調査ファイル 075 [最強のマスターキー]
書庫に戻ると、コウキ君は一冊の本を開いて持っていた。
「見つけたか!?」
「多分・・・」
本を受け取り、内容を確認する。
日本語で書かれた文章は、意外にも綺麗な字だった。
肝心の内容だが、間違いなく日記。
テーブルで見つけた点字の日記同様、ここでの生活を綴ったものだった。
しかし、こちらは―――
「オブラートに包まれてない・・・ようだな」
暗喩の内容ではなく、ありのままの出来事をそのまま書いてある。
どうやら相当“キていた”ようだな、ここでの暮らしが。
「・・・何が、書いてるの?」
「簡潔に言えば、彼は島の住人よってここに閉じ込められていたらしい。
―――やはり、財宝に関わっていたようだ」
見てはいけないもの、ということか。
そして見てしまった者は、視力を奪われるという呪い紛いの罰を受ける。
しかし、疑問も残る。
この人物も財宝に関わった筈だ、何故視力を奪われていない・・・?
咄嗟に目を塞いでどうにかなる代物―――ではなかろうに。
ペラペラと捲ると、やはりというべきか・・・彼からのありがたいメッセージが書かれていた。
『もしこの日記を見つけたのなら、我々の後を辿ってほしい。
隠し通路への道はこの本が目印だ、そこを抜けて、真実を見つけてくれ』
「・・・コウキ君、この日記はどこで手に入れた?」
私はコウキ君に日記の在処を改めて聞く。
あそこです、と人差し指を指したのは、先程まで鈴音が探していた本棚だった。
「あ、でも、これ見つけにくかったですよ。
だって、本棚に並んでなかったんですから」
「どういうことだ?」
「取り出した本を戻そうとしたんですけど、いくら押しても仕舞えなかったんです。
そしたら、並んでいる本の奥に横にして置いてあって・・・」
「ちょっと待て、その棚はどこだ?」
「えっと・・・左から2番目です―――」
あれか。
ならば―――
「―――せいっ!!」
回し蹴り、空中にて。
どうやら身体は鈍ってなかったらしい。
思いの外当たりがよかったらしい、本棚はぐらつきを始める。
そしてそのまま―――奥へと倒れた。
「なるほど、ここだけ後ろに空間があったのか。
どうりで押しても動かないわけだ・・・」
ここしか動かないんだもん。
他の本棚は後ろが壁だし、ガッチリ固定されてるし。
「・・・でも、なんでここだけ、通路が?」
「さあな。
だが、誰かがここを抜け出す為に作った・・・としか、考えられまい」
脱走用とは思えないが、予め作られた線もいまひとつだ。
「だが、それもすぐにわかるさ。
「出口の先に何があるかを見れば、な―――」
私たちは倒れた本棚と本に申し訳ない気持ちを抱きながらも、少し歩きづらい足場として進む。
こりゃ、師匠が見たら勘当モンだな・・・
本棚があった場所―――その向こう側は、更に暗闇が続いていた。
書庫に辿り着く前の通路同様、一寸先どころか、自分の姿さえまともに見えないほどに。
「暗いですね・・・」
「足元、気を付けて」
って、注意した矢先だもんな・・・
「うわっ!」
「・・・大丈夫?」
少年、大人の女性に転ぶのは今のうちだぞ。
というか、いい加減天性と認めたらどうだ?
「・・・レイちゃんも言ってた。
足元、気を付けて、ね」
「は・・・はい」
多分真っ赤になっているんだろうな。
見えなくても、案外見えるもんだ・・・違う意味で。
懐中電灯は、一体どこを照らしているのだろうか。
前方にスポットを宛てても、何も映しやしない。
光が闇に喰われている―――と、表現してもおかしくないくらいだ。
ザッ、ザッ、ザッ・・・と、足音が響くだけ。
特に目立った光景も見えず、私たちも変わったところは今のところない。
罠という可能性も踏んではいたが、毒矢も吹かなければ落とし穴もない。
剰え、毒沼さえも。
「またこう道か・・・」
「少年、男なら辛抱だ」
「・・・ガンバレ」
―――鈴音、そのトーンだと語尾に『ハート』が付きかねんぞ。
「うぅ・・・頑張リマス」
ほら言わんこっちゃない。
これが素なのか、本気でからかているのか、さっぱりわかんない。
津田君なら、もちょっと窘めてたのかもしれない―――
・・・・・・みんな、元気にしているだろうか・・・・・・・
「―――あっ!」
不意にコウキ君が声を上げる。
ふと目線を上げると、私の前に二人が立っていた。
いつの間にか追い越されていたようだ。
そして二人が照らし出すライトは・・・行き止まりとなっている、目の前に焦点が作られていた。
「これは・・・」
紛うことなき―――階段である。
ということは、やはりここが隠し通路で間違いないようだ。
ここからあの2人は脱出し、消息を絶った。
彼らがどうなったのかは気になるが、それよりもまずこの上に何があるのかだ。
「よし、進もう」
私たちは、階段を登った。
階段頂上には、いつか見た風景がデジャヴとして蘇る。
―――の、筈でしたが。
「―――お?」
ドアノブは、軽かった。
鍵が掛かっていない・・・どういうことだ?
いや別にいいのだが、何か拍子抜けしたというか、何というか・・・
扉を開けた先にあったのは―――
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。




