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探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~  作者: 土井淳
第五章 ~ 名もなき招待状 [前編] ~
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調査ファイル 066 [オカルト研究会の正体]

「こいつら、ただのオカルト研究会じゃない」


「え、ええ、そうみたいですね。

それにしては荷物も多いし、異彩を放ってましたし・・・」


的を得ているように見えるが、そういうことではない。

その異彩は濁流程度の透明度ではなく、ブラックホール並みに真っ黒で濁りまくっている。


「そうではない。

彼らはオカルト研究会でも、課外調査に来たわけでもない。

―――この荷物と資料から推測するに、彼らはトレジャーハンターだ」




トレジャーハンター。

世界中のありとあらゆる財宝を巡り、日を浴びず眠っている“巨大なヒミツ”を見つけ当てては莫大な富とロマンを得ている者たちを指す。

中にはロマンだけを追い求める者もいれば、何らかの事情により富に潤っていないものもいるが。

しかし・・・複数のリュックとスコップ、多数の文献と地図、そして何より目を引くのが―――


「幽霊は金属に引かれませんよ、先輩・・・」


金属探知機が数台、ケースの中に収められていた。

UFO探査にしては、用いられないよな。


「宝珠を探している割には、荷物もほぼ手つかず。

スコップも砂一つ付いていない」


「―――これじゃないですか?」


コウキ君が再び呼び止める。

これまた再び振り返り、コウキ君の元へと駆け寄る。




『一対の眼差しは、虚無に沈む栄光を監視する。

1つは永遠に互いを追い続ける様を示す、左の眼。

1つは現世と虚無を映し出す、右の眼』




「・・・ってありますけど、どういう意味でしょう?」


ふむ―――

ここにも出てきたか、目の(くだり)は。

差しているモノはわかるが、示すモノがわからない。

しかし、よくもまあここまで調べ上げたものだ。


「この情報は、ありがたく頂いていくよ」


復讐に燃える気持ちを心に秘め、私たちは部屋を出た。




本来ならばこのまま洞窟に向かってもよかったのだが、私の中の警報が微量に鳴り出す。

念には念を、とビリビリしている。

執事に聞いて、奴らの居所くらいは押さえておくか。

静かに応接室へ向かうと、テーブルを拭いている途中の彼がそこにいた。


「執事さん、1つ聞いてもいいか?」


ここまで時間が経つと、何となく扱いがわかってきたような気がする。

無言を貫いてはいるが、こちらの動向を伺っているとか、警戒しているとか、無言のアクションが何を示しているか理解し始めていた。

さながら、孫の話を静かに聞いている老人のように。

―――見下ろす目は、研ぎたての日本刀みたいだけど。


「オカルト研究会・・・5人組の大学生たちがどこに行ったかわかるか?」


操縦者が乗り込んで、ゆっくりと動き出す巨大ロボよろしく、口を開く。


「『星を見に行く』・・・と、仰っておりました」


星を見に・・・か。

どっちの意味なのかねぇ、天に煌めく方か、それとも違う方か。

明るい内から行動しているとなると、何か準備があるのだろう。

しかし奴らの部屋に道具一式があった、直接洞窟に向かっているとは考えにくい。

とはいえ、鉢合わせにならなければいいのだが―――


「そうか。

ありがとう、では私たちも出掛けてくる」


「・・・お気をつけて―――」


そろそろ悪い人というレッテルを剥がす頃合いだろう。

それでもコウキ君は、逢う度に背中に隠れて怯えているけど。

諭すのも、時間が掛かってしまうのかも・・・な。

玄関から外へ出ようとした、刹那―――


「・・・お待ちを」


珍しいことに、執事に呼び止められたのだ。

今日は雨が降るのだろうか。

いや、御託はどうでもいい、何用なのだろうか。


「あの5人――――――」



彼から思わぬ情報を聞き、3秒程思考が停止してしまった。

曖昧な返事しか出せなかった自分を本来許せるはずがないのだが、この時ばかりは無罪放免と脳内会議で可決されていた。

何のヒントか知らないけど、彼なりの意思表示だろう、受け取っておこう。




洋館を出た私たちは、敢えて正面から歩いていた。

ここ数日洋館を見てきたが、人の出入りがまずない。

あまりにも荘厳な為、隠れ家にするには気が引ける。

さすがの警官もここまでは来まい。

坂を下っている間、私は改めて殺人事件について考えていた。




妙だ・・・

何故犯人は遺体を移動させたのか。

それも隠すのではなく、私たちの(そば)に堂々と。

財宝を奪われたくないが故にスタンガンで気絶させ、別の場所に幽閉するというのはわかる。

だがそこに遺体を放置した理由がわからない。

それに、『あの人たち』の行動―――


「――――――ん・・・・・・さん、レイさん!」


考えに浸っていたようだ、コウキ君の呼び掛けにハッと気が付く。


「ん、すまない、どうした?」


「今回のお宝、情報量があまりにも少ないのに、彼らはどうやってここまで調べ上げたんでしょうか?」


「さあな。

独自の情報網で調べ上げたか、あるいは探偵に依頼を求めたか・・・」


トレジャーハンターと知った以上、“下見”として各地に行って調査することは可能だとわかる。

だがそんなことをする職業でもない、ましてや身分を偽ってまでもだ。

しかも身内の死を背負っていながらも、気を落とすことなく『天体観測』として行動を起こしている始末。

もはや正気の沙汰ではないのだが・・・


「もう少し、祖父の話を聞いておけばよかったです」


「その御祖とは、どういう方だったんだ?」


「祖父もまたトレジャーハンターだったそうです。

各地にて調査と採掘をしていたようなのですが、この島については深く語られていません。

何より、ここに来る少し前に亡くなってしまって―――」




まさか・・・

背筋を氷柱で撫でられる恐怖的悪寒に苛まれた。

もしそうだとしたら、彼らがここに来た明確な理由も説明が付く。

あの資料の量も、恐らくは・・・


「1つ聞きたい。

君の御祖は―――」


―――その時だった。




「いたぞっ!!」




振り返ると、上下青い服装の男性数名が険しい表情を浮かべている。

1人が私たちを指さすと、他全員が一斉にこちらへ向かってきた。

言うまでもない、警察だ。

殺人を犯し、更には脱走もしたとなれば、躍起になるのも当然。

いや、そんな悠長なことを考えている場合じゃない。


「逃げるぞ―――!」




私はコウキ君の手を取り、坂道を全力疾走した。




To Be Continued...


※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

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