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探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~  作者: 土井淳
第五章 ~ 名もなき招待状 [前編] ~
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調査ファイル 059 [夢からの贈り物]

目が覚めると、身体はベッドの上にあった。

次第に意識がはっきりとしていき、程なくして四肢(しし)も自由に動かせることが出来た。

ゆっくり起き上がり、ベッドに腰かけて考える。

昨晩のアレは何だったのだろうか。

夢にしては、場所が場所なだけに怖すぎる。

何かの啓示―――なのだろうか。


「・・・そういえば―――」


あの黒い人影はこの部屋に入り、ドレッサーの方へ向かっていった。

鏡台と引き出しが数個あるだけで、何の変哲もないただのドレッサー。

先日部屋を見回った際ここも確認したが、異常はなかった。


「奴はここで何をやっていたんだ・・・?」


そう考えると、急に冷汗が流れてきた。

ゆっくり立ち上がり、ドレッサーの前へと向かう。

鏡は相変わらず真実しか写さない。

・・・となれば、これか。


引き出し―――

もうこれしかないでしょうに。

これ開けてスイッチやDVDが入っている方がよっぽど安心する。

いっそのことアナウンスと同時にキックをかましてくれ、ホントに。


ゆーっくり手を伸ばし、ゆーっくり引き出しを開ける。

暗闇の中から出てきたのは、私の予想の斜め上をいくものだった。




「―――え?」




その円い形は、(にぶ)()びた光を放っていた。

中心部には透明なガラス、中には数字と針。


言うまでもない、『時計』だ。


それも現代の置き型時計や腕時計、掛け時計といったものではなく。

むしろ現在では全くと言っていいほど見なくなった代物。


「懐中時計、なのか」


それにしてはデカイ。

通常、懐中時計はゴルフボールと同等かそれより少し大きめくらいのサイズだ。

ひょっとすると直径はソフトボールくらいあるのではないだろうか。

厚さは人差し指の第一関節くらい、これは標準サイズだ。


「こんなもの、くれたところでどうしろと。

動いてないし、電池もないし」


正夢―――とは、考えたくない。

列記とした不法侵入だしな。

ともあれ、何者かが時計を引き出しにしまった。

いや、私に託したといった方がいいか。


「―――まさか、な」


その後私は着替え、朝食へと向かった。




応接間で会ったコウキ君と朝食を済ませ、一旦部屋へと戻る。

彼もまた洞窟が気になるのだろう、目を輝かせて行こうと強請(ねだ)ってきたのだ。

かく言う私も気にはなっていた・・・彼の事は言えないな。


今日はショルダーポーチを持ち、懐中電灯などしっかり所持した準備で出向く。

明るいとはいえ、どうせ中は暗いんだ。

電池も数本持ってきておいて正解だった。


執事に許可を得て、洞窟へと歩いた。

海岸沿いは潮の香りを運び、その涼しさは活動の手助けをしてくれている。

テトラポッドを軽快に降りる様を見て目を見開いていたコウキ君の目は、今日一番のハイライトだ。


昨日と同じ道を辿るが、変化はなにもない。

そして行き止まりはそれ以上に変化がない。

ただ風は流れているのが少し気になる。

昨日同様、私は壁を隈なく調べる。


一方のコウキ君は、行き止まりの壁ではなく、その周辺の側壁を調べていた。

右手に本を、左手に虫眼鏡を持ち、さながら考古学者のような佇まいをしている。

しかしそれも、十数分で効果切れとなり―――


「あー・・・」


すっかり(ほう)けてしまった。

側壁の下にへったりとしていた。

足を投げ出して、お腹空いたと叫ばんとしている。

まあ子供だしな、昨日と同じ景色だしな。


「もうギブアップか?」


「だって、何もないんですもん!」


半ば投げやりの様は、いかにも子供。

先程の佇まいは、形から入ったソレだろうか。


「考古学者は早々に諦めたりしないぞ」


「レイさんは探偵じゃないですか・・・」


「探偵だって同じさ。

受けた依頼は最後まで完遂する・・・絶対にね」




以前の絵画の件、洗い直してはいるけど、今のところ進展ない。

北上の依頼には応えたものの、事件解決には至らなかった。

一探偵として、エピローグまで見定めなければ―――


「ホントですかぁ・・・?」


探偵と考古学の真髄は一緒、そう言われてもピンと来ないのだろう。

足をぷらぷらしながら天井を見ていた。


「きっと何か手掛かりがある筈だ。

さあ、もう少し探してみよう」


そう言って、私は手を差し伸ばした。

ちょっと不満そうな顔をするも、やはり調査の件は諦められないのだろう。

ムスッとしながらが、この手を取った。

すると―――




「うわっ!」


何かに(つまづ)いたのか、コウキ君は私の方へ倒れ込んでくる。

すかさず受け止めようとしたが、今度は私が躓いてしまったようで・・・


「痛っ・・・」


背中から転んでしまった。

幸い、コウキ君は私がクッションになったおかげで、怪我という怪我はなさそうだ。


「大丈夫?」


「は、はい・・・あ―――」


何かに気付いたのか顔が真っ赤になる。

そしてすぐさま私から離れていった。

年頃の男の子だもんな、しかたな―――む?

ふいに視線を下に向けた途端、何となくわかってしまった。

ああ、そういう。


「気にするな、不可抗力だ」


「で、ででででも、む、む、む・・・胸に・・・」


顔が埋まったことを後悔しているようだ。

気にしてないのに。


「構わないさ。

それじゃあ続きを―――」


刹那―――




洞窟内が揺れている。

天井から欠片レベルの小石がどんどん落ちてくる。

何だ、崩落か・・・?


「コウキ君!」


私はコウキ君を抱え、その場に伏せた。

・・・暫くして、地震は収まる。

前後の道の崩落はなく、怪我もない。


「無事か?」


「はい・・・」




―――返事をしたコウキ君は、すぐに顔色を変えた。

それは口を開いたまま、化け物と遭遇したが如く。

妙な感じに(さいな)まれ、コウキ君の向いている方へ視線を向ける。




振り向いた先には・・・壁はなかった。




To Be Continued...


※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

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