Wake up
「な、なんで……あなたが……あなたは、逃げてくれた、はずじゃぁ……」
「あー、ごめん。無理だった。なんか、ほっとけなくって……」
苦笑いを浮かべながら言う光司に少女は反射的に叫んだ。
「ば、馬鹿ですか!!?あなたはまだ弱くて戦う者ではない!だから、さっさと逃げて強くなってから戦って下さい!!」
そんな会話が交わる中、どちらを狙うかを決めかねているらしくスピーリアは首を光司と少女の交互に向けている。
しかし、狙いは決まったらしく光司に刀の切っ先を向けた。
「それは……嫌だ!」
力がある。
例え吹けば飛ぶような小さな力だとしてもそこに力があることに変わりはない。間違いはない。確かなことだ。
足手まといになる。分かっている。
力など弱く何もできない。分かっている。
そこまで分かっているのなら彼はすぐに逃げ出していた。先ほどまでがそうだった。
力などなく残っていても足手まといになるだけ。ならばすぐに逃げた方がいいと思っていた。
だが、今は確かに力がある。
この力があれば彼女を守るまではできなくとも支えることはできるはずだ。隣に立てるようになるはずだ。
だから光司は少女の前に戻り、戦場に立っていた。
拳を握りしめて思い出すのは少し前、まだトラックの荷台に揺られている時のこと。
「Wake up?」
光司は怪訝な目を向けながらブランド長髪の女性に問う。
その言葉がソラを出すための言葉だと言うが怪しい。
アニメや特撮でもあるまいしそんな言葉1つで簡単に出せるわけがない。
そう思っているのだが女性は至って真剣な表情をしたままで続けて言う。
「もう1人の自分と、世界を受け入れれば自ずと力を引き出せるわ」
その時はいまいちよくわからなかったが今ならその言葉の意味がわかる。
考える必要はない。ただその通りに動けば良いのだ。
ならば下手に迷う必要も戸惑う必要もない。
ただ信じればいい。もう1人の自分と世界を。どれだけ嫌っていてもそれは自分なのだ。
出来ないわけがない。
光司は腰を落とし両手を左腰へと向かわせ、構えを取る。
それは居合斬りの構えだった。
(何を……)
少女が見るに彼のソラは籠手だ。刀など持っているようには見えない。
だというのに彼がふざけている様子ない。真剣に構えをとっている。
スピーリアが狙いを定めた光司へと走る。
斬りあげるつもりらしく刀は下の方で持たれていた。
(速い……でも!!)
確かに速い。だが、それでもあの時に襲ってきた大太刀の一撃の方がこれの倍速かった。
「Wake!飛龍!!」
叫ぶと同時に現れたのは大太刀。
左手で鞘を持ち、右手には柄が握りしめられている。
スピーリアの攻撃に合わせるように一息に大太刀を抜き放ち、振られた刀にぶつけた。
ガギィン!!っという金属同士がぶつかり合う音が響く。
弾かれたのはスピーリアの方だった。大きく崩れた体へと大太刀を振り下ろした。
ギリギリのところでスピーリアはかわし後ろに跳ぶことで光司から距離を取る。
その間に光司は大太刀を鞘に戻した。
「な……んで、そんな……」
その光景を少女は驚愕の表情を浮かべて見ていた。
ありえない。彼のソラは籠手のはずだ。
しかし、彼の左手には確かに大太刀がある。しかも見覚えのある大太刀だ。
それは間違いなく、先日彼を襲ったソルが持っていたもの。
それを彼はさも自分のものであるかのように使っている。
その青年が後ろを向き自分の顔を見てニッコリと笑った。
「いけそうだから……いってくるよ」
「えっ?ちょっ––––」
少女が声をかける前に光司は再び居合斬りの構えを取った。かと思うと次の瞬間には姿が消えた。
気がついた時にはすでに彼はスピーリアの目前へと迫りその大太刀を抜き放とうとしていた。
「ッッッッ!!?」
明らかにたじろぐスピーリアへと一閃、それは刀により防がれたが大きく姿勢を崩すことには成功している。
その隙だらけの身体へと追撃の縦一閃。
右手のみだというのに軽々と振るわれたその一撃はスピーリアの回避により命中することはなかく、掠るだけで終わった。
スピーリアはその場で1回転、当然ながら刀も一緒に振るわれる。
しかし光司は特に焦ることもな逆手に持っている鞘で受け止め、大太刀を振るう。
その攻撃をスピーリアは高く真上に飛ぶことで回避、落下しながらも姿勢を立て直し刀の一閃。
光司は大太刀でそれを受けて鞘を順手に持ち替え振るう。
スピーリアは左腕でそれを受け止めると光司を蹴り飛ばす。
その反動でスピーリアは一気に後退、さらに距離を取ろうと下がるが光司がそのまま逃がすわけもなく追撃、大太刀はすでに鞘に戻され居合斬りの構えをとっていた。
スピーリアの着地の瞬間を狙い一息に抜き放つ。
今度の一撃は刀で防がれることはなく、かわされることもなくその腹を横一閃に斬った。
しかしその横に走った切り傷はあっという間にふさがった。
それを見てすぐに後退、先程まで光司が居た場所を刀が通る。
(おいおい……確かに今手応えあったぞ……)
「ダメ、です。スピーリアもコアを破壊しなければ消滅しません……」
だいぶ回復してきたのか整った息で少女は言った。
そう言われて目を凝らしてみると胸の真ん中だけ少し青の色が濃い。
大きさは変わらないが形は不規則に変わっている不思議な部分、それがコアだった。
「わかった。あれを破壊すればいいんだな」
「簡単に言いますね……」
「やるかやらないか……それが今だろ?なら、今の俺はやる方を選ぶよ」
その言葉に少女は呆気を取られたように目を見開き、少ししてフッと表情を緩めた。
(やるかやられるか。ではなくやるかやらないか……ですか)
変わった人だ。
少し前まで自分の力、もう1人の自分に戸惑っていたというのに今はそんな様子も見せずにいる。
今日初めて自分の意思で戦場に立つ者がこう言うのだ。ならば、自分もただ見ているわけにはいかない。
「Wake up」
唱えると少女の手にハルバードが現れた。それを両手で握り構える。
「……いける、のか?」
「はい。だいぶ回復しました。私の援護を、頼めますか?」
少女の顔は今は見れない。
スピーリアから視線を外せばすぐにその刃が自分を殺すだろうからだ。
そのため彼女が今どんな表情を浮かべているのかはわからない。
「……わかった。あいつの攻撃を弾けばいいんだよな?」
「理解が早くて助かります。隙を作って下さい。そこをやります」
「了解。んじゃ」
光司が構えを取るのと同時にスピーリアも刀を中段に構える。
(防御するつもりか?だが!!)
光司はただ大太刀を抜くとそれを横へと伸ばした。それは居合斬りを終えた後の腕を横に伸ばしきった状態。
「飛龍––––」
呟くように言うとその刃が一瞬光り、青い炎が揺れ始めた。
それは段々と大きくなっていく。
「––––一閃ッ!!」
大きく溜め込まれた力を吐き出すように叫ぶと同時に一気に横一閃。
扇状に伸びる衝撃波、その後に続くように青い龍が伸びる。
スピーリアは一撃目の扇状の衝撃波は防ぐことに成功したが二撃目は確実に間に合わない。
このままだと龍は防ぎことが出来ずに呑まれるだけだろう。
「今!!」
光司が言うよりも速く龍の後に続いて少女は走っていた。
スピーリアは左手で龍を少しでもいなそうとするがその力は圧倒的に龍が上。
龍はスピーリアを轢くと上空に叩き上げた。
少女は高く跳躍、ハルバードを高く掲げる。
「はぁああああッッ!!!」
スピーリアが態勢を立て直し、刀で防がれる前に叫びながら振るわれたハルバードはスピーリアを真っ二つにした。
着地した少女の後ろでスピーリアは灰のようになりバラバラに砕け散る。
「はぁ……はぁ……」
少女は息を整えながらハルバードから手を離し、消す。
それを見て光司も青いガントレットを消し、言葉をかけた。
「お疲れ様」
「何が、お疲れ様、です……か」
ゆっくりと振り向くその少女の顔は段々と凍り付いていく。
視線は自分の真後ろに向けられている。
それに光司が気がつくと少女は再びハルバードを展開させ、走り寄って来ていた。
(まさ……か!?)
光司も後ろの存在に気がつき振り返る。
その視界に映ったのは馬上槍を持った青白いソルだった。
後ろから少女が走り寄ってくるがソルの方が圧倒的に速い。
(クッソ……!!)
光司はその馬上槍に貫かれた。




