12話
「できた」
「わーっ! すごいね。上手くなったらこんなにすぐに出来るんだ〜」
「可愛い…」
「それ、バレンタインのプレゼントじゃないんでしょ? 今渡してきたら?」
「うん。そうする」
さらも早く渡したいし。
「じゃあまた明日ね」
「うん。みんなも」
ばいばーい、と応えてくれた声は、当初の5人から誰が広めたのか、どんどん増えていた。放課後はみんなで集まって、お喋りしながら楽しく編み物を進める。いつの間にかせんせーなんて呼ばれてるんだけど、みんなそれぞれ作るのを楽しんでるみたいでさらは嬉しい。
明日もみんなと一緒に過ごすのが楽しみだな。
◇ ◇ ◇
「かっこいい……」
全員が全員、弘美ちゃんのファンというわけじゃないとは思う。でも、道着を着てるのも、的を見つめる目も、スっと伸びた背筋も、かっこいい。
空気を乱さないように声をグッと堪えて、でもみんな夢中で弘美ちゃんのことを見てるのが分かる。
このくらいの時間に終わると聞いてたし、マフラーも完成して一刻も早く渡したくて道場まで来た。まだお話があるみたいだし、端っこで待っていよう。
「桜来! どうしたんだ? こんなところで」
部活が終わり、わっと押し寄せたファンの子をかき分けて、弘美ちゃんが桜来のところに来てくれる。
「マフラーが出来たの。早く渡したかったから」
「ありがとう。準備してるからもう少し待ってて。ここ、寒いだろ?」
自分の分を巻いた上から二重にマフラーを巻かれ、もこもこになった。満足気に部室に戻っていく弘美ちゃんを、もう少しだけ待つ。
なんだか視線を感じると思ったら、羨ましそうな顔を向けられていた。
そっか。桜来だけ贔屓されてるように見えちゃうもんね。
お友達、なんだけどな。人気者は大変なんだね。もうちょっと考えて行動しないと。
すぐに荷物を持った弘美ちゃんが戻ってきて、学校を出た。今日もうちで泊まってくれるらしい。いつの間に用意したのか、夜ごはんを持ってきてくれるそう。あれから時々おかずを持ってきてくれたり、料理を習ったりしてる。
お肉を食べるようになったこともそうだけど、おかずもお野菜いっぱいで少し食べ過ぎちゃうくらい美味しい。
弘美ちゃんと出会えて良かったなぁ。今日の夜ごはんも楽しみ。
◆ ◆ ◆
「誰? あの子」
「初めて見たね」
「ファンクラブのメンバー、ではないですよね」
「親しそうだったわ」
「弘美様にあんな風に声をかけてもらえるだなんて……」
「羨ましい……」
餌付けされるさーちゃん