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探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~  作者: 土井淳
第五章 ~ 名もなき招待状 [後編] ~
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調査ファイル 073 [裏切者]

「協力といっても、何をすれば?」


「この部屋にある本を全て洗い出す。

かなり応えると思うが、手を貸してほしい」


「・・・木を隠すなら、森の中、ね」


「そういうことだ」


ざっと見積もって1000冊はくだらないだろう。

文字通り骨が折れそうだ。

腱鞘炎程度で収まればいいが、な・・・




私たちは手分けして本を調べた。

隅から隅まで、舐め回すように。

コウキ君は入口から見て左側の、鈴音は正面の、私は右側の本棚を捜索している。

本棚と一言で言っても、大きなものが3台並んだ状態で置かれている。

それも上から下までビッシリとなると、日が暮れるどころか年明けるぞ・・・


それでも尚、私は探す―――




「これは図鑑・・・これは錬金術・・・これは読めない・・・」


パラパラと立ち読みスタイルを築いているコウキ君。

それでも読み終えた本は丁寧に棚に戻すという礼儀はそのままで。

私なら、その辺にポイって捨ててしまいそうだがな。


一方の鈴音は、終始無言で本を読んでいる。

悔しいが、そのプロポーションは女性も惚れる程だ。

古臭い書庫で椅子に座り、膝にブランケットを掛けて本を読んでいそうな・・・そういえばそんな人がいたような―――


私も私で本を漁ってはいるが、それらしきものは全く以て見つからない。

砂漠に落としたコンタクトとは、上手いことを言ったつもりだろうか。

日本語、英語、イタリア語、仕舞いにはアラビア語の本なんかもある。

前者3つは読めるものの、後者のものは訳が分からない。

そもそも需要あるのか、これは・・・


「どれも錬金術関連の本か―――」


黒魔術にせよ、錬金術にせよ、一体何を以てこんな本を?

呪いの実験をしていたような形跡もなかったし、そのような道具も施設もない。

あったとすれば、あのハイテク遺跡だけだが・・・いや、あれだけでも大したものだ。




「あ゛ぁ~・・・」


少し離れた場所で声にならない声を上げている。

少年にはキツかったか、精神的に。

学校の図書委員とはわけが違うしな、まったく。


「・・・はい、これ」


ちょっと振り返ると、鈴音がスポーツドリンクを差し出している。

先程飲んでいたものの余りだろう。

彼を(ねぎら)ってか、敢えて余していたそれを渡そうとしていた。

随分と優しい面があるもんだ―――ん、ちょっと待てよ。


「鈴音、それって・・・」


「・・・?」


その答えに気付いたのか、コウキ君は恐ろしく顔が真っ赤になっていた。

今にも火を噴きそうな程に。


「な、な、にゃにを※△○Σ□××※▽!!!」


―――もはや何語かさえわからない。

アラビア語か?


しかし当の本人は気付いていないようで、ボトルを持ちながら首を(かし)げている。


「・・・飲まないの?」


「け・・・結構デス。

アリガトゴザマス―――」


あまりイジメテやるな、小学生を。




それからまた暫く、本を(めく)る音だけが部屋に響く。


「ふむ・・・」


ここいらで、聞いてみるか。

喉の小骨よろしく、引っかかっていた疑問を。


「鈴音、ちょっといいか?」


「・・・?」


こちらを振り返り、相変わらずポーズをしている。

首を傾げるのが、彼女のブームなのだろうか。

まぁ・・・可愛いのだが。


書庫の入口を出て、少し離れた場所に彼女を呼び出す。

何を話すのだろうかと、若干そわそわしている様子も見える。

それもそうだろうな、これから君の事を聞くのだから。


「そろそろ聞かせてくれないか、頼み事をされた『ある人』のことを」


「・・・!」


やっぱり―――と言わんばかりの表情。

状況が状況なだけにスルーしてしまったが、いい加減白黒付けておかないと、気味が悪い。

もし彼女が私たちを監視するスパイ、或いは暗殺者だとしたら・・・

伏目のまま、彼女はだんまりを決め込んでいた。

右手で左腕を掴み、悩み考える姿勢をしながら。


やがて錘の外された口が、ゆっくりと・・・ゆっくりと、開く。


「・・・オカルト研究会の、人に―――」


やはりそうだったか。

ドーム状の部屋まで辿り着くには、その場所を知らない人間以外の人物では不可能だ。

そしてあの部屋を知っているのは、私とコウキ君、オカルト研究会の計7人。

消去法で言えば、否が応でもそうなる。

問題はその中の『誰が』という点だが。


「誰なんだ、その依頼人とは」


「・・・」


伏目は、解かれることもない。

腕を掴む力が強まったのか、手がギュッと締まる。


「すまないが、私はその人物が誰かを知りたい。

正直言って、私たちはあの連中に殺されかけた。

(あまつさ)え殺人の濡れ衣を着させられる始末だ。

近い内、彼らと対峙する・・・そうなった場合、全員無事でいられる保証はない」


だからこそ、その人物だけは守りたい。

命の恩人でもあるしな。

知らずに手を加えてしまえば、仇で返すことに鳴る。

それは私の流儀に反する―――




「・・・わかった」


鈴音はそう言って、今にも泣き出しそうな表情を浮かべていた。

申し訳ないことをしている気分に、陥りそうだ。


「―――ありがとう。

それで誰なんだ、依頼人は」




「・・・依頼人は―――」




To Be Continued...


※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

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