5話
お気に入りの手芸屋さん、Soramiyaでのお買い物を終えて、ショッピングモールを歩いていると、
「あ……」
「あ、小野宮さん」
さらに気付いて、歩いてくる。
「もう、大丈夫か?」
昨日出会った、長い髪のお姉さん。昨日はポニーテールだったけど今はおろしてる。制服だ。部活に行ってたのかな。
「はい。昨日はお礼も言えなくて。ありがとうございました」
前を歩いていたみんなが振り返って、さらに気付いてまた戻ってくる。
「気にするな。ご家族と一緒なのか」
「そうなんです。買い物に来てて」
迷子になるからちゃんとついてきてって、もう子どもじゃないし携帯だってあるのに。こうしてお買い物をする時は、5人で固まって歩くんです。興味津々って顔で、遠慮なく紫咲さんに話しかける。
「あら、さらちゃんのお友達?」
「もしかしてさっき話してた?」
「うん」
どうしよう、紫咲さんに話したこと、知られるのはなんか恥ずかしい。ママったら。
「紫咲弘美です。桜来さんとは同級生です」
「まあまあ弘美ちゃんって言うのね! 昨日はお世話になったみたいで!」
「いえ。大したことはしてませんよ」
「カッコいい子じゃない! 何かスポーツをしてるの?」
ママもお姉ちゃんも、そんなにいっぺんに話しちゃ紫咲さんが困っちゃう。
「部活は剣道をしてます。他にも趣味でいろいろと……」
「そうだ! ねえ、紫咲さんこれから時間ある?」
「あ、カフェにでも入らない? 弘美ちゃんのお話聞きたいし!」
お姉ちゃんたちの提案に、流石に困った顔の紫咲さん。音夢お姉ちゃん、もう名前呼び?
「ご家族で団欒の時間に自分が入るのは申し訳ないですし……」
「紫咲さんにも予定あるだろうし、申し訳無いよお姉ちゃん」
フォローになってるか、分かんないけど。
「ああいや、部活は午前中で終わったんだが」
あれ、予定があるから困っているわけじゃなかったみたい?
「あら! じゃあ行きましょ! ママたちも話聞きたいわ!」
音夢お姉ちゃんと和奏ママが、両側からしっかり紫咲さんの腕を組んで歩きだす。
「ご、ごめんなさい、紫咲さん。嫌なら断っても」
「いいんだ。わたくしも小野宮さんのことをもっと知りたいと思っていたから」
え、さらのこと?
「昨日、横山先輩が嬉しそうに小野宮さんの話をしてくれたんだ。だから」
みぃったら、何を話したんだろう。確かに昨日起きた時、すごくご機嫌だったけど。
「さらちゃんのお話ならお姉ちゃんたちに任せて〜」
「ママだってたくさん話せるわよー」
なにか恥ずかしい話をするんじゃないかとそわそわしながら近くのカフェに入る。さらは紫咲さんの隣に座った。
「紫咲さん、部活終わりだったらお腹空いてるんじゃ?」
多分、運動部だろうし。髪を結んでたし、寮まで送ってもらったから。
「ああ、実はちょうどどこで食べようか考えてたところだったんだ」
「あらそうだったのね! 遠慮しないで頼んでちょうだい。昨日のお礼だから」
カフェだから軽食しかなさそうだけど。
「え、でも……」
「ママ、このパフェ頼んでいい?」
「私にも分けてー」
「さらはグレープフルーツジュース」
「私、このホットケーキ」
「和奏、食べ過ぎじゃない?」
「歩いてお腹空いたんだもん」
「お昼あんなに食べたのに……」
「叶香ちゃんも食べるでしょ?」
「少しもらうわ。弘美ちゃん、決まった? 本当に、遠慮しなくていいからね」
「えっと、じゃあ明太子パスタで」
「はーい」
紫咲さん、緊張してないかな。大丈夫かな。
そういえば今日は髪をおろしてて、昨日会った時は飾り気のないゴムを付けてたよね。
「弘美ちゃん、さーちゃんの話が聞きたいんだったね」
「変な話しないでね?」
さらの話してるだけで恥ずかしいから、さらはあんまり聞きたくないです。何か作ってようかな。
「はい。是非」
「弘美ちゃんって、お料理はする?」
料理。さらは基本はサラダしか食べない。料理とは言えないか。
「人並みには出来ると思います。運動してるので、バランスの良い食事は心がけてますが」
「そっか。十分ね。じゃあお願いなんだけど、桜来にお肉を食べさせてくれない? 野菜ばっかり食べてるから心配なのよ」
お肉は、食べれないわけでは無いけど好きでもないのです。サラダにも野菜しか入れません。
「そうそう! さーちゃんもっと太ってくれないと、音夢も心配だよ。鉄分摂るにはレバーだよ!」
貧血にはなるけど……小松菜とかブロッコリーとか、鉄分の多いものはちゃんと摂ってるんだよ。
「それは、良くないですね」
「野菜食べてるからいいでしょ?」
紫咲さんに頭をぽんぽんされる。
「昨日、すごく軽かったから心配だったんだ。そういうことだったのか。横山先輩は、料理をしないのか?」
「みぃは、最近料理頑張ってるけど……基本的には全部食堂で済ませてるから」
大学でも家へ帰らずにひとり暮らしをしたいけど、今より節約しないといけなくなるからって、少しずつ料理の勉強をするようになった。元々する必要がないからと手を出していなかっただけで出来ないわけではないみたいだけど。
「じゃあ今日戻ったら、このまま泊まりに来ないか? 明日簡単に作れるものを教えるし、筋肉もつけた方がいいから、寝る前のストレッチも教えてあげられる」
泊まり? 紫咲さんのお部屋に?
中等部から星花に通ってるけど、ほかの部屋にお泊まりに行ったことって無いや……。
「そうしてもらった方がいいわ、さーちゃん」
「いろいろ教えてもらってね。帰りも弘美ちゃんが一緒なら安心だね」
「桜来、来年からもう美守ちゃんは大学生で、ルームメイトが誰になるかも分かんないんだからね。自分でちゃんと身の回りのこと出来るようになっておかないと」
ママに言われて、分かったと答える。十分出来てるつもりなんだけどな。みぃは確かに面倒見が良くて、洗濯物を出してくれたり部屋の掃除もしてくれるけど。
「紫咲さん、さらと同じ桜花って言ってたよね。ルームメイトさんの都合は大丈夫なの?」
「うん、大丈夫だよ」
即答だけど、何故か苦虫を噛み潰したような顔をする紫咲さん。提案してくれた側だから、別の都合の良い日にさらが合わせるのもいいんだけど。本当に大丈夫なのかな?
「小野宮さん……桜来、って呼んでも大丈夫?」
「もちろん。えっと、弘美ちゃん」
友達がいないわけじゃないけど、やっぱりこういうのは照れちゃいますね。
「弘美ちゃん、うちのさーちゃんをよろしくね?」
「今度私たちの家に遊びに来てね」
みんな大袈裟だなぁ、もう。
こういう時のママって、遠慮しないでねって言うと本当に遠慮せずにしないと強引に適当に頼んじゃう。私の経験上そんな感じの人が多いですな。