調査ファイル 060 [ロスト・テクノロジー]
あんぐりしたコウキ君を見て、生涯で一度はやってみたかったことを試してみることに。
もううずうずして堪らん。
少年の顔の前に両掌を持ってきて、左右に離して―――
≪パチンッ!!≫
徐に掌を叩く。
勿論本当に顔を叩いたわけじゃない。
所謂一つの『気付け』である。
驚いた声を上げて“こちら”に戻ってきたコウキ君。
状況がイマイチ呑み込めていないのだろう、目が泳いでいる。
立ち上がって周りを見ると、ふと足元が気になった。
「これは―――」
躓いたのは石かなんかかと思っていたのだが、どうやらこれのせいらしい。
出っ張っていた岩は、地面にめり込む形に消えていた。
ということは、これがスイッチか。
どうりでわからないわけだ、まさか地面にある岩が鍵だったとは・・・
「よし、先に行くぞ。
立てるか?」
再び手を指し伸ばす。
ゆっくり立ち上げる、今度は・・・転ばなかった。
壁の向こう側を進むと、壁の手前まではなかった文字や絵が記されている。
しかしこの文字は現代の文字ではない。
海外の文字・・・英語やイタリア語、難しいヘブライ語やアラビア語の類でもない。
勿論、記号や絵も然り。
ということは、かなり昔の時代か、或いは独自の文明を築いていたようだ。
「どうやらここには文明があったようだな。
生活していたかどうかはわからんが、人が立ち入っていたのは間違いない」
「そのようですね。
古代エジプト・・・とはまた違うようですけど」
そこまで遡ったにしては、これらは新しすぎる。
どんなに見積もっても200~300年くらいだろう。
そしてそれらは側壁の最奥まで綴られており、皆目見当もつかないお経のように途切れないのでは、と錯覚してしまう。
しかしこの道は永遠には続いていない。
当然、どこかで道は切れる。
故に、それは突然―――
「・・・レイさん、これって―――」
コウキ君は再びあんぐりを始める。
無理もない、私だった同じ顔をしたい。
何を隠そう、今目の前にあるのは、ドーム状の部屋。
それも一般家庭の六畳や九畳の部屋とは桁が違う。
津田君なら、最初の見てくれで腰を抜かしかねないだろう。
「やはり、こういうのがあったか。
祭壇や古墳とはまた違った感じだな」
人が入っていそうな箱状なものはなく、松明の類も周辺には見られない。
「でも何か妙ですね。
昔の遺跡なのに・・・」
「そうだな。
それに先程の仕掛け・・・過去の産物にしてはあまりにも出来すぎている」
2世紀前にそんな豪華なカラクリを作れるだろうか。
まだ車もなかった時代だぞ、どう説明をつける。
タイムスリップか、バカバカしい。
「まさか・・・ロストテクノロジー!?
現代の文明が出来上がる前にあった、未知の技術が―――」
「小学生にしては、小難しい言葉を覚えているな。
たしかに文明はあった、しかしそういうものは・・・」
とりあえず内部をもう少し調べてみよう。
懐中電灯だけでは暗くて見づらい。
松明はなくとも、それを嵌め込む部分くらいはあるだろう。
私はポーチからライターを取り出し、やや太目な木の枝に火を点ける。
因みにこの枝、海岸に打ち上げられていた流木です。
潮に晒されていたせいもあり、やや点きづらい。
暫くジーッと火を見つめながらも、松明を作り上げる。
やっとこさ火を点け終わり、部屋の四隅にあった窪みに松明を掛ける。
「あれ、コウキ君?」
明るくなった部屋を改めて見回す。
するとコウキ君は、部屋の中心部にいた。
そして彼の目の先には、あからさまに怪しい装置が―――
「なんだそれは?」
「わかりません。
ただ、中心に窪みがあって、周辺に文字が書いてあります」
装置は石のような素材で出来ており、旅先に行くとよく見かける石碑のように佇んでいる。
彼の言う通り、中心部には球状の“何か”を嵌め込むようになっており、その周辺には謎の文字がズラッと記されてあった。
「コウキ君、これ何の文字かわかるかい?」
「何語かわからない以上、解読も出来ません・・・
でもこの字体・・・先程の通路にあった文字に似てるんです」
警告だろうか、それとも注意書きだろうか。
出来れば後者であって欲しいところだが、そうなると恐らく前者だろうな。
そしてこの窪み―――
どっからどう見ても、ここに嵌め込むのはあの時計で間違いない。
というか、それしかない。
ポーチから懐中時計を出して、装置の前で見つめる。
さて果たして、どうするか・・・いやはや―――
「レイさん、それは?」
「ああ、部屋にあったんだ。
もしかしなくても、これはここに―――」
そうとわかると、彼はますます目をキラキラと輝かせていた。
・・・はあ、わかったよ、危険は顧みないのね。
謎の装置で、この後何が起こるかわからない仕掛けを、私は起動させた。
窪みに懐中時計を、嵌め込んだ。
―――物凄い轟音と共に、装置の奥の壁が左右に割れる。
その先はこの部屋に入る前同様、真っ暗の中から恐怖と冒険心が手ぐすねを引いて待っていた。
少し身構えたが、床が開くことも、何かトラップが発動することもなく。
ただただ、新しい道が出来たわけで。
「おぉ・・・!」
凄い喰い付きだ。
若いっていいな、本当に。
「さて、行こうか―――」
刹那―――
「はぅ!」
コウキ君が素っ頓狂な声を上げる。
振り返ると、バタッという音と同時に地面へと倒れ込む。
一瞬、何が起きたか理解できなかった。
というより、理解することそのものを禁じられてしまった。
「っ!」
―――そう、体内に走る、強烈な電撃を喰らって。
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。




