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探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~  作者: 土井淳
第五章 ~ 名もなき招待状 [前編] ~
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調査ファイル 062 [慌てるコウキは貰いが少ない]

―――人生初の鉄格子。

今まで捕まったこともないのに、まさかこういった形でぶち込まれるとは。


「それにしても、ここの拘留所は広いな。

交番の割には」


この島はそんなに大きくもなく、犯罪も多発するような場所でもない。

炭鉱で栄えたわけでもなく、人口は寧ろ少ない方だ。

広い部屋、広い天井を見ながら、少し頭を冷やしていた。




「・・・って、そんな悠長(ゆうちょう)なこと言ってる場合じゃないですよ!

捕まっちゃいましたよ!どうするんですか!?」


「とは言ってもな・・・

冤罪(えんざい)はともかく、この格子を蹴破るのは無理だ、色んな意味で」


真犯人は追々見つけ出せばいい。

ここからの脱出はそうはいかない。

容易に蹴飛ばしてもみろ、目の前の警官が何をしでかすかわからない。

その上応援を呼ばれちゃあ溜まったモンじゃない。

解放される頃には、腹に1人増えるか、あるいは骨と化すか―――


「まあこう言っては何だが―――お手上げだ」


案の定、コウキ君は頭を抱えて(うな)り始めた。

当たり前だとは思うが、刑務所に入ったことのない人間の反応としては正しいものだ。

ここまで豪勢な鉄格子は初めてだが、木製の檻にはよく閉じ込められたっけな。

訓練だとか何とか色々こじつけやがって、アイツは・・・


(津田君、元気にしているだろうか―――)







暫くして、辺りは夜に包まれていた。

先程まで薄く夕焼けの光芒(こうぼう)が訪れていたが、いつの間にかお帰りになられたようだ。

監視を続けていた警官もここを(あと)にし、静まり返った留置所内には虫のオーケストラが聞こえる。


「―――静かすぎる」


それでもここは交番、警官によるダベリがあってもおかしくはない。

ここの留置所は格子内から交番の入口が見えるようになっている。

何となくではあるものの、人影くらいは目視が可能だ。

虫の声がよーく聞こえるということは・・・もしや―――


「誰もいないのでは?」


そう、夜勤が不在ということだ。

見回りか、あるいはサボったか。

死角なのだろうか、ここからは人影すら見えない、声も聞こえない。

これはチャンスなのでは・・・そう考えていた。

それはコウキ君も同様だったようで、またもや目を輝かせていた。


「・・・チャンスですよレイさん!

僕たちで体当たりして格子を壊せば―――」


「いや、それはできない」


「何でですか!?」


声を荒げる気持ちはわかるが、冷静に考えてくれ。

あくまで目視でいないと判断しているだけで、実際は交番周辺にいる可能性だってある。

それなのにボコボコ音を立てれば、自分から死にに行っているようなものだ。

愚行には堕ちたくないのでね。


そこで―――だ。


「『慌てるコウキは貰いが少ない』・・・ってね」


私は左耳の上辺りに着けていた、髪飾りを外す。

しかしお洒落だけで着けるような、可愛らしいただの髪飾りではない。

そのまま外し、カチカチと指で形を変えると、小さなブローチが付いているヘアピンは―――あるものへと変貌を()げる。




格子と格子の間から手を出し、錠の中へと押し込む。

暫くガチャガチャしていると、ガチンッ!という無機質なシビれる音が。

手を引っ込めて扉を押すと、どうぞどうぞと言わんばかりに格子扉がマックスまで開く。


「レイさん・・・あなたは一体・・・?」


私の正体を知らない彼は、驚きと困惑の表情を浮かべている。

普通の探偵はピッキング針を髪飾りに仕込んだりしない。

もっと言えば、こんな状況で平然としている“わけがない”。

ま、それもこれも落ち着いてからゆっくりと話すか。


「話は(あと)だ。

まずは逃げよう」


入口の方へ向かい、誰もいないのを確認する。

電気は煌々(こうこう)と点いているのにも関わらず、入口外にも誰一人いない。

まあいい、好都合だ。

奪われた荷物を回収し、私たちは交番を(あと)にした。




交戦も覚悟していたが、拍子抜けに誰とも出会わなかった。

本当にサボって皆帰ってしまったのだろうか。

暫く走った後、川に架かった橋の下に逃げ込む。

とりあえず、少し休憩しよう。


「この島・・・電灯とか無いんですかね・・・」


「さあな。

人が住んでいる割には電柱の数があまりにも少ない。

田舎というのはこういうものなのだろうか」


如何せん田舎と呼ばれる都市外の“地方”に、住んだことはおろか行ったことすらない。

怪盗として挑んだ場所(ところ)は、基本的に博物館がある市街地だけだったしな。

それにしても暗い、懐中電灯だけで足りるだろうか。


「コウキ君、懐中電灯は?」


「持ってます。

でもこのままじゃそう遠くには行けそうにないですね・・・」


「一度洋館に戻って、状況を立て直すか―――」


しかし、彼は否定的な表情を向ける。

曰く、洋館にも警察の魔の手が及んでいるとのこと。

まあそうだろうな、普通なら。


「裏口や窓からの侵入なら―――」


「レイさん・・・」


ついには苦笑いされてしまった。

やはり無謀過ぎたか。

あと逃げ込める場所といえば・・・


「・・・そういえばこの橋―――」


「どうしたんですか?」


「この橋・・・そしてその下を流れる川・・・

もしかして―――」


(おもむろ)に立ち上がり、深呼吸をする。

しかしこれは心を落ち着かせるのではない。

風に乗って香るこの匂い・・・うむ、間違いない。


「こっちだ」


降ろして地面に置いていたショルダーバッグを再び肩にかけ、私は川沿いを歩き始める。

突然の行為に驚いたのだろう、彼もリュックを取り、慌てて追いかける。

この川は初日の車内からの景色で見たことがある。

もし推測が正しければ、この川を沿って歩いていけば、海に出られるはず。

そして海岸沿いに出れば、恐らくそこに―――




「まさか、これって・・・!」


「ああ、読みは当たったようだ」




さて、始めようか。

洞窟探検のリスタートだ。




To Be Continued...


※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

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