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Dream

 昔は、なんでもできた。


 昔は、やればやるだけ伸びた。


 昔は、できればできるだけ、やればやるだけ色々な人に褒められた。


 それが嬉しかった。

 特別なことなどしていない。


 自分が真似したいと思った人たちを真似し続けた。動き方から考え方、感じ方までその全てを真似ていただけだ。


 真似だけならば誰にも負けることはなかった。良いところを拾い上げて悪いところは別の人のものを真似てカバーしていた。


 しかし––––


「猿真似野郎」


「卑怯者」


 クラスメイトに言われたその一言が酷く心を痛めつけた。


 しばらくして気がついたが彼らは自分が嫌いだったらしい。

 なんでもできる。なんでもできていた自分が憎かったらしい。


 ちょうどその頃から小さないじめを受けるようになった。

 明らかに無視される。道具を隠される。バカにされる。


 その全てを無視してきた。


 何も出来ないような奴が何を言っているんだと思っていた。何もしようとしない奴がなんで自分が不幸の存在のような物言いをするのかが理解できなかった。


 今思えば良いところを真似る事ばかりしてそこから新しい方法を編み出すようなことはしなかった。


 自分では何もしていない。ただ「あの人がやっているから」していただけだ。それでもし上手くいかなくても「あの人のやり方がダメなだけだ」と思っていた。


 理由を自分ではなく他人に見出し責任逃れをしていたことこそがいじめの本当の原因だったのかもしれない。と思う。


 その時の自分は周りから見てあまりにも人間とはかけ離れていたのかもしれない。とふと思った。


◇◇◇


「……ぅあ?」


 目を開けると白い天井と蛍光灯が見えた。


(ここ……どこだ)


 感覚から察するにベッドに眠らされているらしい。

 ゆっくりと首を動かしその部屋を見回す。


 壁際には天井ほどまである本棚とタンス。その隣には勉強机のようなものと椅子があった。

 その全てが白を基調とした色でまとめられている。


 あるものとしてはそれだけだ。

 シンプルで使いやすそうではあるが、行きすぎて無機質な印象を受けた。


 ゆっくりと覚醒し始めた意識で記憶を探る。


 昨日?は確か1限からだったので欠伸をしながら大学に行った。

 講義を受けている最中に友人である真也に誘われて合コンに行った。


 そこで伊織に「弟に誕生日プレゼントをあげたいが好みがよくわからないので一緒に選んでほしい」と頼まれた。

 なぜ自分なのか?という疑問をすぐに抱いたのをよく覚えている。


 その後の帰りは?


(確か……青白い––––)


「ッッ!!」


 そこまで思い出すと急速に意識が覚醒し、ガバッと起き上がった。


 そうだ。あの後帰りで青白い何か、ソルに襲われた。ソラを持つ少女に助けてもらったのだ。

 その少女に案内されるままエヴァンテと呼ばれる場所に辿り着いて拓真の話を聞いていると眠くなった。


 状況から察するにそのまま眠ってしまっていたようだ。


 と、光司がようやく現状を把握しきったところでスライド式の扉が空気の抜ける音とともに開いた。


「ああ、おはよう。起きてたみたいだね」


 言いながら入ってきたのは拓真だ。

 下に着ている服は変わっているがその上には変わらず白衣を纏っている。


「す、すいません。今、何時ですか?」


「え?時計なら……あれ?」


 そう聞かれて拓真は部屋に視線を巡らせた。時計を探していたようだがこの部屋に時計はない。


 それに気がついた彼は申し訳なさそうにしながら腕時計を見る。


「今は……朝の7時だね。ん?もしかして1限から取ってるのかい?」


「あ、いえ。今日は昼からです」


「おお、よかった。まだ話していないことがあってね」


「す、すいません。いつの間にか眠ってたみたいで……」


「いや、いいんだ。あれだけのことを経験したんだ。疲れが出るのも当然さ」


 そうは言うがやはりちょっとした後ろめたさや申し訳なさは感じる。


「まぁ、朝食を食べようか。ここにはきちんと食堂があるからね。話はその後にしよう」


 言うと拓真は光司を食堂へと案内し、そこで朝食を食べた。


 食券で和食セットというものを頼んで出されたものはご飯と焼き魚、味噌汁といったまさに朝食らしいメニュー。


 少し怪しみながらご飯を口に運んで目を見開いた。その次に魚と味噌汁に口をつけてさらに驚いた。


(美味い……)


 光司は堰を切ったようにパクパクと口に放り込み、あっという間に喰らい尽くしてしまっていた。


◇◇◇


 朝食を食べた後に拓真に案内されたのは昨日も訪れた部屋だ。

 拓真が椅子に座り、光司はベッドに腰掛けた。


「さて、昨日君にもソラがあることは話したよね?」


 ゆっくりと光司は頷く。

 おぼろげだがその話を聞いたことは覚えている。


 ソラとは自分が想像している世界を具現化した武器や武具のこと。

 昨日自分を助けた少女が持っていた青白いハルバードがまさにそのソラだ。


 形が違うとはいえあんなものを自分も出せると言われてもあまり信じられなかったのをよく覚えている。


「そう、昨日は自分が想像した世界。と少し濁したか正確には違う」


 人間には4つの人格を持つと言われている。

 自分と他人が知っている人格、自分だけが知っている人格、他人だけが知っている人格、そして、自分も他人も知らない人格。


 ソラとはその自分も他人も知らない人格のことを指す。

 他人どころか自分ですらもわからない人格。それはもはや架空の世界の自分と言える。

 しかし、それは紛れもなく自分の中に存在している自分であり、世界でもあるのは間違いないのだ。


 それを簡単に表すために拓真は自分が想像した世界、と言う表現をしたらしい。


「ここまではいいかな?」


 確認する拓真に光司は頷く。

 今のところは理解できている。要は自分の中にいる誰も知らない自分、世界のことをソラと言うのだ。


「でも、ソラを現実に持ってくるには少なくとも自分だけはそれを知らなければならない」


 当然だ。知らないものをどうやって具現化すると言うのか。

 具現化とは言うが実際は誰にでもわかるように説明をするということだ。


 しかし先ほどの通り自分ですらわからないそうなものだ。それをどうやって認識するというのか。


 思った疑問を外に出す前に拓真は問う。


「夢って知ってるかい?」


「夢?あの……寝てる時に見る方の?」


 拓真はこくりと頷き話を続ける。


「そう、その夢だ。夢というのは自分の中にある世界を巡ることさ」


 巡る世界は自分の中にあるすべてだ。そこには当然自分や他人が知らない人格がいる世界も含まれる。


「えっと……つまり、夢を見てある時には誰も知らない自分を知ることができる……?」


「そのとおり。君はおそらく昨日夢を見たはずだ。覚えているかい?」


「はい……」


 しっかりと覚えている。というよりもなんとなく内容が頭にこびりついている。という言い方のほうがしっくりくる。


 今すぐにでも消したい自分。

 誰かの真似をするしかない、自分が本当はなんなのか、そもそも人間なのかすらよくわからなくなるほど『自分』を持っていない存在。


 どうやらその考えが表に出ていたらしく拓真は少し悲しそうな顔をしながら言う。


「……その様子だと。あまり好きな自分ではなかったようだね」


 その言葉に光司は肯定も否定もしない。

 あの存在をどれだけ消し去りたくても紛れもなくあれは自分だ。自分を消し去ることなどできるわけがない。


「なら、少し辛いかもしれないな……」


 そう言う理由はわかる。

 ソラはその消し去りたい自分を説明すること。

 認めたくない部分の存在を認めると言うことであり、それを見つめなければならないということだ。


「でも、やらなきゃいけないんですよね?」


 ゆっくりと拓真は頷き肯定を表す。

 それを聞きさらに表情を暗くさせる光司に安心させるように拓真は言葉をかける。


「まぁ、今すぐにソラを出せるようになれ。とは言わない。ゆっくり割り切れるようになってくれるまで私たちは待つ」


「それって今ソラを出せている人たちから反感を買うんじゃ」


 その懸念をはっきりと首を横に振り否定し、言う。


「いや、それはないよ。ほとんどのものが君と同じ経験をしている。協力する者はいても貶すような者はいないと私が保障しよう」


 「もしそんな者がいたら連れてこい」と言い拓真は笑った。

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