調査ファイル 071 [古い日記]
解読が終わり読み返してみると、誰かの日記と思われる文章が記されていた。
しかしあのゲジゲジからよく解析出来たな、鈴音は。
「読み上げる前に、1つ聞かせてくれ。
どこで点字を習った?
しかもこんな解読不能なものを、正確に確認できる程に」
躊躇うこともなく、鈴音は話す。
相変わらず、冷静な顔で。
「・・・昔、目の見えない友達がいて。
だから、友達の為に・・・勉強した」
友達の為―――
友達のいなかった私には、イマイチよくわからない感情だ。
そもそも“友達”というものが何なのか、具体的にもよくわからない。
本来であれば嫉妬に近い“何か”が押し寄せるところなのだが、どうも私には不快感がない。
むしろ、その紫の炎を感じられない『寂しさ』を感じるまでだ。
「・・・そうか―――」
私が掛けられる言葉は、これが精一杯だった。
察してくれとは言わない。
ただただ無知なだけ故。
「では、読むぞ」
気を取り直して、解読文を読み始める。
―――
――――――
―――――――――
簡潔に説明すると、視力を失った人の日常を綴った日記だった。
今日自分が何をしたか、周りで何があったか、誰が訪れたか・・・など。
些細なものを淡々と綴っていたようだが、読めば読む程疑問が残る。
その中でも一際目立つものがある。
『彼はどうやってこれを書き残したのか』
音声データや代筆ならまだわかる。
しかし同じ代筆でも、点字で記すのは極めて困難。
ましてやこの点の上になぞらえた墨らしき線―――
やましいことでも書かれたわけでもあるまい。
加えてしっかりとした点があるわけでもない。
「点のない点字の日記、か」
「・・・ちょっと、ビックリするよね」
あまりいい気はしない。
意味がわからない分、その存在感と違和感が非常に不気味だ。
「・・・でもこれ、この島の歴史かも」
「―――なるほど、当時の住人の周辺事情から、歴史を紐解く訳か」
理には適っている。
唯一知る方法といえば、もうこれしかないしな。
現在の住人はほぼいない上、語ってくれる人すらいない始末。
・・・思い返すだけで、太陽の日差しを浴びたくなってきた。
歴史を紐解く為に、日記を読み返す。
簡潔にまとめよう。
そもそも彼・・・この日記の主は、書き始めた時点で盲目だったらしい。
この島での光なき生活を、苦を背負いながらも人々との暖かい心を受けながら過ごしていた。
あまり家を出ることのなかった彼は、定期的に訪れる島民からの助けを借りていた。
しかしある日を境に、家に誰も来なくなっていた。
歩くことも立つこともままならない彼は、独り部屋の中で蹲っていた。
次第に衰弱していった彼は、生まれ変わったら再び光を見たいと思いながら―――死んでいった。
「些細だったのは、前半だけだったようだな」
「なんだか・・・悲しいですね。
誰にも看取られずに、独りでなんて―――」
コウキ君も話を聞くやいなや、哀しみを露わにしている。
その横で、鈴音も文章をじっと見つめている。
彼女も、彼女なりに想うところがあるのだろう。
「しかし腑に落ちない。
目の見えない人がこんなものを書き残せるはずがない」
そうだとも、どう考えても不可能だ。
それに、どこかの家に住んでいた人の日記が、何でまたこんなヘンピな場所に・・・
誰かがここに持ち出したとも考え難い。
「・・・私も、そう思う。
だから、この日記を残すには・・・もう一人、誰かの力が必要」
「妥当だが、それでも不完全なままだ」
2人いたところで、一体何だというのか。
しかも日記を残す理由が―――
―――刹那、私はある言葉を思い出す。
それはここに来てからずっと気になっていた、まるで歯と歯の間に詰まった鶏ササミのような違和感。
それが何を示しているのかもわからない。
だからこそ気になるともいえるだろう。
そんな言葉が、目の前を過った。
『その目を見てはいけない』
あの夢を見てから、箱の中に仕舞っても飛び出しかねない状態で飽和していた。
可能性の一つではあるが、図らずもこれに関連していたとしたら?
2人以上の複数人でどこかの部屋に監禁され、この本・・・いや、日記帳に生活ぶりを記していた。
それは秘密を孕むが故、誰にも知られぬよう点字、しかも英語にして書き記した。
加えて点を線で結ぶことで、より濃密な秘匿へと変貌した―――としたら?
「―――そうか」
私は一つの結論に達する。
あくまで今までのヒントを元に考えた推理に過ぎない。
それでも・・・
「何かわかったんですか!?」
「可能性の一つ、だがな」
そう、『可能性の一つ』―――な。
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。