調査ファイル 073 [裏切者]
「協力といっても、何をすれば?」
「この部屋にある本を全て洗い出す。
かなり応えると思うが、手を貸してほしい」
「・・・木を隠すなら、森の中、ね」
「そういうことだ」
ざっと見積もって1000冊はくだらないだろう。
文字通り骨が折れそうだ。
腱鞘炎程度で収まればいいが、な・・・
私たちは手分けして本を調べた。
隅から隅まで、舐め回すように。
コウキ君は入口から見て左側の、鈴音は正面の、私は右側の本棚を捜索している。
本棚と一言で言っても、大きなものが3台並んだ状態で置かれている。
それも上から下までビッシリとなると、日が暮れるどころか年明けるぞ・・・
それでも尚、私は探す―――
「これは図鑑・・・これは錬金術・・・これは読めない・・・」
パラパラと立ち読みスタイルを築いているコウキ君。
それでも読み終えた本は丁寧に棚に戻すという礼儀はそのままで。
私なら、その辺にポイって捨ててしまいそうだがな。
一方の鈴音は、終始無言で本を読んでいる。
悔しいが、そのプロポーションは女性も惚れる程だ。
古臭い書庫で椅子に座り、膝にブランケットを掛けて本を読んでいそうな・・・そういえばそんな人がいたような―――
私も私で本を漁ってはいるが、それらしきものは全く以て見つからない。
砂漠に落としたコンタクトとは、上手いことを言ったつもりだろうか。
日本語、英語、イタリア語、仕舞いにはアラビア語の本なんかもある。
前者3つは読めるものの、後者のものは訳が分からない。
そもそも需要あるのか、これは・・・
「どれも錬金術関連の本か―――」
黒魔術にせよ、錬金術にせよ、一体何を以てこんな本を?
呪いの実験をしていたような形跡もなかったし、そのような道具も施設もない。
あったとすれば、あのハイテク遺跡だけだが・・・いや、あれだけでも大したものだ。
「あ゛ぁ~・・・」
少し離れた場所で声にならない声を上げている。
少年にはキツかったか、精神的に。
学校の図書委員とはわけが違うしな、まったく。
「・・・はい、これ」
ちょっと振り返ると、鈴音がスポーツドリンクを差し出している。
先程飲んでいたものの余りだろう。
彼を労ってか、敢えて余していたそれを渡そうとしていた。
随分と優しい面があるもんだ―――ん、ちょっと待てよ。
「鈴音、それって・・・」
「・・・?」
その答えに気付いたのか、コウキ君は恐ろしく顔が真っ赤になっていた。
今にも火を噴きそうな程に。
「な、な、にゃにを※△○Σ□××※▽!!!」
―――もはや何語かさえわからない。
アラビア語か?
しかし当の本人は気付いていないようで、ボトルを持ちながら首を傾げている。
「・・・飲まないの?」
「け・・・結構デス。
アリガトゴザマス―――」
あまりイジメテやるな、小学生を。
それからまた暫く、本を捲る音だけが部屋に響く。
「ふむ・・・」
ここいらで、聞いてみるか。
喉の小骨よろしく、引っかかっていた疑問を。
「鈴音、ちょっといいか?」
「・・・?」
こちらを振り返り、相変わらずポーズをしている。
首を傾げるのが、彼女のブームなのだろうか。
まぁ・・・可愛いのだが。
書庫の入口を出て、少し離れた場所に彼女を呼び出す。
何を話すのだろうかと、若干そわそわしている様子も見える。
それもそうだろうな、これから君の事を聞くのだから。
「そろそろ聞かせてくれないか、頼み事をされた『ある人』のことを」
「・・・!」
やっぱり―――と言わんばかりの表情。
状況が状況なだけにスルーしてしまったが、いい加減白黒付けておかないと、気味が悪い。
もし彼女が私たちを監視するスパイ、或いは暗殺者だとしたら・・・
伏目のまま、彼女はだんまりを決め込んでいた。
右手で左腕を掴み、悩み考える姿勢をしながら。
やがて錘の外された口が、ゆっくりと・・・ゆっくりと、開く。
「・・・オカルト研究会の、人に―――」
やはりそうだったか。
ドーム状の部屋まで辿り着くには、その場所を知らない人間以外の人物では不可能だ。
そしてあの部屋を知っているのは、私とコウキ君、オカルト研究会の計7人。
消去法で言えば、否が応でもそうなる。
問題はその中の『誰が』という点だが。
「誰なんだ、その依頼人とは」
「・・・」
伏目は、解かれることもない。
腕を掴む力が強まったのか、手がギュッと締まる。
「すまないが、私はその人物が誰かを知りたい。
正直言って、私たちはあの連中に殺されかけた。
剰え殺人の濡れ衣を着させられる始末だ。
近い内、彼らと対峙する・・・そうなった場合、全員無事でいられる保証はない」
だからこそ、その人物だけは守りたい。
命の恩人でもあるしな。
知らずに手を加えてしまえば、仇で返すことに鳴る。
それは私の流儀に反する―――
「・・・わかった」
鈴音はそう言って、今にも泣き出しそうな表情を浮かべていた。
申し訳ないことをしている気分に、陥りそうだ。
「―――ありがとう。
それで誰なんだ、依頼人は」
「・・・依頼人は―――」
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。