表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~  作者: 土井淳
第五章 ~ 名もなき招待状 [前編] ~
66/129

調査ファイル 058 [その目を見てはいけない]

疲れた身体は、言うまでもなく聞くまでもなく、ベッドへと向かっていた。

しかし部屋の扉を開けた途端、“それ”に気付く。


「―――何だ、この感じは・・・」


そこはかとなく感じるのは、(わず)かな違和感。

昔読んだ間違い探しの、リボンの色が黄緑と緑の違いくらいの、ほんの(かす)かなもの。

それが漂うということは、この部屋―――誰かが侵入したか。


幸い所持品は全て無事だった。

家具の配置も最後に見た時と同じ、そのまま。

・・・気のせいだったのだろうか。


ともかく今は寝なければ。

正直、あの5人も警戒しなければならない。

素性がわからない以上、何をしてくるのかさえ不明である。

そしてコウキ君・・・彼も少し気になる。

明日(あした)、また洞窟に行ってみないと―――




レイは考え事をしている内に、眠りにつく。

その日は月がとても綺麗な、青い夜だった・・・







―――

――――――

―――――――――!


あれ、私―――


そうか、眠ってしまったのか。


・・・ということは、これは夢―――なのか?




ぼんやりしつつも、少しだけ意識を保つことができた。

生まれてこの方、夢を“夢だ”と認識したのは初めてだ。

ならば、夢の世界はどうなっているのか・・・興味が沸いてきた。


私は目を開ける。

そこにはどんな風景が・・・

ぼやけているのか、くっきりしているのか。

それとも―――




目を開けると、そこは暗い世界。

恐々としながらもじーっと見ていると、目が慣れてきたのだろうか。

少しずつ、少しずつ、色が見えてきた。

若干濃いような青・・・そうか、これは天井。

それにしては近いな、どういうことだ?

不思議に思い、起きようとした―――刹那。


「きゃっ!」


寝返りをした途端、身体が180度回転した。

普通であればベッドから落ちるか、お腹からぼふっとベッドに着くはず。

その感触が、一切なかった。

いや、それ以上に驚いたことがある。

それは・・・目の前にある光景だ。


「ど・・・どういうことだ!?」




私が・・・眠っている―――?

慌てた私は掌を見た。


「いや待て、じゃあここにいるのは・・・?」


今掌を見ている私は、誰?

ここに寝ているのは、本物の私?

『黒川レイ』という人物は、どれ・・・?


もはやパニックとなっていた。

冷静さも欠き、真実を追い求めようと無駄にじたばたしている。

頭を抱え、何が本当なのかと狼狽を始める。


落ち着け、落ち着くんだ私・・・

今こうしてあれやこれやと考えを巡らせているのが私。

本物の黒川レイは、ここで頭を抱えている私だ。

考えろ、何故もう一人の私がそこにいるのか。

―――そう、これは夢だ。

大丈夫、夢の中で私自身を投影しているだけだ。

心配ない、これは夢、これは夢・・・




次第に落ち着きを取り戻した私は、抱えた手を(ほど)く。

そしてどうにかして床に降り立ち、辺りを見回した。


「今までこんな夢を見たことはない。

幽体離脱にしたって、白い線で繋がっているはずなのに、それすらない。

オカルト研究会のことで頭が一杯になったせいなのか・・・?」


変わり映えのない部屋には、寝ている私の吐息しか聞こえてこない。

それが返って気持ち悪い、何も起きやしない。

もしこれが誰かのせいならば、そろそろ何かアクションを起こしてくれ・・・

窓の外を見ながらふと思った・・・その時だった。




(―――誰か来る!)


何者かの視線を感じ、顔を少しだけ後ろに向ける。

完全に振り向くとヤバイ、そんな気がしたからだ。

ところがこちらに寄って来る気配がない。

恐る恐る後ろを振り向くと・・・




人が、いた。




スーツを着た背の高い人物が、立ち尽くしている。

シルクハットを深く被っており、男性なのか女性なのかわからない。

思わず声を上げそうになったが、何故か声が出ない。

こいつ・・・何者だ!?


するとその人物はゆっくりと歩き始め、こちらに向かってくる。

私はベッドの横に立っており、着実と窓の方へ近付いていた。

マズい、このままでは―――!


私の目の前まで来たそいつは、ゆっくりと、私を見下ろした。

構えることもできず、目だけしか動かすことが出来なかった。

それも残念ながら、顔を見ることは叶わず。

ぼんやりとではあるが―――覚悟をしていた。




―――彼は、襲ってこない。

ふと目をギュッと(つむ)ったが、痛みはおろか何一つ感じやしない。

ゆっくり目を開けると、彼は方向転換し、ドレッサーの方へ向かっていた。

そしてそこで何やらゴソゴソとやっている。

その様子を見ていると、ふいに声が聞こえてきた。




『そ の 目 を 見 て は い け な い』




いつしか私は、暗闇の中に溶け込んでいった。




To Be Continued...


※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ