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探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~  作者: 土井淳
第五章 ~ 名もなき招待状 [後編] ~
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調査ファイル 088 [勝利の鍵、仲間の力]

咄嗟にコウキ君を奥へと突き飛ばし、その反動を利用して私は反対方向へ回避行動を取った。


「グアアァァァ!」


唸り声を上げながらこちらへ突進してきた剛田。

運よく直撃こそ免れたものの、反対側の腕に縦2本分の切り傷が出来ていた。

風圧なのか伸びた爪なのかは定かではない。

しかし直撃を避けてこれ程とは・・・


ふと見渡すと、鈴音と大原も何とか回避することは出来たようだ。

しかし下手に動くと奴の餌食になる。

さて、どうしたものか・・・


「いっててて・・・」


突き飛ばしたコウキ君が起き上がり、自分で頭を(さす)っていた。

すると―――


「グアアァァァ!」


今度は彼の方へと飛び掛かろうとしていた。

あのスピードとタイミングでは、避けることは不可能だ。

コウキ君自身も、奴から視線を反らすことすらできなくなっていた。

もはや死期の淵ギリギリに立たされている状態だ。


私は声を上げて彼の方へ駆け寄ろうとした。

しかし、声はおろか身体すらまともに動かない。

名前も呼べないこの為体(ていたらく)を、金輪際ないだろうレベルで呪い、真っ黒く染め上げていた。

どうする私・・・どうする―――!




人は、死ぬ間際になると、走馬燈を見る―――と言われている。

誰が定義したのか、或いは何者かの功績によって発見された事象、というわけではない。

しかし実際に死にかけた方々は、口々にそう告げているのもまた事実。

―――私も例外ではない。

厳密に言えば、そのような状況下に置かれているのは、彼の方だ。

それでも走馬燈というのは、ラスベガスのディーラー宜しく、カードのように分配されるようだ。

私の頭の中には様々な光景が駆け巡り、目の前の世界に上映されているように見える。


そして、ある一つの光景が―――映し出された。







レイさんへ


じゆうけんきゅうのざいりょうのあまりで、ミニ花火を作りました。

よかったらあそんでみてください。


春香より







―――この島に来た初日に見た、春香ちゃんからの手紙。

出発前に彼女は紙袋の中に様々なモノを詰め込み、旅のお供にと託した。

その中に紛れ込んでいた珍妙な物体が一つ。

見覚えのある球体。

白いそれは掌てのひらに収まり、糸のようなものが人差し指の半分程出ている・・・魅惑の代物。




人はそれを、『バクダン』と呼ぶ。




だが、この状況下で私の脳内から上映されたフィルムに、これが映っているということは、つまりはそういうことかもしれない。

そして何より、あのダイヤモンドは・・・


いや、悩んでいる時間はない。

イチかバチか、やってみる価値はある。

―――いや、やるしかない。




私はすぐさま導火線に火を点けた。

ライターの着火も不発することなく、ここぞとばかりに燃え盛っていた。

しかし想定外の出来事が起こった。

それは、コウキ君に飛び掛かろうとしていた剛田が、彼に襲い掛かるギリギリ手前で静止したことだ。

作戦としては、これを奴にぶつける・・・そういう算段だった。

なのに一瞬だけその動きを止め、禍々しい眼差しはこちらへと向いていた。

そうか・・・音に反応したのか。

ライターの着火音に気付き、新たな敵と認識してコウキ君の襲撃を止めた。

聴覚が優れているのか・・・


しかし、一難去ってまた一難―――ピンチを助けた次は私の危機と来たか。


「グアアァァァ!」


おどろおどろしい雄叫びを上げ、ギア変速を行ったかの如く物凄いスピードでこちらに向かってきた。

もはや座り込んでいる状態、避けることはまず不可能だ。

ならばせめてでも、人類の英知をその(つら)目掛けてハジケて差し上げようではないか。


「喰らえっ!」


対抗するかのように、どこから出したかも疑問に思う程の大声を上げた。

同時に、右手に持った“バクダン”は、奴の顔目掛けて襲来していった。




当たれ、当たれ、当たれ・・・!







―――バクダンは、外れた。

奴の顔ギリギリを(かす)め取り、背後の方にお元気よく進んでいった。

その瞬間、全ての覚悟を決めていた。

抗うこと不可能な、死という存在を。


津田君―――







「・・・!?」


必死に全身に力を入れ、死を受け入れようとしていた。

しかし痛みの類はなく、大きな川も見えることはなかった。

目を開けると、相変わらずの暗い景色。

ふと目線をやると、鈴音が驚愕の表情を浮かていた。


(どういうことだ・・・?)


そして目線を戻すと、先程こちらに向かってきた剛田の姿はなかった。

よく見ると、反対方向に戻っていったのだ。

バクダンが当たらなかったのに、剛田による惨劇は免れた。

一瞬頭の中が真っ白になったが、すぐに理解はできた。


投げたバクダンは、剛田に当たることなく奥の壁へと向かっていった。

だがそのバクダン自体は掌サイズとはいえ、球体ともなれば質量はそれなりに大きなもの。

それが壁にぶつかるともなれば、確実に“音は鳴る”。

その音に引かれ、奴は身を翻して音の方へと駆け寄っていった。

優れた聴覚が、返って仇となったのか。


それにしても、春香ちゃんは丁寧に作っていたらしい。

バクダンは壁にぶつかっていたが、壊れることなく未だ原型を(とど)めていた。

加えて導火線の火は、消えることなく徐々にエンディングを迎えていた。

音に反応して突進していた剛田も、音の先に何もないことに気付き、半ば狼狽えていた。




「ジ・エンドだ、クソ野郎・・・!」


私は彼に聞こえないよう、こっそりと呟いた。




刹那、バクダンはフィーバータイムを開始していた。




To Be Continued...


※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

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