調査ファイル 061 [容疑者は黒川レイ]
“再び”目を覚ますというのは、あまり気分のいいものではない。
正直、昼寝も転寝も好きではないもので。
それが望んで眠ったものではないとなると、余計に酷いものだ。
目に染みるのは、強い光。
しかしこれは清々しい太陽のそれとは違う。
どうやら私は、どこかに運ばれたらしい。
まだ若干痺れが残る身体を無理やり起こすと、コウキ君も倒れていた。
「コウキ君、大丈夫か!
コウキ君!!」
強く呼びかけると、少し唸りながらも目を覚ます。
子供にスタンガンとは、いけ好かない。
次に会ったらおぼえてろよ―――
「・・・あれ、レイさん。
ここは・・・どこですか?」
幸い無事のようだ。
同様に身体に痺れが残っているらしく、身体を動かすのが少しキツそうだ。
ともあれ命に別状はないのだが、何故ここに―――
「・・・ハッ!
時計は!?」
腰に手を回したが、ポーチはなくなっていた。
それどころか、時計を始めありとあらゆる所持品が失われていた。
服が無事ということは、体に何かした形跡はない。
しかしホッとしたの束の間、そのまま腰への目線から後ろへ移すと―――
「―――なっ・・・!」
死体が―――あった。
20代くらいの若い男性が、血塗れになって横たわっていた。
凶器と思われるものはなく、犯人の手掛かりすら微塵もない。
それもその筈、この部屋には何一つない。
あるのは3人の体だけ・・・いや、正確には2人と死体だけだ。
「何でこんなとこに死体が・・・?」
「どうしたんですか?」
コウキ君がこちらを覗こうとしている。
マズい、子供に見せるわけには―――
「うわっ!!」
見られてしまった・・・
驚いて後ろへ下がってしまったものの、その反応は小学生のそれとはどことなく違っていた。
叫ぶこともなく、ただただじっと死体を見つめている。
「・・・もしかして、僕たちが気を失っている間、ずっと共にしていたということですか?」
「恐らくな」
「うわー・・・」
―――反応、終わりかよ。
津田君の驚愕様に比べたら、何とも拍子抜けするものだった。
まさか死体慣れして・・・・・・るわけないか。
「とりあえずここから出るぞ。
いつまでもこんなところにいるのは御免だ」
私は立ち上がり、扉の前まで行く。
まだ本調子ではないが、多分大丈夫・・・
「な、何するんですか!?」
扉を蹴破らんとする物凄い様に、少し引き気味でつっこむコウキ君。
許してくれ、鍵もないこの部屋を脱出するには、この手しかない。
いや寧ろ―――『この手に限る』!
5分程ボコボコ蹴りまくったが、ビクともしない。
押しても引いても、横にスライドしても開く気配は微塵も感じず。
さて、どうしたものか―――
「レイさん、あれ!」
コウキ君が指さしたのは、天井にある通気口。
空気が割かし綺麗だったのは、これのおかげか。
すかさず肩車をし、彼を天井へと導く。
が・・・
「ダメです、届かない・・・!」
天井と肩車したコウキ君の間には、20cm程の差があった。
見えない壁にぶち当たり、文字通り八方塞がりとなってしまった。
仕舞いには『一生このまま』なんて考えてしまう始末。
冗談じゃない、あそこまで行って結末を見れずに終わってたまるか!
何者かに閉じ込められて、幾分か経った。
相変わらず助けのない惨状を見て、絶望ゲージは笑いながら溜まっていた。
もし犯人がこれを狙っていたとしたら、まんまと嵌められたわけだ。
褒めてやるよ、チクショウ。
「チッ・・・クソがぁ!!!」
私は自棄になると、言葉も乱暴になってしまうらしい。
犯人に嘲笑されていると思うと、無性に腹が立ってしまう。
密かに溜め込んでいた我慢も、この時ばかりは防波堤が決壊してしまった。
痺れの収まった身体で、先程以上に力を込め、扉を蹴飛ばす。
私は見なかったものの、コウキ君はすっかり怯えてしまったようだ。
全く、情けない―――
しかし、これが“きっかけ”だったらしい。
何と皮肉な・・・
扉の向こう側が、やけに騒がしい。
「もしかして、誰か助けに来てくれたのか・・・?」
「ってことは、僕たち・・・!」
出られる!
一筋の希望を垣間見た。
まだ消えない内に私たちは扉を叩いた。
声が枯れようと、手足が赤くなろうと、構いやしない。
ひたすら、ひたすら・・・扉を鳴らす。
「おい、聞こえるか?」
扉の向こうから、声がした。
それは遠いものではなく、すぐそこからの声だ。
「ああ、聞こえる!」
「名前は?」
男は突然、名乗れと迫る。
何故このタイミングで・・・?
いや、もしかしたら要救助者の確認か。
だったら話は早い。
「黒川レイだ。
何者かに閉じ込められている、ここを開けてくれ」
・・・返事はなかった。
しかし扉の前で何やらガチャガチャやっているのが聞こえる。
どうやら鍵を開けているらしい。
良かった、助かる―――
そして暫く、扉が開いた。
するとそこには、数人の警察官が立っていた。
よく見ると、ヘルメットや防弾チョッキ、果ては銃や防弾盾なんか所持していた。
用意周到にも程が―――
「貴様、黒川レイだな?」
助けに来た警官にしては凄く生意気な口調だった。
何なんだこいつ。
「ああ、そうだ」
すると、その警官は1枚の折りたたまれた紙を出し・・・
「黒川レイ、貴様を殺人容疑で逮捕する」
冷たい弾丸のような目で、言った。
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。




