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少女は心を求めている  作者: 猫神父
第一章 高天原
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第一話 森の少女

 深い森の中、一人の少女が目を覚まし、カプセルから出てきた。

 きょろきょろと周りを見るその眼は無機質であるが何かを探してるかのようだった。

 そして少女は気づいた、自分が入っていたカプセルの中に袋が入っている事に。

 中を開くと多少の貴金属製品と手紙、そして小さなナイフであった。

 少女はそのナイフが、ただのナイフではない事を知っていた。

 自分を創り上げた創造者達が作った自分専用のナイフ、「Preghieraプレギエーラ」である事を。

 そして手紙を開き内容を読むとそのまま折り畳み、袋に戻した。

 手紙の内容は理解できる、けれどその少女には理解出来るだけだった。

 手紙の内容は今置かれている状況の説明、そして幸せに生きて欲しいという少女の創造者達の願いであった。

 少女には生きるという事は理解できる、けれど幸せになるという事が理解できない。

 理解は出来ないが…、少女は胸の中が温かくなる、そんな感覚を覚えた。

 誤作動なのかとシステムチェックをしたが異変は無い。

 ならば問題ないだろうと少女は歩き出した。

 延々と続く森、初めて見る光景であるが、それは元からそうだ。

 少女は研究所の外を知らない。

 研究所で産まれ、研究所で育ち、研究所の中しか知らない無垢な少女。

 危険な物が無いかと知らない植物を見たらすぐにスキャンをしながら進んだ。

 成分、性質、生態。

 どれをとっても少女の知識にない植物ばかりだった。

 少女の知識は研究者たちによって様々な物を植え付けられている。

 けれど少女がいくら検索し、演算しても地球の生態ではない事がうかがえる。

 その種の起源を、惑星の起源を別としない限り産まれてこない様な植物ばかり。

 少女は創造者の一人である男に言われた事を思い出した。


 『未知を発見したらなるべく多くサンプルを得るんだ。そうすれば未知は既知へと変わる。君の体は確かに人間以上に頑丈だが、君の知識は得ただけの物、付け焼刃に過ぎない。だから様々な物を探求すると良い。』


 その言葉を思い出し、スキャンで得た中で有用な成分がある物をサンプルとして確保する。

 幸い袋の中にはいくつかサンプルを入れて置ける容器が入っておりその中にしまっておく。

 今はただの森の中だがどこかに人の居る場所があるかもしれない。

 そこで道具を使い未知を既知に変えようと考え出来るだけ採取した。

 そんな事を繰り返しつつ歩いていると、血の臭いと叫び声が聞こえて来た。


 「くっ!引け!引けぇ!!」


 少女の耳には女の声が聞こえて来た。

 鈍い金属がぶつかる音も。

 誰かが争っているのだろう。

 少女は自分が戦闘用にカスタマイズされている個体だと知っていた。


 『良いかい?本来、君はただの人工的に創造された普通の少女となる予定だった。けれど長引く戦争のせいで戦闘用に作り替えられている。だから今から君に戦術論を学ばせようと思う。私達の愛し子が死なない様に。』


 少女はそう言っていた、創造者の一人の言葉を思い出していた。

 こういう状況の場合の対処法、戦術論としては聞いている。

 まずは様子見と、音のする方へ隠れながら少女は無音で移動した。

 音のしたところにたどり着くと、少女の眼に映ったのは甲冑姿の人間達四人、それと少女の知識に存在しない幻想生物六匹だった。

 見た所、どうも甲冑姿の人間達の方が囲まれており、幻想生物、少女の知識で該当するのは昔話に出てくる妖怪、鬼だろう。

 この場合どうするか、少女は脳内でシュミレートした。

 『甲冑、幻想生物共にこちらに気づいた様子は無い。どちらにも奇襲は可能、ただしどちらの戦力も不明。現状の様子から幻想生物の方が有利、けれど見た所幻想生物との交渉は不可能と思われる。両方をスキャン、多少の差異はあれど甲冑側は人間、幻想生物の表皮から持ちうる武器での攻撃は有効。甲冑側が人間であれば交渉し、未知を既知へと変える事が可能となる。交渉の為に、幻想生物の排除が最も最適解である。』

 戦術シュミレートが完了した少女はゆっくりと左手を幻想生物の方へ向けた。


 「『エア・バレット』」


 音も無く、少女の左手から発射された圧縮された空気は一匹の幻想生物の頭部を粉砕した。

 これは魔法でもなんでもない、少女の左手に内蔵された空気銃である。

 幻想生物が突然の事に驚いてる隙にさらに撃つ。

 一発、二発、三発。

 これだけ撃てばバレるだろうと判断した少女はナイフを握り草むらから飛び出した。

 甲冑姿の人間達は音も無く現れた少女に戸惑っていたが、少女にとってそれはどうでもよかった。

 こちらを振り返った幻想生物の頸動脈を一太刀で斬った。

 首を押さえながら倒れたのを確認し、即座にスキャン。

 致命傷と判断し、最後の一匹を仕留めようとした時、少女は斬ろうとした腕を幻想生物に掴まれた。


 「********!!!!!!」


 何かを叫んでいたが少女には理解が出来なかった。

 少女は該当する言語を検索したが無し、ただの咆哮かはたまた少女の居た世界に存在しない言語か。

 至って冷静に分析していた。

 その姿を見て甲冑姿の人間達は焦ったように武器を構えて何かを叫んでいたが、少女にとってそれも些末な事。

 幻想生物が掴んでいる腕に組み付き少しばかり少女は力を込めた。


 ゴキリ。


 骨を砕いた音が響いた。

 また幻想生物は何かを叫んでいたがもう少女にとってそれはどうでもよかった。

 隙だらけになった幻想生物の首にナイフを当て、そのまま切り裂いた。

 生き物の命を奪う、少女にとってそれは何の抵抗も感じない当たり前の行為だった。

 甲冑姿の人間達は戸惑っていたが少女は自分に敵意がない事を示すためにナイフを仕舞った。




***




 「くっ!引け!引けぇ!!」


 女性は焦っていた。

 ただの妖魔の討伐、その程度の話で二百名の部下を連れ、森へとやって来た。

 けれど蓋を開けてみればどうだ、ただの妖魔所ではない、災害指定されるレベルの上位鬼が現れたのだ。

 一匹現れただけで国一つ半壊させるほどの化け物。

 皇都に居る精鋭の陰陽術師数十人がかりで抑え込み、その間になんとか倒せるレベルの災害だ。

 そんな存在が今、彼女の目の前に六体も居る。

 はっきりと言おう、これは絶望的という問題ではない。

 大陸の危機とまで言える状況だ。


 「速く引け!急いでこの事を兄上に!皇都に報告するのだ!!」


 いくらこの状況でも生き残った兵士達を急いで皇都に戻し、至急対策を練らせる。

 今できる最善手はそれしか彼女になかった。

 その為に自分の命すら使ってでも、一刻で良いので足止めをしなければならない。

 彼女が後ろを見ると三人の直属の部下が撤退もせずにとどまっていた。


 「お前達も速く引いて皇都に報告に行け。」

 「すいませんね、姫さん。俺らあんた置いてけねぇんだ。」

 「そうそう、俺らはこれでも姫さん慕ってついてきた変わりモン。」

 「黄泉路、御供する。」

 「バカ者共が…、良いだろう。ここで黄泉路に付き合ってもらうぞ。」


 彼女らは笑いあって刀を構える。

 彼女は戦姫、皇族に相応しくない、女が戦場などと嘲られ続けた存在。

 だが、そんな彼女と共に命を散らしてくれるという部下が居る。

 それだけで彼女の心は救われた

 ならば、彼女はこの部下達を少しでも長く生き永らえさせ、皇都に戻った兵達が上位鬼を倒せる者達を引き連れてくるのを待つのみ。


 「時間を稼ぐぞ!一秒でも長く、生きろ。」

 「「「応!!!」」」




 奮闘むなしく、すぐに足止めにもならないレベルで追いつめられた。

 全員疲弊し、上位鬼を斬れる状態ではない。

 むしろ六匹相手に一人も死んでいない、奇跡だったが追いつめられた状態ではもう絶望しかない。


 「皆、よくここまで仕えてくれた。最後に一太刀でも奴らに手傷を…。」


 彼女が死と引き換えに挑むよう命じようとした時それは起こった。

 目の前に居た上位鬼の頭部が弾けた。

 その様な事、皇都のどの術師でも出来る事じゃない。

 それは、後三回ほど起こった。

 全員唖然としていたが計四回。

 それだけ起こればそれがどこが起点なのかが全員察しがつく。

 彼女らがその方向を見た瞬間、飛び出してきたのは五歳位の少女だった。

 銀色の髪、赤い瞳、質素な服。

 まるで作られたかの様に愛らしい少女は持っているナイフで目の前の上位鬼の首を斬り裂いた。

 熟練した技術、そう思わせるほどそれは美しい光景だった。

 戦場であるというのに彼女はその少女に見惚れていた。

 けれどすぐにそれは焦りに変わった。

 上位鬼が少女の腕を掴んだのだ。

 ただでさえ上位鬼、その腕力は城壁を一撃で粉砕出来る力を持つ、小さな子供の腕など枯れ枝を折るより容易い。


 「お前達!急いであの子供を救出するぞ!!」


 そう叫んで持ってた刀で少しでも緩めばと斬りつけようとしたが少女はそのまま鬼の腕に組みついた。

 そして、骨をへし折った。

 ありえない、上位鬼の骨は鋼よりも固く、めったな衝撃を与えなければ欠ける事すらない。

 それをただの少女が組み付いてへし折るなど常軌を逸している光景である。

 彼女たちは唖然と見ている間に少女はそのまま鬼の首を斬っていた。

 もう心の中はわけがわからない、ただの少女にそんな事が出来るわけがないという思いでいっぱいであった。


 (この子供は魑魅魍魎の類ではないのか?)


 もしかしたらこのまま自分達もそのまま襲われるかもしれない、そう警戒していると、少女は持っていたナイフを仕舞いじっと見てきていた。

 敵対する風でなくただ、じっと見ていた。

 リーダーである彼女はこれでも皇都の戦姫、眼を見れば相手が何を考えているかわかる位の洞察力には自信があった。

 けれどその子供の眼は、虚ろだった。

 なんの感情も無い、ただただ虚ろ。

 目の前で鬼を倒した事だってもしかしたらただの気まぐれでこちらも殺されるかもしれない。

 けれど、彼女は攻撃の意思を全く示していなかった。


 「言葉は…、わかるか?」

 「わかる。ミコトは交渉の為にあなた達を助けた。」


 涼やかな声だった。

 けれど、声にも感情が入っていなかった。

 無機質、それが一番妥当な言葉であろう。

 しかし、交渉しようという意思があるならこちらと敵対する気は無いのだろうと判断し続けて声をかけてみる事にした。


 「こちらは命を助けてもらった身だ、最大限譲歩しよう。」

 「ここの該当座標、知識、研究道具の使用許可が欲しい。最低でも座標、知識が欲しい。研究道具は用意や権限が難しいと判断、出来うる限りで構わない。」


 知識と研究道具は彼女には理解が出来た、一応彼女は皇都では皇位継承者の一人。

 その程度用意する事は、何ら問題がなかった。

 けれど『座標』と言う言葉は彼女らには理解できない物であった。


 「知識とはどの程度の物かわからぬが、皇都の図書館の閲覧許可、研究道具も私の権限で多少の用意は出来る。けれど『ざひょう』とはなんだ?初めて聞く単語で理解が出来ない。」

 「座標とは現在地の事、ミコトはこの地域の事を何も知らない。ミコトは天文学も修めているが見える範囲に該当する星座がない。現在地の把握は必須である。」


 まるで陰陽術師が使う高位の式神の様な喋り方をする少女だが、ここまで精巧な、それも人を模し上位鬼を倒せる式神など彼女らはは聞いた事が無い。

 けれど少女が欲する『座標』というものがその説明で理解が出来た。

 『天文学』や『星座』などの、また不可解な言葉も出てきたが、彼女らにとってこの少女は付近の住人でなく、ただたまたまここに居合わせた迷い子なのだという風に理解した。


 「なるほど、ここは皇都高天原近郊の森、山鎚の森だ。ここから北上すれば皇都高天原に着く。命を救ってもらった恩もある、皇都までそなたを案内しよう。」

 「…わかった。ミコトはあなたに着いていく。」


 見た目はただの幼い少女だが、腕は確か。

 ただ多少無知なとこがあるこの子供を連れ帰れば、問題が起こる事もあろうがそこは自分がなんとかしようと彼女は心に決めた。

 そして命を救ってもらった恩人に名前を名乗る事を忘れていた事を思い出した。


 「そう言えば名を名乗るのを忘れていた。申し訳ない。私の名前は天照桃花姫あまてらすとうかひめと言う。」

 「ミコトの個体名称はA-007。ミコトの創造者達マスターはミコトをミコトと読んでいた。」


 『個体名称』というのも『A-007』というのも『創造主マスター』というのも彼女らわからない単語だ。

 けれどミコトと言う名前、それはとても少女を想ってつけられた名前である、それだけは感じた。

 短編では須佐姫すさひめでしたが理由があって桃花姫とうかひめに変わっております。

 理由があるんです!!

 その理由はまたいつか・・・。(伏線

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