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第5話 リザードマン

 カンカンカン。

 大きな鐘の鳴る音が、リッセルの町に響き渡る。

 昨日は町長のマルビットの家に泊めてもらったのだが、大きな鐘の音で起き上がる。

 何事だと思い、窓から外を見た。


「リザードマンだ! リザードマンが出たぞ!」


 警護していた住人の大声。

 寝間着だったが、着のみ着のままで『瞬間移動』の魔法で外に出る。

 靴を魔法で作ると、警護していた住人が集まっている、町の入口まで走って向かう。


 町の入口にはリザードマンが十体。

 全て死体で倒れていた。


「おぉ、クリスさん。来てくれましたか」


 警護の住人は、俺の姿を見ると駆け寄ってきた。

 

「現在の状況説明を、お願いします」

「襲って来たのは十体だけです。多分、偵察でしょう。被害は無し、こいつらのお陰でね」


 住人の目線の先には、体長四メートル前後の大きな魔物、ミノタウロス二体がいた。

 ミノタウロスの大斧には、リザードマンの血が付いている。目立った傷は無く、敵との力量の差は明らかだ。

 リザードマンより魔物のランクは上だし、上位種(ハイ)クラスのミノタウロスだから当たり前か。


 町の警護の為に、召喚しておいて正解たったな。


「よくやったな、ミノタウロス」 


 体を撫でて、ミノタウロス二体を労う。


「「モオォォォ!」」

 

 デカイ声で、労いに応えたようだ。


「クリスー」


 シャノンも剣を携え駆けつけくれた。

 今回はミノタウロスのお陰で、事なきを得たとシャノンに説明する。


「やっぱりクリスの召喚魔法って凄いんだね」


 シャノンはミノタウロス見上げて感心している。

 確かに召喚魔法って凄い。

 出したり引っ込めたりするのは自由だし、命令にも忠実。この召喚魔法を使える者は、理想の軍隊を作れるだろう。

 この先どうなるかな分からないし、味方は多い方がいいよな。

 

 俺は、戦闘があった場所に移動した。

 リザードマンの死体は見事に真っ二つ。ミノタウロスの怪力は伊達じゃないな。

 リザードマンを触ってみると、鱗は固く、生身が鎧のような体。尻尾も長くて太く、ワニの尻尾のような強靭さがあるようだ。

 

 倒したリザードマンは、鱗や牙や爪を冒険者ギルドに持って行くと、お金に換金してもらえる。

 当然魔石も回収するのだが、貴重な収入源となるので、町の住人達と分けた。

 一旦町長の家に戻り、戦況報告をしとくか。


「死傷者が出なかったのは何よりです」

 

 マルビットは安堵した。

 異変を知らせる鐘を聞き、マルビットは飛び起きた。直ぐに防具を装備するのだが、慣れない防具に手間取った町長。

 ようやく防具を装備して出陣しようとした時、俺達が帰って来たのだ。

 で、全身甲冑のマルビットが、俺の目の前にいるわけです。

 恰幅(かっぷく)のいい体に不釣り合いの全身甲冑なので、甲冑はパンパンだ。

 これはダイエットが必要だな。

 

「マルビットさん。俺とシャノンは、今からリザードマンがいる湿地帯に向かいます」

「気をつけて下さいね、クリスさん。無事を祈っています」


 重い甲冑なので、ゼェゼェ言っているマルビットの為にも、リザードマンを倒して、早く町を平和にしなといけない。






 リザードマンのいる湿地帯には、クリスとシャノンだけで向かう。ミノタウロス二体は、町の警護に残しておいた。

 リッセルの町から湿地帯までは、歩いて二時間くらいの距離。湿地帯に近付くまでは、見通しのよい平原が続く。

 リザードマンが現れれば直ぐに気付くし、特に警戒しながら歩く必要もないだろう。

 

「シャノン、湿地帯にいるリザードマンの数は、大勢いるってマルビットさんが言っていたよ。危険と感じたら逃げてね」

「了解だよ、クリス。ボクも一応、獣心流の最上級剣士だから役に立ってみせるからね」

 

 シャノンのピースサイン。頼もしいじゃないか。

 

 獣心流とは、世界二大剣術の一つだ。

 二大剣術とは獣心流と帝神流、戦慄の魔王クリスティアナを倒した、獣族と人族の勇者二人が作った流派だ。

 剣士にもランクがある。

 初級、中級、上級、最上級、極級、王級、神級の七段階。


 シャノンの年齢で最上級に達するのは(まれ)らしい。

 ミリル村の獣族達からは天才剣士と呼ばれ、獣心流にとっても将来有望な剣士の一人だ。


 湿地帯のある森が見えてきた。

 マルビットの話によれば、森の湿地帯に、リザードマンが住み着いているらしい。

 

 二人は、警戒しながら森に入って行く。

 歩くと、ベチョリと土が泥濘(ぬかる)んでいて、歩きにくい。それに何だか生臭い臭いがする。

 魚だ。リザードマンが食い散らかした魚が落ちていた。

 時間が経っているのか、腐りかけの魚には(はえ)が集まっている。

 ここは、リザードマンの生活圏なのだろう。ここから、更に警戒しながら進む。

 

 湿地帯に着くと、木の陰に隠れて様子を伺う。


「一、二、三……二十……全部で八十体くらいか」

「結構いるみたいだね、クリス」

「そうだね。それに武装している」


 半分くらいが武装しているなら、いい方だと思っていたけど、まさか全員が武装しているとは。

 剣に槍、それに盾も持っているリザードマンもいる。しかも、整列しているではないか。

 まるで、軍隊だね。


「おっ、何だか一体だけ他とは違うぞ」


 整列したリザードマンの前に、他より体格が大きいリザードマンがやって来た。


「多分、上位種(ハイ)クラスのリザードマンだよ」


 と、解説してくれたのはシャノンさん。

 体長は二メートルを越える。筋肉質で強そうじゃないか。

 ランクはDクラスの上位。


 ハイ・リザードマンが叫び声を上げると、全員が動き出す。

 移動先は、クリス達が来た方向。

 リッセルの町だ。

 

 俺とシャノンは先回りして森に潜み、リザードマンを奇襲する作戦で挑む。






 ズラリと並んで進むリザードマン達。

 その姿を確認した二人は、動き出す。

 シャノンは列の最後尾を倒していく。クリスは列の、ど真ん中を攻撃し分断する。

 クリスの合図で戦闘開始だ。

 

大岩石(メガストーン)

 

 リザードマン部隊の中央部に、ドーンと大きな音と共に、大岩が落ちる。

 グシャリと潰れたリザードマンは十体以上。

 突然の出来事でリザードマン達は動きが止まる。

 クリスが使ったのは中級土魔法だが、普通の魔術師が使う中級土魔法の、数倍の威力だ。


大風刃(メガウインド)』 


 分断された後方に中級風魔法を使う。

 初級風魔法より大きくて、多数の風の刃が広範囲に広がる。瞬く間に斬り裂かれるリザードマン達。盾で防ごうとしても、盾ごと斬り裂く。

 これで、後列にいるリザードマンは十二体になった。

 

「やあぁぁ!」

 

 シャノンは予定通り、最後尾の相手を攻撃した。

 初太刀で一刀両断、さすがシャノン。


「グギャグギャー」


 ハイ・リザードマンの声で、奇襲に呆然としてたリザードマン達が動き出す。


「前列のリザードマンが散らばり始めたか。シャノンが包囲されないように、早めに倒さないと」

 

 前列の敵を倒していく。『瞬間移動』と攻撃魔法で、素早く倒してしまう。

 数が多いから手こずると思ったが、大した事はなかったな。

 あっという間だった。前列のリザードマンは一匹だけを残して全滅。

 

 後列の様子が気になり振り返ると、シャノンの姿があった。


「終わったよ、クリス」

「お疲れ様。やっぱりシャノンは強いね」

「えへへっ。クリス程じゃないけど、ボクも少しは役に立って良かったよ」


 シャノンは無傷のようだ。

 Dクラスのリザードマン十二体では、シャノンの相手には不足だった。

 残ったハイ・リザードマンに、シャノンが視線を向ける。


「ボクがハイ・リザードマンと、戦ってもいいかな?」

「お願いするよ、シャノン」

「ありがとう、クリス」 

 

 剣を構えたシャノンがリザードマンと対峙する。

 太い腕のリザードマンが両手で剣を握った。


「グギャグギャー」


 両手で握った剣を、シャノン目掛けて斬りかかる。

 ガギン! と剣で防ぐ音。

 体格のいいリザードマンの攻撃を、シャノンは余裕で防いだ。魔力で身体強化しているので、力負けする事はない。


『獣心流 五月雨(さみだれ)斬り』

 

 リザードマンは五本の剣に見えただろう。同時五連斬りで、斬り倒されてしまう。


「見たのは二回目だけど、凄い技だね」


 クリスは興奮しながらシャノンを褒めた。


「あ、あんまり褒めないでよ」


 体をモジモジさせて恥ずかしがるシャノン。

 これは、何回見ても飽きない可愛さだね。

 

 癒しを補給したクリスは、リザードマンの魔石を回収する。復興費の為に、リッセル村の住人達にも、リザードマンの素材を分けようと考えた。

 後から住人に来てもらい、リザードマンの素材回収を頼むつもりだ。

 朝から回収した魔石と、今回の魔石、合計30個を回収。残りはリッセル村用だ。

 

 早速、魔石に魔力を注ぎ『召喚魔法』を使う。

 ハイ・リザードマンを含む三十体に、倒したリザードマンの武器を受け継がせ、魔方陣の中に戻す。


「魔石も回収したし、そろそろリッセルの町に戻ろうか」

「そうだね。これでリッセルの町も、リザードマンに怯えなくてすむね」


 二人は、笑顔でリッセルの町へ戻った。






「ねぇねぇクリス、町の入口が騒がしいよ」

「何だろう? 人が集まっているみたいだね」


 町に戻って来ると、兵士達と騎士が住人と話をしていた。その中に、町長のマルビットの姿が。


「クリスさん!」


 俺達の姿を見たら、マルビットが走って来た。


「良かった。二人とも無事でしたか。それで、リザードマンはどうなりました?」

「安心して下さいマルビットさん。リザードマンは退治しました」

「おぉー。クリスさんとシャノンさんに頼んで正解でした。お二人とも、リッセルの町を救って頂き、ありがとうございます」


 マルビットは、クリスとシャノンに頭を下げて感謝を伝えた。それを聞いていた住人も、二人に感謝と歓声を送る。

 元気を取り戻した住人の顔は嬉しそうだ。


「所でマルビットさん」


 マルビットが、クリスを見た。


「どうしましたクリスさん?」

「あの兵士達は、もしかして救援の兵士達ですか」

「そうです。先程到着しまして、状況説明をしていたところです。それとクリスさんが魔物召喚出来る事は内緒にしています。ミノタウロスも隠してありますよ」

「助かります」 

 

 戦時中の世界で召喚魔法が使える人物なんて、取り込もうとするだろう。面倒事を回避してくれたマルビットの手腕は、なかなかだ。

 それよりも救援の兵士達、町を警護していた住人よりも良い装備だな。ギリアム王国の王都から来たのだろう。

 茶髪で、目つきの悪い騎士がやって来た。


「失礼。クリスさんですよね」

「そうですが、貴方は?」

「ギリアム王国兵士長のガルシアです。話は聞いていました。よければ魔物討伐の功績を称え、二人を王都に招待したいのですが、如何でしょうか?」

「ガルシアさん、喜んでお受けします。王都には、伺うつもりでしたので」

「そうですか。それでは明日の朝、王都に案内致します」


 この国の王都には行こうと思っていたので、丁度よかった。招待も受けたし。

 王都に行く理由は、獣族のミリル村で、奴隷商人を尋問した時に聞いた話が原因だ。

 どうやら、獣族の子供を誘拐した黒幕が、この国の大臣の可能性がある。

 その事実を、俺は確かめないといけない。


 

 

 

 

 

 



 


 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

 

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