表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/63

第6話 黒幕

 リザードマン退治を終えた夜、リッセル町の町長マルビットによる、宴会が行われた。

 主役はクリスとシャノン。


 今まで家に閉じ籠っていた住人達は、全員広場に集合して、飲んで食べてを楽しんだ。

 主役のクリスとシャノンは、住人から接待攻撃の嵐を受けてしまう。

 酒を飲んで酔っぱらう者がいたり、食べ過ぎでお腹を壊す者がいたりと、騒がしい宴会は夜遅くまで続いた。

 

 そして、出発の朝が来る。

 今日の天気は快晴。青々とした空を見上げると、気分も良くなるものだ。

 町の入口には、住人達が集まっていた。


「クリスさん、シャノンさん、御恩は忘れません。この地に来た時は、リッセルの町に寄って下さい」

「お世話になりました、マルビットさん。住人の皆さんも、お元気で」 


 見送りに来てくれたリッセルの町の住人に別れを告げ、ギリアム王国の王都目指して出発する。


 王都まで馬で二日かかる距離。

 クリスとシャノンは馬車に乗って、救援に来た兵士50人と一緒に王都へ向かう。

 

「昨日は楽しかったね。美味しいお肉に、こんがり焼いたお肉、燻製(くんせい)のお肉も美味しいかったよ」

「肉ばっかりだよ、シャノン」 


 クリスは思わず笑ってしまう。


「本当だ! えへへっ。だって、美味しかったから仕方ないよ」


 シャノンは狼人族だけあって肉食系だね。

 料理は確かに美味しかった。味付けも悪くない。

 海外へ行ったら、食事が合わないなんて話も聞くけど。

 おっと、ここは海外じゃなく異世界だったか。

 シャノンの村での食事も美味しかったし、今のところ食事に関しては言う事なしだな。


 馬車の中では、その後も食べ物の話で盛り上がり、ギリアム王国へと向かって行く。






 ギリアム王国。四大国から離れた位置にあり、戦火に巻き込まれていない国の一つだ。

 小国で国力は弱いが、農業と酪農が盛んな国で、食糧自給率は高い。他国に食糧を輸出が出来るのは、ギリアム王国の強みだろう。


 王都と言っても小国の王都なので、大都市と比べれば規模は小さい。

 城壁が王都全体を囲んでいて、ここが戦時中の世界だと改めて思わせる。


 城門を通り抜けると、煉瓦(れんが)造りの建物がズラリと並ぶ。


「見てよクリス! 素敵な家が沢山あるよ」


 王都だけあって、リッセルの町より目立つ建物が多い。

 シャノンは尻尾をフリフリさせている。

 憧れの外の世界だし、興奮しているようだ。


「確かに素敵な家が多いね。あの建物は教会かな?」

「どの建物?」

 

 クリスが見つけた他の家より大きく、屋根の上に旗が掲げていた。青い旗に白の翼が描いてある。


「あれは、アテナ教の教会ですよ」


 答えたのは、同行していた兵士長ガルシアだ。


「あれがアテナ教ですか」


 この異世界で最も信徒が多い宗教だ。

 四大国の一つ、アテナ聖国の国教でもある。


「ガルシアさん、ギリアム王国はアテナ教なのですか?」

「違いますよ。ギリアム王国はアテナ教を国教とはしていません。だが、貧者を助ける教えに共感し、我が国では布教を認めています」

「そうでしたか……」


 馬車が城に到着すると、城内に案内された。

 どうやらギリアム王国の王様に謁見出来るらしい。

 

 西洋風の城は、やっぱり格好いいよな。

 俺は城を見てからテンション上がりまくりだ。

 跳ね橋とか正に城って感じ。強固の城壁も、安心感がありすぎる。城内の壁もヒンヤリと冷たい感じが堪らない。 

 子供のようにあれこれ触って、はしゃいでしまった。


「はしゃぐクリスって、可愛いね。戦っている時は、強くて格好いいけど、今のクリスも何だか良いよね」


 クスクスとシャノンが笑う。


「お恥ずかしい所をお見せしました……」


 いかんいかん。子供スイッチが入っちゃった。気をつけないと。

 城内の案内が終わると、謁見準備が整うまで客室で待たされた。

 個室のようで、ベッドが一つと机と椅子が置いてあるだけの、狭い部屋だ。

 ベッドに座ると、コンコンとノックする音が、


「どうぞ」


 ドアが開く。


「来ちゃった」


 半分だけ開いたドアから顔を(のぞ)かせたのは、綺麗な銀髪に狼の耳、シャノンだった。


「どうしたの?」

「えーっとね……一人だと寂しいなーと思って、クリスの所に来ちゃったんだ」

「そ、そっか。隣においでよ」

「うん。隣に座るね」


 ちょこんとクリスの隣に座る。

 シャノンの「来ちゃった」発言でドキッとしてしまう。

 

「クリスはアテナ教会見た時、様子が変だったけど何かあったの?」

「お見通しだったみたいだね。実は……」 


 獣族の子供誘拐事件の黒幕が、大臣の可能性がある事を教えた。そしてその証拠を奴隷商人が、アテナ教会に隠している事も教えた。

 奴隷商人は大臣に裏切られた時の保険に、誘拐事件の証拠をアテナ教会に隠したらしい。


「まだ証拠も見てないし、確証が得てからシャノンに伝えようと思っていたんだ」

「そうだったんだ。ボクも手伝うよ」

「一緒に協力して、黒幕を捕まえよう」 


 二人は犯人逮捕に、闘志を燃やす。





 謁見の準備が整ったので、クリスとシャノンは玉座の間まで通された。

 少し高い所の玉座に座っているのが、ギリアム王国の王様だ。熟年で、(ひげ)のある顔は威厳を感じてしまう。白髪の頭には王冠をかぶっている。

 

「よく来たな旅の者よ。余が国王のアルバート・ギリアムだ」

「初めまして、アルバート王様。私はクリス・ライオットと申します。こちらがシャノンです」


 俺とシャノンは、右手を胸に当て挨拶した。


「アルバート王、この二人が魔物から、リッセルの町を救ってくれた者達です」


 アルバート王に話したのは、ギリアム王国大臣のゴードン・スライス。頭頂部が薄い壮年の男性で、目的の人物だ。

 

「若いのに立派である。後で褒美を与えよう」

「ありがとうございます、アルバート王様」


 終始ご機嫌の王様。その後も世間話を幾つかして、謁見が終わった。ガルシア兵士長に伴われ、客室に移動する。


「クリスさん、シャノンさん、今日は城に泊まっていって下さい。後でゴードン大臣がお会いしたいと申していましたが、如何致します?」

「ゴードン大臣がですか! ガルシアさん、是非ともお会いしたいです」

「分かりました。では、後ほど」


 客室の前まで来ると、ガルシアは戻って行った。

 大臣に会えるのは、願ってもないチャンス。大臣と会うまでに、アテナ教会に行くか。

 城のメイドに少しの間、城下町に行くことを伝え、シャノンと二人で教会へ証拠を確認しに行った。


 教会の敷地に一本の木が植えてある。根元には目印の石があり、その下に証拠を隠しているらしい。

 教会の人に許可を得て、敷地を見て回る振りをして、証拠を回収した。石の下には小さな箱が埋まっていて、開けると紙が入っている。

 

 内容は、一般人を誘拐して奴隷商人に売り渡す。国内で起こる誘拐事件には黙認。その代わり、上納金を渡す事を書いた、売買契約書だった。


「これが証拠なの?」

「そうみたいだね。ゴードン大臣のサインもあるし、印章も押してある。この印章がゴードン大臣なのかは、分からないけどね」


 大臣に売買契約書を見せて、問い詰めてみるか。

 二人は証拠を持って、城に戻ることにした。






 客室に兵士長ガルシアが訪れた。


「失礼します。それではゴードン大臣の所に、ご案内致したします」  

 

 ガルシアに連れられ、広間まで案内される。

 広間にはクリスとシャノン、ガルシアにゴードンの四人だけだ。


「先程は、ろくな挨拶も出来ず申し訳なかったね。しかし美女二人が魔物を倒すなんて、(わし)には信じられんよ」


 そう言ってクリスとシャノンを、上から下へと見ていく。


(げっ! この大臣、俺も女性だと思っているのか)


 嫌らしい視線に鳥肌がたつ。

 勘弁してくれよ。


「ゴードン大臣。いきなりですが、聞きたい事があります」


 俺は直ぐに尋問に移った。


「儂に聞きたい事か。何かね」

「奴隷商人の事は、ご存じでしょうか?」


 ゴードンの顔がピクリと動く。


「我が国では最近、誘拐が多発してる。その裏に奴隷商人が絡んでいるのでは、と噂を聞いてるが」

「何か、対策はしているのですか?」

「兵士長ガルシアに命じて調べているが、今の所はなんの進展もないのだよ」

「そうですか。では、これを……」


 俺は教会で手に入れた売買契約書を見せた。


「こ、これは一体……」


 ゴードンは右往左往している。


「ゴードン大臣、あなたが誘拐の黒幕なの?」


 シャノンが詰め寄る。


「違う。違うぞ、儂はこんなの知らん!」


 バンと音をたて、売買契約書を机の上に叩き置く。

 その売買契約書をガルシアは読んだ。


「大臣が誘拐を裏で操っていたのですね」

「ガルシア、それは誤解だ。儂はこんな契約書など知らん」

「言い訳は見苦しいですよ。大臣がミリル村の、獣族の子供も誘拐しようとしていたんですね」 


 ガルシアの言葉にクリスは反応した。


「何でガルシアさんは、獣族の子供が誘拐された事を知っているんですか?」

「はっ?」

「おかしな話ですよ。獣族の子供が誘拐されたのは、この前起きたばかり。まだ、(おおやけ)には知られていない情報です。この事を知っているのは、ミリル村の人と俺とシャノン、それと誘拐犯だけですよ?」

「そ、それは……」


 ガルシアの顔に冷や汗が流れている。


「もしかして、ゴードン大臣のサインと印章を偽造して、万が一の時はゴードン大臣に罪を被せるつもりだったとか?」

「ガルシア、お前が誘拐を手引きしていたのか」


 詰め寄る大臣をガルシアは押し倒した。


「あーあ。バレたか。せっかくゴードンに罪を被せれたのに。なかなか鋭いね、クリスちゃん」


 豹変したガルシアはドアの前に移動して、三回ドアを叩く。


「ガルシア、逃げられると思っているのか」

「逃げる? ご冗談をゴードン大臣」


 広間のドアが開くと、十人の兵士が流れ込んで来た。


「証拠は消すに限るな。こいつらは、俺と誘拐に協力している連中だ」


 不敵な笑みでガルシアは、クリス達三人を壁際まで追い詰める。


「どうやって魔物を倒したか知らんが、俺達ギリアム兵の相手ではないだろう」

「ガルシアさん。それはどうでしょうか」

「おいおい、現実を見ろよクリスちゃん。この人数差、どうするつもりなのか?」


 高笑いし出したガルシアと黒幕達。

 クリスは『召喚魔法』を使う。


『リザードマン召喚』


 広間に三十体のリザードマンを召喚した。


「何だこりゃあ」

「リザードマンじゃないか」

「ま、魔物だー」

 

 慌て出す黒幕達。


「さて、形勢逆転ですねガルシアさん」


 クリスの一言で、ガルシアは絶句した。



 

  

  







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ