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探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~  作者: 土井淳
第五章 ~ 名もなき招待状 [後編] ~
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調査ファイル 083 [異変]

「『破壊』って・・・

あの薔薇をどう破壊するんですか!?」


一般的な考えを以てすればこういう結論が多いだろう。

『燃やせばいい』と。

だが燃やす程の火力は、生憎持ち合わせていない。


「たしかにあの薔薇は相当な価値を有する代物。

けど破壊するのはそれじゃない。

キリがないからな」


「・・・親元を、叩くの?」


「そういうことだ」


薔薇は・・・というか植物は本来、日光と水分がないと生きていけない。

あの場には土はあったものの、日光と水分はなかった。

では生き長らえる要素は何なのか。


「青いバラが目当てじゃないとしたら、一体何なんですか?」


「答えはこの地下にある。

そしてヒントは―――コレだ」


私は地面の土を手に(すく)い、コウキ君へ提示する。

当然と言えば当然か、彼はハテナを浮かべた微妙な表情を作り上げていた。


「この土・・・いや、正確には含有成分がヒントだ。

薔薇を生成する成分、その親元を叩けば、全ては終わる」


「簡単に言ってくれるわね。

地下って言っても、迷路みたいに入り組んでるわよ、この空間は」


一言で言えば、“蟻の巣”だ。

どの道がどこへと繋がっているか、正直検討もつかない。


「大丈夫、地下に近付けば近づく程、含有のダイヤモンドは増えていっている。

現にここは先程よりダイヤモンドの輝きが少し強い。

それを辿っていけば・・・」


正直、確証はない。

何しろ現実では“あり得ないこと”だらけの状況が立て続けに具現化している。

その上でのぶっ飛んだ推理だ、アイザックも怒る気すら失せる程呆れてしまうだろう。

さあ第一歩・・・そう思って右足を出した刹那―――




『オイデ―――』




誰かが、そう呟いた。

そう呟いた・・・ように聞こえた。

いや待て、本当に聞こえたのだろうか。

周りを見ても、誰一人その声について反応している人物はいない。

みんなは私を見ていた。

ということは・・・?


「あ、ちょっと、レイさん!?」


私は誰の声に導かれ、明確に記されていないにも関わらず、前へと進む。

ハッキリ言って、意識はちゃんとある。

ただ・・・誰かが私に向かって手招きしているような感覚があるというだけだ。

もちろん、目の前にはそんな人物はいない。


「追いかけましょう!」


後ろの方で大原が言うと、みんなもそれに同行し始める。

傍から見れば無神経な感じの私は、宛てもなくただただ歩き続ける。

上を見るでもなく、下を見るでもなく、一点先だけを集中的に。




気が付けば、相当地下まで潜っていたようだ。

もはや懐中電灯でも歩きづらいまでに。

全員の呼吸もだいぶ荒くなってきた・・・これは少しマズいな。


「みんな、大丈夫か?」


「・・・平気」


「ハァ・・・ハァ・・・水飲みたいです」


「ここまで来たんだ、どこまでもついていくわよ」


「もう少しだ、頑張れ・・・!」


何故だろう、あと一息・・・そんな気がしていた。

そしてその勘は、見事に的中していた。


「―――ここか」


目の前に、壁があった。

今までの規模とは異なり、ざっと見て20mはあるだろうか。

しかしそれ以上に驚くべきは、大きさではなく素材だ。


「ちょっと待って、これ・・・石垣じゃない?」


念密に組み立てられ、隙間なくギッシリと積まれていた―――石垣。

それが大きく壁となり、荘厳オーラ爆発なまでに私たちを出迎えていた。


「なるほど、大層な隠しっぷりで・・・」


「でもどうやって入るんですか?

無理に破壊したら、間違いなく落石しますよね?

そして僕たちも・・・死んじゃいますよね!?」


大雨による崖崩れとは訳が違うな、これは。

どちらも大事(おおごと)だが、もはや流星群と言ってもいいだろう。

いや、そんな御託はいい、ともあれ―――


「心配ない、どこかにこの先に通じる場所がある。

探そう」


縦幅が大きい壁だが、比例して横幅も大きい。

ちょっと探るだけでもエラい時間が掛かる。

その(かん)にもし追いつかれでもしたら、間違いなくゲームオーバー。

やるしかない、今はそれしかない―――




壁はひんやりとして冷たい。

石と石の間もギッシリ詰まっているが、どう見ても自然の産物ではない。

よく見ると、石と石の間はコンクリート状の何かで隙間なく埋められていた。


「ふむ・・・」


「これ何だと思います?」


コウキ君も疑問に思ったらしく、腕を組んで首を傾げいている。


「“どべ”だろうな。

主に陶芸や建築に使用される、粘土を水で溶かしたものだ」


「・・・接着剤として、使われるのよ」


鈴音は相変わらず博学のようで。

だが実際はその通り、この石垣作りに用いられたようだ。


「こんな大きなもの、一体誰が・・・?」


「さあな。

だが、ここまで大掛かりともなれば、もう目と鼻の先だ」


そして再び、石に触ろうとした。

その時、私の手は止まった。

頭の中に響く、声ではない謎の音波上のもの。

何の音かはわからない、そして何を伝えたいのかもわからない。


「―――レイさん?

大丈夫ですか?」


声を出したいのだが、流れてくる音が気になって喋ることもできない。

しかしその音は次第に薄れていく。


「レイさん、ねえ!レイさん!」


意識がしっかり保たれた途端、急激な目まいに襲われた。

膝から崩れた私は、辛うじて右膝で身体を支えたものの、左手は地面についてしまった。

未来の最強マシンのような姿勢のまま、蟀谷(こめかみ)から汗が2・3滴程(したた)り、同じく地面へと落ちる。


「わ!え、あわわわわ・・・!

どうしたんですか!?」


「・・・!」


鈴音も駆け寄り、私の肩へと手を掛ける。

事態に気付いた大原までもが駆け寄ってきた。


「・・・すまない、大丈夫だ。

少し目まいがしただけだ、問題ない」


正直、完璧に大丈夫とは言い難い。

まだ少しフラフラするものの、無理矢理立ち上がる。

そして目の前の壁を見た時、再び言葉を失った。


「―――!?」




石垣の一部が、光っていた。




To Be Continued...


※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

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