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探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~  作者: 土井淳
第二章 ~ 探偵の夜明け ~
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調査ファイル 001 [RE:BIRTHIBLE]

2016年2月25日、9時00分。

私立病院での事件の後、僕は書類の猛攻に追われていた。

それだけ見れば前回も同じだったのだが、今回は少し違っていた。

そう、彼女も一緒なのだ。


彼女の名は、黒川レイ(くろかわ れい)。

年齢は18歳、出身地や親族については一切不明。

世紀の大怪盗として有名な人物で、警察関係者も皆『男性』だと思っていた。

が、大怪我を負って入院した際、実は女性だと発覚し、僕も含めチーム全員驚嘆していた。

因みにマスコミにはこのことを伏せている為、世間では大怪盗シュヴァルツ(♂)は逃走中と思われている。


殺風景な警察署の事務所内で、コリコリと音が響くだけの空間。

一言も喋らず、淡々とペンを走らせるとこを見ると、普通の女の子だ。

だが、まさかこの子が大怪盗シュヴァルツだったとは、今でもにわかに信じがたい。

そうこうしている内に、書類を書き終わったらしい。

ペンを握りながら両腕を上げて背中を反らせ、グーンと伸びている。

姿勢を正した後、息を一つ吐いて、僕に問いかける。


「まだ終わらないのか」


そりゃ君の5倍の書類があるんだ、早々に終わりやしない。

そして意外に書くの早いんだね、ホント。


頬杖をついて窓の外を見る。

先日はストレートだった髪を後ろで結んでポニーテールにしている。

結び目に付いている細い黄色のリボンが、そよ風に誘われ髪と共になびく。

黒髪と茶髪の中間くらいの色合いが、如何にも清楚な雰囲気を醸し出している。

そして何より、なびいた後に僕へと届けられる鼻孔をくすぐる甘い香りが、集中力をそぎ取っていく。

こういう時に限って僕のバカ・・・


1時間くらいした頃か、書類も粗方片付いて、一息ついていた。

コーヒーを飲みながら物思いにふけっていたら、耳元30cmくらいの距離で話しかけてきた。


「津田君、探偵の事務所はここになるのか?」


「いや、この後探偵事務所に向かうよ」


そう、探偵事務所は別の場所にある。

この街は海沿いにあり、警察署は比較的内陸部の中心街の方に構えている。

一方探偵事務所は海沿い近くの港の傍となっている。

夏場となれば潮風の香るちょっと風情ある感じだが、冬場となれば冷風吹き荒れる極寒の地と化す。

車で行けば30分程度で、電車で向かっても徒歩含めて40程度だ。

これからそこに向かうことになっている。


左遷された途端また左遷か・・・

まあ探偵事務所は構えるけど、僕のデスクは警察署内にあるわけで。

今度は迷わないよう、カラーコピーで写し出された綺麗な地図を持って、署を後にした。




2016年2月25日、9時13分。

署の方で借りた車を運転し、探偵事務所へと向かっていた。

レイは助手席に乗りながら、先程同様頬杖をついて窓の外を見ている。

外はだいぶ雪も落ち着き、降っても雪かきがいらない程度である。

とはいえスピードはやや控えめのまま、人通りの少ない道路を走る。

道中会話もなくなってきた頃合いを見て、レイにいくつか質問をしてみることにした。


「なあレイ、聞いてもいいか?」


静寂な車内で突然喋った為、不意に軽く驚いてしまったのだろう。

肩がピクッと動いたのを、僕は見逃さなかった。

平然を装いつつ、レイは僕の質問に応答した。


「先週の美術館の件だけど―――」


「―――すまない、今は・・・」


本題に入ろうとした途端、彼女は僕の会話を途切らせた。

今度はこちらが不意を突かれてしまった。

仕返しか・・・そう思ったが、そうではない。

あの目――多分、話したくないのであろう。

先日レイは『怪盗としての私は死んだ』と言ってたな。

ということは、生まれ変わったというよりは、過去のことを葬り去りたいという意味だったのだろうか。

いずれにせよ、それ以上レイは何も言わなかった。


気まずい空気が続いていたが、気付けば港がすぐそこまで見えていた。

心なしかホッとしてしまった部分があったのは否めない。

それが非常に悔しくもある。

もっとレイのことを知り、良きパートナーシップを築きたいと思った矢先のことだ。

次はちゃんと・・・果たして次があるのだろうか。

もしもパートナーを交代する、なんて宣言してしまうのではないのだろうか。

色々積もるところもあったが、今は深く考えないようにしよう。

今は地雷を踏まないように、慎重に言葉を選ぼう。

これも仕事、これも仕事―――


車を降りて、建物の前に立つ。

探偵事務所・・・というには、あまりにも立派すぎる。

パッと見古ぼけた感じの建物だが、イギリスの古民家のような、ちょっとしたアンティークテイストになっている。

これは単に古いだけ・・・なのだろうか。


「あら、思ってたより立派な建物じゃない」


ここがこれから探偵事業を営んでいく上で使用する事務所か。

なんだか新婚夫婦が新居を求めて旅してるっぽくなってる気がする。

が、悪くない、うん悪くない。


鍵は大島さんから受け取っていた。

・・・もしやこの建物は、大島さんのセンス故のものか?

だとしたら―――似合わない。


鍵を開けドアを開けると、少しホコリっぽいが意外と綺麗だ。

外観以上にアンティークな内装は、探偵というあまり表立って行動しないスタイルともマッチしていたり。

水も出るし、電気も点く、更には誰に頼んだわけでもないのに本が所狭しとある。

これ住めるよね、実際。


30分くらいか、各部屋を物色したところで荷物が届いた。

今回の引っ越しやさん非常に優秀な方ばかりだった為、傷もなく短時間で荷物を運び終えた。

額に汗をにじませていたレイも、手の甲で拭って一息。


「ふう、ざっとこんなものかな」


「この分なら、ここで暮らすこともできるね」


ライフラインもしっかりしてるし、冷蔵庫もある。

これで住めないわけがない、のだが、お嬢様はどうも腑に落ちない顔をしてらっしゃる。

なにその目、軽蔑の眼差し?


「まさか―――あなたもここに住むつもり?」


「住まないよ!僕は自分の家あるから今日は帰るよ」


さすがに今日は精神的に疲れた。

帰ってゆっくり寝よう。

レイの身辺調査は、いずれ機会を設けて話を聞こう。


外はすっかり暗くなっていた。

昼間以上に寒さが増している。

ああ、ビールが恋しい―――早く帰ろう。




同日、同時刻。


「警視総監、本気ですか?」


「本気も本気、撤回はしないぞ」


「・・・わかりました。しかし、もし何かあった場合は―――」


「心配すんな、そん時は・・・」




「俺が奴を殺す」





To Be Continued...


※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

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