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少女は心を求めている  作者: 猫神父
第一章 高天原
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プロローグ

 少女は決まった時間に起きてきた。

 毎日毎日、同じ時間に規則正しく。

 やる事も毎日同じ、それは少女の性格からではない。

 少女は創られた存在、人造人間バイオロイドだからだ。

 少女は起きたらすぐ決まった服に着替える。

 研究用の衣服、分かりやすく言えば手術着だろう。

 それしか与えられていない。

 少女の親である研究者たちはいろんな服を着せたがっているらしいが、許可が下りなかったらしい。

 曰く、研究素材であり戦術兵器に戦闘服以外の衣類は不要、普段は研究用の衣類でも着せておけとの事らしい。

 研究者たちは不満であったが、少女にそんな感情は無かった。

 戦闘用に創られた彼女に与えられた研究使命、それは心を得る事。

 全ての人造人間バイオロイドに言える事なのだが、一から創りあげた人造人間バイオロイドは心を持たない。

 過去にそのせいで暴走し、アメリカ大陸と呼ばれた大地を立ち入る事すら不可能にする大参事が起きた。

 通称「サタン・インパクト」と呼ばれる事件。

 その悲劇を回避する為に人造人間バイオロイドに心を持たせようとする実験が各地で行われていた。


 「いつも通りだねミコト。じゃあ今日の勉強を始めようか。」

 「了解しました、マスター石塚。」


 マスター石塚と言われた男性は少し寂しそうに少女に見る。

 元々少女の見た目は石塚の亡くなった娘を模して創られており、最初も彼の娘の代わりとして創られた戦闘用ではない物だ。

 彼の娘は過去の惨劇、「サタン・インパクト」で亡くなり、亡骸ですら発見できないでいる。

 いや、その事件の原因は人造人間バイオロイドに使われるエーテルと言われる人工血液の高濃度高純度弾頭によって引き起こされた物。

 それを打ち込まれたら命ある物は、細胞単位で自壊が始まり、髪の毛一本骨の一欠片すら残らないので亡骸が発見される事は無いだろう。

 現在はそれを踏まえ、一定水準以下のエーテルの使用しか出来ない様に国際条約で規定されている。


 「マスターではなく私達は君の親なのだからパパと呼んでほしいのだがね。」

 「マスター石塚、私には『親』という感覚がわかりません。現状の認識で理解できぬまま呼ぶのは非合理的で不誠実であると判断します。」


 これは毎回研究者たちと少女の間で交わされる事だ。

 ここでずっと研究と称した研究者たちとの会話などは行われている。

 けれどいつも同じ返答である。

 少女は親という概念を理解はしている、けれどそれが自身に対してどういうものかを理解して居ない。

 彼女にとって研究者たちは創造主マスターでしかないのだ。

 無機質に無感情にいつものようにそう切り捨てる。

 石塚はしょうがないと諦めた様にいつもの日課である授業を始めた。

 彼が教えているのは道徳。

 至って単純な話であるが、心を得るためには必要な事であると考え、教えている。

 そうして石塚の授業が終わると、少女は一礼して次の授業に向かった。

 それを石塚は寂しそうに見送った。





 「やぁマリオ。試算はどうだい?」

 「なんどやっても無駄さ。"結果は覆らない"。だから別の演算に力を割いている。」


 薄暗い研究室に二人の研究者が居た。

 彼らは少女を自身の娘の様に可愛がっている二人だ。

 彼らも石塚と同じように妻子を失っている。

 今現在、地球は「サタン・インパクト」の影響で生きる場所を巡る世界大戦が勃発している。

 そして、その影響である一つの重大事項が発生している。

 「サタン・インパクト」など些末な事と断じれるほどの事案。

 「超・超新星爆発」。

 人類は禁忌と呼べる事を犯してしまった。

 惑星すらも巻き添えにする大量殺戮兵器。

 いや、宇宙崩壊兵器と言っていいだろう。

 それはすでに手遅れな所まで来ている。

 既に時限爆弾のスイッチは押された。

 後は残る時間どれだけの数が多く、逃げ切れるかだ。


 「それで?爆発の規模は?」

 「楽観視して銀河を一つ丸のみにするレベルだね。連鎖反応から見るに、この宇宙は無になる可能性が高い。」


 もしかしたら他の星にいる知的生物すら巻き添えにする無理心中。

 それもすでに起爆スイッチが入り、止めれる確率は那由他の彼方に等しい状況。

 愚かしい人間が愚かしい方法で世界を滅ぼす。

 自業自得とはいえ、もしかしたら存在するかもしれない他の惑星の知的生物に申し訳ない。

 もう止まらない爆弾ほど厄介なものは無い、しかもその爆発元が地球その物なのだ。

 ただの爆弾であれば隔離処置を取り安全に爆発させるのがセオリーだろう。

 けれど惑星を爆弾に仕立て上げ、起爆するような物を一日二日で抑え込むなど、どれだけの研究者、資材、資金を投入しても不可能だろう。

 だから彼らは研究を別の方向にシフトした。

 自分達は良い、他の惑星に居るかも知れない知的生命体には申し訳ない。

 けれど彼らが愛する少女ミコト。

 あの子だけは救いたいと考えているのは石塚の友であり、ミコトの親でもある研究者たちの総意だ。

 彼らもわかっている、それがどれだけ身勝手で自己満足である事も。

 けれど彼らには譲れなかった。

 彼らは少女を愛していた。

 皆、家族を失った者達の集まりであるが、それでも少女を実の娘の様に愛していた。

 だから、いくら罵られようと考えを変える気は無かった。


 「それで、"そっち"の成功率はどんな物だ?」

 「実用テストもやったが…、まぁ観測が出来ないから確実とは言い切れない。本当はもっと検証を重ねたい所だがもう時間は無い。」

 「いつだ。」

 「半月、いや、一週間も無いだろう。速めに準備を整えるべきだろう。」


 彼らが現在行っている研究、それは次元を超える研究である。

 研究者たちは優秀である、その研究は「超・超新星爆発」が起こるとわかった瞬間から始まって、すでに実験自体は完成していた。

 けれど安定性、確実性に欠けていた。

 次元を跳躍する事は理論上可能であるがその先がどうなっているか、座標を指定する事が出来ていないのである。

 研究者としてその様な確実性の無い事をしたいと思わないが現状時間が無い。

 不安要素は大きすぎるが、わずかでも少女が助かる可能性があるならば、彼らは実行する気ではある。

 けれど、ギリギリまでその可能性を高めるつもりだ。

 今は少女ミコトの勉学を優先し、部の悪い賭けであるがもし知的生命体の居る惑星に行けたなら必要になるであろう物を用意するのが重要だった。

 必要なのは彼女のみを守る武器、そして換金できるであろう貴金属類である。

 本来ならもっと持たせてやりたいが、次元跳躍機械の容量の関係上それ以上は不可能である。

 戦闘用防具も入れておきたい所であるが、彼らは少女にそれを着せたくなかった。

 戦闘用防具、それは彼女を人型兵器であると認めてしまうからである。

 彼らは皆、ミコトをただの少女として当たり前の幸せを得て欲しいのだ。

 だから必要な物は最低限の攻撃力、そして知識。

 それだけあれば戦闘用に特化したミコトの事だ、原生生物に対して戦う位は問題は無いだろう。


 そして時が来た。

 地殻変動が起き、研究所も今や崩壊寸前。

 次元跳躍システムに関しては、研究者たちが命懸けで守り抜いた。

 その際に研究者の何名かが帰らぬ人となったが、皆一様に次元跳躍システムを守れた事を誇りに想い笑顔で死んでいった。

 残った研究者の前にある次元跳躍システム、そしてカプセルの中で眠るミコト。

 研究者たちは皆、穏やかな顔であった。

 研究者の一人、石塚がゆっくりとミコトの入ったカプセルに近づき愛おしそうに撫でる。

 

 「この残酷な世界に生まれてしまった…、いや産んでしまった僕らが言う事じゃないけれど。」


 彼は後ろに居る友たちの顔を見る。

 皆同じ想いを抱き、優しく微笑んでいた。


 「幸せに生きてくれ、A-007。いや、ミコト。我々は君の幸せを祈っている。」


 彼がそう言った瞬間、巨大な地震が発生した。

 もう時間は無い、「超・超新星爆発」のタイムリミットが来たのだ。

 立つのも厳しい揺れの中、彼は亜空間転移装置の起動スイッチを押した。

 ミコトの入ったカプセルは、発生した亜空間の中に飛び出していった。


 「これでいい。」


 彼はそうつぶやいた、こんな人類の自滅に大事な娘を巻き込むなんて愚かな事はしたくないから。

 地球から逃げ出している人類も居るだろうがこの規模…、果たしてどれだけの数が生き残れるか。

 研究者たちが導き出した計算では、楽観視して銀河を一つ丸のみする規模の爆発を逃れうる可能性など那由他の彼方に等しい。

 この宇宙に住まう生物は等しく滅ぶであろう。


 「皆、潔く死ぬか。」


 石塚は友たちと笑い合い、この星の、宇宙の死ぬ音を聞きながら娘の幸せを祈るのであった。

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