第6話 黒幕
リザードマン退治を終えた夜、リッセル町の町長マルビットによる、宴会が行われた。
主役はクリスとシャノン。
今まで家に閉じ籠っていた住人達は、全員広場に集合して、飲んで食べてを楽しんだ。
主役のクリスとシャノンは、住人から接待攻撃の嵐を受けてしまう。
酒を飲んで酔っぱらう者がいたり、食べ過ぎでお腹を壊す者がいたりと、騒がしい宴会は夜遅くまで続いた。
そして、出発の朝が来る。
今日の天気は快晴。青々とした空を見上げると、気分も良くなるものだ。
町の入口には、住人達が集まっていた。
「クリスさん、シャノンさん、御恩は忘れません。この地に来た時は、リッセルの町に寄って下さい」
「お世話になりました、マルビットさん。住人の皆さんも、お元気で」
見送りに来てくれたリッセルの町の住人に別れを告げ、ギリアム王国の王都目指して出発する。
王都まで馬で二日かかる距離。
クリスとシャノンは馬車に乗って、救援に来た兵士50人と一緒に王都へ向かう。
「昨日は楽しかったね。美味しいお肉に、こんがり焼いたお肉、燻製のお肉も美味しいかったよ」
「肉ばっかりだよ、シャノン」
クリスは思わず笑ってしまう。
「本当だ! えへへっ。だって、美味しかったから仕方ないよ」
シャノンは狼人族だけあって肉食系だね。
料理は確かに美味しかった。味付けも悪くない。
海外へ行ったら、食事が合わないなんて話も聞くけど。
おっと、ここは海外じゃなく異世界だったか。
シャノンの村での食事も美味しかったし、今のところ食事に関しては言う事なしだな。
馬車の中では、その後も食べ物の話で盛り上がり、ギリアム王国へと向かって行く。
ギリアム王国。四大国から離れた位置にあり、戦火に巻き込まれていない国の一つだ。
小国で国力は弱いが、農業と酪農が盛んな国で、食糧自給率は高い。他国に食糧を輸出が出来るのは、ギリアム王国の強みだろう。
王都と言っても小国の王都なので、大都市と比べれば規模は小さい。
城壁が王都全体を囲んでいて、ここが戦時中の世界だと改めて思わせる。
城門を通り抜けると、煉瓦造りの建物がズラリと並ぶ。
「見てよクリス! 素敵な家が沢山あるよ」
王都だけあって、リッセルの町より目立つ建物が多い。
シャノンは尻尾をフリフリさせている。
憧れの外の世界だし、興奮しているようだ。
「確かに素敵な家が多いね。あの建物は教会かな?」
「どの建物?」
クリスが見つけた他の家より大きく、屋根の上に旗が掲げていた。青い旗に白の翼が描いてある。
「あれは、アテナ教の教会ですよ」
答えたのは、同行していた兵士長ガルシアだ。
「あれがアテナ教ですか」
この異世界で最も信徒が多い宗教だ。
四大国の一つ、アテナ聖国の国教でもある。
「ガルシアさん、ギリアム王国はアテナ教なのですか?」
「違いますよ。ギリアム王国はアテナ教を国教とはしていません。だが、貧者を助ける教えに共感し、我が国では布教を認めています」
「そうでしたか……」
馬車が城に到着すると、城内に案内された。
どうやらギリアム王国の王様に謁見出来るらしい。
西洋風の城は、やっぱり格好いいよな。
俺は城を見てからテンション上がりまくりだ。
跳ね橋とか正に城って感じ。強固の城壁も、安心感がありすぎる。城内の壁もヒンヤリと冷たい感じが堪らない。
子供のようにあれこれ触って、はしゃいでしまった。
「はしゃぐクリスって、可愛いね。戦っている時は、強くて格好いいけど、今のクリスも何だか良いよね」
クスクスとシャノンが笑う。
「お恥ずかしい所をお見せしました……」
いかんいかん。子供スイッチが入っちゃった。気をつけないと。
城内の案内が終わると、謁見準備が整うまで客室で待たされた。
個室のようで、ベッドが一つと机と椅子が置いてあるだけの、狭い部屋だ。
ベッドに座ると、コンコンとノックする音が、
「どうぞ」
ドアが開く。
「来ちゃった」
半分だけ開いたドアから顔を覗かせたのは、綺麗な銀髪に狼の耳、シャノンだった。
「どうしたの?」
「えーっとね……一人だと寂しいなーと思って、クリスの所に来ちゃったんだ」
「そ、そっか。隣においでよ」
「うん。隣に座るね」
ちょこんとクリスの隣に座る。
シャノンの「来ちゃった」発言でドキッとしてしまう。
「クリスはアテナ教会見た時、様子が変だったけど何かあったの?」
「お見通しだったみたいだね。実は……」
獣族の子供誘拐事件の黒幕が、大臣の可能性がある事を教えた。そしてその証拠を奴隷商人が、アテナ教会に隠している事も教えた。
奴隷商人は大臣に裏切られた時の保険に、誘拐事件の証拠をアテナ教会に隠したらしい。
「まだ証拠も見てないし、確証が得てからシャノンに伝えようと思っていたんだ」
「そうだったんだ。ボクも手伝うよ」
「一緒に協力して、黒幕を捕まえよう」
二人は犯人逮捕に、闘志を燃やす。
謁見の準備が整ったので、クリスとシャノンは玉座の間まで通された。
少し高い所の玉座に座っているのが、ギリアム王国の王様だ。熟年で、髭のある顔は威厳を感じてしまう。白髪の頭には王冠をかぶっている。
「よく来たな旅の者よ。余が国王のアルバート・ギリアムだ」
「初めまして、アルバート王様。私はクリス・ライオットと申します。こちらがシャノンです」
俺とシャノンは、右手を胸に当て挨拶した。
「アルバート王、この二人が魔物から、リッセルの町を救ってくれた者達です」
アルバート王に話したのは、ギリアム王国大臣のゴードン・スライス。頭頂部が薄い壮年の男性で、目的の人物だ。
「若いのに立派である。後で褒美を与えよう」
「ありがとうございます、アルバート王様」
終始ご機嫌の王様。その後も世間話を幾つかして、謁見が終わった。ガルシア兵士長に伴われ、客室に移動する。
「クリスさん、シャノンさん、今日は城に泊まっていって下さい。後でゴードン大臣がお会いしたいと申していましたが、如何致します?」
「ゴードン大臣がですか! ガルシアさん、是非ともお会いしたいです」
「分かりました。では、後ほど」
客室の前まで来ると、ガルシアは戻って行った。
大臣に会えるのは、願ってもないチャンス。大臣と会うまでに、アテナ教会に行くか。
城のメイドに少しの間、城下町に行くことを伝え、シャノンと二人で教会へ証拠を確認しに行った。
教会の敷地に一本の木が植えてある。根元には目印の石があり、その下に証拠を隠しているらしい。
教会の人に許可を得て、敷地を見て回る振りをして、証拠を回収した。石の下には小さな箱が埋まっていて、開けると紙が入っている。
内容は、一般人を誘拐して奴隷商人に売り渡す。国内で起こる誘拐事件には黙認。その代わり、上納金を渡す事を書いた、売買契約書だった。
「これが証拠なの?」
「そうみたいだね。ゴードン大臣のサインもあるし、印章も押してある。この印章がゴードン大臣なのかは、分からないけどね」
大臣に売買契約書を見せて、問い詰めてみるか。
二人は証拠を持って、城に戻ることにした。
客室に兵士長ガルシアが訪れた。
「失礼します。それではゴードン大臣の所に、ご案内致したします」
ガルシアに連れられ、広間まで案内される。
広間にはクリスとシャノン、ガルシアにゴードンの四人だけだ。
「先程は、ろくな挨拶も出来ず申し訳なかったね。しかし美女二人が魔物を倒すなんて、儂には信じられんよ」
そう言ってクリスとシャノンを、上から下へと見ていく。
(げっ! この大臣、俺も女性だと思っているのか)
嫌らしい視線に鳥肌がたつ。
勘弁してくれよ。
「ゴードン大臣。いきなりですが、聞きたい事があります」
俺は直ぐに尋問に移った。
「儂に聞きたい事か。何かね」
「奴隷商人の事は、ご存じでしょうか?」
ゴードンの顔がピクリと動く。
「我が国では最近、誘拐が多発してる。その裏に奴隷商人が絡んでいるのでは、と噂を聞いてるが」
「何か、対策はしているのですか?」
「兵士長ガルシアに命じて調べているが、今の所はなんの進展もないのだよ」
「そうですか。では、これを……」
俺は教会で手に入れた売買契約書を見せた。
「こ、これは一体……」
ゴードンは右往左往している。
「ゴードン大臣、あなたが誘拐の黒幕なの?」
シャノンが詰め寄る。
「違う。違うぞ、儂はこんなの知らん!」
バンと音をたて、売買契約書を机の上に叩き置く。
その売買契約書をガルシアは読んだ。
「大臣が誘拐を裏で操っていたのですね」
「ガルシア、それは誤解だ。儂はこんな契約書など知らん」
「言い訳は見苦しいですよ。大臣がミリル村の、獣族の子供も誘拐しようとしていたんですね」
ガルシアの言葉にクリスは反応した。
「何でガルシアさんは、獣族の子供が誘拐された事を知っているんですか?」
「はっ?」
「おかしな話ですよ。獣族の子供が誘拐されたのは、この前起きたばかり。まだ、公には知られていない情報です。この事を知っているのは、ミリル村の人と俺とシャノン、それと誘拐犯だけですよ?」
「そ、それは……」
ガルシアの顔に冷や汗が流れている。
「もしかして、ゴードン大臣のサインと印章を偽造して、万が一の時はゴードン大臣に罪を被せるつもりだったとか?」
「ガルシア、お前が誘拐を手引きしていたのか」
詰め寄る大臣をガルシアは押し倒した。
「あーあ。バレたか。せっかくゴードンに罪を被せれたのに。なかなか鋭いね、クリスちゃん」
豹変したガルシアはドアの前に移動して、三回ドアを叩く。
「ガルシア、逃げられると思っているのか」
「逃げる? ご冗談をゴードン大臣」
広間のドアが開くと、十人の兵士が流れ込んで来た。
「証拠は消すに限るな。こいつらは、俺と誘拐に協力している連中だ」
不敵な笑みでガルシアは、クリス達三人を壁際まで追い詰める。
「どうやって魔物を倒したか知らんが、俺達ギリアム兵の相手ではないだろう」
「ガルシアさん。それはどうでしょうか」
「おいおい、現実を見ろよクリスちゃん。この人数差、どうするつもりなのか?」
高笑いし出したガルシアと黒幕達。
クリスは『召喚魔法』を使う。
『リザードマン召喚』
広間に三十体のリザードマンを召喚した。
「何だこりゃあ」
「リザードマンじゃないか」
「ま、魔物だー」
慌て出す黒幕達。
「さて、形勢逆転ですねガルシアさん」
クリスの一言で、ガルシアは絶句した。