調査ファイル 078 [ケアレス・ミス]
「おお・・・」
「スッゲェ・・・!」
「・・・綺麗」
扉の奥は、煌めきで溢れ返っていた。
勿論松明を消せばその輝きも失せるのだが、そんな考えもこの景色の前では風化してしまっていた。
部屋は洞窟の奥同様のドーム状、唯一違うのはその内装。
何一つ着飾ることなく、地肌そのままの採掘場のような空間。
そしてその煌めきの正体は―――
「―――やはりそうか」
「レイさん、これってもしかしなくても・・・!」
「ああ、ダイヤモンドだ」
炭素で構成された幻想的な鉱石―――ダイヤモンド。
世界中の誰しもが羨み、手にするだけで恍惚の表情を余儀なくされる魅惑のイリュージョニスト。
その彼がこの部屋全体に散りばめられ、私たちを歓迎していた。
『よく見つけてくれた』と言わんばかりに。
「ってことは、財宝はコレだったんですね!
あの日記の人も、この輝きで・・・」
「―――いや、違うな」
「え?」
ああ、違うとも。
ダイヤモンドの輝きで失明するほど人間の目はヤワじゃない。
ましてそういった記述もなかった・・・ということは、大元締めはここではない。
「たしかにダイヤモンドは世に出回ると人も金も動く。
だが人々が恐れる程の厄災が発生するだろうか」
「それは・・・確かにそうですけど。
でも、こんなに大量のダイヤモンドですよ、欲しい人で溢れ返って―――」
「・・・ううん、私もレイちゃんに同意、かな。
少なくともこの量じゃ、ね」
部屋中は輝きに満ちている。
が、それは微量なダイヤモンドに光が当たってのこと。
大きさでいうと微々たるもの、これを採掘したところで研磨を掛ければ“なくなってしまう”レベル。
はっきり言って、『価値はない』。
「最低限、ゴルフボールくらいないとな。
ここのものはビー玉にも満たないモノばかりだ。
それに・・・」
ここの地質は火成岩ではないようだ。
そもそもこの島には火山の類はなく、噴火の形跡も見当たらなかった。
山頂には湖がない為、カルデラでもない。
人工島でもないとなれば、ここにダイヤモンド自体あるのがおかしい。
「ふむ・・・」
壁に手を置き、地肌をしっかり触る。
ゴツゴツとした岩肌が荒くザラザラしており、非常に冷たく感じる。
今度は地面にある砂も手に取る。
しかしその肌触りは、壁の岩と違い滑らかにしっとりしているものだった。
小さな石粒が転がって然りだが、地面にあるのは『砂』というより『土』ばかりだ。
ここだけ成分が異なっている・・・どういうことだ?
「コウキ君、資料によればこの島は元々火山だったか?」
「いえ、そういった内容は書かれてませんでしたよ」
頭に人差し指を当てて答えるコウキ君。
まさかダイヤモンドが自生している・・・なんてことないよな
「はぁ・・・結構なお宝だと思ったんだけどなぁ・・・」
「そう気を落とすな。
メインディッシュはこれからだ」
「メインディッシュって・・・
この部屋行き止まりですよ?
コレじゃないとしたら、どこにあるんですか?」
落胆の表情でこちらに訴えかけている。
ここまできて『ハズレ』というのが癪だったのだろう。
だがここはあくまで通過点。
火山がないのに存在するダイヤモンド、異なる成分の岩と砂、そして“霊珠”と“懐中時計”―――
「・・・・・・」
少し考え事をしていると、今度は鈴音が壁に手を当てながらジッとしている。
「どうした?」
「・・・風が―――」
どうやら隙間があるらしく、どことなく風が吹いている。
しかし『どこから』というのは微かでわからないとのこと。
だがこれでハッキリした。
「―――なるほど、そういうこと」
「・・・え?」
「コウキ君、霊珠を」
「あ、はい!」
彼は慌てて霊珠を取り出す。
そして霊珠を鈴音に渡し、私は松明を上へと掲げた。
「2人とも、目を塞げ」
すると―――
腕で目を覆っていたにも関わらず、その凄まじさは十二分に感じていた。
眩しいなんて言葉では効かない程の光が、部屋を包み込む。
光が終息したのを確認し、覆っていた腕を解く。
先程まで目の前にあった正面の壁が、なくなっていた。
そこは、鈴音が手を当てて風を感じていた部分だった。
「くぁー、眩しかったですね」
「・・・なんか、凄かった、ね」
まだクラクラする・・・
だが、あまりゆっくりもしていられない。
後追いなんだ、一刻を争う。
―――の、だが。
「―――待てよ」
「・・・どうしたの?」
「執事は奴らが『先に行った』って、言ったよな?」
「・・・うん」
「だったらさっきの扉、どうして仕掛けが解除されていなかった?」
「・・・!?」
百歩譲って地上の入口を『懐中時計』の鍵で開けたとして、その先の仕掛けが解除されていなかったのは妙だ。
ましてこの部屋・・・足元が土となっている。
入ってきた時には足跡はなかった上、今見る限りでも私たちより大きなものもない。
「―――まさか!」
「―――ご苦労だったな」
後頭部に、何かが宛がわれた。
細く硬い物質で出来ているであろうこの感触・・・銃か。
そしてこのタイミングで仕掛けてくる、ということは―――
「やはりお前たちか・・・“オカルト研究会”殿」
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。




