調査ファイル 072 [隠すからこそ秘密は輝く]
「恐らくこの日記の主は、この島に眠る宝を知っていた。
そしてそのせいで・・・盲目となった」
突拍子もないとは思う。
私だって、自分で言っておいて俄かに信じがたいと痛感している。
「『盲目』って・・・
お宝を見て失明って、何かおかしくないですか?」
「わかっている。
しかしそう考えると、辻褄が合うんだ」
「・・・どんな風に?」
「この日記にある『人々』や『島民』というのは、監禁を実行した人物。
彼は宝を得ようとした上で何らかの原因により、失明し・・・捕縛されてしまった。
後に監禁されてしまうわけだ、当然出られる筈もない。
そして定期的に訪れたという記述は、食料を運ぶ為だろう。
誰も来なくなったのも、彼を世話していた連中が同じ目にあったせい・・・だと思われる」
「・・・じゃあ、その『原因』って、何?」
それが焦点、だと思う。
奇しくも焦点を示すのが、あの言葉だったとは―――
「その目を、見てはいけない・・・」
「ど、どういうことですか?」
「詳しいことはわからない。
しかし、彼らは宝に関わったが故に光を失った。
『目』というのは、宝のことだろう」
「・・・つまり、お宝を見たら、盲目になる―――って、こと?」
「ああ。
もしこの推理が正しければ、私たちが目指しているものは『“かなり”ヤバイやつ』だろうな」
呪いの類で人が死ぬなら、それはある意味幸せかもしれない。
今回は『視力を奪われる』というものだ、これ程嫌な罰はないだろう。
神なのか持ち主の思念なのか知らんが、全く以て傍迷惑。
「ともかく、早いとこ奴らを止めなければ。
良くて制止、悪くても阻止」
「レイさん、その違いって・・・?」
「・・・説得、だよ。
失敗しても、悪用させないように、止める・・・こと、だよ」
鈴音、解説ご苦労。
さ、行こうか。
――――とは言ったものの、この部屋には扉という扉がない。
結論から言えば、行き止まりだ。
デッドエンドか・・・縁起でもない。
「どこかに隠し扉があるはずだ。
探してみよう」
確証はないが、この部屋はどうも怪しすぎる・・・
どっかに扉の1つくらいはあるはず。
それも、地上への唯一の出入り口が。
改めて見回してみる。
書庫自体は正方形となっている。
地下道から入ると、左右と正面の壁3面が本棚で囲まれている。
入口側には本棚がなく、代わりに本が壁側に積み重ねられていた。
天井はシャンデリアが吊られている。
・・・尤も、ロウソクは使い物にならないだろうがな。
中央にはテーブルがあり、溢れんばかりの本が乱雑に置かれている。
床は――――言うまでもない。
「怪しいところと言えば、本棚とテーブルくらいでしょうか」
本棚の後か、テーブルの下。
うむ、ベターである。
だが残念ながら・・・
「本棚は・・・んっ・・・動きそうにない。
テーブルも・・・くっ・・・ビクともしない」
「・・・テーブルの下、扉らしきものは、なかったよ」
――――お手上げである。
シャンデリアを引っ張れば本棚が動いて扉が開くとか?
なら、腕のいい配管工を呼ばなくてはな・・・
暫く探し回ったが、人が通れる程の道はどこにもなかった。
「鈴音さん、大丈夫ですか?」
「・・・うん、平気」
互いに微笑み合う二人。
まるで姉弟だ。
リュックから2本のスポーツドリンクの取り出し、1本を鈴音に渡す。
受け取った鈴音は礼をした後、その場に座り込み、ゴクリゴクリと飲み始める。
彼女の喉はスポーツドリンクを体内に取り入れようと奮闘し、上下にスクワットを始める。
ゴクリ、ゴクリ――――密かに鳴っていた水の音は、暗い部屋には妙に木霊する。
「んー・・・」
鈴音は首を傾げてこちらを見る。
「・・・どうしたの?」
「いやー・・・その――――」
「何というか――――」
『艶かしい』
私とコウキ君は、そう思った。
というか、必要以上に興奮を覚えたわけではないだろうな。
すかさず彼をジーッと見つめていた。
「・・・!
やっ、これは、その・・・」
あたふたしていたコウキ君は、その慌てっぷりから手をバタバタしていた。
更にあろうことか、入口の近くに座っていたわけで――――
「うわっ!?」
バサリ、バサリ、バタバタ、ドサドサ・・・
積み重ねてあった本は次々とコウキ君を襲う。
しかし何故だろう、ここまでくればちょっと可哀想な気もする。
「全く・・・」
あわあわしていた鈴音と共に、本をどかす。
一冊一冊がハードカバーで、非常に分厚く、重たい。
陰湿きわまりない内容の本ばかり――――
「・・・ちょっと待てよ」
そもそも錬金術や毒草の図鑑しかない書庫に、何故日記なんか置いてあるんだ。
それもテーブルの上に一冊だけ・・・
もし日記の主が監禁されていた場所が“ここ”だとしたら・・・?
「妙だ・・・」
「どうしたんですか!?」
頭を擦りながら、コウキ君が問いかける。
「この日記の主は、宝に関わったばかりに盲目になった。
なのにその彼がこんなに多くの日記を残すだろうか?
ましてや点字なんかで・・・」
「ええ、だからもう一人の方が代筆したんですよね?」
「だったらその“代筆した人物”の日記は?」
長いスパン閉じ込められていたんだ、記述の1つや2つあるだろう。
囚人や遭難者が、縦4本に横1本入れた日付のチェックをよく書き残すように。
「彼は目で見た惨状を必ず書き残している。
それさえ見つければ――――」
「・・・でも、かなり昔のこと、だよ。
さすがにもう、見つからない・・・かも」
ある程度スポーツドリンクを飲んで落ち着いたのだろう、今度は鈴音が問いかける。
時折『けふっ』と可愛らしい息を吐いている。
「たしかに昔のことだろうな、本の状態からして。
では、ここに監禁されていた2人の遺体は、どこにあるんだ?」
もしここで朽ち果てれば、肉はなくとも骨は残る。
その骨がこの部屋にはない、ということは――――
「まさか、ホントに出口が!?」
「・・・でも、どこにもなかった、よ?」
ああそうさ、だから『隠し扉』なんだよ。
そしてその秘密を暴くヒントは、もう出ている。
「2人共、もう一度協力してくれ」
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。