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10.好きな様に

 目を覚ます。

 窓から見える空はまだ陽も昇らない時間で、夜がまだまだ街を覆っている。平均2刻(約1時間)の睡眠が習慣になってしまっている俺は、もう眠る気は無くなり起き出す。夜明けまであと2(とき)(約4時間)程だろう。眠るのに借りていた居間を見渡す。照明は切られここも夜の闇に塗られていたが昨日よく見た居間だ。

 ここはコーラルの家である。

 昨晩、他で宿を探すと言った俺をヤナギとスターチスが体にしがみ付きながら拒否。放せ! 放さない! の言い合いの末、その2人とすっかり仲良くなっていたコーラルも加勢。3人に押し切られ俺もここで眠る事になった。

 頻りに同室を勧めてきたが流石に同じ部屋は拒否し、3人を部屋に押し込んで俺は居間で眠った。お風呂に入るのにも一悶着あったが何とか1人で入る事が出来た。気持ちは良かったが変な疲れが残った。

 皆が目を覚ますまでどう時間を潰そうかと考える。1人の時は睡眠・休息・食事以外はすべて鍛錬に充てていた。こういう時はどうすればいいか分からない、忘れてしまった。・・・外に出て走るか?

 3人の眠る部屋の扉が開き、誰かが出てくる。


「眠れませんか? カイル様」


「コーラルか。2人は?」


「ヤナギ様とスターチス様はよく御眠りになっています。御2人とも可愛らしい寝顔でしたよ」


 部屋から出てきたのは自分にヒューマンに見える偽装を掛け直したコーラルであった。

 スターチスよりも起伏のある身体を柔らかい生地を使った寝間着とその上から丈の長い羽織り物で覆っている。ダークエルフである事を隠して顔さえも少し変化させているが十分以上に綺麗な容姿をしている。

 窓から差し込んだ月明かりに白く照らされた彼女には妖しい魅力がある。

 彼女は扉を静かに閉め、微笑みを浮かべ居間に入ってくる。


「眠れないのでしたら少し私とお話でも」


 特に断る理由はない。彼女となら話題も尽きる事は無いだろう。話せれば、になるが。

 彼女と共にテーブルに着く。全員で座った時に並んだのとは違い、今度は向かい合わせで座る。


「最初に言っておくけど俺はもう十分に寝た」


「ふふ、冗談ですか? まだあれから2時間も経っていませんよ?」


「いや俺はいつも2刻しか寝てないが?」


「・・・本当ですか? お体に悪いですよ」


 笑みが無くなり(いぶか)しむ様な表情にコーラルはなった。言われた時間が信じられない様だが、俺の身を彼女は本気で心配している。そのまま心配させておく訳にはいかないな。問題ない事を説明しなければ。


「5・6年はこの睡眠時間だから心配しなくても大丈夫だぞ」


「・・・・・・」


 一瞬、信じられないモノを見る目で見られた。まあ確かに異常だ。だが俺の体調に問題は無い。

 少し考え込んでいた彼女は直ぐに納得した様にいつもの微笑みを浮かべた。今は黒色になっている瞳、その奥にある本当の彼女の目が俺の何かを見透かしているように見える。


「御自身で壊したのでしょうか? そうやって色々な物を。その御身体を、常識を、そして『加護』さえも。・・・己が強くなる為に」


 ―――壊した、か。・・・彼女は俺の中身が見えている。


「・・・それがあんたの加護の一つか?」


「はい。『知恵の精霊の瞳』という加護を持っています。それで物品や生物、他者の情報、そして魔法具による検査か己自身でしか把握できない加護さえも見通す事が出来ます。・・・そして自身が気付いていない、見つけられない加護さえも」


「それでクレアの事も見つけた訳だ」


「・・・・・・」


 沈黙が流れる。彼女は否定しない。コーラルは俺に恨まれる事をしたと言っていた、ならそういう事なのだろう。彼女の加護の力でクレアの、自身でも他の方法でも発見される事がなかった隠された『魔王の加護』を見抜いたのだろう。

 沈黙を破ったのはコーラルだった。その目はこちらを見透かすのと同じ様に透き通って見える。何を考えているのか読み取れないが、何故か彼女の心の深い場所を覗いた気になる。


「・・・カイル様は私に復讐をしようとは思わないのですか?。目の前に貴方の大事な人連れて行かれる切っ掛けになった人がいますよ?」


 口を開いたと思ったら詰まらない質問をされた。思わず鼻で笑ってしまった。


「知らないな。そんな事に興味ない」


 透き通った瞳に濁りが出来る。


「・・・それで良いのですか? 私達が、私がクレア様を見つけたから御2人は辛い目に―――」


「俺に苦しんでる奴をさらに苦しめる趣味は無い」


「 ! 」


 俺に正体を隠さない様にしてから彼女は意識してなのかしていないのか、俺に対して『無防備』でいようとしている。それはまるで突き付けられた刃に無抵抗で身を晒すのに似ている。望んで傷付こうとしている様に俺には見えた。危害を加えようと思えばいくらでもその機会があった。

 それは俺にとってよく知った状態だ、とても馴染み深い。自分が傷つく事で大事な物を守りたいと考えて、考え抜いて。上手く出来ず、そんな鬱屈した状態が続いた果ての自傷じみた行動。俺自身もそうだった。

 コーラルの俺に対しての偽悪的な言動はその振る舞いの一つだろう。俺と2人きりでその行動はまるで、悪い事をした自分を罰して欲しいと言わんばかりだ。

 絶対にそんな気分が悪くなる事なんてしてやらんが。

 そしてそれとは別にコーラルが隠しているのか、あえて言っていない事もある。彼女自身が言っていた。

 ダークエルフは呪われた種族。つまり彼女の仲間は現状、苦しんでいる事になる。今に満足しているならそんな暗い言葉は使わない。


「コーラル、今の自分の境遇が辛くて辛くてどうしようもないのか」


「何を?」


 彼女の表情に変化はない。しかし席に着いてから俺だけを見ていた視線を一瞬外した。透き通っていた瞳は完全に揺れて、感情を隠せていない。


「それに本当の願いを隠している。いや違うな、言わなかっただけだな」


「それは・・・」


「救ってほしいのはダークエルフ達か?」


「・・・・・・」


 また沈黙。どうやら彼女も嘘が嫌いな性質(たち)のようだ。俺と同じ。だからこそ心のままに振る舞うヤナギやスターチスに優しい。自分がそれを、出来ないから。

 しかしそうか、ダークエルフか。呪われ、契約に縛られた種族。

 自身は縛られていないと言った自由のあった少女は、自由の無い自分の仲間達をどんな心情で見ていたのか。


「クレアが世話になっているみたいだな」


 話しを少し変える。確認の為に。


「・・・はい。身の回りのお世話は同性のダークエルフが担当する事になっています」


「病気なんてしてないか? 1人で泣いていないか? 無理を、していないか?」


「今の所はそのような様子は見せていないようです。そういえば1人の時は私物の装身具、ネックレスを見ている事が多い様ですね」


「・・・そうか」


 少しだけ安心する。それは側に付いた者が見ていないだけかもしれないが、逆に考えれば他者に見せない様にする強がりは出来ている事になる。それに首飾りを持っていると聞いて嬉しくなった。

 なら俺がする事はそんな彼女を迎えに行く事だ。故郷の墓前にも誓った事だ。


「助ける。絶対だ」


「それは私もです。力になりましょう」


「助けるのはダークエルフもだ」


「 ! っそ、それは」


「というわけでコーラルはそれも織り込んでこれからの行動を考えてくれ」


 唖然としている彼女をテーブルに残して俺は席を立つ。そして壁際に置いていた背負い袋と武器を背負い玄関に向かう。彼女はこの話し合いの席に何を求めに来たのかは知らないが、本当に伝えたい事ならまた話に来るだろう。


「もう寝るといい、陽が昇るにはまだ余裕がある。きっと今日は昨日よりも良い日になる」


「・・・カイル様は何故私の様な者にも優しくするのですか?」


 コーラルの絞り出したような言葉を背中に受ける。


あんたの御祖父さん(タイファン)には昔世話になった。それに今はクレアも他のダークエルフの世話になっているみたいだ。それに昨日も色々世話になったし楽しかった、・・・大変な事もあったが」


 助けたい理由なんてこれで十分だ。俺はそれでいい。


「だからクレアの事も、ダークエルフの事も、そしてコーラルの事も。縛り苦しめるモノは俺が全部壊す」


 大好きなクレアも。助けたいのに助けられない、傷付けたくないのに傷付けなければいけない。そんな心優しいダークエルフ達も。そんな仲間を見て苦しんでいるコーラルも救う。

 それが俺が決めた事。

 ドアを開け、夜の街に踏み出す。冷たい風が吹く。まだ冬の名残を感じる。だけど陽が昇れば温かくなる。春はもう来ているから。


「夜明けには戻る。おやすみコーラル」


 そうしてコーラルを部屋に残してドアを閉めた。



 ◆◆◆



 嘘は苦手です。それは相手のみではなく自身ですら騙してしまう。同胞はそれで苦しんでいる、自分達の心に嘘を付き続けている。

 物心が付いた時に私は不憫だと、可哀想だと思った。そして呪いの契約に縛られず、瞳の加護を持っていた私はそれで苦しんだが喜びもした。「皆を助けてくれる力を持った人を探せる」と。奇跡を信じてやまなかったあの頃。

 そんな都合の良い奇跡をなんて、20年以上の時の中で、皆の仕事を手助けしながら探し、そして存在しないと理解するにはそれは十分過ぎる時間。


 それでもいつか、いつの日か、と先の見えない慰めの様な嘘で、私は在りもしない希望に縋る日々を過ごした。使えるかもわからない、私達を苦しめる全てを壊すための情報を集めながら1年、また1年と。

 例え確定していないとはいえ、ほぼ全て人の未来が『地獄へと至る世界』になっている『未来視』の幻視によって私は未来を諦め始め、惰性のような日々を送っていた。


 そんな地獄が全て壊れ、消え去っていく光景。カイル様が見せてくれた光。


 きっとあの正体の見えない怪物こそが私の待ち望んだ存在。

 窓に近付き彼が夜の闇に消えていくのを見送る。弱く小さく何もない子ども、それがあの日の彼の全てだった。何も成す事など出来ない、運命に翻弄されるだけの小さな存在。

 その全てを彼は壊した。

 どうやったのか、何故そうなったのか、何もわからない。この瞳で全て理解させられてしまう私が希望を見出したモノ。そんな何もワカラナイ怪物。

 底の知れない、先の見えない、絶望しかない地獄も心慰めるだけの嘘も全部全部全部その全てを。きっと壊してくれる。優しい優しい怪物。

 ああ、あああ、ああああ違う、もう壊れている壊されているあの世界が崩れる美しい光景と共に()()()()()()()()()()


「ああ、御主人様・・・」


 私の全てを捧げましょう御主人(カイル)様。貴方様が全てを壊す時、私も私の全身全霊で尽くしましょう。嘘を付かなくてもいい、我等の、いえ私の真の主の為に。



 ◆◆◆



「・・・本当に大丈夫だったな」


「思った通り」

「やはり・・・ですね」


 朝、コーラルの家の居間に再び集まり朝食を済ませ、その後チームとして行う事をある程度決めてから、コーラルだけ別行動で俺とヤナギとスターチスの3人で行動している。

 コーラルはギルド職員の仕事がある。彼女は裏方としてこれからの事で色々と進めていくようだ。


 そうして装備を着込んだ3人で街を歩きギルドに向かう際、ヤナギとスターチスにある実験を提案され決行する事になった。その実験とは。


「次はあちらにいる人達も試してみましょう。それで確定して大丈夫でしょう」


 スターチスが5人ほどのワービーストの女性達、服装を見るに彼女達も冒険者だろう。その人達がいる場所を指し示す。それを聞き俺達はわざと彼女達の近くを通る。

 今しているこの実験は先の事件において俺がヤナギとスターチスを恐怖させた異質な気配が他のワービーストにどれだけ影響を及ぼすか確かめる為の実験である。


 俺はそれに対して「周りに迷惑を掛けるの気が進まない」と言ったが2人の結果の想像は違っていた様で口を揃えて「「絶対大丈夫」」と言っていたのでする事になったのだ。

 そして獣人の女性の集団の隣を問題なく通過する。その様子になんの変化もない。


「どうしてこんな結果に?」


 昨日はヤナギとスターチスの2人以外でワービーストが近くを通る事がなかったので今日は実験をしたが。2人の時とは違い。全く反応しない彼女達に不思議なもの感じながら離れていく。


「簡単」

「自分とヤナギが特別なのです」


「特別?」


 ヤナギが得意顔になり、スターチスもその特別という言葉に対して肯定の意を示している。


「そう。ボク達は里や国で見てもけっこうスゴイ部類」

「それは感覚と気配です。自分達のソレは『王』さえ手玉にとれる程です」

「それで逃げ切った」

「気配は2人で完全に絶ち、臭い等はヤナギの加護でどうとでも出来ます」

「何処にいようとボク達にはわかる」

「逆に相手は自分達を追えない」


 それは、かなりの物である。部族最強と言っていい『王』からも逃げ切れるなど技術だけでは説明できない、そして才能だけで片付けれる物でもない能力である。確かにそれだけ感覚が他者を超越しているなら、ほんの少しの違いでも彼女達にとっては大きく感じるのかもしれない。


「つまりそれだけの感覚を持っていないと俺の気配を捉えきれないと?」


「カー君の場合はちょっと違う。・・・んにゃ、けっこう違う」

「大きいのですよね」


「 ? どうして大きいと分からないんだ?」


 むしろ気配から何から、大きい方が捕らえやすく分かりやすいと思うが。


「む~~・・・。スーちゃん」

「わかった。・・・そうですね。カイル殿。例えば地面に手を付いたとして、今自分が触れている地面がどれだけの広さがあるかわかりますか?」


「ん? ・・・無理だな、わからん。それはつまり大陸が何処まで続いているか把握するのに等しいだろ。そんなの例え建築系や土地の測量系の加護持ちでも不可能だろ」


 俺の返答にスターチスは満足したように頷く。


「自分とヤナギを除いた皆は『地面がある』どまり。しかし自分達の感覚はその『広ささえ理解出来る』ぐらいに違いがあるようです。ですので他の者にはカイル殿は普通の者と同じ気配でしか捉えられないと思います」

「そういう事」 


 それはつまり俺の事を『正確』に捉えるには2人の異能じみた感覚が必要という事だ。なら2人が言うようにそこまで気にする必要も無いのか?


「・・・2人以外ではどうなんだ。他に分かる事が出来そうな人はいないのか?」


「いても多分『王』ぐらい。心配なし」

「彼らは基本的に平原から出ません。ちやほやしてくれる者には事欠きませんから」

「せいぜい引き籠ってるといい」

「公的にや戦う時に会うのは良いですが私的には絶対嫌ですね」


「・・・そうか。じゃあ心配しなくていいな。ギルドに行こう」


 2人は本当に『王』が嫌いらしい。故郷から出てくる切っ掛けにもなっているようだし色々あったのだろう。強くなったら全員倒すとも言っていたな。とりあえず愚痴じみてきたそれを流してギルドに真っ直ぐ向かう事にした。

 まずは依頼を貰わなければ俺達の碧鋼級(アダマンタイトクラス)に成るという目的には近づけないからな。



 ◆◆◆



 トロールという大型の怪人種(デミヒューマン)がいる。平均5mはある高い身長とそれに比例する様に持つ肉体重量、オーガより柔らかいがそれとは別に強い弾力を備えた灰色の皮膚は打撃に対して高い耐性を持つ。体毛は無く、目は白く濁っており、口は耳まで裂けた様な大きさで、その口腔は乱杭歯になっている。

 その巨体以上に大きな特徴は不自然に発達した太く長い腕と大きな手。それを地面に着きながら移動し、広げれば人の体を覆えそうな大きな手で握り潰し、叩き、殴り、時には近くにある岩や倒木さえも投擲してくる危険生物である。

 推定危険度は単体ではオーガと同等の(ゴールド)級であり、これもやはり数によって危険度は変動する。



 ◆◆◆



 目の前に大きな拳が迫る。

 トロールの殴打、一般人なら潰されて終わり。でも当たらない。振り切る前にスーは既に背後に回っている。そのまま腰に挿している大太刀『水無月』で目の前の鈍間なデミヒューマンの両膝を抜き打つ。


「ギャオォオオッ!!」


 断ち切られた膝から上の体が仰向けになる様にスーの上に落ちてくる。それを横に避けながら近づいた首を叩き斬る。上と下から大量の血を噴き出し怪人は絶命する。

 そしてその場で跳躍、殺戮範囲内の3体のトロールがスーに掴みかからんと来ている。なんの問題も無し。

 正面の1体は目と鼻の先、その大きな両手で空中にいるスーを叩いて挟み潰しにくる。その手が届く前にトロールの両腕を切断、相手の腕を斬り落とした事で攻撃を強制的に空振りにさせる。両腕の半分近くを失い、自重の均衡を崩したトロールは前のめりに倒れてくる。その灰色の頭の頭頂部を踏み台に、首を斬り裂き落としつつ真後ろに飛び掛かる。

 そこには2体目のトロール。スーの下から太い腕が拳を作り、振り上がってくる。


「喝っ!」


 『切断』

 トロールの拳から肩まで一直線に斬り裂く。腕が縦に半分に裂けるが『切断』の発動による切れ味と破壊力の上昇により切断面から出血がない。スーの両側を血生臭い腕の断面が通過していく。そしてスーは跳躍した勢いのままトロールとと擦れ違う。それと同時に首を胴体から斬り落として地に足を着ける。

 着地と同時に2体分の巨体が倒れ重い音を響かせる。殺戮圏内にあるトロールはすでにいない。

 スーは最後の1体を倒したヤナギに歩み寄る。


「こちらは終わりましたね」


「うん」


 ヤナギの足元には全身を積み木を崩したかのようにバラバラにされたトロールの死体がある。

 ヤナギの加護は強力。その小柄で愛らしい肢体に『風ニ成ル者』による風の鎧を纏い、風による高速機動、恩恵の『風刃』『鎌鼬』による手数増加と殺傷範囲拡大に切断力強化とその隙の無い能力によって数多の敵を葬ってきた。

 ヤナギは本当に凄い。可愛くて強い、最強です。

 今まで命を預けて戦ってきた大切な友人と共に、ある場所へ歩き出す。


「新手。その群れが来てる」


「ええ。しかし問題はないですね」


「カー君がいる」


 ここ、首都ケリーから遠く離れた平野には20はいたトロールが、今は全て死体となり転がっている。半分はスーとヤナギとで仕留めたが残りはカイル殿が倒した物だ。

 あの戦いぶりはまさに故郷で語り継がれる鬼神の如き。怪力のトロール相手に正面から力で捻じ伏せる姿は見惚れるほど雄々しく、そしてスー達の戦いを意識しつつも手は出さないでいてくれる。信頼を築こうとしてくれているカイル殿の思い。

 カイル殿は凄い。格好良く、強い、無敵です。


「では駆け付けましょうか」


「ん、もっと戦ってるとこ見たい」


 スーも見たいです。やはりスーとヤナギは一緒です。嬉しいです。

 そしてヤナギの加護の力をスーにも一時的に纏わせてもらい高速でその場から移動、カイル殿がいる場所まで時間を掛けずに到着する。

 そこで繰り広げられる戦い、いやカイル殿の蹂躙はやはり素晴らしい。


 血に誘われたのか、集まって来ていたのは魔獣種(モンスター)の群れ。巨大な人ほどの大きさがある蟷螂(カマキリ)型のモンスター『ブレードマンティス』がカイル殿に惹かれる様に襲いかかっている。感覚で把握した数はおよそ30体、それが火に()べられた枯葉の様に消えていく。カイル殿という太陽さえ霞む劫火によって。

 彼が振るう身の程もある大剣によりまとめて刃で斬り伏せられ、剣の腹で叩き潰し、再び立ち上がらない様に命を絶たれる。虫系のモンスターは頭さえ失っても動き続ける生命力が戦う上で問題になる。だからこその絶殺。

 また迫る別のカマキリを蹴り飛ばす。まるで大筒を放ったかのような爆裂音。衝撃に耐え切れなかった身体がバラバラに吹き飛び、その破片が衝突したカマキリ共を怯ませる。そしてその怯んだ集団の中心には既にカイル殿が神速と呼んでもいい速さで辿り着き、黒の外套を翻して立っている。そして爆発したようにカマキリ共の身体が原形なく、どれだけの数がいたのか分からなくなる程に砕けてバラ撒かれる。その光景を作ったカイル殿はまた次の獲物へと駆け出す。残りはもう10体もいない。


「にゃ・・・、ほんとにスゴイ」


「全くです」


 カマキリは弱くない。確かギルドでは5体以上なら聖銀級(ミスリルクラス)の案件。しかもそれは別に個人のみの力や正面きっての戦闘での決められ方ではなく。十分な連携や対策をとれる者、そういう考えを基にしたクラス分け。そんな危険なモンスターがまるで紙細工の如く狩られていく。

 ごく僅かな時間で生きたカマキリは存在しなくなった。

 カイル殿が全身のいたる場所に付着した体液を煩わしそうにしながら、スーとヤナギのいる場所まで来てくれる。自分達2人を見る目はどこまでも優しい。

 もっともっとスーとヤナギを見て欲しいです。


「そっちも終わったみたいだな」


「ん、あれぐらいなら余裕」

「勿論自分もです」


「流石だな。頼りにするぞ」


「うん、まかせて」

「はい、任せてください!」


 褒めてもらえた! 嬉しい! ヤナギもとても嬉しそうでスーも凄く嬉しい! 自分達はカイル殿に見守って貰えるならどんなに強大で悪逆非道な敵が相手でも戦えます!

 ああいつか。いつか、いつかいつかいつの日か、スーとヤナギのこの熱く燃える気持ちを受け取ってほしいです。


「じゃあ使える素材と魔石を回収してケリーに帰るか」


「回収はまかせて」

「自分とヤナギの能力なら楽にいけます」


 そうしてスーとヤナギとでそれらを回収し終え、全員で帰還の途に付く。

 チーム『お昼寝(シエスタ)』は今日も絶好調です。


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