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探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~  作者: 土井淳
第五章 ~ 名もなき招待状 [後編] ~
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調査ファイル 071 [古い日記]

解読が終わり読み返してみると、誰かの日記と思われる文章が記されていた。

しかしあのゲジゲジからよく解析出来たな、鈴音は。


「読み上げる前に、1つ聞かせてくれ。

どこで点字を習った?

しかもこんな解読不能なものを、正確に確認できる程に」


躊躇(ためら)うこともなく、鈴音は話す。

相変わらず、冷静な顔で。


「・・・昔、目の見えない友達がいて。

だから、友達の為に・・・勉強した」




友達の為―――

友達のいなかった私には、イマイチよくわからない感情だ。

そもそも“友達”というものが何なのか、具体的にもよくわからない。

本来であれば嫉妬に近い“何か”が押し寄せるところなのだが、どうも私には不快感がない。

むしろ、その紫の炎を感じられない『寂しさ』を感じるまでだ。


「・・・そうか―――」


私が掛けられる言葉は、これが精一杯だった。

察してくれとは言わない。

ただただ無知なだけ故。


「では、読むぞ」


気を取り直して、解読文を読み始める。



―――


――――――


―――――――――




簡潔に説明すると、視力を失った人の日常を綴った日記だった。

今日自分が何をしたか、周りで何があったか、誰が訪れたか・・・など。

些細なものを淡々と綴っていたようだが、読めば読む程疑問が残る。

その中でも一際目立つものがある。




『彼はどうやってこれを書き残したのか』




音声データや代筆ならまだわかる。

しかし同じ代筆でも、点字で記すのは極めて困難。

ましてやこの点の上になぞらえた墨らしき線―――

やましいことでも書かれたわけでもあるまい。

加えてしっかりとした点があるわけでもない。


「点のない点字の日記、か」


「・・・ちょっと、ビックリするよね」


あまりいい気はしない。

意味がわからない分、その存在感と違和感が非常に不気味だ。


「・・・でもこれ、この島の歴史かも」


「―――なるほど、当時の住人の周辺事情から、歴史を紐解く訳か」


()には(かな)っている。

唯一知る方法といえば、もうこれしかないしな。

現在の住人はほぼいない上、語ってくれる人すらいない始末。

・・・思い返すだけで、太陽の日差しを浴びたくなってきた。


歴史を紐解く為に、日記を読み返す。




簡潔にまとめよう。

そもそも彼・・・この日記の主は、書き始めた時点で盲目だったらしい。

この島での光なき生活を、苦を背負いながらも人々との暖かい心を受けながら過ごしていた。

あまり家を出ることのなかった彼は、定期的に訪れる島民からの助けを借りていた。

しかしある日を境に、家に誰も来なくなっていた。

歩くことも立つこともままならない彼は、独り部屋の中で(うずくま)っていた。

次第に衰弱していった彼は、生まれ変わったら再び光を見たいと思いながら―――死んでいった。




「些細だったのは、前半だけだったようだな」


「なんだか・・・悲しいですね。

誰にも看取られずに、独りでなんて―――」


コウキ君も話を聞くやいなや、哀しみを露わにしている。

その横で、鈴音も文章をじっと見つめている。

彼女も、彼女なりに想うところがあるのだろう。


「しかし腑に落ちない。

目の見えない人がこんなものを書き残せるはずがない」


そうだとも、どう考えても不可能だ。

それに、どこかの家に住んでいた人の日記が、何でまたこんなヘンピな場所に・・・

誰かがここに持ち出したとも考え難い。


「・・・私も、そう思う。

だから、この日記を残すには・・・もう一人、誰かの力が必要」


「妥当だが、それでも不完全なままだ」


2人いたところで、一体何だというのか。

しかも日記を残す理由が―――




―――刹那、私はある言葉を思い出す。

それはここに来てからずっと気になっていた、まるで歯と歯の間に詰まった鶏ササミのような違和感。

それが何を示しているのかもわからない。

だからこそ気になるともいえるだろう。

そんな言葉が、目の前を過った。


『その目を見てはいけない』


あの夢を見てから、箱の中に仕舞っても飛び出しかねない状態で飽和していた。

可能性の一つではあるが、図らずもこれに関連していたとしたら?


2人以上の複数人でどこかの部屋に監禁され、この本・・・いや、日記帳に生活ぶりを記していた。

それは秘密を孕むが故、誰にも知られぬよう点字、しかも英語にして書き記した。

加えて点を線で結ぶことで、より濃密な秘匿へと変貌した―――としたら?




「―――そうか」


私は一つの結論に達する。

あくまで今までのヒントを元に考えた推理に過ぎない。

それでも・・・


「何かわかったんですか!?」


「可能性の一つ、だがな」




そう、『可能性の一つ』―――な。




To Be Continued...


※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

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