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探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~  作者: 土井淳
第五章 ~ 名もなき招待状 [後編] ~
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調査ファイル 085 [目]

瞬間、私は咄嗟に動き、コウキ君の持っていた懐中時計を蹴り飛ばした。

これといって計算したわけではないが、懐中電灯はダイヤモンドを照らすことなく、宙に舞った後、地面に落ちた。

暫くして、その光は収束を始め―――消えてしまった。

運が良かったのか、蹴りは彼の手に当たることなく、ピンポイントにライトだけを狙っていたようだ。


「あ・・・」


悲しそうな目を、次第に潤ませながらこちらを見ている。

そんな目をするな・・・いや、確かにそうなるのも無理はないのだが。


「―――すまない。

だが、咄嗟の判断だ、許せ」


もし私が早く行動をしなかったら。

もし私が気付かずに懐中電灯を光に当てさせていたら。

・・・考えるだけでも悍ましい。


「・・・説明、して」


状況が状況なだけに、鈴音も若干目が本気になっていた。

子供の手を蹴り上げたのだからな、まぁ仕方ない。


「ようやくわかったんだ、『あの言葉』の意味が・・・」


「・・・あの、言葉?」


「一体なんなの、それは?」


すると涙目のまま、コウキ君も気付いたようで。


「・・・グスン、それってもしかして・・・グスン―――」


鼻を(すす)りながら私を見つめ、こちらも彼の目を覗く。


「ああ、そうだ」


「え・・・ちょっと何、どういうこと?」


大原は半ばパニックになっていた。

事態が呑み込めない彼女を余所(よそ)に、冷静を纏った鈴音は静かに空気を見ていた。


「ここに来て、ある夢を見たんだ。

まるでお告げのような・・・不思議な夢。

その夢の中で聞こえた言葉―――」


「言葉・・・?」


夢・・・もしやそれがヒントだったのだろうか。

いずれにせよ、その中で私とコウキ君は聞いた。

少なからず私は―――はっきりと。


「・・・どんな言葉、だったの?」


すっかり落ち着いたコウキ君は、目の周りを赤くしながらも答えた。


「『その目を見てはいけない』、そう言ってました。

でも結局わからず仕舞で・・・」


あの時計と宝珠のことではなかった・・・最初はそっちだと踏んでいたのだがな。

だがこれでようやく確信が持てた。


「ここの島民は、あの言葉の示す『目』を見てしまった。

途中に見た大量の白骨死体―――あれも『目』の影響と私は推測している。

恐らく洗脳の類で、人々は催眠状態に陥り、見境なく殺戮を繰り広げた。

そう考えれば、全てが納得がいく」


「ちょっと待って、それじゃあその『目』っていうのは何?

扉の鍵じゃないとしたら、一体何が答えなわけ?」


少し怒りの混じる大原の声を受け止め、私は少しだけ振り返る。

背後に“ある”・・・いや、背後に“いる”ものへと指を差した。

欲望を以て人を狂わす、悍ましき根源へ―――




「―――アレだ」




指差した先にあったのは、巨大なロケットの先端。

しかし皆が見知っているそれとは訳が違う。

何が違うのか。

言うまでもない、目の前にあるモノは・・・金属製ではない。

暗くて僅かにしか見えないが、酷く光沢を帯びた淡い赤。

人はその色をこう呼ぶ―――『ピンク』と。


そう、ダイヤモンドだ。

しかしただのダイヤモンドではない。

未だに謎を帯び続けている畏怖の象徴、『ピンクダイヤモンド』。


「まさか、コレがっ!?」


「で、でもレイさん、それって・・・」


大原とコウキ君が驚愕を隠せないでいる。

当然疑問も浮かぶだろうな。

それもその筈、夢にもあった『目』という言葉の通りには程遠いものだからである。


「ああ、言いたいことはよくわかるさ。

だが、これが諸悪の根源の『目』の存在で間違いない」


いかにも冷静な鈴音は、先程蹴り飛ばした懐中電灯を拾い、ジッと見つめている。

そしてダイヤモンドと懐中電灯を交互に2回程見た後、ハッと何かに気付いた。


「・・・まさか!?」


「信じられないだろうが、そういうことだ」


「・・・この中に、『目』が?」


鈴音の口から、とんでもない発言が放たれた。

するとコウキ君は全てを理解したように、目の色が輝き始め、ようやく光を取り戻したようだった。


「―――そうか、だからレイさんはあの時!」


「ああ。

すまなかったな、突然」


コウキ君は少しだけ笑みを零し、首を横に振っていた。

それと対照的に、大原は疑問を弾丸とし、私へとぶつけていた。


「ってことは何、このダイヤモンドの中に目があって、それがお告げの正体?

私の目にはピンク色の巨大なダイヤしか見えないけど。

もしかして、私の目がおかしいわけ?」


「今一度言う、ピンクダイヤモンドは未だ謎に包まれている。

そして“コイツ”が・・・生き物だとしたら?」


大原は更に目を見開き、より驚きを露わにしていた。


「生き物・・・!?」


「詳しくはわからないが、この中に『何か』いるらしい。

幸い、暗所では文字通り影を潜めている。

だが光を浴びることにより、初めて力を発揮するのだろう。

ギロリと動いていたからな」


「・・・レイちゃん、目・・・見たの?」


瞬間、3人の目つきは変わり、一斉に私の方へと向きだした。

加えて、身体は防御姿勢になっていた。

思いっ切り警戒している・・・隠すつもりないのか、全く。


「ハッキリとは見ていない。

それに、今のところ異常はないようだ。

もし即効性のものであれば、今頃私は皆殺しにしているはずさ」


「―――サラッと、凄いこと言うわね、あなた」


「レイさん・・・」


苦笑いされてしまった。

ここでケロっと笑ってほしかったのだが、うまく伝わってくれなかったようだ。


「ともあれ、原因がわかった以上、ここに放置しておくのは危険だ。

気が変わらない内にとっとと壊してしまおう」


気が変わるというか、変貌しない内というか。

さて、一体どうしたものか。

そう考えていた時・・・運命の歯車が狂い出してしまったのだ。




「―――見つけたぜ、この野郎!!」




To Be Continued...


※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

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