表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~  作者: 土井淳
第五章 ~ 名もなき招待状 [後編] ~
98/129

調査ファイル 087 [Beast Mode]

「ねえ、アレ何かヤバくない?」


ああ、全くだ。

大原はアメリカンジョークな口調でそう言った。

だが目の前に広がる光景は、決してジョークで済むようなものではない。

誰が見てもそうだ、あれはヤバイ事が起こる―――そんな光だった。


「う・・・ガ・・・!」


剛田は、言葉にならない言葉を発しながら、苦しみもがき始めた。

まるで服毒した直後の様に。

『赤く煌めく光』という幻想的要因と、剛田の違和感という恐怖感に板挟みされた私たちは、それ以上動くことができなかった。

これから何が起こるのかは、何となく理解はできた。

しかし、動いたら“負け”・・・そんな気がしていたのだ。


「り、リーダー・・・?」


剛田の仲間、松島が駆け寄る。

心配そうな表情を浮かべ、彼に手を差し伸べた。




―――刹那。




一瞬の出来事だった。

瞬きした時には、既に終わっていた。

今、何が起こったのか?


もがき苦しみ、先程まで跪いていた剛田。

一瞬の内に、辛い表情及びその奇声は消えていた。

そして一番の奇妙は、片足を背後に向けて上げており、そのまま静止していることだ。

顔を伏せ、一言も上げることなく。


では何故片足を上げているのだろうか。

私は彼が上げている足の方向へと目線を向けた。

すると・・・先程近寄った松島が何処ぞへと消えていた。

更にその延長線上を目で追っていくと、松島はいた。


だが、それは最悪の結果として―――


「何・・・!?」


「嘘でしょ―――!」


壁際には、松島が打ち付けられていた。

剛田は何を思ったのか、彼を蹴飛ばしたのだ。

ここだけピックアップすれば、到底あり得ない話だろう。

だが、私の目にはそう見えており、現在進行形で景色はそう映し出している。

そして何より、そんなバカげた話を可能にした元凶もまた、目の前に存在している。

言うまでもない、あのダイヤモンドだ。

剛田がダイヤモンドを手にした瞬間、突如異変を感じ、このような結果を招いた。


「やはりか・・・」


「ど、どういうことですか!?」


狼狽するコウキ君に対し、私は一つの仮説を挙げた。


「このダイヤモンドは、ただならぬ力を秘めている。

見た者を失明させる程度のものではない―――」


「それは見ればわかるわよ!」


今度は大原が声を上げた。

その声色からして、相当なパニックを引き起こしていた。


「ただの増強剤じゃない、あれは人を狂わす強力な麻薬のようなもの。

力も極限まで出せるみたいだな」


松島はたった一発の蹴りで、端の壁まで物凄い勢いで突き飛ばされた。

仕舞いには彼のぶつかった場所は軽くめり込み、ヒビが入ってしまっている。

恐らく、最大限プラス1の力が出せるのだろう。


「だが、当然副作用もある」


「・・・副作用?」


「ああ。

道中、たくさんの人骨があったのを覚えているか。

どうしてあんなにまで散乱していたと思う?」


「・・・まさか!?」


「その、まさかだ・・・」




―――自我の崩壊。

強靭な力を手に入れる反面、それを知的に使用する能力を代償にするらしい。

何故そのような仮説を立てることができるのか。

答えは簡単、剛田の目を見ればわかる。


「・・・・・・・」


彼は口から白い息を吐きながら、過度な程の猫背姿勢で立ち尽くしている。

赤く光るその眼差しに、先程までの黒い知性を感じさせるオーラは霧散して消えていた。


「で、でも、それが一体何に・・・?」


「多分、仲間同士殺し合ったのね。

理性で保たれていた『殺人』という禁忌も、その鎖が解き放たれれば―――」


考えたくはないが、そういうことになる。

あのダイヤモンドは人を殺め、闇しか生み出さない負の遺産だった・・・だから島民はこれを封印した。

あの時の言葉も、恐らくこれを暗示していたのだろう。

だが現在、その封印も解かれ、我々も禁忌の闇との対峙に駆り出されてしまっていたのである。


暫く立ち尽くしていた剛田は、ゆっくり松島の方へと歩み寄っていた。

すると突然、疾風の如く姿を消し、気が付けば彼の目の前に立っていた。

口を大きく開け、通常の分泌量を超える唾液を垂らしながら―――彼は始めてしまっていた。


「うっ・・・!」


目の前で繰り広げられている凄惨なシーンを見せつけられ、コウキ君はその場でえづいていた。

大原も大人なりに頑張ってはいたようだが、どうやら耐え切れずに戻してしまっていた。

そんな我々を余所に、剛田は己の食欲を満たしていた。

一頻り満足したのか、口から溢れんばかりの“濃厚な紅”を滴らせながら、こちらへと視線を送る。


「マズいな・・・!」


今の私では、直撃は避けられても大怪我は免れない。

現に腕の傷を負ったままだ、派手にアクションを起こせる自信はかぎりなくないに等しい。

すると、剛田側から大声が上がる。


「リーダー!!」


松島と共にいたオカルト研究会のメンバーの大石だった。

彼は剛田の正気を取り戻そうとしたのか、思い切って声を上げていた。

だが、それは彼自身の地雷でしかなかった。


唸り声を上げながら、再び常識外れのスピードで大石の方へ飛び掛かった。

地を這う黒い天敵も驚愕する程の勢いは、もはや誰も止めることが出来なかった。

そして叫び声を上げた後、彼の声は聞こえなくなっていた・・・


「・・・レイちゃん、どうする?」


逃げるにせよ、ここで戦うにせよ、リスクがあまりにも高すぎる。

しかし考えている時間はない。

奴はもはや人ではない・・・化物だ。




化物はこちらをロックオンしたのか、飛び掛かる姿勢を始めていた。

そして・・・


「レイさん、来ますっ!!」


「!?」




剛田は血塗れのまま、こちらへ向かってきた。




To Be Continued...


※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ