調査ファイル 080 [DEAD END]
窪みに嵌め込み、私と剛田はその場から少し下がる。
すると、またもや轟音を響かせ、壁が開く。
二つの鍵は左右に別れ、佇まいはまさに、上手と下手で財宝を守る護衛騎士。
「なるほど、『一対の眼差し』・・・ね」
しかし、見つめても何も起こらない。
“見てはいけない『目』”・・・という代物は、これではないらしい。
先程奴らは“それぞれを”照らしていたが、何も反応はなかった。
あの文章は何だったのだろうか・・・
そして開かれた先には―――またしても広々とした空間がある。
しかし今までの場所と違う部分が1つだけある。
それは空気・・・奥の部屋から、妙に綺麗な空気が流れ込む。
(どういうことだ、閉鎖された空間に―――酸素が充満されいる・・・?)
最初に剛田が銃口を突き付けた際、私は松明を落としていた。
そのせいで火は消えてしまっていた、カッチリとな。
もし点いてたらかなり燃え上がっていただろう―――危ない危ない。
しかしこの部屋、どこかに地上へ通ずる穴や道すらない。
空気が漏れ出す理由がイマイチわからない。
本来ならもう少し調べてみたいところだが、後ろの奴らはそんなことはどうでもいいらしい。
「これだ・・・見つけたぜ、お宝をよぉ!」
―――何を言っているのか、全くわからなかった。
いきなり私の前方に出てきては、これまたいきなり叫び出す剛田。
腕を左右に広げ、素晴らしいと言わんばかりのポーズを取っていた。
真っ暗な部屋、宝箱もない部屋で、何を見つけたのか。
「・・・何も見えないぞ、剛田さんとやら。
もっと照らしてくれないか?」
「あ?俺に指図すんのかコノヤロウ・・・」
調子乗ってんじゃねぇ・・・と言わんばかりの眼飛ばしだ。
だが忘れてもらっては困るね。
「財宝を見せるんだろう?
『冥途の土産』として―――」
ハッと我に返ったのだろう、作り上げた強面は次第に薄れていく。
そして薄笑いを浮かべながら、私の肩に手を回し、懐中電灯を前方へと向けた。
「ほらよ、これがこの島に眠る財宝だ。
しかと―――目に焼き付けとけよ」
刹那、本当に刹那だったんだ―――理解できなかった。
目の前に広がるは―――植物だった。
緑色の茎が伸び、光無きこの空間で葉を広げている。
しかし触れよう者には、容赦ない裁きを下さんとする“棘”が備えられていた。
「あれは・・・薔薇?」
ただの薔薇なら、私だって呆れてしまうところだっただろう。
だが、剛田がライトの位置を若干動かした時、不覚にも心がトクン―――と、ときめいてしまった。
薔薇が奏でる美しさの象徴、その花弁は・・・青々としていた。
その『青さ』を脳内をフル回転して理解した途端、目の前にあるものがどれだけ素晴らしい・・・もとい、とんでもないものだと認識する。
「青い・・・薔薇!
何故だ、あれは人工的に作られたもの・・・自生はしない筈だ!」
「・・・それが『するんだよ』なぁ、これが」
未だ誰一人として自然界で見つけた者はいない。
遺伝子操作で“作り出すこと”には成功したが、現代で作成できるのは青というより紫に近い色。
しかし私の目に映るのは、紛うことなき紺碧―――
酸素が充満していたのはこれのせいか。
「金や銀、宝石を探す筈が、まさか本当に大きいヤマだったとは・・・
我ながらツイてるぜ」
「お前・・・最初から知っていたのか?」
「ああ。
青い薔薇が自然界にあることも、ここで自生していることもな」
剛田は薄気味悪い笑みを浮かべ、そう答えた。
殴りたくもなる、邪気メーターさえ振り切ってしまうその態度は、耐えに耐えきれないところまで達していた。
「ま、あの方様様だったな」
「リーダー、お話はそこまでに―――」
後ろから呼び止めが入った。
その声は女性・・・『大原 瀬奈』だ。
(あの方・・・?)
黒い人ならこんな奴に話なんかしないだろう。
では誰が?何の為に?
いやそんなことはどうでもいい、それよりこれからどうするかだ。
奴らの狙いはここの薔薇を回収し、世間に提示すること。
大方『売る』のだろう・・・目に見えている。
しかしこれが世に出回るとなれば、どれだけの金と人が動くのだろう。
下手したら死人が出るぞ・・・なんせ、あの女が黙ってはいないだろうからな。
恐らく、この場で射殺して回収作業に掛かる筈だ。
となれば、チャンスは今しかない。
しかし銃によって行動は制限されている、言わば『狭義の軟禁状態』だ。
鈴音なら振り払って銃を取り上げることも可能だろう。
私も剛田の銃を取り上げることくらい、大したことじゃない。
問題はコウキ君―――彼は間違いなく“死ぬ”。
さて自問自答だ黒川レイ・・・デッドエンドに立たされたお前は、ここからどうする?
答えろレイ・・・応えろ私―――!
「ぐぁ、眩しいっ!」
「すみません・・・」
大原はふいにライトを剛田の方へと向けていた。
何か気になるものがあったのだろうか。
カチッ―――
(ん・・・何だ、今の音は?)
「リーダー、こいつらを殺すのは、私にやらせて頂けませんか?」
「あ?どした?」
コウキ君を拘束していた大原は、突然物騒なことを言い出した。
「この3人、私たちの邪魔ばかりして・・・
リーダーのお手を煩わせたのが許せないんです」
どうやらリーダーにお熱のようだ。
それでカッときて―――フッ、最後の『大一番』ってわけか。
「ほう・・・
いいだろう、その役目、お前に任せるぜ」
大原は私と鈴音を扉の前に跪かせ、ヘッドロックで拘束していたコウキ君をこちらへ運び出す。
「・・・・・・」
「え・・・?」
「お前、これを持て」
そう言うと、大原はコウキ君に懐中電灯を持たせた。
「死ぬ前にもう一度この光景を目に焼き付けておけ。
これが“最期”だからな」
コウキ君は両手で懐中電灯を構え、前方を照らす。
ガタガタと震えていた姿は、何故だか凛々しく、日本刀を構えた侍のような目を携えていた。
「では、終わりへのカウントダウンだ・・・」
3・・・
2・・・
1・・・!
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。




