第12話 三つ巴
現在この場は三つ巴である。
冒険者七人、オーク二十体、そして豹戦士二体。
豹戦士とは、豹の魔物で体長は一九〇センチ前後。筋肉質の体で、剣を扱う。剣術の腕前は、各流派の上級に匹敵する実力があるらしい。力任せで武器を扱う魔物とは違って、剣士らしい動きで攻撃をするのが特徴。
魔物の強さはBクラスの下位。
三つ巴とは、中々奇妙な展開だな。
クリスとシャノンの登場で、戦況は止まっている。お互い様子見なのだろう。
「アスラン、状況説明を」
シャノンに見とれていたアスランだったが、クリスの一声でハッとなる。
「お、おう。俺達五人は即席チームで、鉱山の魔物退治の依頼を受けた。しかし途中でオークの群れと遭遇、戦闘になった。その戦闘中にオセが乱入して、今に至るってとこだ」
「なるほどね、理解した」
即席のチームか。
あれ、よく見るとアスラン以外は全員女性じゃねぇか。しかも若くて綺麗な女性ばかり。
まさか、あいつの好みで選んでないだろうな。
魔術師が二人に、戦士が一人、剣士が一人、そしてアスランの五人。
倒されたオークが周りに数十体いるので、それなりに実力はありそうだな。そうなると、
「アスラン達はオーク達の相手を、オセは俺とシャノンが引き受けた」
「ぐっ、しかし……いや、二人の実力は俺よりも上だらな。分かった、オセは任せる」
実力差は分かっていたのか。てっきり格下に見られていると思っていたよ。
まぁ、何度も失神させてるから当然か。
「シャノン、オセを一体任せてもいいかい?」
「了解、どーんと任せてよ」
鋼のロングソードを構えるシャノン。
戦闘を始めようとした時、先にオークが動いた。
オークは、アスラン達とオセの両方に攻撃してきた。
アスラン達は直ぐに応戦、オセはオークが攻撃してくるまで、その場で待っている。
オークの力任せで突き出す槍を、オセは剣を使って地面へと叩きつける。地面に刺さる槍、オークが槍を引き抜こうとした腕を切り落とす。
大声を出すオークの頭を、真一文字で切り落とした。
剣術が上級だけあって、動きが洗練されているな。
オセはオークをあっさり倒すと、クリスとシャノンを狙って襲って来た。
クリスは魔力障壁で剣を防ぎ、シャノンはロングソードで攻撃を受け止める。
『瞬間移動』
クリスはオセの背後に現れ、右中段蹴りを当てる。オセのわき腹に命中した右中段蹴りは、あばら骨を数本骨折させた。
「グルルルッ」
わき腹を押えて片膝をついたオセだが、立ち上ると再び剣を強く握り締めて斬り掛かる。
二連撃、三連撃と攻撃するが、オセの動きを見切っているので剣は当たらない。
クリスが手に魔力を込めると、オセは恐怖した。
『氷柱』
地面から突き出した氷が、オセの体を貫く。
強く握り締めていた剣だが、程無くして地面へと落ちてしまう。
オセの恐怖は、死を予感していた。
もう一体のオセは歯ぎしりをしていた。
相対する獣族の女性が強いのだ。
「やあぁぁ!」
シャノンの鋭い攻撃で、また一つ増える傷。
剣を交えれば、どちらが上かなんて一目瞭然。
故に焦ってしまう。
このまま戦っても勝ち目がないと。
ではどうするか……肉を切らせて骨を断つ。
今のところは、ボクが優勢だ。
相手の剣術もなかなかだが、この前戦った赤い大猿の方がオセよりも強かった。
このままいけば勝てるだろう。
そんな自信もある。
斜めからの斬り落としを、シャノンは避けた。
雑な攻撃だった。隙を見せたオセに、シャノンは懐深く入り込む。
罠にかかった! オセは片腕を犠牲に剣を受け止めようとしたが、相手の剣が五本に見える。
『五月雨斬り』
片腕だけじゃなく、両腕、両足、首と五つが犠牲になってしまう。一撃だけだと思っていたオセの、読み間違いだった。
シャノンは優勢だったが、油断はしていない。
慢心は油断へと繋がる、慢心は要注意だとよく教わったものだ。
「シャノン、怪我はしていない?」
クリスの心配する声。
この声を聞くと、心がホッコリする。
「少しだけ切り傷があるくらいかな」
ちょっとした傷だったけど、クリスは慌てて回復魔法を使ってくれる。
「ありがとうクリス」
「どういたしまして」
クリスが頭を優しく撫でてくれた。
嬉しくて恥ずかしい。二つの感情が入り乱れたが、ふわふわした気分がとても心地よかった。
アスラン達も、敵を全て倒したようだ。
即席チームの五人全員は無事だった。冒険者ランクがBランクのアスランだ、オークには負けはしないだろう。
「俺達が手子摺るオセを倒すとは。やはり俺が愛するシャノンは強くて可愛い」
シャノンを抱き締めようとするアスランに、クリスが割って入る。
「わぶっ!」
クリスの右足のブーツがアスランの顔に命中、見事進行を止めるのに成功した。
「おっと失礼」
一応謝っておこう。
「謝らなくていいよ」
そう言ったのはシャノン。
それもそうだよな。謝らなくていいはず。
「おいアスラン、さっき謝った言葉を返しくれ」
「そ、そんなの無理だぜクリス。俺はシャノンと、労いの抱擁をしようとしただけだよ」
「お前の抱擁は、いやらしい気持ちが感じられるからダメだ」
「いや、俺は、その、いやらしい気持ちなんて、微塵も……」
急にしどろもどろに、なりやがった。
いやらしい気持ちは図星だったか。
倒した魔物の素材は、手分けして回収をする。アスラン達は、このまま受けた依頼を続行するらしい。確か鉱山に現れる魔物退治だったよな。
「本当に魔石を貰ってもいいのか?」
「当たり前だろ、倒したのはクリスとシャノンだ。素直に貰っとけよ」
「それじゃあ、遠慮なく頂くよ」
アスランが手渡したのはオセの魔石。
オセは戦力になるので有り難い。
「そろそろ俺達は行くとするか、またタルトの町で会おうぜ。シャノン、帰ったらデートしよう」
「ボクはアスランとはデートはしないよ」
そっぽを向くシャノン。
「くう~、この扱われ方も溜まんないな。じゃあな」
アスランは、仲間に耳を引っ張られながら依頼先へと向かった。
これだけ拒否られても諦めないのか。
神級のしつこさだな。
「俺達は町に帰るとしますか」
「帰ったら、ゆっくりお風呂に入りたいね」
「お風呂か……シャノンは温泉に入った事はあるの?」
「ボクが住んでいた周辺には温泉は無かったから、まだ入った事は無いよ」
「だったら、今度温泉がある所に行かない?」
「行く! ボク、温泉に行きたい!」
「決まりだね。温泉がある場所を調べとくよ」
トントン拍子で進む温泉旅行計画。
大きい温泉があれば嬉しいな。
これは、考えただけでワクワクしてくるぞ。温泉に行くのが凄く楽しみになってきた。
タルトの町の冒険者ギルドは、今日も冒険者達で賑わっている。
ウエスタンドアを開けて中に入ると、自分のチームに勧誘しようと呼び込みをしていた。
冒険者登録を済ませた者が三人以上いるなら、チームを作れるシステムがある。
人数指定がある依頼もあるので、気心の知れたチームメイトがいた方がやりやすいのだ。
助っ人や即席チームだと、手柄の配分で揉める事例が多々あるので、注意しないといけない。
アスラン達を助けた事で、クリスとシャノンを自分のチームに勧誘する冒険者が増えてきた。
SランクやAランクの依頼はまだ受けれないし、底ランクの仕事は二人で十分なので、勧誘は断っている。
受付のお姉さんの話によれば、最近がっかりしている男の冒険者が多いらしい。
あれ? もしかして俺達のせいなのか?
こっちにも都合があるから仕方がない。そんな訳で、今日も気にせずお仕事お仕事。
本日の依頼は、魔物退治と素材集めの二つ。
依頼の内容はユニコーンの退治と、ユニコーンの角を回収すること。
魔物退治の依頼は、増え過ぎたユニコーンが商人の馬車襲って困っているらしい。
素材集めの依頼であるユニコーンの角は、回復薬の原料になる。なので、退治した時は必ず回収してほしいそうだ。
依頼の場所は、タルトの町から馬車で一時間ほど北へ進んだ草原地帯。
グリフォンを召喚すると、草原地帯へと移動する。
サバルナ草原地帯。
この地には、多くの野生動物が暮らしている。
草食動物にとっては、栄養豊富な草が沢山生えているので暮らしやすい。その草食動物を狙って、肉食動物はこの地にやって来る。
今回退治するユニコーン。
馬のように見えるが、魔物に分類される。
額には長く鋭い角があり、これがユニコーンの武器となる。
魔物の強さはEクラスの上位。
「いた! あそこにいるよ」
目のいいシャノンは、いち早く見つける。
「二十体前後か……シャノン、ユニコーンは動きが速い。このままグリフォンに乗って戦うよ」
「訓練の見せ所だね」
こんな事もあろうかと思い、グリフォンに乗って戦う訓練をしていた。
ユニコーンの上空から急降下して攻撃開始だ。
『大風刃』
六頭が集まっていたので、風魔法で一網打尽に出来た。
シャノンもロングソードで攻撃して一体を倒す。
角で攻撃するユニコーンだが、グリフォンは空へ逃げたり、速く動いて上手くかわす。
グリフォンの爪や炎の息も使い、ユニコーンを倒していく。素早いユニコーンだったが、終わってみれば楽に勝てた。
「魔物退治の依頼は終了だね。グリフォンありがとう」
シャノンはグリフォンを撫でてあげた。グリフォンは目を閉じて気持ち良さそうにしている。
「ユニコーンの角を回収すれば、素材集めの依頼も終了か。シャノン、この後は予定とかある?」
「特にないよ」
「それならタルトの町に帰ったら、一緒にサンドイッチ作ろうか。一緒に作るって約束してたからね」
「一緒に……うん、作ろう! クリスと一緒に沢山作るよ」
喜ぶシャノンは、凄い速さでユニコーンの角を回収した。早く帰ろうと急かすシャノンは、クリスと一緒に料理することで頭が一杯だった。