第7話 冒険者ギルド
「召喚魔法だと……しかも魔物の召喚魔法とは」
少し前まで優勢だったガルシア。
立場が逆転したガルシアの顔は悔しそうだ。
「全員武器を捨てろ!」
クリスは兵士達に勧告する。
武装したリザードマンに囲まれている兵士達。
数も三倍いて、勝ち目は無い。兵士達は、剣を捨て始めた。
兵士と言っても、ここにいる兵士達は下級兵士だろう。強さが全然感じられない。
一人だけ武器を捨てていない奴がいる。
ガルシアだ。
「俺は獣心流の中級だ。リザードマンなんかに負けるかよ」
剣を構えたガルシア。
確かに獣心流中級だと、リザードマンに勝てる強さはあるだろう。
だが、三十体を同時に相手にするには、中級だと難しいはず。
スッと前に出たのはシャノン。
「何だよ。俺と勝負しようってのか?」
無言でシャノンは、剣を構えた。
「面白い。小娘なんかに負けるかよ!」
中段の構えから、斬りかかるガルシア。
と、その瞬間ガルシアの剣を流し受けして、攻撃を当てる。
「ぐっっ!」
膝をつくと、そのまま床に倒れこむ。
みね打ちのようだ。
「誘拐の事など、後で喋ってもらうからね」
倒れたガルシアにシャノンが言い放つ。
まさか獣心流中級のガルシアが、獣心流最上級のシャノンに挑むとは。シャノンが獣心流最上級だと知っていたら、降参していただろうに。
ガルシア達を縄で縛ると、騒ぎを聞いて駆け付けた兵士に、後処理を頼んだ。
ゴードン大臣の命令で、ガルシア達は直ちに牢屋送りとなった。
「ガルシアが黒幕だったとは。よくぞ見破ってくれた、クリスさん。礼を言うよ」
「いえ。それよりも最初は疑って、すいませんでした」
「ハッハッハッ、構わんよ。儂のサインと印章があったんだ、誰だって疑うさ」
明るい大臣で助かった。
「ゴードン大臣、ガルシアはどうなるの?」
聞いたのはシャノンだ。
「誘拐を手引きしたとなれば重罪だろう。君はミリル村の獣族だったね。約束しよう、二度と誘拐が起こらないよう、対策を練り直す」
「二度と起こらないように、お願いします」
「任せておきなさい。美女の頼みだからね。ハッハッハッ」
この大臣で大丈夫なのか? 不安になるぞ。
何はともあれ、一件落着だな。
夜が明けると、再びアルバート国王と謁見した。
ガルシアの件で、お礼を伝えたかったらしい。国王自らお礼を伝えるとは、律儀だな。
「クリス、また世話になったようだな」
「いえ、誘拐に協力していた連中が捕まり何よりです」
「我が国の兵士が犯罪者とはな……クリス、貸しができたな。困った事があった時は、余を頼るがよい」
「はい。困った時はよろしくお願いします」
国王のお礼も終わり謁見の間を出ると、広間に案内された。
此度のお礼を渡す為だ。
お礼は、白金貨二十枚と金貨五十枚。
この世界のお金は、銅貨、銀貨、金貨、白金貨の四種類がある。
銅貨十枚で銀貨一枚。
銀貨十枚で金貨一枚。
金貨十枚で白金貨一枚
国にもよるが、平民の月収は金貨十二枚ほど。
これを考えると、此度のお礼は結構な額である。
ギリアム王国には、ゴードン大臣に会う目的以外に、もう一つ目的がある。冒険者ギルドだ。
城を出ると、王都にある冒険者ギルドに直行した。
目的は冒険者ギルドに登録と、素材の換金。
大通に面した場所に建っている、冒険者ギルド。
ギリアム王国の家と同様、煉瓦で造られた建物は、二階建てになっている。
冒険者ギルドのドアは、西部劇の酒場でお馴染みの、ウエスタンドア。前にも後ろにも開くドアだ。
「見てよシャノン。ここが憧れの冒険者ギルドだよ。どうしょう、何か緊張する」
「クリスの気持ち、ボクにも分かるよ。ボクも冒険者に憧れてて、ドキドキが止まらないから」
憧れの冒険者ギルドを前にして、目を輝かせる二人。
「では、シャノンさん。行きますか」
「そうですねクリスさん。行きましょう」
緊張した二人は、ウエスタンドアを開く。
ガヤガヤと人の声がするギルドの中は、冒険者達で賑わっていた。
大剣を背負った剣士や、杖を持った魔術師、槍を持っている戦士もいる。
「強そうな人がいっぱいだよ」
「そうだね。流石は冒険者だ、雰囲気が違うよな」
「ボクも冒険者になるんだから、頑張らないと」
「シャノンなら大丈夫だよ。強いし、可愛いし」
「か、か、可愛いだなんて、そんな……」
顔が真っ赤になるシャノン。
一日一褒めも悪くないかもな。
照れると、より可愛くなるシャノンは、何回見ても飽きない。
目的は冒険者登録なので、受付の人に冒険者登録をお願いした。
登録に必要な書類を渡され、シャノンと一緒に記入する。
登録料として一人金貨一枚を支払うと、冒険者カードを渡される。冒険者カードは、運転免許証ぐらいの大きさだ。
冒険者カードにはEランクと書いてある。
冒険者のランクは六種類。
Eランク、Dランク、Cランク、Bランク.Aランク.Sランク。
依頼を達成していけば、上のランクに上がれる。当然上のランクほど報酬は高い。
依頼は魔物討伐依頼や素材集めの依頼、盗賊団退治等、いろいろある。
「これが冒険者カードか。これで俺も冒険者の仲間入りだな」
「あっ、ボクも仲間入りだからね」
二人は顔を見合わせると、笑顔で笑う。
冒険者カードを貰った後で、魔物の素材の換金をお願いした。
素材は魔法鞄に入れてある。
魔法鞄は魔導具の一つだ。大きさはショルダーバッグ程度だが、容量は元の大きさの数十倍は入ってしまう。
魔法鞄はミリル村の村長から貰ったのだが、結構高価な魔導具らしい。
換金してもらった金額は、金貨三枚。
素材の数が多くても、ランクの低い魔物の素材なので、この位の金額になるのだ。
受付の近くに、大きな掲示板が置いてあるのだか、この掲示板に多彩な依頼の紙が貼ってある。
依頼の中から、積み荷護衛の仕事が目に留まる。
Dランクの仕事だが、Eランクでも仕事を受けれるようだ。
報酬が安い為、依頼を受ける人がいないので、依頼主がEランクの冒険者からも募集したようだ。
因みに報酬は銀貨五枚。確かに安い!
目的地は北の方にある、ノートスの町まで。
ギリアム王国の北にある国へ行きたかったので、この依頼は丁度いい。
「シャノン、初めての依頼は積み荷の護衛でもいいかな?」
「ボクは、どんな依頼でも大丈夫だよ。やる気十分だからね」
「張り切ってるね。シャノンと一緒なら、どんな依頼でも達成出来るかもね」
「えへへっ。任せてよ」
シャノンが了承してくれたので、受付に積み荷護衛の依頼を受ける事を告げた。
ターバンみたいな帽子を被っている、三十代の男性。彼が今回の依頼主。
依頼主の商人は、クリスとシャノンを観察した。
「君達が依頼を受けてくれた冒険者だな」
「はい。俺がクリスで、こちらがシャノンです」
「金髪美女と銀髪美女。美女二人に守られるのも、悪くないな。俺はターナーだ、ノートスの町までよろしくな」
「よろしくです……」
(俺って言葉で自己紹介したのだが、美女の部類に入れられたか。髪短くしたのにな……)
運ぶ荷物は、馬車に山盛り積まれた小麦。
この荷物を護衛しながら、ノートスの町まで目指す。
街道をゆっくりと馬車が移動する。小麦が重いから、馬の動きは鈍い。魔物や盗賊に襲われたら、逃げきるのは不可能だな。
ゆらゆらと、揺れる馬車の荷台。
このまま平和なら楽な仕事なんだが。
そう思っていたら、ターナーの叫び声が。護衛の仕事のようだ。
「グリフォンが出たぞー!」
シャノンと荷台から降りると空を見た。
顔と翼は鷲で、体はライオン。
鋭い嘴と爪、それと炎の息が武器の空飛ぶ魔物だ。魔物のランクはDクラスの上位。
「グリフォン三体か。空を飛べるのは厄介だな」
「ボクの剣術も空高くまでは届かないし、地上に近寄るまで受け身になるね」
空を見上げていたら、グリフォンが急降下して来た。
「ピィィー!」
馬車目掛けて、グリフォンの口から炎が出る。
その炎が馬車の荷台に燃え移った。
「火だー。冒険者の二人、何とかしてくれ」
燃えている馬車を見て慌てるターナー。
クリスは、急いで初級水魔法を使う。
『水弾』
燃え移った炎は、水の塊が当たり鎮火した。
「助かった……感謝するぜクリス」
「感謝するのはまだ早いですよ、ターナーさん」
「そうだよな。それで、空を飛ぶ魔物を倒す方法はあるのか?」
「そうですね……魔法を一つ、試してみます」
空高く旋回している魔物。
高みの見物か。それなら……
魔力を手に込めた。
『烈風竜巻』
巨大な竜巻が空高く伸びる。ゴオォーと大きな音と、吸い込まれそうな強力な風。
突然現れた竜巻に、グリフォンは避けることが出来ず、巻き込まれた。
渦を巻く竜巻に、グリフォン三体は引き裂かれてしまう。
竜巻が消えると、引き裂かれたグリフォンが、空から落ちてきた。
「凄い魔法だったな。今のは風魔法なのか?」
「はい、上級風魔法です」
「上級魔法か。しかも無詠唱。こりゃあ、とんでもない冒険者に依頼したもんだぜ」
ターナーは、驚きと感心を交互に繰り返す。
「やっぱり、クリスの魔法は凄いよ。ボクの出番なんて全然ないんだもん」
少しがっくりして、シャノンが言った。
「今回は空飛ぶ魔物だから仕方ないよ。次はシャノンの剣術を期待してるからね」
「よし。次は頑張っちゃうからね、クリス」
シャノンは強い。もっと頼ってもいいだろう。
いつものように、倒したグリフォンの魔石を回収。集めた三つの魔石に魔力を込めると、碎けちった。
『グリフォン召喚』
魔方陣からグリフォン三体が現れると、ターナーが驚く。
「グリフォンが地面から現れた!」
「落ち着いて下さい、ターナーさん。あれは召喚魔法なんで大丈夫ですよ」
「へっ? 召喚魔法なの?」
クリスの説明で、落ち着いたターナー。
グリフォンを触っても襲って来ないのを確認すると、クリスの言っている事を信じたようだ。
「魔物召喚か。無詠唱魔法にも驚いたが、魔物召喚も使えるなんて、驚きで俺の心臓も止まりそうだ」
「大袈裟ですよ」
「そんな事はない。しかしこの力、四大国が取り込もうとするんじゃないか?」
「四大国ですか……」
人から聞く限りでは、四大国に良い印象をもってない。むしろ、物申したいくらいだ。
だが、実際に自分の目で確認した訳ではない。
物申すのは世界を巡って、確認してからだな。
グリフォンに燃やされた馬車の被害は軽微。馬も小麦も無事のようで、予定通りノートスの町に向う事にする。
馬車が燃えた時は焦ったが、これなら初依頼も達成出来そうだ。
ゆっくりと進む馬車は、ノートスを目指す。
二時間ほど進んだ時、ターナーの怯えた声が。
「クリス、シャノン、あれを見てくれ!」
二人は馬車から降りた。
夕方の空には、黒い大きな煙が出ている。
あの方向は荷物の目的地、ノートスの町だ。