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探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~  作者: 土井淳
第五章 ~ 名もなき招待状 [後編] ~
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調査ファイル 070 [ときめき、闇の中、書庫にて]

先程と違うのは、広くて、物で密集していたという点だ。


「書庫・・・にしては、随分と賑わっているようだな」


ホコリだらけ、蜘蛛の巣は張り巡らされ、肝心の本も散乱していた。

賑わい過ぎだ、全く。




「洋館の書庫とは、少し違うな。

小説や図鑑の類が全くといっていい程ない」


「見たことない本ばかりです・・・

黒魔術―――なんでしょうか、コレ?」


適当に取った本をペラペラ捲っている。

もはや何語で書いてあるかもわからないほど字も(かす)れ、色褪せや傷による痛みが激しく付けられていた。


「錬金術でもやってたのかな・・・?」


コウキ君は違う意味でのめり込んでいた。

私も私で書庫を見回ることにした。


色々手に取ると、図鑑だけは見つけることができた。

ただし、単なる植物図鑑などではなく、毒性の強い植物だけを取り揃えたもの“など”ばかり。

一般生活で需要のない本だらけとは、まーまーまーまー・・・いい趣味しているもんだ。


ふと目をやると、部屋の中心にあるテーブル。

ここも乱雑に本が置いてあり、棚にある本と似たようなものばかりだ。

何となく手に取ろうとした、その時―――




ドクン―――




心臓が一瞬だけ強く跳ねた・・・ような感覚がした。

先程の珠の件といい、この超能力に似た現象はなんだ。

私に何かを示したいのだろうか。

もしかして、先人の霊が憑いて導いているとか?

バカバカしい、そんなものある筈がない。

―――しかし前例がある以上、何かあるのだろう。


ゆっくりと本の山へと手を伸ばす。

一番上の本をどかし、次の本を、次の本を、と続けていく。

次第にその速さは増していき、気づけばテーブルの表面が見えるまでになっていた。

そして最後の1冊・・・残されたその本を見て、言葉にできない『直感』に近いものを感じる。


本来であれば躊躇(ためら)うべきなのだが、不思議と手が伸びてしまう。

躊躇(ちゅうちょ)なく手に取った本を、適当なページから開く。




ヴァサ――――




重たいわけではないが、長年人に触れられなかったのだろう。

開く際に少しの抵抗を感じ、音もページを(めく)る『ペラッ』というものでもない。

羽音だ、いや違いない、羽音だ。


「ふむ、どれどれ・・・」


さも走り書きな文字は、ミミズを通り越し、ゲジゲジまで進化している始末。

もはや線だ、あみだクジかコレは。


思わず眉間に軽くシワを寄せ、首を曲げながら見ていた。

機械が苦手な老人の如く。

ペラペラ捲るも、どのページもゲジゲジが這っているばかり。

もしや私も知らない、失われたこの地だけの言語か?

・・・抜かせ、そんなもの犬に食わせても吐き出してしまう。


「ハズレ、か。

一体何だったんだ、あの感覚は?

勿体つけて、もう――――」







「・・・ハズレじゃ、ないよ」


―――そこからは早かった。

すぐさま振り返り、隠し持っていた暗器(ナイフ)を出し、刃を逆さにして構える。

全く感じることのない殺気が、返って気持ち悪さを掻き立てていた。

しかしその警戒心は、“彼女”の顔を見た途端、徐々に消えていった。




「君は・・・花本鈴音・・・だったか?」


可愛らしく、コクンと頷く。

場所が場所なだけに、張りに張った警戒のレーダーはビービーと音を立てて落ち着かない。

いや、それよりだ・・・


「何故、ここにいるの?」


この場所を知る者は、私たち2人以外いない。

いるとして、それはもうこの世にいないであろう先人のみ。

末裔の線もあるが、服装や装備からしてそれはない。

まさか後を付けられていた・・・のか?


「・・・前にも言った。

ある人に、頼まれたの」


また“依頼”か。

前回といい、何故こうも詰まった時に限って私たちの前に現れるのか。

ト書きにはなかったぞ、こんな展開。


「・・・!

その本は?」


ふいに見たのであろう、手に持っていた本について問い出す。

恐らく彼女もトレジャーハンターの類なのだろうか。

レンジャーっぽい風貌で、ここまで辿り着いたところを見ると、そう考えざるを得ない。


「そこで見つけたものだ。

まあ、内容はさっぱりだがな」


鈴音へと本を差し出す。

ゲジゲジの這った本を見ても、何の解決にもならないしな。

ところが、彼女は違った。

本を開き、ページのあらゆる部分を目で追う。

仕舞いにはページを触り、上から下へと、少しずつズラしながら全体をなぞる。

その姿は素人のそれではなく、話し掛けたらマズイ―――そう思わせる程の集中っぷりだった。


ある程度行った(のち)、私の方を向く。


「・・・何となく、わかった」


一探偵としてこれ程の屈辱はない。

山ガールの女の子に先を越されるとなれば、尚更の事。

しかしこのゲジゲジ、文字として認識するには無理がある。


「何て書いてある?」


その問いに鈴音は意外な返答を示す。

目を(つむ)り、ゆっくりと首を左右に振る。

一瞬、私は理解が出来なかった。


「・・・これ、文字じゃない。

正確には、目で見るものじゃない」


更に理解ができなかった。

目で見ない文字とはなんぞや。




「あ、もしかして!」


不意にコウキ君が声を上げた。


「目で見ない文字って、“点字”のことですね!」


その元気の良い答えに、鈴音は微笑みで答える。

コウキ君は喜び、鈴音と共にハイタッチまでしてしまっている。

いつの間にそんな仲良く・・・


「・・・かなり見づらいけど、これは点字をなぞったもの。

線のなぞり具合からすると、多分英語・・・かな。

・・・でもこれ、点が浮き出てない」


「つまり、筆か何かで打った点・・・というわけか」


いくら盲目の人でも、それを読むことは不可能だ。

もはや何の目的で作られたのかが理解できない。

あらゆる疑問が浮かぶところだが、まずはこれの解読だ。

鈴音は点の辿り具合を見て、どうにか解読できるようだ。


「英語は読めるか?」


「・・・得意じゃ、ない。

アルファベットは、読み取れるけど―――」


「わかった。

片っ端から読み上げてくれ、私が翻訳する」




コウキ君の懐中電灯に照らされて、私たちは本の解析に当たった。

そして暫くすると、ついに本の内容が明らかとなる。




「これは―――?」




To Be Continued...


※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

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