調査ファイル 081 [緊急脱出]
その時だった―――
「な、何だ!」
窪みに嵌め込まれた時計と霊珠が、太陽も泣き叫ぶ程の光を放つ。
光源により、時計は狂ったように針を回し、霊珠は内部で小さな銀河を持っているのか、蜷局を巻いている。
そしてその引き金を引いたのは、何とコウキ君。
更に、もう一人・・・
「みんな、飛び込んでっ!」
その人はコウキ君を脇に“抱え”、薔薇の咲き誇る奥の部屋へと走り出す。
タイミングを見計らっていた私は、鈴音と共に奥の部屋へ飛び込んだ。
目を開けられないレベルまで達した光は、溜まり溜まったその鬱憤を晴らすが如く、凝縮された力を解き放つ。
それは化学では証明できないであろう謎の衝撃波となり、剛田たちを吹き飛ばす。
間一髪薔薇のある部屋に飛び込むことが出来た私たちも、その衝撃波の被害を受ける。
と言っても、爆発のような力によって部屋の奥の方へと飛ばされただけで、大した怪我もなかった。
すぐに目を覚まし立ち上がると、コウキ君と鈴音は先へと進んでいた。
私は3人の後を追った。
薔薇の部屋の奥に階段があった。
懐中電灯でどうにか照らしながら降りていく。
その後は暫く前を走り続けた、そこがどんな道でどういった感じかもわからずに。
その道中、命を救ってくれた“彼女”に事情を聴く。
「やはりあなただったか・・・大原さん!」
先程まで私たちに銃を向け、剰え処刑までしようとしていた人物。
大原 瀬奈・・・オカルト研究会の一員だ。
剛田をリーダー以上に敬っていた―――筈だった。
「騙していてごめんなさい。
こうでもしないと、あの場を凌げなかったから・・・」
「いつからだ?」
「堂島君が殺さる少し前よ」
つまりはこういうことだ。
堂島氏と大原は宝・・・薔薇について事前に気付いていた。
そしてそれを世に出してはいけないということも。
しかし堂島氏は独断で剛田に反発した・・・
結果、彼だけ殺害されてしまった。
生き残った大原は、同じくして宝を探していた私たちに陰ながら協力し、剛田たちを止めようとしていた・・・と、いうことらしい。
「もし私たちが味方にならなかったらどうしていた?
確証もないだろう」
「・・・堂島君の遺体と一緒に幽閉されてたでしょ?
あれ、私のアイディアなの」
突拍子もないことを言い出していた。
しかしあの時私たちを幽閉すれば、否応なく剛田に敵意を抱く可能性はある。
そして剛田に敵意を抱けば、彼女の協力を受ける・・・ということを、事前に見越していたらしい。
『敵を欺くにはまず味方から』とは言うが、そもそも味方になっていなかった上にやることがエグい。
本当に善人なのか、イマイチ疑いの霧が晴れずにいるのだが。
「ああ、事情は察している。
だが詳しい話はあとだ―――!」
現在進行形で、銃を持った“鬼”に追われている。
彼らの姿は見えないものの、後方から血気迫る強い執念というか思念というか、何となく伝わってくるような気がする。
ここは一先ず・・・逃げるべし。
一頻り逃げると、いくつか分岐する道に出くわしていた。
これはシメた、撹乱にはもってこいだ。
「こっちだ・・・!」
適当に選んだ道に逃げ込むと、皆は膝に手をついて肩で息をしていた。
無我夢中で走っていたものの、振り返れば相当走っていたのだろう。
斯く言う私も、かなり足にきている。
まして腕も血だらけ・・・何ともまあ、踏んだり蹴ったりな。
「みんな・・・大丈夫?」
「ああ・・・」
「ええ・・・何とか」
「・・・大、丈夫」
口ではそう言ってはいるが、パッと見誰一人大丈夫には見えない。
相当走ったからな。
「よく付いてこれたわね、あの時。
まさか“あんなに光る”なんて思ってなかったでしょう?」
「“お告げ”があったんでね。
それに、協力者と認知していたからこその判断だ」
意表を突かれたばかりに、少しだけ驚いている。
そう、少しだけ。
「・・・気付いていたの?」
「―――匂いだよ。
5人の中で甘い香りを漂わせていたのは、あなただけだからな。
女性特有の香水だってことはすぐにわかる」
それは失礼、お手上げです―――と言わんばかりの表情。
意外ともあっけらかんとしていた。
しかし愕然とまでいかないところを見ると、相当肝が据わっているようだ。
正体が明らかになったところで、1つだけ深呼吸をした後、大原の目を覗く。
改めて事のあらましを伺うことにした。
「では、もう一度整理しようじゃないか」
「―――そうね」
To Be Continued...
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