調査ファイル 082 [オカルトと考古学]
私たちはその場に座り、状況の整理を行っていた。
「最初はただの“お宝さがし”だったの。
彼も、私も―――
ネットで見つけたのよ、『この島に眠る財宝が』・・・ってね」
洋館の部屋で見た新聞の記事だろう。
あの内容だけなら、金や銀などの光り物を想像するのが関の山。
安易な考えだったようだな、彼らは。
「でもある日、差出人不明の招待状が届いたの・・・全員分にね。
それからよ、剛田の態度が変わったのは」
「差し詰め、目が眩んだといったところか」
「その通りよ。
以来彼はめっきりサークルに顔を出さなくなったわ。
暫くしてから大量の道具と資料を手に、私たちの前に現れたのよ。
『時は来た』とか言いながらね」
彼なりに入念に調べていのだろう。
やはり『金』というのは人間を狂わせる。
宝石や鉱石は掘り出せばかなりの値打ちになる―――そこに喰い付いたんだな。
「まさかあそこまで用意するなんて思ってなかったわ。
だからその熱意に応えるべくして、船に乗って来たの・・・この島に。
でもここに来てすぐだったわ、探しているモノが『ヤバイ代物』だってことに」
意外だった。
時間掛けて探索した結果ならいざ知らず、それが短時間で結果を示したというのは。
「何故だ?」
「堂島君よ。
あの洋館を何となく探索していたら、地下に通じる扉を見つけたらしいの。
進んでみると書庫があって、そこで真実を見つけたみたい」
やはり堂島氏か・・・
そして彼は剛田に直談判し、今後の行動の邪魔だと判断されて殺害―――そんなところだろう。
「・・・本当は私も一緒に説得したかった。
聞かされた話が事実なら、あれは世に出してはいけない。
でも彼・・・せっかちだから、一人で勝手に言っちゃったの」
「そこで彼は―――」
「・・・」
唇を噛み締め、隠しきれない悔いを浮かべて項垂れている。
自省の念に駆られているのだろう。
握りしめている右手の拳が、震えながら訴えかけている。
私は彼女の肩に手を置き、静かに慰める。
大丈夫、あなたのせいじゃない・・・と。
今にも零れそうな滴をひたすら堪えながら、彼女もまた、静かに頷く。
「そんな時、花本さんと出会ったの」
鈴音もまた、静かに頷く。
「・・・初めて会った時、凄く暗い顔してた。
・・・気になって話しかけて、事情を知ったの」
そこで大原は鈴音に相談を持ち掛けた。
全く見知らぬ人より、同じ洋館に宿泊している私たちに協力を要請した・・・というのが真実らしい。
結果的に私たちはそのおかげで助かっている―――ぐうの音も出ない。
「因みにだが、招待状と財宝の話は誰かにしたのか?」
「・・・いえ、私たち以外は知らない筈よ。
でも―――」
「『でも』・・・?」
目を少し伏せながら、曇り顔を作っていた。
言いたくないのか、言いづらいのか。
しかしその曇天は間も無くして晴れ間を滲ませていた。
「時々、誰かと電話していたみたい。
着信を見た途端、席を外しては小言で話してたのを何度も見たわ」
あの手の男となれば、その着信相手が誰なのかは安易に考えが付いた。
次いで、財宝を求めて足早に事を進めようとする姿勢にも納得ができる。
堂島氏を殺害する動機も、何となくわかる気がする。
「あのー・・・一つお聞きしてもいいですか?」
ボソッと言い、手を挙げるコウキ君。
そしてその顔はどこか申し訳なさそうに。
「なんで“オカルト研究会”なのに、お宝を探しているんですか?
まるっきりトレジャーハンターみたいですけど・・・」
「ああ、それね・・・まぁあんなもの、所詮は形だけよ。
本当は私と堂島君の2人で考古学を勉強していたんだけど、範囲を広めようとしてサークルを立ち上げようとした。
元々考古学系のサークルはあったんだけど、あの考古学研究会はロクな活動もしてないのよ・・・ホントもう最悪。
だから考古学について真剣且つ念密に調査をする為に、敢えて『オカルト研究会』って名前にしてサークルを作ったのよ」
大学にも歪な人間関係があったようだ。
実際、思うような活動が出来ないと知っていれば、そう行動するのも理解できなくもない。
剛田も・・・最初は同じ考えだったのだろうか。
考古学を勉強したいという、純真な気持ちが―――
「私個人としても、この島については気になってたの。
曰付きだって噂も密かにあったみたいだし」
現にその『曰付き』は目の当たりにしている。
ぶっ飛んだ噂もあったもんだと思っただろう、当時の彼女は。
地質・鉱石も通常のものではない以上、考古学者としては生唾ものだろうし。
しかし大原の眼差しは、輝きを失いつつあった。
「でも、ここに来たのは間違いだったみたいね。
堂島君も失って・・・これから先どうしたら―――」
不可視の衝撃に耐えていた堤防も、決壊寸前まできていたようだ。
もはや瞳は潤いを満たし、未熟故の弱さを晒しだそうとしていた。
「・・・大丈夫、だよ。
私たちが、ついてるから」
「そうですよ!
ここから逃げ出してから、もう一度考えましょうよ!」
2人は励ましを重ね、意を決している。
しかしここを出るのは、もう少し先になりそうだ。
「いや、日の目を見るのはまだ早い」
その言葉を聞き、コウキ君が動揺を露わにしている。
「え・・・ど、どうしてですか?
こんな場所、とっとと出ましょうよ!」
「そうはいかない。
このまま奴らを放置すれば、後々大変なことになる。
大原さんも言っていただろう、『ヤバイ代物』だって」
「・・・!」
何かを悟ったように、驚いた顔をする鈴音。
どうやら彼女は理解したようだ。
ワンテンポ遅れて、大原も理解したようだ。
表情からして薄々ではあるようだが。
「―――『財宝』を、破壊する・・・!」
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。