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探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~  作者: 土井淳
第五章 ~ 名もなき招待状 [前編] ~
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調査ファイル 063 [キーワード]

「ところでレイさん」


「ん、どうした?」


まさに今、洞窟に入ろうとした時だった。

突如コウキ君が私を引き留める。


「あの部屋にいた・・・いえ、“あった”遺体、あの人は―――」


言うまでもなく、頭の隅で考えていたさ。

色々整理できる時間が欲しかったが、ようやく纏まった考えが出せそうだ。


「あの人は『堂島(どうじま) 芳次(よしつぐ)』さん、大学生だ。

オカルト研究会の1人だったかな」


「そういえば先日の夕食後に会いましたね。

あの中の人だったんだ・・・」


少し神妙な面持(おもも)ちだ。

この調子だとテトラポッドで推理なんか始めちゃったりしちゃったりしそうだな。

―――仕方ない、情報共有の時間を設けよう。


「・・・ここじゃなんだ、洞窟に入ってから、続きを」


「わかりました」


暗闇の中、テトラポッドを慎重に降りて行く。

若干肌寒い中、洞窟へと辿り着く。

松明(たいまつ)を灯すと、コウキ君は地に座り込んだ。


「1つ、聞いていいか?」


「あ、はい」


「コウキ君はどうしてこの島に来たんだ?」


「以前にも言いましたが、この島に眠るお宝を探しに来たんです。

といっても、旅費は自腹ではないのですが」


そりゃそうだろう、とツッコみそうになった。

小学生の高学年とはいえ、一端に旅行ともなると万金だ。

それを1人で補うのは容易ではない。


「コウキ君も招待状を?」


「ええ、そうです。

『も』ってことは、レイさんも?」


「ああ。

チケットが同封された、差出人不明の手紙がね」


「そうでしたか。

僕のところにも、同じものが着たんです」


本当に何がしたいのだろうか。

片っ端からあらゆる人に手紙押し付けて、呼び出して、果ては何を指示するわけでもなく。

まあ、そのおかげでこの島の宝探しが出来ている。

その実は、そこまで楽しくはないけどな、犯人呼ばわりされる始末だし。


「もしかして、僕たちに宝を探してほしかったのでしょうか?」


「さあな。

何れにせよ、この差出人には一度ご挨拶をしないとな」


一遍シメるか、この件が片付いたら。

その時には顔くらい出すだろう、全てを見届ける為に。




しかしもう一つわからないことがある。


「それよりもだ、その『宝』というのは一体何なんだ?」


部屋にあった新聞を読んではみたが、詳細はおろか核心のフラグメントすら碌に記載していない。

その点コウキ君なら何かしらを知っているだろうしな。


「僕も詳しくはわかりませんが、どうやら相当大きなヤマだということは間違いないようです。

ある文献によると、昔冒険家の一人が航海中に難破に遭い、この島に辿り着いたそうです。

当時は地図に載っていなかったらしく、調査がてら探検をしていると・・・発見したのがその『お宝』だとか。

幾つかの文献から情報を集めたのですが、古くて懐疑的だったので、事実かどうかは―――」


―――十分じゃないか。

しかしそれでも懐疑的となれば、あくまで参考資料といったところか。

この奥にある仕掛けを見れば、何かあることは間違いなさそうだが。


「となれば、あのオカルト研究会の面々も、これを目当てに―――」


「いえ、それはないと思いますよ」


その言葉は、今度は私が意表を突かれた。

如何にもと思っていた人物がまさかの目論見違いというのは・・・

しかし何故そんなことを知っているのだろうか。


「この情報は懐疑的なので、鵜呑みにして財宝を探し出すような人はいないと思います。

レイさんも見たと思いますが、この島に来ている人は物凄く少ないですよね。

つい最近海外でも発表されてましたが、それでも尚・・・」


そりゃあそうだろうな。

とはいえそれを信じて来ているわけだよな、コウキ君は。

それもまた妙な話だ。


「ではコウキ君、君は何故ここに来た。

きな臭い手ぐすねを、自ずから引っ張ったのだろう?」


「・・・それこそ、信じては貰えないと思いますが―――」




少しの間、コウキ君は沈黙を繰り出す。

思い詰めるようなその眼差しに、私も冷たい感触を心に抱く。


「ここに来る前、夢に見たんです」


「夢に見た?」


「見ず知らずの人が、僕に向かって言うんです。

『おいで・・・おいで・・・』って」


暗示―――

そんな夢を見てから招待状を貰ったら、行かざるを得ないよな。

私もここに来て近いものを見た。

結局、謎のままで終わったけど。

しかし、随分とアンリアルな話になってきた・・・


「問いかけても、答えてくれないんです。

誰なのか、どこへ向かうのか、何の為に・・・

でも返事がない。

段々離れていくその人を追いかけようとして、1歩前に出したら、今度は別の声がしたんです」


「別の声?」




その問いを受けて、コウキ君は頷く。

神妙な眼差しをしながらも、無邪気な少年を捨てない語り口で答える。

刹那、心臓が物凄い勢いで跳ねるような感覚を感じる。

それは身体をもぐらつかせる、痛くない衝撃。

が、体温は上がり、呼吸はやや乱れ始めてくる。

何故その言葉を、彼が知っていたのか・・・厳密に言えば、誰がその言葉を彼に授けたのか。

その瞬間、その刹那は、わからなかった。




「その目を―――見てはいけない」




To Be Continued...


※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

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