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蒼炎のソラ  作者: 諸葛ナイト


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12/15

Thought

 揺れるトラックの荷台。

 壁際に椅子がずらりと並ぶがトラックに偽装しているため、そこには窓がない。薄暗いその二台の中には光司やブロンド長髪の女性以外にも8人乗っていた。

 ほぼ全員が暗い表情を浮かべている。


 しかし光司だけは焦りを浮かべてチラチラとトラックの進行方向とは逆の方へと視線を送っていた。


「……諦めた方がいいわよ」


「……何を、ですか?」


 ブロンド長髪の女性の何かを悟ったような物言いに一瞬動揺しながらも光司はそう聞き返す。


「あの子のことよ」


「……」


 あの少女は確かに強い。しかしスピーリアはさらにその上を行く。

 彼女は時間稼ぎしかできないのではない。

 普通ならば瞬殺されておかしくはない相手に対して時間稼ぎをすることができるのだ。並大抵のことではない。


「けど、そこまでよ。生きてまた会うことはもはやありえない。絶対に、ね……」


 最後の方は小さい子どもに言い聞かせるようにどこか優しいものを感じる声音だった。


「––––ません」


 光司はうつむきながら小さく何かを言った。膝の上にある両手は強く握りしめられている。

 それをさらに強くしながら今度は大きな声で言った。


「諦めるなんて、できません!!」


 その言葉に女性は眉をひそめる。

 それは周りも同じだ。

 小さな「無理だ」「ありえない」という声と哀れみの視線が光司に向けられる。


「……自分が何を言っているのか分かってるの?」


「分かってますよ!!無謀なことだって、無理なことだって!俺が……足手まといなのも!」


 力などない。

 その証拠に自分は彼女に守られていた。

 おそらく彼女は自分が寝ている間にもソルと戦っていたかもしれない。


 覚悟も決まっていない。

 その証拠に足と手が震えている。

 戦うのが怖い。しかしあの少女はあんな華奢な体躯で自分を、自分たちを守るために無謀な戦いを行なっている。


 ないことだらけだ。自分でも情けなく思う。

 しかし、確かに一つだけ確かなことがある。間違いないことがある。


「俺はまだ、あの子にお礼を言えていない!そもそも名前も知らない!!」


 その叫びに女性はパチパチと瞬きを繰り返す。

 他の者たちも似たような表情だ。


 訪れた静寂。

 しかしその間光司は女性の目をずっと見つめていた。


 その目にはまだ甘えがある。弱さもある。覚悟もまだ決まってはいない。だが同時に単純で、それ故にわかりやすい想いがある。


 それを見つけると女性は堰を切ったように笑い出した。


 今度は光司が瞬きを繰り返す番だった。


「あっはっはっ!!君、面白いね。でも––––」


 女性は何かを言おうとしたがその言葉を飲み込み、すこし笑うと光司の肩に手を置く。


「君にかけさせてもらうよ」


◇◇◇


「はぁ、はぁ、はぁ」


 肩で息を繰り返す少女にスピーリアが振るう刀が迫る。

 ハルバードの長い柄でそれを受け止めるが衝撃で少し飛ばされた。


 追撃を防ぐために飛ばされた勢いそのままに後ろに軽く跳び距離を取る。だが、その距離をすぐさま詰められ横一閃。

 今度は斧の部分で切り上げ、刀の軌道を逸らす。


 スピーリアの刀は大きく振り上げられた状態。少女のハルバードは大きく下げられた状態。

 先に動いたのは少女の方だ。


 石突きで殴ろうと振るうがスピーリアは大きく後ろに跳び、それを交わす。


 互いに構えを取り直し、相手の出方を伺う。


 その場に静寂が訪れた。


 ゆっくりと深呼吸を繰り返しながら辺りの気配を探る。


(他にソルがいなかったのは良かった……私1人では対処ができなかった)


 戦闘が始まってからどれほどの時間が過ぎたのかわからない。

 しかし決して短くはない時間を戦っていたはずだ。


 だとしたら彼らはもう結構な距離を開けているはず。

 もし本当にそうなら自分の任務をきちんと遂行することができたということだ。


 もう戦う必要はない。

 スピーリア相手に1人で時間を稼げることができたのならば充分すぎる戦果だろう。


 ゆっくりと深呼吸を繰り返し、肺に取り込んだ空気を吐き出しながら一気にスピーリアへと走る。

 一息で距離を詰めるとハルバードの斧を用いた切り上げを繰り出す。


 スピーリアは刀の峰に左腕を添えながらハルバードの力強い一撃を防いだ。

 それに構わず少女は石突きで殴りかかる。


 少し前と同じようにスピーリアは距離を取ろうと後ろに跳ぶ。

 わずかとはいえ確かに地面に足をつけていない。当然ながら着地の瞬間は隙がある。


 少女はその隙にハルバードの槍を滑り込ませた。

 だが、わずかにスピーリアの着地が早く、ギリギリのところでかわされる。


 斧で追撃を行うが刀で上方向へと弾かれた。

 その衝撃で後ろに倒れそうになるがとっさに後ろに跳ぶ。

 そうしながら中空で構えを取り直し、着地と同時に再びスピーリアへと走り込む。


 次に向けたのはピックの方だ。

 下から振り上げたそれで刀を引っ掛けてスピーリアの手から刀を落とそうとするが身を翻され失敗。

 翻した流れで横に1回転すると横一閃。


 それをしゃがんでかわすとハルバードの槍を向けて突き上げる。

 刀で槍は弾かれるが今度は斧の部分で攻撃、スピーリアは刀で受け止めた。


 しばらく力比べが行われたがわずかに力は少女の方が上だ。

 このまま押し込もうとさらに力を入れた瞬間、わずかにスピーリアは力を緩める。


「ッッ!!」


 想定よりも入りすぎた力により姿勢が崩れた。

 スピーリアが力を抜いたのはほんの一瞬だ。少女にできた隙も一瞬。

 だが、それでもスピーリアにとってはその一瞬があれば十分だった。


 すぐさま半歩後ろに下がると刀を下から切り上げた。

 それはハルバード的確に捉えて弾き飛ばす。

 少女の手から離れたハルバードは空中を数度舞うとふっと姿を消した。


「くっ!!」


 歯を食いしばり咄嗟に右前へと前回り受け身をとることで追撃で振り下ろされた刀をかわす。


 わずかに足が掠ったが気にせずに1回転するとすぐさま立ち上がり振り返った。


 すぐにソラを出そうとするがそれよりもスピーリアの動きの方が早い。


「ッッ!?」


(そん、な––––)


 少女は思考する。

 ここからどうすれば生き残れるのかをどうすれば死なずにこの状況を脱せるかを。


 普通のソルならば良い。しかしスピーリアはまずい。スピーリアの攻撃で1回死ねばそこで終わりだ。

 

(私は、まだ––––)


 ––––死にたくない。


 そう思った瞬間だった。


「うおおおおおおッッ!!!」


 その声は僅かに震えていた。

 まるで自分の恐怖を押し殺すかのように大きく辺りに響かせるような声だった。


(え?)


 少女が気がついた時には目の前にいたのはスピーリアではなく、それを青い白い籠手(ガントレット)で殴り飛ばす1人の青年だった。


 体の震えを止めるように、覚悟を決めるように、自分がいる場所を自覚するかのように、その青年は叫ぶ。


「来いよ……化け物!!」


 それが初めて己の意思で戦場に立った甘手光司の言葉だった。

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