調査ファイル 079 [高みの見物]
この声は・・・リーダー格の男、剛田 雄吾か。
コイツら・・・背後でせせら笑っていやがる。
目の前ではコウキ君が相変わらずの狼狽っぷり。
しかし意外なことに、鈴音は冷静でいた。
バッチリこちらを睨んではいるけど。
「いやぁ~お前たちが仕掛けを解除してくれて助かったぜ。
手間が省けたってもんだ」
「“高みの見物”とは・・・随分とエラくなられたもので」
軽口を叩いてはいるが、正直余裕はない。
得体が知れない以上、いつ銃口から鉛玉がぶっ放されるかわからない。
煌びやかなこの場所をルビーカラーに染めるのは気が引ける。
「エラくなるのはもう少し先だ。
この先の宝を頂いた後でな」
「・・・悪いことは言わん、やめておけ。
お前らに扱える代物じゃない」
「よく言うぜ、お前たちだって探しに来てたじゃねぇか。
こう言う言葉を知ってるか?
『同じ穴の貉』―――ってな」
鼻で笑いながら、銃口を少し強めに突き付ける。
やはり銃を持てば最強なんだろうな、人間という生き物は。
あとお前らと同じカテゴリーにするんじゃない。
―――癪だ。
「・・・それで、私たちをここで殺るのか?」
どこかに生まれるであろう隙を探す為、敢えて行動を促す発言をしたつもりだった。
それが返って脅しになったのだろう、コウキ君が物凄いブルブルと震えている。
涙腺も堤防決壊ギリギリといったところか。
そして剛田はその催促を真に受け、再び鼻で笑いながら話を進める。
「いや、まだ殺しはしない」
これには私も予想外だった。
それは後ろにいた仲間3人も同じだったようで、剛田に質問というか抗議を振りかけていた。
しかし剛田は全く動じることなく、冷静に彼らを諭す。
「コイツらはこの島に眠る宝への道を開いてくれた。
だからその礼には答えないとな」
すると剛田は後頭部に当てていた銃口を離す。
刹那、彼は右手で私の肩に手を回し、組んだ状態で銃口を蟀谷に当てる。
「お望み通り宝は見せてやる。
だがその感想は―――天国の堂島に聞かせてやれ」
あくまで殺すのは変わらないというわけか。
ハッ!上等だ・・・やれるモンならやってみろ。
ただただ指示に従ってヘーコラするほどバカじゃない。
怪盗たるもの財宝を前に屈したりはしない・・・!
「お前ら!・・・付いてやれ」
後ろにいた3人が、個々に付き添い、銃を向ける。
私、鈴音、そして今にも泣きじゃくりそうなコウキ君を連れ、開かれた道の先へと進んだ。
厳密には道ではなく、大きな段差といったところか。
真っ直ぐな道はなく、下は1~2mの高さがある。
この下に行け・・・ってことなのか。
「ほら、行けよ!」
あろうことか、剛田は私の背中を足で押し、段差の下へと蹴落とした。
幸い足から落ち、大怪我は免れた。
しかし着地は僅かに失敗した為、そのまま前のめりにコケてしまった。
右腕から転んだせいで、大きな擦り傷から結構な血が流れ始める。
「くっ・・・!」
「・・・レイちゃん!」
「―――大丈夫だ!
擦り傷だ、気にするな」
とは言うものの、腕を降ろせば血が伝い、地面へ向かってポタポタと垂れる。
右手を開けば、すぐに真っ赤に染まるほどに・・・出血しているようだ。
居た堪れなかったのだろうか、すぐさま飛び降りた鈴音は、私の元へ駆け寄り、カバンへ手を掛ける。
4人が銃口をこちらへ向けているが、応戦するように睨み返している。
まるでアイコンタクトを取らせたように、鈴音はカバンから布を取り出し、私の右腕をグルグルと巻いていく。
これで大丈夫と言わんばかりに微笑みを浮かべ、今度はコウキ君の方へ向かい、手を差し伸ばす。
コウキ君を降ろすと、奴らは一斉に降り出し、再び個々に付き銃を構える。
「オラ、さっさと歩け!」
松明は消され、奴らが握る懐中電灯だけで先へ進む。
少しだけ歩くと、壁に2つの窪みがあるのがわかる。
どう考えてもここに霊珠と時計を嵌め込むのだろうな。
「コウキ君―――」
私はコウキ君を呼んだ。
霊珠は彼のカバンの中に入れてあるからな。
しかし些細な事でも不審に思うこやつらによって、行動は妨げられる。
一斉に銃口をこちらに向け、警戒態勢を取り出す。
よく見れば引金に人差し指を掛けていた。
「ピリピリするな・・・」
窪みを指し、次にコウキ君のカバンを指す。
剛田は納得がいったようで、構えていた銃を一時的に降ろす。
よかったよ、こいつが100%のバカじゃなくて。
霊珠を取り出し、タオルの包みを解く。
タオル越しに持ちながら、窪みに霊珠を嵌め込む。
先程まで輝きに溢れていたが、現在のココロとシンクロしているのか、どんよりと黒ずんでいるように見える。
何だか・・・嫌な気配が漂っているんだが、果たして気のせいだろうか。
「ようし、いい子だ」
続いて剛田がポケットから懐中時計を取り出す。
見慣れた鈍い光を放つ、レトロ且つ不可思議なフォルムをしている時計。
何を血迷ったのか、彼は時計にキスをしてから窪みに嵌め込む。
穢れる・・・止めてくれ、穢れてしまう。
そんな私の気持ちを他所に、剛田含むオカルト研究会の面々は恍惚のオーラを放つ。
―――約一名、覗いて。
「それじゃ、ご対面といこうか・・・!」
To Be Continued...
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