調査ファイル 066 [オカルト研究会の正体]
「こいつら、ただのオカルト研究会じゃない」
「え、ええ、そうみたいですね。
それにしては荷物も多いし、異彩を放ってましたし・・・」
的を得ているように見えるが、そういうことではない。
その異彩は濁流程度の透明度ではなく、ブラックホール並みに真っ黒で濁りまくっている。
「そうではない。
彼らはオカルト研究会でも、課外調査に来たわけでもない。
―――この荷物と資料から推測するに、彼らはトレジャーハンターだ」
トレジャーハンター。
世界中のありとあらゆる財宝を巡り、日を浴びず眠っている“巨大なヒミツ”を見つけ当てては莫大な富とロマンを得ている者たちを指す。
中にはロマンだけを追い求める者もいれば、何らかの事情により富に潤っていないものもいるが。
しかし・・・複数のリュックとスコップ、多数の文献と地図、そして何より目を引くのが―――
「幽霊は金属に引かれませんよ、先輩・・・」
金属探知機が数台、ケースの中に収められていた。
UFO探査にしては、用いられないよな。
「宝珠を探している割には、荷物もほぼ手つかず。
スコップも砂一つ付いていない」
「―――これじゃないですか?」
コウキ君が再び呼び止める。
これまた再び振り返り、コウキ君の元へと駆け寄る。
『一対の眼差しは、虚無に沈む栄光を監視する。
1つは永遠に互いを追い続ける様を示す、左の眼。
1つは現世と虚無を映し出す、右の眼』
「・・・ってありますけど、どういう意味でしょう?」
ふむ―――
ここにも出てきたか、目の件は。
差しているモノはわかるが、示すモノがわからない。
しかし、よくもまあここまで調べ上げたものだ。
「この情報は、ありがたく頂いていくよ」
復讐に燃える気持ちを心に秘め、私たちは部屋を出た。
本来ならばこのまま洞窟に向かってもよかったのだが、私の中の警報が微量に鳴り出す。
念には念を、とビリビリしている。
執事に聞いて、奴らの居所くらいは押さえておくか。
静かに応接室へ向かうと、テーブルを拭いている途中の彼がそこにいた。
「執事さん、1つ聞いてもいいか?」
ここまで時間が経つと、何となく扱いがわかってきたような気がする。
無言を貫いてはいるが、こちらの動向を伺っているとか、警戒しているとか、無言のアクションが何を示しているか理解し始めていた。
さながら、孫の話を静かに聞いている老人のように。
―――見下ろす目は、研ぎたての日本刀みたいだけど。
「オカルト研究会・・・5人組の大学生たちがどこに行ったかわかるか?」
操縦者が乗り込んで、ゆっくりと動き出す巨大ロボよろしく、口を開く。
「『星を見に行く』・・・と、仰っておりました」
星を見に・・・か。
どっちの意味なのかねぇ、天に煌めく方か、それとも違う方か。
明るい内から行動しているとなると、何か準備があるのだろう。
しかし奴らの部屋に道具一式があった、直接洞窟に向かっているとは考えにくい。
とはいえ、鉢合わせにならなければいいのだが―――
「そうか。
ありがとう、では私たちも出掛けてくる」
「・・・お気をつけて―――」
そろそろ悪い人というレッテルを剥がす頃合いだろう。
それでもコウキ君は、逢う度に背中に隠れて怯えているけど。
諭すのも、時間が掛かってしまうのかも・・・な。
玄関から外へ出ようとした、刹那―――
「・・・お待ちを」
珍しいことに、執事に呼び止められたのだ。
今日は雨が降るのだろうか。
いや、御託はどうでもいい、何用なのだろうか。
「あの5人――――――」
彼から思わぬ情報を聞き、3秒程思考が停止してしまった。
曖昧な返事しか出せなかった自分を本来許せるはずがないのだが、この時ばかりは無罪放免と脳内会議で可決されていた。
何のヒントか知らないけど、彼なりの意思表示だろう、受け取っておこう。
洋館を出た私たちは、敢えて正面から歩いていた。
ここ数日洋館を見てきたが、人の出入りがまずない。
あまりにも荘厳な為、隠れ家にするには気が引ける。
さすがの警官もここまでは来まい。
坂を下っている間、私は改めて殺人事件について考えていた。
妙だ・・・
何故犯人は遺体を移動させたのか。
それも隠すのではなく、私たちの傍に堂々と。
財宝を奪われたくないが故にスタンガンで気絶させ、別の場所に幽閉するというのはわかる。
だがそこに遺体を放置した理由がわからない。
それに、『あの人たち』の行動―――
「――――――ん・・・・・・さん、レイさん!」
考えに浸っていたようだ、コウキ君の呼び掛けにハッと気が付く。
「ん、すまない、どうした?」
「今回のお宝、情報量があまりにも少ないのに、彼らはどうやってここまで調べ上げたんでしょうか?」
「さあな。
独自の情報網で調べ上げたか、あるいは探偵に依頼を求めたか・・・」
トレジャーハンターと知った以上、“下見”として各地に行って調査することは可能だとわかる。
だがそんなことをする職業でもない、ましてや身分を偽ってまでもだ。
しかも身内の死を背負っていながらも、気を落とすことなく『天体観測』として行動を起こしている始末。
もはや正気の沙汰ではないのだが・・・
「もう少し、祖父の話を聞いておけばよかったです」
「その御祖とは、どういう方だったんだ?」
「祖父もまたトレジャーハンターだったそうです。
各地にて調査と採掘をしていたようなのですが、この島については深く語られていません。
何より、ここに来る少し前に亡くなってしまって―――」
まさか・・・
背筋を氷柱で撫でられる恐怖的悪寒に苛まれた。
もしそうだとしたら、彼らがここに来た明確な理由も説明が付く。
あの資料の量も、恐らくは・・・
「1つ聞きたい。
君の御祖は―――」
―――その時だった。
「いたぞっ!!」
振り返ると、上下青い服装の男性数名が険しい表情を浮かべている。
1人が私たちを指さすと、他全員が一斉にこちらへ向かってきた。
言うまでもない、警察だ。
殺人を犯し、更には脱走もしたとなれば、躍起になるのも当然。
いや、そんな悠長なことを考えている場合じゃない。
「逃げるぞ―――!」
私はコウキ君の手を取り、坂道を全力疾走した。
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。




