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Rank

 ソルに襲われてから3日。

 光司はエヴァンテに訪れていた。彼の目の前には拓真がニコニコと嬉しそうな表情を浮かべている。


 送られてきたメールに添付されていた地図を見ながらエヴァンテへの入り口を見つけ、扉にパスワードを入力。地下に降りてきて最初に見たのが彼のその顔だった。


「やぁやぁ久々だね。歓迎するよ」


「……お久しぶりです」


「いや〜時間ピッタリだね。うんうん。時間厳守は重要だよ」


 そう言い手でついてくるよう指示して歩き始めた。

 素直に光司はその後ろをついて歩く。


「それで……今日は一体?」


「うん。まぁ、君に渡したいものと知らせたいことがあってね」


「渡したい、もの?」


◇◇◇


 拓真の後に続いて着いた先はエヴァンテに来て初めて案内された場所だった。

 あいも変わらず机は乱雑だがそれがかろうじてこの部屋が使われていることを証明している。

 そんな机から袋を取り出し光司に渡す。


「えーっと、はい。これ」


「これは?」


 光司が受け取ったのは薬局で渡されるような薬が入った紙袋だった。

 内服薬や自分の名前、1日1回などなど時々貰うものと何ら変わりのない袋だ。

 中を開けてみれば錠剤がいくつか入っている。


「夢を見せる薬……正確には夢を見ることを促す薬だよ」


 そんな薬があるのかと驚いたがそんなことはどうでもいい。

 これを渡す目的など一つしかない。そこが彼にとっては重要なことだ。


「ソラを具現化するため、ですか?」


「察しが良くて助かるよ」


 拓真は肩をすくめながら肯定した。

 自分の中にいる存在、世界を見るには夢を見ることが必須、というよりも夢でしかその世界や自分には触れられない。

 夢を見てそれを覚えていなければいつまで経ってもソラを具現化できない。


 つまり渡されたこの薬はソラを出すために飲む薬ということだ。

 それが表す意味など一つしか浮かばない。


「……早く出せるようになれって、ことですか?」


 言外にあんな自分をすぐに認めろということか?と含められているせいか少し刺々しい物言いにしかし拓真はたじろぐことも戸惑うこともなく答える。


「まぁ、それも少なからずある。だが、重要なのは君自身だよ」


「どいうことですか?」


「言ったろ?ソルはソラを持つものを狙う。護衛はつけているが複数体ソルが現れたらどうする?」


 護衛は1人だけ。複数体出現した場合は確実に守りきれなくなる。

 ならば護衛を増やせばいいと思うがソラを出せるものは限られているためかなり難しい。


 たしかにソラを早く出せるようになってほしい。その想いがあるのは本当だろうがソルによる犠牲者を減らすには自衛できるということがかなり重要なのだ。

 少なくとも援軍が来るまで耐えられるだけの力は必要になる。


「……わかりました」


「ならいいよ。きちんと飲んでくれよ?じゃないと私たちは君を拘束しなければいけなくなる。君もそうなりたくないだろう?」


 脅迫じみた言い方に少し嫌悪感を抱きながらも光司はリュックにその薬の紙袋を入れた。


「と、渡したいものは渡した。あとは知らせなければならないことだが––––」


 この間の説明忘れなのだろうか?とにかくまた変な専門用語がぶつけられるのかと辟易し始めたがそれを感じ取ったらしく拓真は首を横に振る。


「いいや、そんなに多くは説明しないよ」


 笑みを浮かべながら言うと机の上からクリアファイルを差し出す。中には一枚の紙が入っていた。


 ファイルから取り出し紙にあることを心の中で読む。


(えっと、天手光司……ランクD?)


 その下には住所、経歴から家族構成と個人情報が羅列されていた。

 そこに特に驚きはしない。こんないかにも怪しい組織だ。調べようと思えばいくらでも調べられるだろう。


 首を傾げたのは名前の横に書いてあるランクDの部分だ。

 それを指差しながら光司は拓真に質問を投げる。


「この……ランクDっていうのは?」


「ソラにはランク分けがされているんだよ。AからEまでね」


 ランクを分けた理由は管理の簡略化だ。

 ランクによって必要な対処を変えることでソラを管理する人員を可能な限り減らしている。

 また、その者の実力を大まかにだが表す指標でもある。そのため例えば連携する際にはこのランクによって配置分けをすることがある。


 その説明を聞きながら光司はランクDの文字を見つめた。

 D、ということは平均よりも少し下というレベルか。ともかくとして自分にはこれがちょうどいいような気がしていた。


「よかったね」


「何がですか?」


「Aじゃなくてだよ」


 どこか物悲しげに言う拓真に光司はさらに首をひねる。

 エヴァンテ側としては実力がある者が増えるのは良いことのはずだ。

 なのに、なぜ彼はここまで安心したような表情を浮かべるのだろう。


 言葉には出なかったその質問を悟り拓真は変わらず少し悲しげな表情で答える。


「ランクAになるとね……もはや我々の中でも人間として扱われなくなるんだ……敬意と畏怖。その2つの視線を同時に浴びることになる。それにね––––」


 まるでこれだけは覚えていろ。と言うように力がこもった目で光司を見つめる。


「––––力を持ち過ぎた者は常に孤独だ」


 推測でも予想でもなく、断言するように彼は言った。


◇◇◇


 アパートの一室に置かれたベッド。それに寝そべりながら今日貰った紙を見つめる。


(D……か)


 自分のランクをいつ調べたのかふと疑問が湧いたがおそらく寝ている間にしたのだろう。

 もしかしたら薬もその頃に飲まされていたのかもしれない。だとしたら急にあの夢を見たのも自然に納得できた。


 ちなみにソラのランクはCが1番多くその次に多いのがDだ。そこから考えれば光司のソラは平均的な強さがあると言えるだろう。

 また、D以上ならばソラが覚醒すればソル1体は倒せるらしい。


「はぁ〜」


 ため息と共にその紙を床へと放り捨てる。

 捨てられた紙がヒラヒラと床へと落ちていく様を見ながらふと頭に疑問が浮かんだ。


(俺のソラってどんなのだろう……)


 ランクはあくまでもランク。しかもまだ宿っているだけの状態で調べたことなので変動があるらしい。

 また、わかるのはランクだけで形まではわからない。


 あまり考えたくはないがどうしてもちょっとは考えてしまう。


 あんな自分がこの現実に現れる時にはどんな姿を取るのだろうか。

 剣だろうか槍だろうかはたまたトンファーやチャクラムのようなちょっと変わったものだろうか。それともそもそも武器などではなく鎧だろうか。


 どれにせよそれを使っている、もしくはまとっている自分が想像できない。


 ふと脳裏にあの日のことがよぎる。


 鳴り響く青白い大鎌を持った同じく青白いソルの声。

 それらと戦うようになるかもしれないなど想像できない。


 身の丈ほどはあるハルバードを軽々と扱う少女。

 彼女のように勇敢に立ち向かう自分の姿など想像できない。


 ふと携帯で時間を見ると22時を指していた。

 いつもなら少しゲームをしてから寝るのだがとてもそんな思考など編めない。

 光司は早々に寝ることにしてリュックから薬の紙袋を取り出し、それから薬を取り出した。


 錠剤を一つ取り手のひらに乗せる。

 正直に言ってしまえば飲みたくはない。しかし、飲まなければ自由はなくなる。

 そんなのはごめんだった。


 覚悟を決めるように唾を飲み込んでから薬を口に含み、ペットボトルの水で流し込んだ。

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