調査ファイル 077 [Frog on Clock]
まさに、遺跡―――
執事は珠・・・いや、霊珠をタオルに包み、コウキ君へと渡す。
“渡す”ということは、この先使うことが『確定』ということなのだろう。
それもそうか、だってこれ『鍵』だし。
「―――行くっきゃない」
「や、やるっきゃない!」
「・・・負けっこ、ない」
まさか鈴音までノっかって来るとは思わなかった。
が、ここまで来た以上、本当に行くしかない。
とんだ階段旅だこと。
「お気をつけて・・・」
執事の言葉を背に、私たち3人は階段を下る。
地下へと続く見えない道も、ここだけは妙に気持ちが悪い。
気を抜けば、命を取られる―――そう言わんばかりの。
懐中電灯だけでは何一つ見えやしない。
丁度地上で拾った太めの木に火を灯すと、先程より視界が広がる。
松明を片手に、ゆっくりと階段を降りていく。
無心で降りていた故か、気が付けば目の前に段がなくなっていた。
振り返るものの、地上の入口は見えず、光すら喰われてしまっている。
「お次は通路か・・・」
そして私は、ふと松明を前方へと向けた。
「っ!?」
足元に、白い“何か”が落ちている。
それは棒状のものが比較的多く散りばめられ、ローマ字の『I』の形に似ている。
言うまでもない―――“人骨”だ。
「何故こんなものが・・・
それにこの量、尋常じゃないぞ」
「・・・気持ち、悪いね」
そんなモンじゃ効かない。
言い換えれば元は肉体を有していた“死体”が足元に転がってるんだぞ、それも文字通り“腐る程”に。
見せつけられて気味悪く思わない方がおかしい。
―――しかし、だ。
この大量の人骨を見れば見る程、妙に思う。
墓場でもないのに、ここまで死体があるのは何故だ。
それもこんな人目のつかない、地下の通路で。
「ここ、死体を放棄する場所だった・・・とか?」
「それはない。
あの階段を降りて放棄するにしては、効率が悪すぎる。
となれば、原因はアレだろうな」
この先に眠っているであろう、財宝の類。
もはや呪いの魔具だな、これは。
「何にせよ、ここで“何か”あったのは間違いないらしい。
先を行くぞ」
思っているほど軽快にいかない足を、むりっくり進める。
通路は進めば進む程狭くなり、仕舞いには人が2人ギリギリ通れるほどの狭さにまで達していた。
「チャールズだったら、発狂モノか」
「何ですか?」
「―――いや、何でもない」
「・・・シリアの、遺跡」
「うおっ、よく知ってんな」
通路を歩いて幾暫く。
行き止まりには・・・そう、毎度お馴染み。
「扉・・・ですね」
しかしただの扉ではない。
2mくらいある大きい扉は、現代に作られるような簡素なものではない。
寧ろ未来人がタイムスリップして作ったような、不可思議且つ宇宙的なデザイン。
その違和感に更なる別の感触ウェーブをぶっ放っているのは、中央部の若干下に付いてある“コレ”。
「・・・何、コレ?」
「ふむ・・・」
一目瞭然だ、これは『時計』である。
そんなことは百も承知だ。
それが何故ここにくっ付いている。
大きさは違えど、デザインは例の懐中時計と瓜二つだ。
壁掛け時計程の大きさになっているが、秒針・分針・時針の3本もしっかり作られていた。
3本共綺麗に12時の方向へ編隊を組んでいた。
何もなしに時針を触ると、少し動く。
そのまま時計回しにグッっと回すが、秒針・分針は反応を示さない。
「時計としての機能はないらしい」
「ってことは、扉を開ける為の仕掛け・・・?」
「そういうことだ」
グリグリ動かせるということは、指定された針の位置―――つまり『時刻』を提示すれば解錠できる。
一見簡単そうであっけらかんとしてはいるが、その時刻が何なのかがわからない内はどうしようもない。
というか、時刻って・・・
「一体何の・・・?」
財宝を隠した時刻?
死体の山を築いた時刻?
まさか、私たちがここに来た時刻?
いやどれも空想論だ、アシモフも聞いて呆れるだろう。
財宝に関連するものに対しての時間だ、それさえわかれば―――
「・・・あれ?」
ふいにコウキ君が疑問を唱える。
「この時計、以前レイさんが持っていらした物に似てますよね」
「ああ。
それがどうした?」
「もしかして、あの時計の時刻を当て嵌めたら・・・?」
まあ、そう考えるよな、普通は。
だが肝心なことを見落としている。
「その時計は、今どこにある?」
「あ・・・」
洞窟の部屋の中に置きっぱなしだ。
尤も、今頃奴らの手に渡っていることだろう。
それにもう先へ行っているのであれば、この仕掛けも優に解いていることで。
だが、着眼点は間違ってはいない。
あの時計の時刻・・・何時だったか。
今思えば、針の向きなぞ気にはしていなかった。
時計関連となれば、夢で見た時の時刻だろうか。
それとも―――
「・・・ねぇ、レイちゃん」
今度は鈴音が疑問を唱えた。
「どうした」
「・・・オカルト研究会の人たち、どうやって、ここに来たの、かな?」
言われてみればそうだ。
ここに入る際、霊珠を用いて扉を開けた。
それはこのヘンピな力があったからこそ。
では彼らはどうだ?
あの懐中時計を持っていたとして、遺跡の扉を糸も簡単に開けるとは思えない。
無論、あの時計も鍵の一つ・・・開けられる仕掛けがあるのであれば、話は別だが。
「奴らはもう一つの鍵を持っている。
きっとそれで入ったのだろう」
「・・・・・・」
ふむ、妙に難しい顔をしていらっしゃる。
何か思うことがあるのだろうか。
「意見があるなら、聞こう」
「・・・霊珠も鍵、なんだよね?」
「ああ」
「・・・だったら、これで開くんじゃ、ないかな?」
「―――賢い」
何度も申し訳ないが、コウキ君のカバンから霊珠を取り出す。
タオルの包みを解き、時計に近付ける。
すると霊珠は輝き出し、時計にも異変が生じる。
時計は壊れたロボットのように、針が進んだり戻ったりを繰り返し始めた。
ギゴギゴ音を立てながら、発狂した人みたいにグルングルグン針を回している。
するとある時間を示し、狂喜乱舞は台風の目よろしく、ピタリと止まった。
間も無くして、金属音が辺りに響く。
ガチンッ!
ガチンッ!
ガチンッ!
―――
――――――
―――――――――
「―――開いた・・・のか?」
「・・・多分」
「この扉取っ手ないですけど、押すんですか?」
しかし・・・とんでもテクノロジーで出来ているな、この島のものは。
エジプトの建築家も真っ青だろうな、きっと。
今一度時計に触れた・・・刹那―――
物凄い轟音と共に、扉が下降していく。
洞窟の壁同様、地面の奥へと扉が消えていった。
「よし、行こう」
この先に、きっと―――
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。




