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探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~  作者: 土井淳
第五章 ~ 名もなき招待状 [後編] ~
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調査ファイル 076 [姉の愚行、トラウマ級]

階段――――だった。

しかし、“また階段”などと思ってはいけない。

今度は光が上の方から差し込んでいる。

やっと出口だ、間違いない。

私たちは再び階段を登り、地上へと向かう。




「お待ちしておりました」




――――虚無を纏う幽霊が、そこにいた。

というくらい怖じ気付く程のオーラを放っていたのだ、この男は。


「執事、さん・・・?」


少し緩めの“気をつけて”のポーズで、私たちを出迎えていた。

改めて辺りを見回すと、過度に頭の中を駆け巡るデジャヴ。

すんごい見覚えあるんですけど。


「ここ・・・洋館じゃないですか?」


言われてみれば、壁の模様や奥に見えるエントランスが洋館の内装に似ている。

まして執事がいるってことは、本当に洋館なのだろう。

まさか洞窟から、洋館に繋がっているとは・・・




(む・・・何だ、この臭い?)


(かす)かではあるが、妙に甘ったるい臭いがする。

果物や菓子類のそれではないようだ。

それに――――


「・・・」


これまた僅かに、鈴音の視線が泳いでいる。

少し気掛かりだが、今はそっちより優先すべきことがある。


「どういうことか、話してもらおうか」


コウキ君があわあわしている。

相変わらず自分では気付きにくいが、怖い顔をしていたようだ。

しかし、執事がここに立っているということは、私たちがここに来るということを“予め知っていた”ことになる。

いい加減ここいらでネタばらしと洒落込もうか。




「・・・お話ししたい気持ちは山々ですが――――」


この期に及んでまだシラを切るつもりか。

こうなれば――――!


「――――時間がありません。

私についてきて頂きたい・・・」


グッと握った拳も、その言葉でほどけてしまった。

知らぬ存ぜぬの態度ではなさそうだ。

今の彼の目は、どこか焦りを感じる。




洋館の外に出ると、正門に4WDのSUVが止まっていた。

離れにリムジンがあるけど――――まさかこれじゃないよな?


「さあ、皆様も・・・」


その言葉で確信した。

これだ・・・この車だ。

執事はSUVの運転席へ乗る。

・・・山登る気だ――――


「行きましょう、レイさん!」


「なっ!コラ、押すなっ!」


コウキ君が文字通り背中を押している。

彼は地味に力が強かった。

私は身体を後ろに少し倒れ込み、踵で地を踏ん張っている。

進む度に出来る“引きずったような跡”だけが、むなしく残されていた。

引きずった跡なんて、本来宇城側に引っ張った際に出来るものであって――――


「さあさあ、行きますよっ!」


だー!ちょっと待て、まだナレーション終わってな・・・ぐぁー!


かくして私たちはSUVに乗り、山の山頂へと向かった。


本来、車自体大したことはない。

酔うこともなく、これといった事故もなく。

ただどういうわけか、私がSUVに乗ると、大抵ロクなメに合わない。

いや、“必ず”と言ってもいいだろう。

姉が買ったSUVに始まり、最後に乗った時まで生きた心地はしなかった。

終始泣いてたっけ、あの頃は。


「では、参ります・・・」


その言葉で、失神してしまいそうになった。

終わる・・・私の人生が、終わる――――







「・・・到着しました」


恐る恐る目を開けると、山頂付近に着いていた。

どうやらちゃんと整備されたコンクリの道を走り、安全に向かっていたようだ。

まあよくよく考えれば・・・


「当たり前・・・か」


後部座席で上の空だった私を、助手席から降りて出てきた鈴音がエスコートする。


「・・・大丈夫?」


細長く小さな手を、こちらに差し出す。

指もスラッとしており、爪は光に反射して輝いている。


「ああ、すまない」


手を取り、ゆっくり車を降りる。

辺りは木々が生い茂っているが、車から5mくらい先にある謎の物体付近は地肌が見えている。




「これは・・・何ですか?」


「ふむ・・・遺跡にしては小さすぎるかな」


高さは3mくらい、石造りの小さな建造物。

横幅と奥行は結構あり、(まじな)いのような文字や絵が彫られている。

すると執事がこちらに向かって、神妙な面持ちで話を始める。


「この奥に、皆様の求める答えがあります。

どうか、彼らを止めていただきたく存じます」


「どういうことだ!?

財宝は本当にあるのか?

それに、奴等はもうこの奥に・・・?」


「・・・左様でございます。

どうやら、ここまで嗅ぎ付けたようで」


どうせロクなことに使わないであろう奴等に、財宝を拝ませるわけにはいかない。

ましてや人を殺めた者に――――そんな資格はない。


「・・・でもここ、入口ない、よ?」


建造物は大きな墓のような風簿。

360°、当然人が入れるような穴はない。


「黒川様、霊珠はお持ちで?」


名前からして、恐らく宝珠だと思っていたあの珠だろう。


「ああ」


コウキ君をこちらに呼び、カバンを開ける。

中に入っていたグルグル巻きのタオルを取り出し、執事に提示する。


「それを、こちらへ――――」


何のことかはわからなかったものの、とりあえずタオルを(ほど)く。

すると珠は太陽の光を浴び、眩しい程に光り出す。

同時に、タオル越しに(ほの)かな温かみをも宿す。


「なっ・・・!」


「珠が・・・!」


「・・・光ってる!」


珠は光を帯びた後、石の模様へと光線を伸ばす。

一際目立つ絵に当たると、僅かながら地面が揺れる。

地震とまでは言わないまでも、それなに揺れは感じる。

地面に気を取られていたが、すぐさま建造物を見ると、正面の石が地中へと消えていく。

どうやら扉だったらしい岩は、自動ドアの要領で地面の中に吸い込まれ、その奥にはまたしても暗闇が広がる。

更に言えば、これさえ“またしても”―――




「・・・階段、だな」




建造物の下には、地下へと続く階段が・・・伸びていた。




To Be Continued...


※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

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