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探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~  作者: 土井淳
第五章 ~ 名もなき招待状 [後編] ~
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調査ファイル 082 [オカルトと考古学]

私たちはその場に座り、状況の整理を行っていた。


「最初はただの“お宝さがし”だったの。

彼も、私も―――

ネットで見つけたのよ、『この島に眠る財宝が』・・・ってね」


洋館の部屋で見た新聞の記事だろう。

あの内容だけなら、金や銀などの光り物を想像するのが関の山。

安易な考えだったようだな、彼らは。


「でもある日、差出人不明の招待状が届いたの・・・全員分にね。

それからよ、剛田の態度が変わったのは」


「差し詰め、目が眩んだといったところか」


「その通りよ。

以来彼はめっきりサークルに顔を出さなくなったわ。

暫くしてから大量の道具と資料を手に、私たちの前に現れたのよ。

『時は来た』とか言いながらね」


彼なりに入念に調べていのだろう。

やはり『(かね)』というのは人間(ひと)を狂わせる。

宝石や鉱石は掘り出せばかなりの値打ちになる―――そこに喰い付いたんだな。


「まさかあそこまで用意するなんて思ってなかったわ。

だからその熱意に応えるべくして、船に乗って来たの・・・この島に。

でもここに来てすぐだったわ、探しているモノが『ヤバイ代物』だってことに」


意外だった。

時間掛けて探索した結果ならいざ知らず、それが短時間で結果を示したというのは。


「何故だ?」


「堂島君よ。

あの洋館を何となく探索していたら、地下に通じる扉を見つけたらしいの。

進んでみると書庫があって、そこで真実を見つけたみたい」


やはり堂島氏か・・・

そして彼は剛田に直談判し、今後の行動の邪魔だと判断されて殺害―――そんなところだろう。


「・・・本当は私も一緒に説得したかった。

聞かされた話が事実なら、あれは世に出してはいけない。

でも彼・・・せっかちだから、一人で勝手に言っちゃったの」


「そこで彼は―――」


「・・・」


唇を噛み締め、隠しきれない悔いを浮かべて項垂れている。

自省の念に駆られているのだろう。

握りしめている右手の拳が、震えながら訴えかけている。


私は彼女の肩に手を置き、静かに慰める。

大丈夫、あなたのせいじゃない・・・と。

今にも零れそうな滴をひたすら堪えながら、彼女もまた、静かに頷く。


「そんな時、花本さんと出会ったの」


鈴音もまた、静かに頷く。


「・・・初めて会った時、凄く暗い顔してた。

・・・気になって話しかけて、事情を知ったの」


そこで大原は鈴音に相談を持ち掛けた。

全く見知らぬ人より、同じ洋館に宿泊している私たちに協力を要請した・・・というのが真実らしい。

結果的に私たちはそのおかげで助かっている―――ぐうの音も出ない。




「因みにだが、招待状と財宝の話は誰かにしたのか?」


「・・・いえ、私たち以外は知らない筈よ。

でも―――」


「『でも』・・・?」


目を少し伏せながら、曇り顔を作っていた。

言いたくないのか、言いづらいのか。

しかしその曇天は間も無くして晴れ間を滲ませていた。


「時々、誰かと電話していたみたい。

着信を見た途端、席を外しては小言で話してたのを何度も見たわ」


あの手の男となれば、その着信相手が誰なのかは安易に考えが付いた。

次いで、財宝を求めて足早に事を進めようとする姿勢にも納得ができる。

堂島氏を殺害する動機も、何となくわかる気がする。




「あのー・・・一つお聞きしてもいいですか?」


ボソッと言い、手を挙げるコウキ君。

そしてその顔はどこか申し訳なさそうに。


「なんで“オカルト研究会”なのに、お宝を探しているんですか?

まるっきりトレジャーハンターみたいですけど・・・」


「ああ、それね・・・まぁあんなもの、所詮は形だけよ。

本当は私と堂島君の2人で考古学を勉強していたんだけど、範囲を広めようとしてサークルを立ち上げようとした。

元々考古学系のサークルはあったんだけど、あの考古学研究会はロクな活動もしてないのよ・・・ホントもう最悪。

だから考古学について真剣且つ念密に調査をする為に、敢えて『オカルト研究会』って名前にしてサークルを作ったのよ」


大学にも(いびつ)な人間関係があったようだ。

実際、思うような活動が出来ないと知っていれば、そう行動するのも理解できなくもない。

剛田も・・・最初は同じ考えだったのだろうか。

考古学を勉強したいという、純真な気持ちが―――




「私個人としても、この島については気になってたの。

曰付きだって噂も密かにあったみたいだし」


現にその『曰付き』は()の当たりにしている。

ぶっ飛んだ噂もあったもんだと思っただろう、当時の彼女は。

地質・鉱石も通常のものではない以上、考古学者としては生唾ものだろうし。

しかし大原の眼差しは、輝きを失いつつあった。


「でも、ここに来たのは間違いだったみたいね。

堂島君も失って・・・これから先どうしたら―――」


不可視の衝撃に耐えていた堤防も、決壊寸前まできていたようだ。

もはや瞳は潤いを満たし、未熟故の弱さを晒しだそうとしていた。


「・・・大丈夫、だよ。

私たちが、ついてるから」


「そうですよ!

ここから逃げ出してから、もう一度考えましょうよ!」


2人は励ましを重ね、意を決している。

しかしここを出るのは、もう少し先になりそうだ。


「いや、日の目を見るのはまだ早い」


その言葉を聞き、コウキ君が動揺を露わにしている。


「え・・・ど、どうしてですか?

こんな場所、とっとと出ましょうよ!」


「そうはいかない。

このまま奴らを放置すれば、後々大変なことになる。

大原さんも言っていただろう、『ヤバイ代物』だって」


「・・・!」


何かを悟ったように、驚いた顔をする鈴音。

どうやら彼女は理解したようだ。

ワンテンポ遅れて、大原も理解したようだ。

表情からして薄々ではあるようだが。




「―――『財宝』を、破壊する・・・!」




To Be Continued...


※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

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