2話
2ヶ月くらい空きましたかね……
急いで保健室に戻ると、彼女は黙々と編み物をしていた。
「何を作ってるんだ? それはどこで?」
「マフラーです。あの、さらは毎月、その、重くて……常連なんです。あの、サボってるわけじゃ、」
彼女は口数が多くない。けど、その必死さは充分伝わってくる。
「そんなこと分かってるよ。どうかしたか?」
わたくしの制服姿が気になるようだ。
「いえ、てっきり上級生かと思っていたもので。同級生だったんですね」
ああ、そういうことか。
☆
わたくしが最初に彼女の声を聞いた時。どうにも苦しそうで放っておけなかった。
保健室を訪れた理由は先生に相談があったからで。しかし、先生はあいにく不在だった。
引き返そうとした時に、苦しそうに、浅い呼吸を繰り返すのが聞こえたのだった。
眠っているのか、意識があるのか。どちらなのか、あるいは両方なのか。分からないままにベッドに近づく。明らかに顔色の悪い少女を見て、白井先生は何をしているんだと少し憤りを感じる。が、ここにいない人のことを考えても仕方ない。
近くのパイプ椅子を引き寄せ座る。
なんとなく。そう、なんとなくだ。
彼女が温もりを、欲しているのではないかと。
ふとそう思ったわたくしは、彼女の左手を、軽く握った。
「ん……おねぇ、ちゃん……」
まさか反応があるとは思わず、咄嗟に離そうとしたのだが。その力は弱いながらも、きゅっと手を握り返されてしまう。
……、まあいいか。この後予定があるわけでも無し。彼女が起きるのを待ってみてもいいだろう。
「はぁー今日のは長かったなー。ん? ああ、紫咲さん。どうした?」
「あ、いいえ。この子は?」
「見てくれてたの? だったらこのまましばらく頼むよ。わたしが戻らなかったら先に帰ってくれてもいい。少なくともそれまで、1人で帰らないように見張っててくれ。んじゃ」
会話になっちゃいない。
☆
まあそんなわけで、こうなったのだった。
どうせ帰らないといけないし、目的地は同じなのだから、一緒に帰るなら問題無いだろう。
先生には持っていたメモ紙に書き置きを残した。
「わたくしは紫咲弘美。2組だ」
「小野宮桜来。5組です。あの、ほんとに、自分であるけます……」
「遠慮するな。目的地は一緒だから……寂しいのか、寮生活」
彼女がお姉ちゃんと呼んでいたのを思い出しながら問うた。わたくしにも姉がいるが、同じ市内にいるし簡単に会えるからそういう風に思ったことはないな。
「あー、いえ。週に1回会ってるから……ただ、何かあるとお姉ちゃんに頼る癖がついてて」
週に1回、って。
「それはまた、随分過保護だな」
「ほんとに。これ以上、頼らなくても自分でできるようにって、寮で暮らしていくって決めたのに」
とことん、真面目なんだな。
「そうか。寂しいわけじゃないなら、少し安心したよ」
沈黙が落ちる。歩いているうちに寮が見えてきたが、そういえば部屋の場所、教えてもらってなかったな。
「小野宮さん、」
声をかけたが、返事がない。立ち止まって彼女の方を振り返ってみると、顔までは見えないが、安定した寝息が聞こえた。
「参ったな……」
起こすのも申し訳ない。とりあえず、寮に着いてから考えるか。彼女のクラスメイトにでも会えるかもしれない。
一応、リリカラを先に完結させたいのでこっちはまだ亀更新になると思います。