14話
「萌香ちゃんって、お菓子作りとかする?」
放課後教室に来た萌香ちゃんに遊びに行こうと誘われて、帰ってきた。洋服、それもさらが普段着ない少し派手めなものを買った。帰ってきてからそれらに着替えて、メイクを施されているところです。
「お菓子? 作んないかな。なんで?」
「バレンタイン。今年はたくさん作りたいからお菓子にしようかなって」
家族だけじゃなくて、みぃと弘美ちゃんと萌香ちゃんと、放課後一緒に作ってる子たちにも。すごくたくさんになりそうだけど、お菓子ならあげられるかな。
「チョコは苦手だって聞いたような気がするけど……」
「弘美ちゃん?」
「うん。ほら、あれだけモテてると数がすごいから。多分、チョコというよりバレンタインがじゃない?」
そっか。でも、何かしてあげたいな。まだ少し時間はあるし考えてみよう。
「できた。どう?」
鏡を見る前に、ドアが開く音がして振り返る。
「桜来? ここにいたのか」
「うん」
「萌香と一緒なのは聞いたけど、そんなことになっているとは」
改めて自分で鏡を見て驚く。萌香ちゃんはばっちり濃いメイクをしてて大人っぽい。でも、さらにしてくれたのは自然なもの。同じ道具を使ってもこんな風にもできるんだ。
「どう?」
「萌香のセンスがいいとは思わなかったよ。すごく似合ってる。でもわたくしはいつもの方が好きだ」
「大人になったらこんな風にするのかなって。お勉強しなくちゃね」
ママもお姉ちゃんもいつもお化粧してるもの。今からこんなにしっかりお化粧出来る萌香ちゃんはすごい。洋服と合ってるし。
「始めてみたら楽しいよ。ただ、ハマっちゃうとお金がいくらあっても足りないけどね」
「落とすの勿体ないね」
「ああ、大丈夫。まだ完成じゃないから」
あれ、できたんじゃなかったっけ。
「まだやるのか?」
「うん」
外は暗くなっていて、いつもならご飯を食べてる時間だ。みぃに連絡しなくちゃ。遊んだ時に少し食べたおかげでお腹は減ってないから、終わってからでも大丈夫そう。
「桜来、コテは持ってるの?」
「こて?」
「持ってないってことは、癖がないのね。羨ましい」
すごく手際が良いよね、萌香ちゃん。
「メイクさんにでもなるの?」
「別に、好きでやってるだけ。それもありかもね」
「手際が良いからどこでもやっていけそう」
「ありがとう、否定はしないかな」
コンコン、とノックの音に、荷物を片付けて着替えた弘美ちゃんが反応する。
「先輩?」
「なんか面白いことしてるみたいだから来ちゃった!」
「桜来に聞いたんですね。どうぞ」
呼んだつもりじゃなかったんだけど。
「さーちゃんすっごく綺麗じゃない! 大人っぽくなったからお姉さんたちに近づいた感じがする! はじめまして久城さん、さーちゃんのルームメイトの横山美守です。すごくお化粧が上手なのね」
「……どーも」
弘美ちゃんは冷蔵庫の中身を確認していて、髪を整え始めたさらたちに、
「わたくしは夕食を作ってくるよ。萌香も食べるか?」
「うん、そうする」
「あら、じゃあみぃも手伝うね!」
「助かります」
部屋を出ていくみぃと弘美ちゃんを見て、バレンタインの案が1つ浮かぶ。これなら、いけるかもしれない。