調査ファイル 067 [触れし者への鉄槌]
「クソッ・・・あいつら、林から上がってきやがったな―――!」
坂道を下る際、登ってくる警官とはで出くわさなかった。
恐らく、坂の周りの林を伝って登ったのだろう。
人目のつかない道を行くと踏んで。
「待てっ!」
待てと言われて待つ奴がいるか。
何だか、怪盗だった頃を思い出す。
さすがにドレスで走って余裕綽々は無理な話だ。
「ダメだ、追いつかれます!」
それでも口に出しちゃいけないよ、コウキ君。
しかし事実だ、どうする・・・?
走りながら、次の手を捻り出す。
「林に逃げ込もう!」
林に逃げ込み、警官の手を逃れようとしていた。
刹那―――
「きゃっ!」
「うわっ!!」
突然、何者かに引っ張られる。
凄い力で引っ張られ、口元に手を宛がわれてしまった。
言葉も出ない上、動いたら殺される・・・そんな気配がしていた。
暫くすると、警官の声が遠のく。
見失ったようで、別の場所を探しに向かったらしい。
何とも、ラッキーなことで。
「・・・もう、大丈夫」
宛てられた手は外された。
振り向くと、私より少し身長の高い女性がいた。
山ガールのような服装をし、ポニーテールをなびかせ、大人な感じを醸し出す。
且つ寡黙な雰囲気を漂わせる彼女は、文字通り口数も少なく、微笑みを私たちにくれる。
「助かった、ありがとう。
しかし、少し乱暴すぎやしないか?」
「・・・ごめんなさい。
でも、危険だったから・・・」
“危険”で両手を使い2人の人間の口を塞ぐかね。
器用にして剛腕・・・いやはや。
「私は黒川レイ。
あなたは?」
「花本・・・鈴音」
「あ、僕はコウキって言います―――」
自己紹介を終え、コウキ君が名乗った時だった。
彼女の表情が、一瞬だけ変わった・・・気がした。
悲しそうな、何かを思い出したような、そんな感じに。
「・・・ここにいたら、また警察が来る。
早く、行って・・・。
それと―――」
ふいに腰の辺りへ目を落とす。
彼女のポケットから出てきたのは、紛う事なき『例の時計』だった。
何故、鈴音さんが・・・!?
「どこでこれを?」
「・・・ある人から、頼まれたの。
あなたたちに・・・って」
何者かによる手助けが、施されていた。
ともあれ、これさえあれば洞窟の奥へ進める。
―――しかしこれを所持しているのは、あのオカルト研究会の面々の筈。
まさか、あの4人の誰かが?
そして何より・・・
「鈴音さん、あなたは―――」
私が言いかけた時、鈴音さんは話を切り裂く。
「早く、行って・・・!」
先に行けと急かす鈴音さん。
思わぬ状況でまだ呑み込めていないが、ともかく林を抜けていく
振り返ろうとも思ったが、どことなく振り返ってはいけない―――と、諭されている気がした。
暫く林を歩くと、海岸沿い近くまで来ていた。
そこで私は振り返ってしまったが、当然ではあるものの、彼女の影形すら存在してはいなかった。
洞窟までの道は意外にも軽々と行くことができた。
それもそうだ、何度も何度も来ているし。
テトラポッドも相変わらず軽快に超えると、お待ちかねの洞窟がどんと構えていた。
懐中電灯を点け、中を進む。
例の壁も開け、ドーム状の部屋へと向かう。
中も相変わらずだが、彼らがいるわけでもなく、気配すらなかった。
「ようやく到達か・・・」
前回はここに時計を嵌めて強制終了だった。
・・・まさか今回もそうならないよな?
「コウキ君、ここへ―――」
思わずコウキ君に時計を嵌め込む作業を押し付けてしまった。
もし背後から襲われた時に、少しでも抵抗できれば、なんて考えてしまったわけで。
やはりこういうのも昔からの癖なのだろう。
ガチャン、という金属音が響く。
すると前回同様、ドームの奥の壁が動き出し、扉が開く。
ここからは未知の領域、もしかしたら罠が張られているかもしれない。
気を引き締めていかなければ。
「あ・・・」
コウキ君が小さな声を上げる。
先に行こうとした彼が、石板を見つめている。
・・・そうか、この時計―――
外すと扉が閉じるが、先に行くには嵌めっぱなしにしないといけないのか。
「致し方ない犠牲だ、先に進もう」
恐らくもう来ることはない。
この先に、お宝がある―――筈。
コウキ君の背中に手を当てながらも、扉の向こうへと歩いた。
扉の奥は、もう一つの部屋になっていた。
ドーム状の部屋と同じくらいか、少し狭いぐらいの広さ。
ここは寧ろ四角・・・つまり、普通の部屋のような作りになっていた。
「ここは・・・」
松明で部屋中を照らすと、私は絶句した。
その光景の荘厳さに、言葉が出なかったのである。
「何だ・・・この部屋は・・・!?」
入口に数人立てる程の足場しかなく、奥に連れて細くなる道。
その道の終点には、祭壇のような場所が出迎えてくれている。
特別金色に装飾されているわけでもなく、両刃の剣が刺さっているわけでもない。
ただただその佇まいが、あまりにも素晴らし過ぎていた。
「レイさん、あれ見てください!」
背中を押されるような声で我に返ると、コウキ君は祭壇の方を指さしていた。
よーく目を凝らすと・・・祭壇中央に扉のようなものがある。
鍵穴・・・だろうか、なんかそんな感じのモノが、何となく見える。
「行ってみよう」
そうとわかれば話は早い。
私たちは祭壇の方へ向かった。
道は細く、落ちたらどうなるかわからない。
が、罠という罠もなく、あっという間に祭壇の場所まで辿り着いてしまった。
ショルダーバッグから道具を取り出し、鍵穴を弄り回す。
と言っても、これでもちゃんとした解錠である。
相当古いもののせいか、かなり手間取うな、これは。
10分経った頃だろうか、ようやく解錠された。
ガチャンという鈍い金属音が、私の高揚感まで開放させてくれる。
そーっと扉を開けると・・・お初にお目に掛かります。
テンションMAXです、いらっしゃいました。
「これが―――宝珠」
未だ興奮冷めやらぬコウキ君。
ここで警戒しなかった私は、まだまだ甘いと言えるだろう。
緊張と好奇心が勝り、素手でそのまま掴んでしまった。
刹那―――
「うぁ・・・がっ・・・あああぁぁぁあああーーーーーーー!!!!!!」
「レ、レイさんっ!?」
悲鳴を上げるレイ。
コウキは前代未聞の状況に、狼狽していた。
それを他所に、レイは叫びをやめることなく、ついには片膝を地につけ、左手で頭を抱えている。
そして―――その場に倒れ込んでしまった。
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。




