調査ファイル 074 [解けゆく鎖]
「・・・・・・」
鈴音は、ある人物の名を挙げた。
彼らと初めて対面した時を思い出し、顔と名前を一致させていた。
なるほど、あの人が―――
「でもどうして私たちに協力を?
まさか警察による内通者じゃないだろうな?」
目を瞑りながら首を振る鈴音。
「・・・違うみたい。
なんかね、彼らの行動を止めたい―――って、言ってたよ」
行動・・・というのは、ロクでもない事だろう。
大まか“一攫千金”か“世界征服”といったところか。
そこまで大きなヤマだとしたら、止めに入るのもわからなくはないが―――
「・・・ホントはね、もう一人、いたの」
「もう一人?」
「・・・もう一人、反対していた人が、いたの。
でも・・・殺されちゃった、らしいの」
刹那、全てが繋がる気持ちの良い音が、脳内を掻き廻るよう響き渡る。
そうか、そういうことだったのか。
「・・・レイちゃん?」
いつもの癖だ。
私は下を向き、顎に手を置いて、ニヤついていたらしい。
「ああ、すまない。
ようやく真相がわかったよ。
では始めよう―――事件の真相を」
事の発端は、この島に『財宝が眠る』という情報。
彼らは何らかの方法で情報を知り、金になると踏んで財宝を探し当てようと決意した。
そんな中、彼らの元に招待状が届いた。
運の良いことに、財宝の眠る島へのチケットが同封されていた。
準備を整えた彼らは、船に乗り込み、この島へとやってきた―――
彼らはありったけの情報と採掘道具を持ってきた。
到着してすぐ、メンバーの一人が資料を読み直した・・・これが悪夢の始まりだった。
彼の名は、『堂島 芳次』。
改めて資料を読み返し、探しているものがとんでもない代物ではないかと推測する。
すかさず全員に説得を試みるが、聞く耳は持ってもらえなかった。
堂島氏が声を荒げる度に、他の面々もボルテージが上がっていった。
コウキ君が聞いた声は、恐らくこの時のものだろう。
そしてついに耐え切れなかったのだろう、メンバーの“誰か”が堂島氏を―――手に掛けてしまった。
遺体を部屋に置きっぱなしにしては、いずれ誰かに見つかってしまう。
そう考えた彼らは、人々が寝静まる夜の内に、遺体を外へと運び出した。
あの時執事が放った言葉―――
「あの5人―――大きな袋を持っていました」
「袋?」
「最近の方は、天体観測にも大荷物を持ち歩くのでしょうか・・・」
恐らく袋の中身は遺体だろう。
金属探知機もケースのまま持ち運べば、もし誰かしらに見られても、天体観測に出掛けているように見えなくもない。
彼らは事前に見つけておいた空き家に遺体を置き、その場を離れた・・・
しかし彼らは敢えて外で朝を迎えた。
途中で帰ったら、変に怪しまれるからな。
そもそも最初に私たちに姿を現さなかったのは、自分たちが『トレジャーハンター』だと知られたくなかったから。
もし正体がバレてしまっては、横取りされてしまうと考えたからだろう。
後に私たちも財宝を探していると知り、跡をつけていた。
仕掛けを解き、例の部屋を解放した時点で用済みと判断し、スタンガンで気絶させた・・・
その後、私たちを袋に詰め、空き家の中に置き、鍵を掛けた。
警察が来たのも、彼らが通報したが故。
『殺人犯が立て籠もっている』とでも言ったのだろう。
濡れ衣を着せれば、邪魔立てされないと考えてな。
そんな中、彼らに予想外の出来事が起こる。
それは、“時計の紛失”―――
なくさないよう、盗まれないよう最低1人を監視役として配置していただろう。
にも関わらず時計はなくなってしまった。
理由は簡単、メンバーの誰かが取ったからだ。
彼らの“野望を阻止する”為、堂島氏同様財宝に対し危惧していた人物がいた。
その人物が鈴音を通し、私たちに協力を要請した。
結果的に私たちは時計は受け取り、危機を助けてもらい、財宝の死守に尽力している―――ということになっているわけだ。
「―――とは言ったものの、実行犯そのものが誰かまではわからなかったがな。
それともう1つ、気になることがある」
「・・・?」
「鈴音―――君はどうしてこの島に来た?」
本当に山登りに来たわけではあるまい。
財宝の一件を知らなければ、中々来ることもなかろうに。
「・・・依頼とは別件で、この島に。
あ!・・・これは、絶対秘密・・・っ!」
口の前で両手人差し指でバッテンを作っている。
恐らく素でやっている・・・同じ女性として、それくらいはわかる。
ブッているわけではない、だからこそ可愛い。
「接点のない2人がどうやって話を取り付けたんだ。
こう言っては何だが、まだ君を信用したわけじゃないぞ」
「・・・わかってる。
でも、言えない。
・・・いつか話す時が来たら―――」
「それまで信じてくれ・・・と?」
コクン、と頷く。
その目は先程までのトロンとしたものではなく、澄んだ瞳に力強さまで感じるほどの芯のある目をしていた。
執事のそれには及ばないものの、研ぎ澄まされた視線が、私に突き刺さる。
しかし、ここまで来たのも鈴音のおかげでもある。
今ばかりは“恩返し”―――ということにしておくか。
「いいだろう。
だがもし、私たちに牙を剥けたその時は―――覚えてなさいよ。
地獄の底まで呪ってやるからな」
今まで見せなかった目付きを、彼女へと向ける。
日本刀なぞ一発でへし折れる程の、氷の弾丸を。
さすがに驚いたのだろう、思わず怯んでいる。
汗がこめかみ辺りからツーッと伝っていく。
「2人共、ちょっといいですかーっ!!」
書庫の方から声が聞こえた。
コウキ君が私たちを呼んでいる。
って、彼一人に任せっぱなしだった、本探し。
「行こう、鈴音」
「えっ!?・・・あ、うん―――」
彼女の手を引き、私は書庫へと歩き出した。
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。




