調査ファイル 084 [Pinky Diamond]
一瞬戸惑いながらも、その石垣へと触れた。
仄かに温かい感覚が、手を通して脳へと流れつく。
一呼吸置いた私は、石を徐に押した。
徐々に徐々にズレゆくそれは、次第に奥へと進んでいく。
現在押している石を筆頭に、周りの石もつられて奥へと進んでいく。
一番奥まで押し切ると、幅2mくらいの窪みが出来ていた。
そして―――
「うわっ!」
再び地響きが始まる。
コウキ君が思わずビックリしていた。
塵や小さな石ころが天井から零れ落ちる中、目の前の光景は少しずつ変化していった。
そう、押していた石垣が左方向へと進んでいく。
揺れが収まると、人一人通れる程の道が開かれていた。
意を決して奥へ進み、懐中電灯で辺りを適当に照らし出した。
その瞬間―――もはや言葉を発する気持ちすら、失せていた。
「―――っ!」
見上げると、ロケットが天井を貫いて地面へと落ちてきた・・・ような、俄かに信じがたい光景が広がっていた。
いや、実際はそんなものではない。
ロケットの先端のようなそれは、ピンク色に光り輝く巨大な結晶。
果たして“巨大”という言葉だけで表現していいものなのか、非常に悩ませるレベルの大きさだ。
しかしてその正体は、数々の謎と共にこの島で長年と眠りについていた『ダイヤモンド』である。
私たち4人は、その場で見上げたまま、黙って目を輝かせていた。
「これが・・・財宝?」
「正確には、そうだろうな。
あの薔薇の根源が、このダイヤモンドだ」
「でも待って、ダイヤモンドには薔薇の育成を促す成分は含んでいないわ。
炭素で出来たコレを破壊したところで―――」
大原は疑問をぶつけてきた。
確かに、炭素を主成分とするダイヤモンドが含まれた土だけでは、薔薇は育たない。
ましてや日光なり水なりを使わず、世界にも例がない紺碧の種類を自生させることは、まずありえない。
「それが含んでいるんだよ、コレにはな」
「・・・どういう、こと?」
「見ての通り、このダイヤモンドはピンク色だ。
そもそもダイヤモンドというのは無色透明で、発掘時の重さにしてもせいぜい数十キロから数百キロだ。
だがここのダイヤモンドは鮮やかなピンク色だ、重さにしても数百トン以上はくだらない」
「たしかに凄いけど、それが一体・・・?」
「問題はここからだ。
ピンクダイヤモンド自体は鉱山こそ限定されるものの、発掘はされている。
当然採掘量も少なく、希少価値は通常のものより跳ね上がる。
それがどうだ、大層なこった・・・」
「・・・僕も聞いたことがあります。
外国の鉱山で初めて見つかった際、普通のダイヤモンドが数百カラットに対して、数カラットしかなかった・・・とか」
1979年、オーストラリアでのことか。
キンバリー地方にある世界最大のダイヤモンド鉱山で発掘されたピンクダイヤモンド・・・
一時期ニュースや新聞で話題になった・・・と、祖母から聞いたことがある。
以前文献で読んだことがあるが、よく知っていたな。
私はコウキ君の頭を撫で、話を続ける。
「しかし、それだけじゃない。
ピンクダイヤモンドの生成については、現在でも解明されていない。
つまり、その存在自体『謎』ということだ」
「なるほど・・・
それがこうまでに巨大に密集しているが故、あのような植物を生み出した・・・のね?」
「あくまで“推測”だがな。
全てが謎という以上、私はそう考えている」
何故この場所にピンク色の、しかもダイヤモンドとして存在しているのか。
何故生成された植物が“薔薇”なのか。
何故今の今まで見つからなかったのか。
―――それらのことは、皆目見当もつかない。
だが、今思えばこの島に来てよかったと思っている。
あまりにも貴重な体験を、スリルと共に味わえたからな。
誰の差し金なのか、なんて・・・考えるフーリッシュな余裕なんかなかった。
「ねぇレイさん、もう少しよく見てみましょうよ!」
そう言って、コウキ君が懐中電灯を向けようとしていた。
刹那、まるで時間が止まった・・・いや、物凄いスローになったような感覚に陥る。
ということは、私自身の中で何かが“引っかかっている”ということなのだろうか。
よくよく考えれば引っかかる部分はたくさんある。
その中で頭一つ分抜けているのが、あの夢の中で聞こえた声。
そしてコウキ君が知っていた、あの言葉。
『その目を見てはいけない』
あれはどういう意味だったのだろうか。
ここに来るまでの道中、色々考えてはいた。
しかしそれに当てはまるモノはなかった。
強いていうなら、オカルト研究会の面々に銃で突きつけられた時―――
あの部屋で見た、時計と霊珠による強い光、だろうか。
左右に設置された2つの鍵による力・・・その時はそれが“答え”だと思った。
仮にそうだとしたら、正直言って拍子抜けだ。
何か・・・何かきっかけがあるはず。
でなければ、こんなに不可思議な気持ちに陥る筈もない。
見上げても、ダイヤモンドが荘厳のまま佇んでいる。
しかし、今この瞬間だけ、私の目には何か違うものが見えている・・・ような、気がする。
―――ギロッ・・・
刹那、2つの瞳に―――何かが写った。
あの塊の中で、何かが動き出すのを、瞬間的ではあるが、しかと確認した。
だとしたら、あの言葉はそういう意味だったのか。
マズいな・・・このままでは―――!
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。




