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探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~  作者: 土井淳
第五章 ~ 名もなき招待状 [前編] ~
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調査ファイル 061 [容疑者は黒川レイ]

“再び”目を覚ますというのは、あまり気分のいいものではない。

正直、昼寝も転寝(うたたね)も好きではないもので。

それが望んで眠ったものではないとなると、余計に酷いものだ。




目に染みるのは、強い光。

しかしこれは清々しい太陽のそれとは違う。

どうやら私は、どこかに運ばれたらしい。

まだ若干(しび)れが残る身体を無理やり起こすと、コウキ君も倒れていた。


「コウキ君、大丈夫か!

コウキ君!!」


強く呼びかけると、少し唸りながらも目を覚ます。

子供にスタンガンとは、いけ好かない。

次に会ったらおぼえてろよ―――


「・・・あれ、レイさん。

ここは・・・どこですか?」


幸い無事のようだ。

同様に身体に(しび)れが残っているらしく、身体を動かすのが少しキツそうだ。

ともあれ命に別状はないのだが、何故(なにゆえ)ここに―――


「・・・ハッ!

時計は!?」


腰に手を回したが、ポーチはなくなっていた。

それどころか、時計を始めありとあらゆる所持品が失われていた。

服が無事ということは、体に何かした形跡はない。

しかしホッとしたの束の間、そのまま腰への目線から後ろへ移すと―――


「―――なっ・・・!」




死体が―――あった。

20代くらいの若い男性が、血塗れになって横たわっていた。

凶器と思われるものはなく、犯人の手掛かりすら微塵もない。

それもその筈、この部屋には何一つない。

あるのは3人の体だけ・・・いや、正確には2人と死体だけだ。


「何でこんなとこに死体が・・・?」


「どうしたんですか?」


コウキ君がこちらを覗こうとしている。

マズい、子供に見せるわけには―――




「うわっ!!」


見られてしまった・・・

驚いて後ろへ下がってしまったものの、その反応は小学生のそれとはどことなく違っていた。

叫ぶこともなく、ただただじっと死体を見つめている。


「・・・もしかして、僕たちが気を失っている間、ずっと共にしていたということですか?」


「恐らくな」


「うわー・・・」


―――反応、終わりかよ。

津田君の驚愕様に比べたら、何とも拍子抜けするものだった。

まさか死体慣れして・・・・・・るわけないか。


「とりあえずここから出るぞ。

いつまでもこんなところにいるのは御免だ」


私は立ち上がり、扉の前まで行く。

まだ本調子ではないが、多分大丈夫・・・


「な、何するんですか!?」


扉を蹴破(けやぶ)らんとする物凄い様に、少し引き気味でつっこむコウキ君。

許してくれ、鍵もないこの部屋を脱出するには、この手しかない。

いや寧ろ―――『この手に限る』!




5分程ボコボコ蹴りまくったが、ビクともしない。

押しても引いても、横にスライドしても開く気配は微塵も感じず。

さて、どうしたものか―――


「レイさん、あれ!」


コウキ君が指さしたのは、天井にある通気口。

空気が割かし綺麗だったのは、これのおかげか。

すかさず肩車をし、彼を天井へと導く。

が・・・


「ダメです、届かない・・・!」


天井と肩車したコウキ君の間には、20cm程の差があった。

見えない壁にぶち当たり、文字通り八方塞がりとなってしまった。

仕舞いには『一生このまま』なんて考えてしまう始末。

冗談じゃない、あそこまで行って結末を見れずに終わってたまるか!




何者かに閉じ込められて、幾分か経った。

相変わらず助けのない惨状を見て、絶望ゲージは笑いながら溜まっていた。

もし犯人がこれを狙っていたとしたら、まんまと()められたわけだ。

褒めてやるよ、チクショウ。


「チッ・・・クソがぁ!!!」


私は自棄になると、言葉も乱暴になってしまうらしい。

犯人に嘲笑(ちょうしょう)されていると思うと、無性に腹が立ってしまう。

密かに溜め込んでいた我慢も、この時ばかりは防波堤が決壊してしまった。

痺れの収まった身体で、先程以上に力を込め、扉を蹴飛ばす。

私は見なかったものの、コウキ君はすっかり怯えてしまったようだ。

全く、情けない―――


しかし、これが“きっかけ”だったらしい。

何と皮肉な・・・

扉の向こう側が、やけに騒がしい。


「もしかして、誰か助けに来てくれたのか・・・?」


「ってことは、僕たち・・・!」


出られる!

一筋の希望を垣間見た。

まだ消えない内に私たちは扉を叩いた。

声が枯れようと、手足が赤くなろうと、構いやしない。

ひたすら、ひたすら・・・扉を鳴らす。




「おい、聞こえるか?」


扉の向こうから、声がした。

それは遠いものではなく、すぐそこからの声だ。


「ああ、聞こえる!」


「名前は?」


男は突然、名乗れと迫る。

何故このタイミングで・・・?

いや、もしかしたら要救助者の確認か。

だったら話は早い。


「黒川レイだ。

何者かに閉じ込められている、ここを開けてくれ」


・・・返事はなかった。

しかし扉の前で何やらガチャガチャやっているのが聞こえる。

どうやら鍵を開けているらしい。

良かった、助かる―――




そして暫く、扉が開いた。

するとそこには、数人の警察官が立っていた。

よく見ると、ヘルメットや防弾チョッキ、果ては銃や防弾盾なんか所持していた。

用意周到にも程が―――


「貴様、黒川レイだな?」


助けに来た警官にしては凄く生意気な口調だった。

何なんだこいつ。


「ああ、そうだ」


すると、その警官は1枚の折りたたまれた紙を出し・・・




「黒川レイ、貴様を殺人容疑で逮捕する」




冷たい弾丸のような目で、言った。




To Be Continued...


※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

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