの前の方もだいぶ()()()()()()()()もう大丈夫。ボクは距離を取ると同時に気配を消す。

 バジリスクの背中にいるスーちゃんの闘気が高まる。逆に気配はどんどん小さくなり、そして気配と合わせて闘気が消失。

 全部の意識を斬る事に集中した切断。スーちゃんが繰り出す最強の斬撃であり同時に相手の意識外から放てる恐怖の奇襲技。

 バジリスクは目以外の感覚器も優秀だけどその程度じゃボク達を捉えきれない。せいぜい動いている時の影を追うので精一杯。現に背中のスーちゃんを完全に見失い、急に薄くなったボクの存在に戸惑い探す様に首を高く持ち上げる。さあ終わり、アレが放たれる。


 瞬間、空気が張り詰める。スーちゃんが背のでこぼこに足を引っ掛けて立ち上がり、ボクと一緒になって前後から首を一周する様に強固な体表を削り飛ばした場所に狙いを定め大太刀を掲げる。

 刀身が光に照らされ輝く。そんな光もボク以外に誰も気付かない。ちょっと勿体ないと思う。だってあれはすごく綺麗だから。

 そして大太刀『水無月』に伝えられる祝詞を唱える声が風に溶けるように流れる。スーちゃんが一番集中できる、小さい時から唱えてきた祝詞の一節。



「『生命(いのち)捧げ冥界から黒に沈む水を汲み、炎陽揺らいで祝福無き月を斬らん』」


 ――――――


 そして風景さえ断つ様な閃光が奔り、それはバジリスクの背後から正面を駆け抜け地に着く。


『ゲエェアアアアッ!!!』


 半分、バジリスクの首は中央から左端にかけて切断され、その断面を外へ晒す。

 致命の一撃、だがバジリスクはまだ生きている。骨と首半分がまだ付いている。その白濁した目は見えていないにも関わらず戦意を失っていない。

 だけどもう手遅れスーちゃんの気配は消えたまま、まだ終わっていない。地に着地していたスーちゃんはバジリスクと相対し大太刀を構える。


「『鳴神月』」


 空へ還る星の様に、再び閃光が放たれ天へと駆け上がる。


 首が飛ぶ。



『ゴォアアアァァ・・・・・・』



 空には跳び上がって大太刀を振り抜いたスーちゃんが見える。断ち斬られた首は地響きを立てて落下。それに続く様に持ち上げていた胴も轟音を立てて倒れる。辺りに大量の砂埃が舞い飛び視界が利かなくなる。流れてくる砂はボクの周りの風で周囲に弾かれる。

 どうやって斬られたのか理解できないだろうバジリスクは頭だけで悶えてる、でもその瞬間から断面から大量の血を流し大人しくなり、徐々に静かになっていく。


「―――ん、勝った」


 冒険者と騎士、そしてバジリスク自身の大暴れによりスワンプマンはほぼ殲滅。一息つく。隣に着地していたスーちゃんが歩いてくる。周囲には特に脅威が無い事をお互いに確認し合う。周囲に漂っていた砂埃も殆ど晴れ、その全容が周りの人の目にも届くようになる。


「ヤナギ。疲れはどんなものでしょう」

「んー、ちょっとだけ」

「ではまだまだ行けますね」

「大丈夫」


 バジリスクの死体、その断面から血を流す胴体に目を向ける。それの様子が目に見えておかしくなる。背後や周囲では大勢の歓声や装備を楽器の様に打ち鳴らす音が聞こえてくるがそれには興味を持たない。

 そんな時後ろから近づいてくる人がいた。その人、騎士のおじさんがボク達の所に来た。


「これは・・・。感服した。なんという強さだ。貴殿らには礼をせねば。これと真面に当たっていたら騎士の中で相当数の犠牲が出たであろう」


 おじさんが頭を下げようとしたけどスーちゃんがアレから目を離さずに押し止める。まだまだやる事がある。今はお礼なんていらない。


「隊長殿、まだ終わってはいません」


「何だと?」


 周囲の空気が変化する。アレの断面が水が沸騰する様にボコボコと泡立ちながら音を立てる。その異常な光景がどんどん周りの人の目に映っていき、不審がり、戸惑い、気付き、緊張が広がる。そして劇的な変化が起こる。


 バジリスクの胴から大量の血濡れのスワンプマンが生まれ出した。その量は口から吐き出していたのとは比べられない数。それは一心不乱にボク達目掛けて走ってくる。


「な、何だああ!?」「また出てきやがった!!」「武器出せ武器!!」


「あれは!? クソッ! あれの腹の中には何があるというのだ!!」


 おじさんは槍斧を構え加護を発動、白い光に身体が包まれる。ボクとスーちゃんは既に万全の体勢。


「最後の仕事」

「ええ。後はカイル殿を御待ちするだけですね」


 首の無いバジリスクの切断面から濁流のようにスワンプマンがやってくる。さあもう一踏ん張り。



 ◆◆◆



 夜に包まれた森の奥深く。そこには隠された洞窟がある。中の空間はかなり広く、村一つは丸ごと入る程の広さはある。そしてそこにそれはあった。


 それは惨たらしい儀式。血で描き、肉を塗りこみ臓腑を飾り立てる。骨で組まれた祭壇に心の臓を積み上げ、髑髏の燭台で照らし出す。それに祈りを捧げる異形の者達。

 幽鬼の一種、大量の『グール』達が狂気を伝染させる様な儀式を執り行っている。

 あいつらは祭壇に掲げられている人の頭程の大きさの赤く輝く謎の球体に祈りを捧げている。あの祭壇に使われている人だったもの、どれだけの人数が犠牲になったのか。おそらく周囲の村から集めたのだろう。洞窟の端の方には遺品が積まれて置かれている。そんな胸が悪くなる景色を俺は向こうが察知できない離れた場所から潜み監視している。


 かれこれ半日程こうしている。スタンピード討伐の為の集団が時間通りにバジリスク共と相対出来たなら戦い始めて1刻は経っているだろう。


 デミヒューマンのグール。大きさは人と同じ程、肌は黒くくすんだ青紫色で白い頭髪は膝近くまで伸びっ放しである。手足の指は異常に長く、その指先で細々と悍ましい細工を作っている。奴らは魔法に適性があるが、個人が使える訳ではない。触媒や祭壇を用意し儀式の形をとって多人数による『呪詛』として行使する。

 しかしそれは出来て小規模な呪詛。もし大規模な呪詛を行使するならそれを指示する『上位者』の存在が不可欠である。


 しかしいい加減ここにある何もかも破壊してしまいたくなる。しかしここで暴れたら情報を手に入れてくれたコーラルに申し訳が立たない。だからこそ俺は怒りを抑え衝動を押し殺しその時を待つ。その時はもうすぐ来る。


「・・・そろそろか」


 奴らは滅多にその姿を現さない、もし会いたいなら未踏破地帯まで行けば確実に出会える。俺も準備が出来れば一直線に向かうつもりであったが、コーラルからの情報により、ダークは各地に力を広め暗躍している事を聞いた。

 はっきり言って不快だ。そいつらの行いが巡ってクレアに不幸と苦痛をもたらす結果になると判断して、全て始末すると決めた。

 そして()()の1人がやってくる。祭壇近くの景色が歪むみ『扉』が現れる。グール達がそれに気づき膝を着き頭を深く下げる。


「来たな」


 ダークが扉を開き出てくる。醜悪な気配を振りまいている。赤いボサボサの髪に、黒い目に赤い瞳はドロドロと濁っている。青い肌の身体は骨が浮き出る程痩せているのにも係わらず腹は大きく出ている。脚は付いておらず、常人の3倍の長さがある腕が6本あり、蜘蛛の脚の様にして移動している。

 典型的な異形種である。そいつはここに着くなり1体のグールと会話を始める。声は聞き取れるが知らない言葉を使っているせいで何を喋っているかは分からない。


「まあ聞けた所でやる事は変わらない」


 俺はようやく来たその時に、あの腹立たしい光景が広がる場所に向かって勇んで駆け出す。俺のコーラルに頼まれた仕事はあの赤い球体とそれを回収しにくるダークの始末。しかし辛うじて死なない様にしなくてはいけない。わざと逃がすためだ。本当は殺したいが、仕方ない。


「―――せいぜい恐怖しろ」


 走るのに邪魔な岩や人工物を拳で薙ぎ払い足で踏み砕きながら祭壇まで一直線に駆け抜ける。激しい音を立てる俺に奴らは気付いた。多腕のダークの視線が俺を捉える。細く鋭い歯が並んだ口を開く。


「人間か!? 何故こんな所に!? どうやってこの場所を!?」


「お前らを殺すためだ」


 祭壇のある広場に到達、そして一番近くにいたグールが腕を振り上げ襲いかかって来る。そいつの頭を殴って砕く。倒れて行く頭の無い死体の足を掴み振り上げ、周りに目を向ける。待機中に数えた奴らの数は90体、今1体減りさらに。


「オラァッ!!」


 手に持ったグールの死体を他のグールに投げて叩き込む。激しい周りを巻き込んだ衝突で5体が弾け飛ぶ。背負った大剣を抜き、他の獲物に向かう。


「舐めおって! 我らの恐ろしさを知らんと見える! この場を知ったお前はここで死ぬがいい!」


 2本の腕で身体を支え、ダークは4本の腕の手の平を俺に向ける。そこには何か紋章の様なものが描かれている。情報通りである。それは既に知っている。


「死ねえええ!!」


 『呪炎のダルト』6本の腕には呪言(じゅごん)が描かれ、そこから他者に呪いを掛ける炎を放つ。とあるダークの部下でありこの国に災厄を齎す者の1人である。


 目の前を埋め尽くす様に炎が噴き出す。巻き込まれたグールが炎に焼かれる。直撃したモノは灰となり、掠ったモノもそこから呪いが掛かり全身に謎の紋様が広がり体が干からびる。骨と皮だけになったグールは乾いた音を立てて倒れる。命を吸い上げる呪い。その呪いが込められた炎が俺に迫る。


「無駄だ」


 大剣で迎え撃つ。奴の炎は容易く消し飛ぶ。


「何ィイイ!?」


 俺に対して群がってきたグール共を剣で斬り裂き、拳で砕き、蹴りで引き千切り、投げてブチ撒け、掴み握り潰して剣で貫き、手で叩き潰して地面の染みにし、さらに迫りくるモノの身体を様々な方法で破壊する。

 慈悲など在る筈もない。ここで死んでいけ。


「これでどうだ!!」


 ダルトが魔法を行使する。強大な魔力が込められた人の身程もある岩石の槍を空中に10本生成し俺に狙いを定め、再び炎と共に撃ち出してきた。今度は炎だけだと消されると思ったのか小手先に頼ってきた。


 俺はそれに対して剣を捨てて向き合う。


「馬鹿め!! 血迷ったか!!」


 俺の身体が炎に呑まれ、大量の岩石の槍が降り掛かった。奴の笑い声が洞窟に響く。


「フハハハハ!! 死におった、脆弱な人間め! 少し強いくらいで調子に乗りおって!!」


「ふっ!」


 炎が立ち昇ったまま受け止めた槍を全て地面に叩き付けて壊す。かなりの魔法だったのか洞窟の地面が俺を中心に激しく砕けてクレーターを刻む。轟音と衝撃と破片が爆散する。

 それが周囲のグールとダルトを襲う。破片が当たったグールはその個所を吹き飛ばされ息絶える。既にグールは20もいない。ダルトはといえば流石ダークといった所。自分に飛んでくる破片程度は全て叩き落としていた。


「しぶとい奴め! だが呪炎は直撃・・・何故燃え尽きん!?」


「ぬるいからだろ?」


「ふざけるな!! なら呪いで吸い殺してやる!!」


 俺の手に紋様が浮かぶのが見える。おそらく服で見えていない身体、全身に呪いの紋様が浮かんでいるのだろう。


「フハハハハ!! これでっ・・・何故吸えん!?」


 炎は消えた。残った呪いが不快感を伝えてくるが無視してダルトに歩み寄る。それに気付いたあいつは慌てた様に後ずさる。今逃がすつもりは無いがその怯えた態度が気に食わない。俺の癪に障る。


「な、何なのだお前は!? 何者なのだ!? まさか勇者っ・・・いや勇者は確か・・・」


「さっきから声がデカい」


 無駄に多い腕、とりあえず4本を蹴りで引き千切り飛ばす。立っていられなくなったダルトは地に伏せる。見上げる目には俺に対する明確な恐怖が宿っている。


「馬鹿な馬鹿な! 何故だ何故お前の様な人間が!?」


「・・・もう終わりか?」


 どちらにせよ瀕死にしなくてはいけない。あまり激しく抵抗されると手元が狂う。ダークがどれだけ壊せば死ぬのかまだ知らないからな。


「!? 人間ごときが・・・ふざけるなぁあああ!!」


 ダルトが空間に手を突き出すとその先に『穴』が出来ていた。それはおそらく『扉』と似た魔法なのだろう。現にこいつはそこに手を入れ何かを取り出す。

 その手に握られていたのは黒い宝珠だった。コーラルの情報にはなかった物だ。黒い宝珠から魔力と瘴気が噴き上がる。それは宝珠と同じ黒い色をした力。それがダルトに吸収されていく。


「うおおおおおおお!!」


 ダルトの様子が見る間に変化していく。失った腕はさらに数を増やし両方合わせて12本になり、肌が黒く変色、さらには背中からはいつか見たトロール程もある1本の腕が生える。ダルトの表情からは怯えが消え、殺気に満ちた表情を向けてくる。


「フハハハハ!! 最高の気分だ!! どうだ人間!! これで先程までの様にはいかんぞ!! さあ、まずはより強力になった呪いを味わうがいい!!」


 俺の身体に残っていた呪いの紋様が光を放つ。どうやら先程とは比べ物にならない力が込められている様だ。紋様はさらに面積を広げ複雑さを増していく。


「ただでは殺さんぞ!! この俺をコケにしたのだからな!! さあのた打ち回り無様に命乞いをするがいい!!」


「いい加減気持ち悪い」


 俺は拳を作り、自分の胸を叩く。力を込めた拳の一撃と俺の肉体が衝突。洞窟内に今日1番の轟音が鳴り響く。その衝撃は目の前にいたダルトを吹き飛ばし、さらに俺に掛かっていた呪いが叩いた胸を中心に砕け散る。

 吹き飛ばされたが多くなった腕でしっかり着地したダルトは在りえないモノを見る目で俺を見ていた。


「なっなっ何だ!? 何が起こった!? 何をしたお前は!? 何故我の呪いが破壊された!?」


 これ以上は時間の無駄だ、コーラルに持ち帰る情報も今までので充分だろう。それにヤナギやスターチスもどんな様子か気になる。そろそろ終わりにするのが良い。歩いて奴の所へ近づいていく。


 大きな拳が迫る。殴り返せば宙で潰れて吹き飛ぶ。

 腕を左右6本づつで束ね、光線の様な炎を2本撃ち出してくる。片手で払ってかき消す。

 何か喚きながら掴み掛かって来る。掴まれたがそのまま歩き続ける。

 命乞いの様なモノを始め出す。無視して歩いていると洞窟の壁に当たる。


「―――で、何の話しだった?」


「そ、そうだ貴様を我の主に紹介してやるという話だ! 貴様ほどの力があれば欲しい物は望むがままよ! どうだ悪い話しではあるまい!」


「そうだな・・・」


 俺は洞窟内を見る。グールは今までの戦いの余波で全て死んでいる。祭壇やその周囲にあった胸が悪くなる人工物も全て破壊されている。しかしそこには確かに犠牲になった者達の欠片が存在している。罪の無い人々の犠牲。見ているだけで嫌な気持ちになる。俺はダルトにも分かりやすい様に彼らのいる場所を指し示す。


「あの亡くなった人達を生き返らせるってどうだ?」


 顔が引きつり声が詰まった。・・・まあ時間の無駄だったな。


「無理そうだな。じゃあさよならだ」


「まっ待ってくっ ギィイアガァアアアア!!!」


 腕を全て叩いて潰して引き千切り、痩せた体も潰れない程度に殴り蹴る。悲鳴がなくなるまで続ける。

 さあ地獄を見るといい。お前らに襲われた人達の方がもっと悲惨だったぞ。



 ◆◆◆



 洞窟から外へと出る。綺麗な星空が広がり、地下にあった地獄が嘘の様だ。俺の手には『赤い球体』だった物がある。今は光が失われ黒ずんでいる。これが呪詛の核になっていた物である。コーラルの話しによればあの儀式により特定のモンスターやデミヒューマンに呪いを掛け異常な状態に出来るらしい。今回のスタンピードもそれが原因だという。それもグールや統率者を始末した事で効力を失った。

 そしてもう一つ、こちらは事前の情報には無かった『黒い宝珠』である。これに関しては持ち帰り、コーラルに調べてもらう必要がある。


「皆の所に行くか」


 飛び上がり、近くにある一番高い木の上に躍り出る。枝を掴み停止。見渡せばすぐに森の外円部のとある場所に魔法具の灯りが宙に浮いているのが見える。あそこに皆がいる。

 俺は飛び降りて皆と合流するために森の中を駆ける。


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