調査ファイル 076 [姉の愚行、トラウマ級]
階段――――だった。
しかし、“また階段”などと思ってはいけない。
今度は光が上の方から差し込んでいる。
やっと出口だ、間違いない。
私たちは再び階段を登り、地上へと向かう。
「お待ちしておりました」
――――虚無を纏う幽霊が、そこにいた。
というくらい怖じ気付く程のオーラを放っていたのだ、この男は。
「執事、さん・・・?」
少し緩めの“気をつけて”のポーズで、私たちを出迎えていた。
改めて辺りを見回すと、過度に頭の中を駆け巡るデジャヴ。
すんごい見覚えあるんですけど。
「ここ・・・洋館じゃないですか?」
言われてみれば、壁の模様や奥に見えるエントランスが洋館の内装に似ている。
まして執事がいるってことは、本当に洋館なのだろう。
まさか洞窟から、洋館に繋がっているとは・・・
(む・・・何だ、この臭い?)
微かではあるが、妙に甘ったるい臭いがする。
果物や菓子類のそれではないようだ。
それに――――
「・・・」
これまた僅かに、鈴音の視線が泳いでいる。
少し気掛かりだが、今はそっちより優先すべきことがある。
「どういうことか、話してもらおうか」
コウキ君があわあわしている。
相変わらず自分では気付きにくいが、怖い顔をしていたようだ。
しかし、執事がここに立っているということは、私たちがここに来るということを“予め知っていた”ことになる。
いい加減ここいらでネタばらしと洒落込もうか。
「・・・お話ししたい気持ちは山々ですが――――」
この期に及んでまだシラを切るつもりか。
こうなれば――――!
「――――時間がありません。
私についてきて頂きたい・・・」
グッと握った拳も、その言葉でほどけてしまった。
知らぬ存ぜぬの態度ではなさそうだ。
今の彼の目は、どこか焦りを感じる。
洋館の外に出ると、正門に4WDのSUVが止まっていた。
離れにリムジンがあるけど――――まさかこれじゃないよな?
「さあ、皆様も・・・」
その言葉で確信した。
これだ・・・この車だ。
執事はSUVの運転席へ乗る。
・・・山登る気だ――――
「行きましょう、レイさん!」
「なっ!コラ、押すなっ!」
コウキ君が文字通り背中を押している。
彼は地味に力が強かった。
私は身体を後ろに少し倒れ込み、踵で地を踏ん張っている。
進む度に出来る“引きずったような跡”だけが、むなしく残されていた。
引きずった跡なんて、本来宇城側に引っ張った際に出来るものであって――――
「さあさあ、行きますよっ!」
だー!ちょっと待て、まだナレーション終わってな・・・ぐぁー!
かくして私たちはSUVに乗り、山の山頂へと向かった。
本来、車自体大したことはない。
酔うこともなく、これといった事故もなく。
ただどういうわけか、私がSUVに乗ると、大抵ロクなメに合わない。
いや、“必ず”と言ってもいいだろう。
姉が買ったSUVに始まり、最後に乗った時まで生きた心地はしなかった。
終始泣いてたっけ、あの頃は。
「では、参ります・・・」
その言葉で、失神してしまいそうになった。
終わる・・・私の人生が、終わる――――
「・・・到着しました」
恐る恐る目を開けると、山頂付近に着いていた。
どうやらちゃんと整備されたコンクリの道を走り、安全に向かっていたようだ。
まあよくよく考えれば・・・
「当たり前・・・か」
後部座席で上の空だった私を、助手席から降りて出てきた鈴音がエスコートする。
「・・・大丈夫?」
細長く小さな手を、こちらに差し出す。
指もスラッとしており、爪は光に反射して輝いている。
「ああ、すまない」
手を取り、ゆっくり車を降りる。
辺りは木々が生い茂っているが、車から5mくらい先にある謎の物体付近は地肌が見えている。
「これは・・・何ですか?」
「ふむ・・・遺跡にしては小さすぎるかな」
高さは3mくらい、石造りの小さな建造物。
横幅と奥行は結構あり、呪いのような文字や絵が彫られている。
すると執事がこちらに向かって、神妙な面持ちで話を始める。
「この奥に、皆様の求める答えがあります。
どうか、彼らを止めていただきたく存じます」
「どういうことだ!?
財宝は本当にあるのか?
それに、奴等はもうこの奥に・・・?」
「・・・左様でございます。
どうやら、ここまで嗅ぎ付けたようで」
どうせロクなことに使わないであろう奴等に、財宝を拝ませるわけにはいかない。
ましてや人を殺めた者に――――そんな資格はない。
「・・・でもここ、入口ない、よ?」
建造物は大きな墓のような風簿。
360°、当然人が入れるような穴はない。
「黒川様、霊珠はお持ちで?」
名前からして、恐らく宝珠だと思っていたあの珠だろう。
「ああ」
コウキ君をこちらに呼び、カバンを開ける。
中に入っていたグルグル巻きのタオルを取り出し、執事に提示する。
「それを、こちらへ――――」
何のことかはわからなかったものの、とりあえずタオルを解く。
すると珠は太陽の光を浴び、眩しい程に光り出す。
同時に、タオル越しに仄かな温かみをも宿す。
「なっ・・・!」
「珠が・・・!」
「・・・光ってる!」
珠は光を帯びた後、石の模様へと光線を伸ばす。
一際目立つ絵に当たると、僅かながら地面が揺れる。
地震とまでは言わないまでも、それなに揺れは感じる。
地面に気を取られていたが、すぐさま建造物を見ると、正面の石が地中へと消えていく。
どうやら扉だったらしい岩は、自動ドアの要領で地面の中に吸い込まれ、その奥にはまたしても暗闇が広がる。
更に言えば、これさえ“またしても”―――
「・・・階段、だな」
建造物の下には、地下へと続く階段が・・・伸びていた。
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。




