調査ファイル 068 [最高でした by コウキ]
こんにちは、コウキです。
レイさんが突然倒れだして、僕はどうすればいいかわかりません。
もしいい方法がありましたら、こちらまでご連絡ください。
お待ちしてま―――いや、そんな時間ないですよ!
「レイさん、大丈夫ですか?
レイさん!レイさん!!」
呼びかけても、レイさんの反応はありません。
目を開けることも、身体のどこかを動かすこともなく。
きっかけは、今現在手に持っている宝珠―――
ほんの数十秒前、レイさんが手に取った瞬間から、何かがおかしかった。
まさか死んじゃったり・・・しませんよね?
「どうしよう・・・
背負って移動するべきか?
いや、長時間運ぶのはムリだ・・・」
かといってこのまま放置しておくのは、ますます危険です。
扉は開きっぱなし、もしその隙にあの人たちが来たら・・・
まずはこの宝珠をしまわないと。
僕はリュックからタオルを出して、宝珠を包みました。
その際タオル越しに宝珠に触れたけど、先程のレイさんのような異常は起きませんでした。
そのままリュックにしまって後―――僕は覚悟を決めました。
「よ、よし、脱出しよう!」
大人の女性を運ぶのは大変だけど、背に腹は代えられない!
背丈はだいぶ僕に近いけど、やってみるしかない。
レイさんの右腕を僕の肩に掛け、左手でレイさんの左腕を背中から通して持ち上げました。
そのまま立ち上がり、肩を貸した状態で、よたれよたれ歩き始めます。
「頑張れレイさん、頑張れ僕・・・!」
あぁ、レイさんの胸が・・・
香水かな、いい匂いにクラクラしてきた・・・
いやいや、邪心を捨てなければ。
心頭を滅却すれば火もまた涼し―――
「この道を戻るのか・・・」
―――その時でした。
「何か・・・聞こえる?」
細い道の向こうから、声が聞こえる―――!
って、これかなりマズいのでは!?
「ヤバイ、これはヤバイ!」
僕は辺りを引っ切り無しに見渡しました。
あとここをやり過ごすには、もうこの手しかない。
いや、レイさん風に言えば『この手に限る』!
気を失ったレイさんを担ぎながら、祭壇の方へ向かいました。
本当に考えることは単純です。
なんせ僕が考えることというのは―――
「隠れるしかない!」
・・・というわけです。
あー、『サングラスのショットガンマン』か『元軍隊の大佐』か来てくれないかなぁ・・・!?
ここぞとばかりの出番なのに。
なんて考えながらも、祭壇の隠れる場所を探しました。
すると・・・
「うわっ!」
何かの出っ張りに躓き、転んでしまいました。
レイさんも一緒に転んでしまったのですが、僕がすぐ身体を反転させたので、下敷き効果で怪我はありませんでした。
幸いでした・・・ホント。
あぁ、胸が―――
「マズい、段々声が近づいてきてる!」
泡食って立ち上がると、先程転んだ場所の下に空洞を見つけました。
どうやら置物の下に隠し通路があったようです。
チャンスと思い、レイさんをお姫様抱っこし、そのまま飛び降りました。
深さはなく、手を伸ばせば再び出られるくらいでした。
それでも足への負担が大きかったようで、身体中バイブレーターになった気分です。
それでも足を両手で気付け、すぐに置物を動かして穴を塞ぎました。
懐中電灯を出す為にリュックを開けた時でした。
少し唸るような声が聞こえ、目をやると・・・
「・・・ここは?」
レイさんが、目を覚ましました。
あぁ、良かった・・・。
泣きそうです。
「レイさん!
大丈夫ですか!?どこか痛いとこはないですか!?」
「何があった、話してくれ」
「・・・はい。
あの時―――」
なるほど、そういうことが―――
私が気を失っている間、随分と心配と無理を掛けさせてしまったようだ。
しかし、あの時見たヴィジョン・・・というべきか。
あの不可思議な光景は、あまりにもリアリティのあるものだった。
1つの歴史を早送りで見ているような―――何だろう、的確には言えないが、そんな風と言えばいいのか。
ただはっきりとわかることがあった。
そのヴィジョンを見ている間、物凄く“寒かった”のだ。
ただ寒いのではない、蒼い炎に滲む哀しみと怒りで凍り付かされていたのだ。
溶けない氷の中で言葉も出せず、ただ淡々とした光景を目の当たりにさせられていた。
凄惨な歴史だったのだろうか、後味が非常に悪かった。
それがあの宝珠の力、なのだろうか。
「これが皆の探し求めていた宝珠としたら、とんだ厄災品だ。
質屋でも断られるぞ」
呆れた言い口だが、非常に迷惑被っている。
身体こそ無事なものの、精神的には参っているというのに。
「ともあれ、心配を掛けたようだな。
もう大丈夫だ、先を行こう」
少し涙目になっているコウキ君の頭を撫で、立ち上がる。
さて、祭壇の地下はどこに繋がっているのやら。
「・・・うぅ、寒っ!」
両手で両腕を擦りながら、私は歩き出した。
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。